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少女、出番は舞台だけ(アリス視点)

今回はアリス視点です。

キャサリンは登場しますが、本人役ではない上、セリフもありません。

 <アリス視点>


 ついにパーティ当日がやってきました。

 ケイトからの情報、それにお父様やお兄様、騎士団の皆様の調査で、今日の目的はハッキリしています。


「アリス、緊張しているのかい?」

「緊張しない方がおかしいですわ」


 側に付いて頂いているジェームズ殿下から声をかけられます。


 今日は殿下のエスコートを受けて入場します。もちろん、今日発生するであろう事態を全てご了解の上でエスコートをお申し出頂いております。


 殿下は婚約者がおりませんので、こういった会に参加されるときは、特定のご令嬢だけを相手することなく、自由に選ぶことが出来るのですが、最近は私をご指名になることが多いのです。


 曰く、私となら肩肘張らず楽な気持ちでいられるからと、結婚して数十年経った夫婦のような目で見られます。嬉しいような、納得いかないような……


 そんなわけで、今日もご一緒することに関しては周りから見ても不自然ではありません。

 そして、私をサポートするのはエマ、サリー、パトリシアの3名。


 1人メンツがおかしい、あの小っちゃいのはどうした? と訝しがる方もいらっしゃいましたが、ケイトは表向きは負傷治療中ですので、代わりに友人を呼びましたのよと言えば、皆さん納得されます。


 パトリシアさんも士爵とはいえ、貴族のお嬢様です。あんまり本人にその意識は無いみたいですが、私の紹介があれば問題なく参加できます。

 むしろ彼女が参加出来ないとなると、作戦が根本から覆ってしまいますので。


 今頃作戦立案者(ケイト)は、舞台の向こうで緊張……してる画が浮かばないわね。

 きっとあの子のことです、演技前の腹ごなしと言って、ご飯でも食べている頃かしら?




「皆の者、今宵は楽しんでいってほしい」


 国王陛下の乾杯の挨拶と共に、パーティーが始まりました。

 殿下は皆さんの挨拶を受けるため、側を離れておりますが、時折チラチラとこちらを確認する視線は感じております。


 ご心配なく。私も山椒姫ほどではありませんが、甘い女ではありませんので抜かりはありませんよ。


「ではここで余興として、世界各地で好評を博していると評判の雑伎団を呼んでおりますので、是非その演技をお楽しみください」


 余興の演技が始まる前に、雑伎団のメンバーが舞台上に集まります。


(……いた!)


 横一列に並んだ団員の中に、リリアちゃんならぬ某伯爵令嬢が、さも当然のように衣装に身を纏い現われますと、思わず吹き出しそうになってしまいましたわ。

 ちょっと殿下、こっちを見てニヤニヤしない。バレたらどうするんですか!


 その後は雑伎団の演技や、音楽隊の演奏などで、本当にこの後騒ぎが起きるのかとは疑わしいくらい、ゆるやかに時間は過ぎていきます。


「次の演技は、我が雑伎団の看板娘、リリアによるナイフ投げでございます。その華麗なるテクニック、とくとご覧あれ!」


 司会者のコールに続いて、ケイトが舞台に登場します。

 背筋をピンと張ったきれいな姿勢とすまし顔で颯爽と登場した彼女は、助手が用意したナイフとリンゴを手に取ると、リンゴを勢いよく宙に投げ、落ち際にナイフを突き刺します。


 するとリンゴは見事に真っ二つ。

 ケイト……会場で見たときはリンゴに突き刺して終わっていたはずよ。何で真っ二つなのよ。何故自分の剣技を織り交ぜた。


 そのドヤ顔。ちょっと腹立つわ!


 なんてこちらが思っていることなど気付くはずもなく、ケイトはサクサクとナイフを的に命中させ、次は的を小脇に抱えた人に目がけて投擲する演技に移ります。



「アリス様。こちらにいらしたのですね」


 舞台上でケイトの演技が続く中、声をかけてきたのはダイアナ様。


「あら、ダイアナ様。今日はミシェル殿下のエスコートという大役お疲れ様でございました」


 本日のダイアナ様はミシェル王子のエスコートで会場に入場されております。

 形式上、主賓のエスコートを受けるお役でしたので、労いの言葉をかけます。


「いえいえ、このようなお役目を承り、恐縮ですわ」

「ご謙遜を。エスコートはミシェル殿下からお申し出があったと聞いておりますよ」

「そこまでご存じでしたか。光栄なことですわ」


 このタイミングで現われたことに警戒しつつ、それを悟られぬよう言葉を交わしておりますと、彼女は側を通りかかったメイドに二言三言声をかけております。


「ダイアナ様、どうされました?」

「ええ、先ほど飲みましたワインがとても美味しかったので、アリス様にも飲んで頂きたくて用意するようお願いしましたのよ」


 少しの間があって、先ほどのメイドがいくつかのグラスに注がれたワインを持ってきました。


「いかがですか。見事に紅玉色だと思いませんか?」

「確かに美味しそうですわね」

「ささ、どうぞお召し上がりください」

(怪しすぎる……)


 そう言ってグラスを私に渡してきます。

 ではダイアナ様もご一緒にと申しましたが、自分は先ほど頂いたので先にどうぞと、どうしても私にだけ飲ませたいような感じがします。


「これはこれはアリス様とダイアナ様じゃありませんか。こうやって3人で顔を合わせるのも久しぶりですこと」


 ダイアナ様とやりとりをしていますと、アデレイド様が話の輪に加わってきました。

 自分で言うのも変ですが、この3人で集まるというのは何だか不思議な感じがしますわ。


「あ、アデレイド様。わざわざ何のご用でしょうか?」

「知らぬ仲でもありませんのに、用が無くては声もかけてはいけないのかしら? あら、美味しそうなワインじゃない。私もご相伴にあずかろうかしら」


 アデレイド様はそう言って、ワインを手に取ろうとメイドの方を向きます。


「ねえ、貴女。どこの家の使用人かしら?」


 アデレイド様はワイングラスを手に取りながらメイドの顔をのぞき込み、彼女の出自を確認します。


「あ……あ、それは……」

「貴女、こんな簡単な質問にも答えられないの? まったく……どこの家の紹介なのよ」

「アデレイド様、そのように迫っては答えられるものも答えられませんわ」


 ダイアナ様は答えに詰まるメイドを庇っておりますが、アデレイド様はそういう問題では無いと一蹴します。


「今宵の使用人は我が侯爵家とその縁のあるお家から呼んでおります。どこの家の者か言えぬはずがありませんし、お客様に失礼があっては当家の恥。さあ、貴女はどこの家の方なのかしら?」


 アデレイド様の声に気圧されるメイドと、それをなんとか庇おうとするダイアナ様。

 そこまで庇う理由は何ででしょうね?


「アデレイド嬢、あまり怖い顔をしては美しい顔が台無しだよ」

「これは……お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございません。殿下」

「気にするな。クイントン家が今日のために心配りしてくれたことはよく知っている」


 またしてもタイミング良くジェームズ殿下が場に割って入りました。

 

「折角みなで顔をあわせたのだ。楽しくやろうではないか」


 そう言うと殿下は、配下の者に目配せしてメイドを連れて行きます。


「それで、何を揉めていたんだい?」

「ダイアナ様がアリス様にこちらのワインを勧めていたのですが、持ってきたメイドが私の存じない者だったので、どこの家の者か聞いておりましたの」

「ダイアナ嬢、そうなのかい?」

「そうですわ。アデレイド様がいきなり問い詰めておりましたので、かわいそうに思いまして……」


 ダイアナ様は儚げな感じで、自分は悪いことをしたつもりはないと言っておりますが、そうはいかないのよね。


「ダイアナ様、残念ながら本日給仕する使用人達は、全て私が選んだ人間です。そして、その証として全員が目印を付けておりますのよ」


 アデレイド様は妖艶な笑みを浮かべて、もっともその目印が何かは教えられませんけどねと、ダイアナ様の耳元で囁きます。

 うーん、私と1歳しか違わないのにすごい色気ね。


「ダイアナ様、あのワインをアリス様に飲ませて何をしようとなさっていたのかしら」

「何って……何の事かしら……」

「何の事? ダイアナ様も人が悪いですわね……」


 ダイアナ様はとぼけていますが、なんだかソワソワしていますので、とどめを刺してあげるべく、アデレイド様が囁くのと反対の耳元で囁いてさしあげます。

 とぼける理由は分かっていますが、分かっていてニヤニヤが止まらない私も随分と性格が悪くなりましたわ。誰のせいですかね?


「そのワイン、毒が入ってますわね」

お読みいただきありがとうございました。

次回の前半は引き続きアリス視点、後半はキャサリン視点に戻る予定です。

よろしくお願いします。

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[一言] 流石ドリル完備のご令嬢 問い詰め力が高すぎる
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