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少女、虎口に入りて悪魔1号に遭う

まもなく、14番線に、17時20分発、あくま1号、地獄行きが、到着いたします。

黄色い線まで、下がって、お待ちください。

この電車は途中、灼熱、極寒、賽の河原、阿鼻、叫喚、叫喚から先は各駅に止まります。



……すみません。何か言ってみたかっただけです。

「リリア、お客さんだよ」


 公演の第3クールも終わり、いよいよ明日は王家主催のパーティー当日。

 今日この日、私を訪ねてくる人物といえば……アリス様や友達でないことは確かだ。


「どちら様ですか?」

「ああ、アルベールさんだよ」


(ついに……来た!)


 結局、相手の真の狙いは分からないまま。明日のパーティーで事件が起こるかどうかも確証はなかったのですが……これでほぼ確定ですね。


 訪ねてきた男が、私の知っているアイツならば、会いたくもあり会いたくもなしといった気分ではありますが、大事なのは私がリリアちゃんのなりすましであることを悟られないようにすること。


 たしかリリアちゃんは、実のお兄さんのように慕っていたと言っていたので、喜んでいるフリをして会いに行きます。


「リリア、元気にしてたかい?」

「……!」


(アルベールじゃない……この人は……ミシェル王子!?)


 目の前にいる男性は、身なりこそ金持ちの平民といった服装であるが、どう見てもミシェル王子だ。


(どういうこと? 何故ミシェル王子がアルベールの名を騙っているの?)


「どうかした?」

「ううん、何でもない……公演が終わってちょっとボーッとしちゃってた」

「ハハハ、明日はもっと大事なステージだっていうのに、気を抜いちゃダメじゃないか」


 私の様子に、いささか怪訝な目を向けられましたが、どうにか誤魔化せたようです。


「それで、今日はどうしたんですか?」

「そうそう、今回の公演。リリアは猛獣達が出られない中で、すごく頑張っていたと団長から聞いてね。ご褒美をあげようと思ってね」


 アルベールと名乗るミシェル王子、めんどくさいので偽アルベールと言いましょう。

 彼は、本当なら明日のステージが終わってからの方がいいのだが、自分が忙しくなって会いに来れそうにないので、今日のうちに前祝いしようと言います。


「団長には了解を取ってあるので、リリアをお借りしますよ」


 彼は入口にいたお姉さんに声をかけると、私を連れ出して馬車に乗せます。


「どこへ行くんですか?」

「着いてからのお楽しみだよ」


 偽アルベールはそう言って微笑みますが、私にとってみれば第一級の警戒態勢です。

 とはいえ、それを顔に出してはいけませんので、いかにも楽しみだといった表情を作ります。


 そして着いたのは町外れの小屋。

 中に通されると、そこは雨戸が閉められ、外の光が漏れ入らないようになった小部屋。中央に小さな机があり、1本のロウソクが灯されている。


(禁呪は夜か、光が遮られた空間で行われる。情報通りね)


 事前に聞いた情報のおかげで、今から術をかけられるというのが嫌でも分かります。


「ここで待っていればいいんですか?」

「うん、今プレゼントを持ってくるからね」


 偽アルベールが部屋に戻ってくるまで、実質数分くらいだったはずなのに、随分と長く感じます。


 この暗い部屋に閉じこめられ、リリアちゃんは毎回術をかけられていたのか……

 もっとも前後の記憶が無いと言っていたので、こんな部屋に閉じこめられた記憶も飛んでいるんでしょうね。


「じゃあ、いつもみたいにリリアをお守りするお祈りから始めようか」


 どうやら呪術の儀式が始まるようです。

 段取りは全て頭に入っています。後は私が間違えた反応をしないように気を付けるだけ……


 儀式が進み、私は次第に術にかかって操られているようなフリをします。


「リリア、終わったよ。気分は辛くないか」


 偽アルベールの問いかけに声を出さず首肯します。


「儀式は終わったようだな」


 術がかかったと判明すると、数人の男が部屋に入ってきます。

 全員がフードを被っており、顔はほとんど見えませんでしたが、体つきから相当鍛えられていることが分かりました。恐らく暗殺の実行部隊のメンバーでしょう。


「おいアルベール、そのガキをここに一緒に居させて大丈夫なのか?」


 一人の男が怪訝そうに偽アルベールに声をかけます。

 この男は相手が王族であることを知らないのか、それとも本当にアルベールという名前の王族ではない何者なのか……だとすれば、私の前でアルベールと名乗っていたあの侯爵令息は……


(ダメだ、判断するには材料が少なすぎる)


「俺の術が信用できないのか?」

「そういうわけじゃ……」

「心配するな、俺の術は完璧だ。術にかけられている間の記憶は一切残らない。術にかけられたことも、お前達に会ったこともな。なんだったら術をかけられて試してみるか?」


 偽アルベールが男達を威圧しますが、後から続いて入ってきた男の声によってかき消されます。 


「アルベール、そのくらいにしておけ」

「これは……殿下自らお出ましとは……」

「お前達もコイツの呪術の腕はよく知っているだろう。何の問題も無い」


(ア、アルベール!?)


 ちょっと待って、ミシェル王子だと思っていたのがアルベールで、アルベールだと思っていたのがミシェル王子?

 いや、まだ殿下としか言ってない。ミシェル王子とは断定できないが、その可能性は非常に高い。


 これまで社交の場に出ることがほとんど無かったミシェル王子と、市井で暮らしていたのが気がつけば侯爵令息となったアルベール。

 もしこの二人が()()()()入れ替わっていたとしたら……


 でも何のために? 妾腹とはいえ、王子がわざわざ身分を偽り、市井で暮らす理由は?


「それにこの子は僕もよく知っている子だ。見た目に惑わされて相手が油断した隙に、何人も闇に葬った腕利きの暗殺者だよ」


 私のことを初めて見る男達に向かい、アルベール? 殿下? が私を紹介します。


「さすがは殿下の妹君であらせられますな」

「アルベール、口に気をつけろ。確かに半分は血のつながった兄妹だが、コイツは所詮賤しい平民の娘だ。兄のため国のため、知らぬうちに汚れ仕事をするだけのただの道具だ」


 偽アルベール、いや、今まではそう呼んでいましたが、本物のアルベールが私を褒めそやすと、私がアルベールだと思っていた王子殿下? が不愉快そうに私はただの道具であると吐き捨てます。

 

 自分で言ってても訳が分からないですわ。アルベールアルベールってコイツの名前を思い出すだけで虫酸が走るというのに、なんでこんなに連呼しないと行けないのでしょうか。拷問ですわ。


 面倒なので、殿下と呼ばれている私がアルベールだと思っていた男を「悪人1号」、ミシェル王子だと思っていた本物のアルベールを「悪人2号」と呼びましょう。

 これで多少は精神的な安定が図れますわね。


 しかし……妹とはどういうことでしょう? 

 悪人1号は「半分は血のつながった」と申しております。彼が本物のミシェル王子であれば、リリアちゃんはれっきとしたベルニスタの王女様ということではありませんか!


 たしか、彼と初めて話したとき、4年前に妹さんを亡くしたと言ってました。年齢的にも今のリリアちゃんと合致しています。

 そしてリリアちゃんも4年より前の記憶が無いと言っていました。


 賤しい平民の娘と言っていたことから、国王が侍女かメイドあたりをお手つきにして、問題が発覚する前に暇を出したのだが、実は身ごもっていた。

 それをこの男が保護して利用しているというところでしょうか。悪人2号の口ぶりから、そのことは二人の中では間違い無い事実のようです。


 このことが彼らの裁量によるものか、ベルニスタ王家として認識しているのかは分かりませんが、どちらにせよ実の妹を暗殺の道具に使うとは悪人1号2号という命名は言い得て妙ではありませんか。到底許せるものではありません。

 むしろ悪人では人間であることに変わりありませんので、悪魔1号とでも呼んでも差し支えないかもしれません。


 この憤りには、仲良くなった彼女をこんな目に遭わせてという私怨が入っていないわけではありませんが、人々の平穏を脅かす輩は排除して然るべきです。


「では今回の段取りを説明する」


 さてと、いよいよ核心に近づいてきましたね……

お読みいただきありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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