少女、出撃! その2(オリヴァー視点)
今回は全部オリヴァー視点です。(キャサリン視点はありません)
〈オリヴァー視点〉
事前の調べで狙われると聞いていたアリスは、殿下やアデレイド嬢に任せていたので大丈夫だ。
会場の警備も第一騎士団の腕利きを揃えている。
それにケイトにも言っていない、いざという時の秘密兵器も用意している。問題は無いはず。
そう思っていたのもつかの間、宰相閣下が毒を盛られた。クソッ、騒ぎを未然に防ぐことが出来なかった!
可憐なケイトの華麗な演技を思う存分、かぶりつきで見ようと思っていたのに!!!
余計なことしやがって!
あーあー、ケイトが舞台袖に下がってしまう……
宰相? 知らん! パトリシア嬢がいれば問題ないだろ! あー、ケイトが見えなくなってしまうてはないかー! ……って、あの舞台袖の男……!?
ケイトが下がっていく舞台袖の方を見ると、彼女を睨みつける男の姿。
(あの男は!)
身なりこそ平民風を装っているし、若干変装っぽいことをしているが、壇上にいるはずのミシェル王子に似ている……
いや、ミシェル王子は……いる……
だがアルベールが現れると、王子を連れてこの場を辞そうとしている。
(逃げる気だな!)
状況不利と見て、ひとまずは姿を隠すつもりだろうが、そうはいかぬぞ。
今日の俺の仕事はお前の監視だからな。
とはいえ、舞台袖のあの男も気になる。
ミシェル王子に似ているのも引っかかるし、何よりケイトを睨むあの目つきが気になる。
「ネイサン殿!」
会場の警備をしていたネイサン殿に声をかけ、舞台袖にいるケイトの安全の確認と、怪しい男が側にいることを伝え、対応をお願いする。
「ベルニスタの連中は会場を離れるようなので、私は後を追います。ケイトには後で合流するように伝えてください」
「分かった。相手は手練れもいるだろう、オリヴァー君も十分に気を付けろよ。」
「ご心配なく。リングリッドの皆さん程ではありませんが、私も武門の家の子です。そう簡単にはやられませんよ」
「後で応援が行くから、無理はするなよ」
「ええ、また後ほど」
ネイサン殿が同僚の騎士を何人か連れて舞台に向かうのを見届けると、俺も騎士を何人か連れ、アルベール達の後を追う。
「戻っていない?」
彼らが寄宿舎としている邸に向かったが、まだ戻っていないとのこと。
こちらに追われていることを感づいたか……
「オリヴァー様!」
行方が掴めずどうしようかと思案していたところへ、ケイトが追いついてきた。
舞台衣装のまま現れた彼女は、控えめに言って天使。
学園に通う間は、ご令嬢らしく基本はスカート。パンツスタイルの彼女を見たのは久しぶりだ。
以前に騎士の訓練をしていたときに何度も見てはいるが、今の背丈になってからは初めてなので、新鮮な感じがする。
状況が状況でなければ、周りに人の目が無ければ……
今すぐにでもギュッとしてしまいたい!
「オリヴァー様……何か変なこと考えてます?」
「い、いや、何も……アルベール達の行方が分からなくて思案していた」
ケイト……そんな目をするな……思案していたのは本当だぞ。
「あの方達の行方なら目星がついています。付いてきてください!」
ケイトはそう言うと、以前、術をかけられた場所である町外れの小屋が怪しいと言います。
「よし、ならばケイトも馬に乗れ」
「馬ですか?」
「道中で詳しく話を聞こう。さあ早く」
俺は馬にまたがると、彼女の手を取り馬上に引き上げる。
「はわ! オリヴァー様!」
「飛ばすからな。しっかり掴まってろ!」
「はわわー!」
結局ギュッとしているではないかだと?
違うぞ。ギュッと抱きしめているのは俺ではなくケイトだ。
「アルベールが本物のミシェル王子?」
「ミシェル王子を騙っていたのがアルベールだそうです。ただ、そのアルベールがラヴァール侯爵家のアルベールかは分かりませんが」
「それに、リリアがベルニスタ王家の血を引く王女かもしれないだと?」
「全てはアイツらの口を割らせないと、本当の所は分かりませんが」
移動する馬上でケイトからここまでの経緯を聞くと、驚きの事実が次から次へと出てくる。
兎に角、まずはアイツらの居場所を見つけることからだ。
◆
「アルベール殿! 一体どういうつもりですか!」
「どういうつもり、とは?」
「何故会場を後にされた……暗殺の手はずは整っていたはすだ!」
「バカを申されるな。暗殺はアリス嬢が倒れた混乱に乗じてという段取りであった。では聞くが、アリス嬢に毒を盛ることは出来たのか?」
町外れの小屋にたどり着くと、中から言い合う声が聞こえてくる。
一人はアルベール……ではなくケイトの証言が確かなら本当のミシェル王子、そしてもう一人は……
「アボット殿、これは貴殿らが予定通り事を運べなかったせいだ。あの中で暗殺者を突入させても、成果は得られようもない。私達は無駄死にする趣味は無いのでな」
「では……宰相閣下に毒を盛ったのは!」
「知らぬ。勝手に我々の仕業だと思われては迷惑」
「ならば誰が盛ったというのだ!」
「貴殿、と言うことにしておこうか」
「な……何を言い出すのだ!」
相手は政務官のアボット子爵。ロニーの父だ。
王権派とベルニスタの共謀というのは間違いなさそうだ。
ただ、ベルニスタの奴らは失敗したときの保険として、王権派の内紛に見せかけるつもりなのだろう。
ここでアボット子爵を亡き者にして、罪を彼に全て被せる気なのだ。
「アルベール殿、何をする気だ!」
「貴殿にはここで死んでもらう。貴族派や武官派のご令嬢を襲撃したのも、全ては宰相の指示によるもの。そして、その指示に従ってはいたが、疑問を感じたを貴男は諫めたが、聞き入れられなかったので、やむを得ず宰相閣下を毒殺した。いい筋書きだろう?」
「や、や、やめろー!」
このままでは重要な証人が消されてしまうと急いでドアを開けると、尻込みする子爵に向けてミシェル王子が剣を振り下ろそうとしていた。
「そこまでだ! 全員おとなしく縛に付け!」
俺の怒鳴り声に反応し、王子の剣を振り下ろす手が止まる。
「話は全部聞かせてもらった。ラヴァール侯爵令息アルベール、並びに一味の者。我が国に対する争乱罪により、貴殿らを捕縛する。おとなしく付いてきてもらおうか」
「これはこれはオリヴァー殿。何の証拠があってその様なことを言い出すのだ。それは我がベルニスタに対する侮辱と見てよろしいか」
「相変わらずふざけた御仁だね。我々が何の証拠もなくここまで来たと思っているのか? 証拠ならすでに揃っている。もちろん、貴殿が関与していることもな」
俺はあえて奴がミシェル王子だという事実を知らない体で話した。
そうすることで、まだ言い訳が出来るのではと油断する事を願ったが、奴は俺を一瞥すると吹き出したように笑い始める。
「そうか! そうか! 僕が関与している証拠が出てきたのか! それはそれは大した捜査力だ」
「何がそんなにおかしい?」
「いやいや、そこまで調べられてたとはね……だけど残念だよ。僕を捕まえに来たせいで、今頃王宮の警備は手薄になっているよねえ?」
お読み頂きありがとうございました。
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