少女、出撃!
〈4/24 23:00改稿〉
アルベール捕縛のくだりですが、彼が雑技団に同行している事は、キャサリン以外の王国関係者は知らない状態なので、台詞を一部改変しました。
宰相バーネット侯爵が毒を盛られ、突然倒れたことにより起こった混乱。
毒を盛られるのがアリス様だという情報を事前に入手していたこともあり、今回は王権派がベルニスタと共謀して事を起こしているものだとばかり思っていました。
(王権派はまんまと乗せられたわけだ……)
元々王権派は貴族派さえ排除できればよかったのだ。王子妃争いでアリス様を推していたのもそのため。だがベルニスタの誘いに乗って、この機に武官派まで排除しようと企んだ。
この場でアリス様を毒殺し、パーティーを準備したクイントン侯爵とラザフォード公爵に責任を負わせ、両派の勢力を削いだ上で押し出される形でダイアナ様を王子妃に就かせる。
ベルニスタは王権派が権力を握る後押しをする代わりに、向こうに有利な条件での友好条約とか、貿易協定とか、何らかの形で利益供与するといった形で見返りを与えるといった条件で手を貸すとでも申し出でもしたのでしょう。
(宰相閣下はそこまで頭の働かない方ではなかったのに……権力欲って怖いわね……)
こんなもの国家反逆罪でしかない。
よしんば王権派の目論見通りになったとしても、ベルニスタの我が国に対する影響力が強まり、いずれは領土割譲や、併合による属国化という未来が見えるのは、予言者でもない私にも見える。
(でも実際にはベルニスタに利用されていただけってこと……)
王権派は共謀していたつもりでも、クソ野郎はそうではなかった。
隠世などどいう犯罪者集団を用いている時点で、綺麗に事を収める意思は毛頭無いということですね。
これで次は私が国王陛下を狙撃する段取り。
距離的に当たるかどうかは微妙なところ。それでも彼らは構わないんです。
私の狙撃で致命傷を与えられれば御の字。もし外れたり、かすり傷程度でも警備の目は完全に私に向く。
その間に、潜んでいる暗殺者、もしくは陛下の近くにいるミシェル王子の影武者がとどめを刺す。
雑技団の応援と称して会場内に入った連中は、すでに舞台裏にはおりません。今頃どこかに潜伏しているのでしょうね。
(私の狙撃を合図にこの会場で無差別攻撃が始まる……)
当然警備の騎士達もいるので、相手だって無傷では済まない。
いや、こちらの戦力を考えれば、彼らは1人残らず討ち取られる可能性もあるが、今回の襲撃にはそれだけの価値があるということなのだろう。
現に宰相は毒殺されかけている。このまま国王陛下が暗殺され、その他の主だった国の要人が暗殺されることとなれば、王国の体制が大きく揺らぐことになる。
その間に彼らの本国が侵攻して来ようものなら、混乱する王都から救援が送れない可能性を考えると、さすがのお父様でも対応には苦慮するわね。
攻めてくる理由なんて、自国の王子が何度も危機に見舞われたことに対する報復とでも言えば、どうにでも言い訳が立ちます。
そもそも戦争なんてのは己の利益のために己のエゴを主張するためのもの。
実際にはミシェル王子に扮した暗殺者が実行犯だったとしても、相手が偽証していると強弁するなり、混乱している中で正確な情報が届いていないととぼけている間に、弱った我が国を一気に攻め落とすか、向こう優勢の状態で講和を結ぶかして、決着を付けるつもりなのでしょう。
「でも残念ね。貴男達の思い通りにはいかないわよ」
私はそう呟くと、手に持っていたナイフを投げ捨て、舞台袖に下がると、先ほどまでニヤニヤ顔だったアルベールが憤怒の表情で迫ってきます。
「リリア! 何故戻ってきた!」
「リリア? 人違いですわ」
一言だけそう言って横を通り過ぎようとしたとき、明らかに術にかかっていないことが分かった彼は咄嗟に私の肩を掴みます。
「貴様……なぜ術にかかってない!」
「何故って……まあその前に会場の様子をご覧になったらいかが?」
アルベールの目を会場に向けさせると、倒れた宰相の周り出来た人だかりをかき分けるように、ジェームズ殿下とアリス様、そしてパティがその輪の中に入るのが見えます。
(貴男は毒の治療が出来るのは私だと思っているけど、実際はパティだから)
パティに治療を任せると、殿下とアリス様は騒然とする場を鎮めるべく声を発し、会場は徐々に落ち着きを取り戻します。
(警備の綻びも見られないわね)
陛下の一番近くで警護するのは聖騎士のケヴ兄。
人間性はともかく、剣の腕前だけならば暗殺者ごときに後れを取るようなヘナチョコではありません。
混乱が広がらないせいで、ミシェル王子の影武者も手を出せそうにありません。
私から声をかけるとすれば、「残念、そこはケヴ兄だ」略して残ケヴよ。
「クッ……どういうことだ!」
「それはね……私がリリアちゃんじゃないからよ!」
振り向きざまにアルベールの鳩尾をありったけの力で打ち抜くと、彼はその場に崩れ落ちます。
私を操っていたと思っていた男が、私によって糸の切れた操り人形のように崩れ落ちるとは……滑稽ですわ。
「アルベール、いや、本物のミシェル殿下はこの状況でどう動くかしらね?」
宰相の治療の様子、陛下の警護の様子を確認した私は、侯爵令息と偽って参加している本物のミシェル王子の姿を確認します。
(うほっw 戸惑っておるw)
毒殺騒ぎからの私の狙撃を待っていたはずなのに、いつまで経っても動きが無い上、肝心の私が舞台からいなくなっていることに戸惑っておりますが、状況不利と見たのか、影武者王子に声をかけこの場を辞そうとしております。
(逃がすものですか!)
「リリア、大丈夫? って……何でアルベールさんが倒れているの?」
会場の騒ぎを聞きつけ、私の様子を見に来た団員のお姉さんは、私の足元で倒れているアルベールを見て驚いています。
彼の表向きは雑伎団のパトロンなので、驚くのは当然と言えば当然ですね。
「すみません。詳しいことは後で説明しますが、この男は暗殺者集団の一味です」
「な、何を訳の分からないことを言ってるの?」
うーん、そうなるよね。私の頭がおかしくなったかと思うわよね……
急いでアイツらの後を追わないといけないのにー! 説明が難しい!
「ケイト!」
「ネイ兄様」
私が舞台から下がったことに気付いたネイ兄様が同僚の騎士の方と共にやって来てくれました。
「オリヴァー君に頼まれて様子を見に来たが、この男は……ミシェル王子!? どういうことだ?」
「国王陛下の側にいるミシェル王子は影武者です。正確に言うと、ここにいるこの男も本物のミシェル王子ではありませんが、暗殺者の一味には違いありません」
「何だかよく分からんが、そう言うことならこの男は騎士団で身柄を拘束しよう。詳しい話は後で聞かせてもらう」
ネイ兄様は雑技団の皆さんにも、後で事情聴取するのでこの場を離れないようにと告げると、気絶しているアルベールを同僚の方に連行させます。
「ケイト、お前は先に行け。オリヴァー君が待っているぞ」
「ありがとうございます。ネイ兄様、後はお願いします」
「ちょっと……リリア! どういうことよ!」
この場をネイ兄様に任せてミシェル王子の後を追いかけようとしましたが、理解の追いついていないお姉さんに引き止められます。
「お姉さんごめんなさい! 私リリアちゃんじゃないんです。本人は元気にしてますので、詳しくはまた後で話しますね!」
「は? リリアじゃないって……アンタどう見たってリリアじゃないのよ。頭でも打ったの?」
「詳しくは後で話しますので! ホントごめんなさーい!」
「あっ! ちょっと! リリアー!」
ネイ兄様から剣を一振り受け取ると、お姉さんの引き止める手を振り切りその場を離れます。
「待ってなさいよクソ野郎! このまま逃がすつもりはないからねー!」
アイツが行くところは……おそらくあの小屋に違いない。
山椒姫キャサリン・リングリッド、これより出撃します!
お読み頂きありがとうございました。
次回はオリヴァー視点です。
よろしくお願いします。




