少女、待ち構える(オリヴァー視点&キャサリン視点)
引き続きオリヴァー視点、ラストでキャサリン視点に戻ります。
〈引き続きオリヴァー視点〉
「侯爵令息ともあろう者が囮役を務めると言うのか?」
アルベールの名を騙っていたミシェル王子を追い、やってきた町外れの小屋。
王権派の政務官アボット子爵を殺害し、彼に全ての罪を被せんとする現場を抑えたが、王子は自ら囮になり、俺達が離れて警備の薄くなった王宮では、今頃暗殺者が跋扈しているだろうと高笑いしている。
(ここは少し、話を合わせてやるか……)
「そのようなことをすれば、貴殿らも命は無いと思わないのか?」
「そこまで織り込み済みだよ。憎きトランスフィールドに痛撃を喰らわせることが出来れば、我が命など安いものさ」
我が命と言うが、発言の根本が違うんだよなあ……なんか自分に酔ってるクサイ人間の台詞にしか聞こえないよ。
「我が命? 他人を巻き込んで、無関係な人間を傷つけ、殺めておいて、何が我が命だ! 死にたいなら一人で勝手に死ねよ」
「全ては大事の前の小事。隠世はベルニスタの利益のために動く集団だからね」
おっと爆弾発言。国際的な犯罪組織である隠世がベルニスタ王国の主導で動いていることをあっさりと暴露しやがったぞ。
「今まで隠していた秘密をこうもあっさりと話してしまっていいのかい?」
「ある程度は把握していたんだろう? 今更隠していたって仕方ない。それに、トランスフィールドが手中に収まれば、我が国は大陸一の版図になる。他国を気にして、隠世との関係を秘匿する必要もなくなるからね」
ベルニスタは領土拡張のため、度々他国に干渉をしてくることがあった。
あるときは相手の内紛に乗じて、あるときは二国間の交渉で相手の瑕疵を責め立て、そして最終的には武力に訴えて。
そのやり口を見ると、裏で暗躍する存在があったと見て間違い無いが、隠世はそのために組織された部隊ということなのだろう。
彼の国に対し我が国は、各国のパワーバランスが崩れるのを警戒し、相手側の国の後ろ盾としてベルニスタの企みを、全部とまでは行かないが、かなりの数を防いできた。
それに業を煮やしたベルニスタが、直接我が国に侵攻してきたのが10年ちょっと前の話。
その時はマルーフ卿の活躍で、我が国は敵将ラヴァール侯爵を討ち取るほどの大勝利となり、以来我が国にも他国にも干渉する動きは見られず、ようやく落ち着いたかと思っていたが……
「今更になって侵略の虫が疼き出してきたのか?」
「今更ではない。あの戦での屈辱、1日たりとも忘れたことなど無い」
ベルニスタは復讐の機会を待っていた。
幸いにして、権力欲に取り憑かれた宰相がホイホイ企みに乗っかってきたおかげで、王国内での暗躍もスムーズに進めることが出来たわけだ。
「国内に僅かに生じた綻び……我々が付け入るには十分の隙だ。お陰で王宮に忍び込むことも造作も無かったよ」
「その割にはパーティ会場では上手くいかなかったみたいだが?」
「それで全てだと思われるのは心外だな。暗殺者は他にもいる。今頃王宮は大変な騒ぎになっているのではないかな……フフフ、私なんかの相手をしている暇があったら、早いところ戻った方が良いと思うがね」
ああ、その確信に満ちた眼差し。敵ながら哀れだよ……
今頃王宮では血が流れているだろうな……
もっとも、流れているのは……君が用意した暗殺者の血だけどね。
「人の心配するよりテメエの心配した方がいいんじゃないか?」
後を追いかけていたネイサン殿たちが到着したようだ。
「調子乗るのもいい加減にしろよ。オリヴァーや俺が何でここまで来れたのか分からないか? テメエらの罠にかかったわけじゃねえ。わざわざ王宮で警備していなくても十分な戦力が残っているから出向いてきてやったんだよ。なあ、オリヴァー君」
そうですね。いまや王宮は鬼の棲み処ですねと答えると、その発言、親父には聞かなかったことにしておくよとネイサン殿が笑います。
「鬼?」
「君たちに『鬼』と言えば、誰のことか分かると思ったんだがな」
「まさか……」
「そのまさかだよ」
俺の用意した最終秘密兵器。
それは、ベルニスタ王国の兵士から「鬼」と呼ばれた男、マルーフ・リングリッド伯爵。
「何故あの男が王都にいる!」
「何でと問われても、俺が王都にお呼びしたからだよ」
今回の犯行に隠世の関与があるというのは分かっていた。
最初はベルニスタ王国、もしくは王権派の依頼を受けての犯行かとも思ったが、実際はベルニスタ直属の内部工作部隊だった。
調査の段階ではそこまでの確証は無かったので、呼ぶべきがどうか迷った。軍を動かされた場合、最初はマルーフ卿抜きで戦わなくてはいけないというリスクもある。
だが王都での内部工作が不発に終われば、向こうも軍を動かすには至らないだろうし、万が一動かれてもこちらの迎撃態勢が整っていれば、フィリップ殿の指揮であればそう簡単に崩れることは無いという判断。
もっとも一番の理由は、マルーフ卿に宛てた手紙の中で「お父様にお会いしたいとケイトが言っておりました」という一文。
本人の許可は取っていない。後で怒られるだろうけど、非常事態だ、許せ。
「そんなわけで俺達は後ろを気にすること無くオマエらを追いかけて来られたわけだ。いい加減観念しな」
「そう簡単に捕まってたまるかよ!」
捕縛せんとする騎士団と、血路を開かんとする暗殺者達で戦闘が始まった。
向こうも手練れではあるが、真っ向勝負なら騎士団の相手ではない。徐々にこちらが押していく。
「捕らえろ! 逃がすな!」
「行かせるな! 退路を確保しろ!」
相手はこちらの行く手を阻むように、時折交戦しながら少しずつ後退してゆく。
ミシェル王子とその側近と思われる男は、この場を部下に任せ逃げる算段のようだ。
「最後まで部下や仲間を捨て石にする気か!」
「何とでも言え! オマエら、何が何でもここを死守しろ! 絶対に通すな!」
相手の抵抗がより激しくなり、その間にミシェル王子に逃げられてしまった……
けど、それを含めて予定通りなんだよなあ……後は任せたよケイト。
僕もコイツらを叩きのめしたら、すぐにそっちに行くからね。
◆
<キャサリン視点>
「どうにか振り切ったようですね」
「ああ、だがベルニスタに戻るまでは油断するな」
「お兄様!」
「……!?」
騎士団との戦闘から離脱してきたミシェル王子達の一行。
相手の包囲網の薄いところを狙ってこちらへ逃げてきたつもりなんでしょうが、そこまで考えて仕組んでおりますのよ。
「貴様! どうしてここにいる! 何故あのとき動かなかった!」
王子の側近の一人が、私の姿を見るや先ほどの場面で狙撃しなかったことを責め立てます。
「お兄様!」
「……お前、リリーディア、記憶が戻ったのか?」
「お兄様、なんでこんなことを!」
「……汚らわしい」
「お兄様?」
「貴様のような下賤の出の女が、卑しくもこの俺を兄と呼ぶなど笑止!」
ああ、クソだねえ。ていうか、さっきから私、お兄様! しか言ってないな。
言ってて面白くなってきたわ。
「フフフ」
「何がおかしい」
「私もアンタのこと兄だなんて思いたくないし、そもそも兄ではないからね。ねえクソ野郎のアルベール、いや、隠世の首領クソミシェル王子様」
お読み頂きありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。




