少女、久々に仲間と再会する
「それで……言いたいことはそれだけかしら?」
アリス様、目が怖いよ……
さすがは第一騎士団長の娘。武力だけなら私の圧勝だが、威圧スキルに関しては私以上ね。
……って、そんなことを言っている余裕はありませんわ!
公演の第2クール。
リリアちゃんとして無事に演技を終了し、大盛況のうちに1週間の公演に幕を下ろした舞台後に、お姉さんに呼び止められたのが事の発端。
「リリア、お客さんだよ」
「お客さん?」
「ああ、どこぞのお貴族のお嬢様の使いだそうだ」
行ってみるとそこにはエマとサリーが手を振って待っている。
「エマ様、サリー様」
「リリアちゃん元気だった?」
二人ともこちらに話を合わせてくれる。
いつもだったら「ケイト様が私達を様付けとか(笑)」って笑い合うけど、そこは腐っても(いや、腐ってないけど)公爵令嬢の侍女、顔には出さない。
「知り合いかい?」
「はい、サザンポートでお世話になった方達です」
「ああ、あのときの」
後で様子を見ていたお姉さんがその話を聞いて納得しています。
「お二人も公演見てくれたんですね」
「リリアちゃんの演技ビックリしたよ」
そんなたわいもない話をしながら、二人がこちらの予定を確認してくるので、第3クールまで暫く休みであることを伝え、明日遊びに行こうと誘ってくれます。
「明日お出かけしてもいいですか?」
「いいよ。しばらくは休みなんだ、好きにしたらいいさ」
お姉さんに許可を取り、お出かけの約束をします。
……というのは当然建前。このタイミングで二人がコンタクトを取ってきたのはお互いの状況確認の為なのは火を見るより明らかです。
そして翌日、エマが迎えに来て、共に訪れたのは小さな隠れ家的レストラン。
全室個室で密談や密会にはもってこいのお店です。
「このお店はアリス様のチョイスかしら?」
「ええ、人に聞かれてはいけませんから」
「ふふーん、何だかいけないことしているみたいでワクワクするね」
「誰のせいだと思っているのかしら?」
脳天気に部屋に入りますと、待っていたのはサリーとちょっとしかめっ面のアリス様。
「えーと……アリス様、ごきげんよう」
「ごきげんようじゃないわよ」
こってり絞られました……
あの日、勢いで雑伎団に潜入してしまったので、アリス様への説明はオリヴァー様にお任せしたのがマズかったみたいです。
私の口から一通り事情を聞くのに徹したアリス様が、呆れとも諦めともつかないため息を漏らしながら言ったのが冒頭の言葉。
「たしかに……別行動するのは承諾しましたが、私に断りも無くさっさと行っちゃって、誤魔化す身にもなりなさいってのよ」
一応私も伯爵令嬢。
しかもただの伯爵ではない。国境を防衛する国の重鎮として大きな権限を有し、普通であれば辺境伯、つまり侯爵とほぼ同格と名乗ってもおかしくない家の娘だ。
辺境伯と名乗らないのは、お父様が「爵位が上がったところで野獣には関係ないし、敵が遠慮して攻めてこなくなるわけでもない」という信念から。
単に爵位が上がったことで儀礼的な面倒が増えるのを嫌がっただけというのが真相なのは、家族だけの秘密だ。ラザフォードのおじさまあたりは気付いているかもしれないが。
そんなわけで、お見舞いの申し出がかなりあったそうだが、アリス様の方で一部を除いて、全部お断りしてくれたそうだ。
一部というのは、意図的にとある人物だけは招き入れたからだ。
「ダイアナ様が昨日お見舞いに来たわ。それはもう悲痛な表情で『キャサリン様はご無事なんですか! 私、心配で心配で夜も眠れませんでしたのよ!』ってね」
「ちょw アリス様真似するの上手すぎます」
アリス様が、そのときのダイアナ様の様子を声まねしながら再現しますが、再現度が高くて笑います。
王子妃には不必要な才能ですわ。
「本当は怪我した翌日にでもすぐに来たかったみたい。貴女の様子が余程心配だったのでしょうね」
「思ったよりピンピンしていたら困るわね、という心配ですよね」
お見舞いが本人の意思なのか、誰かの差し金なのかは分かりませんが、彼女が気にするのは私の状態。それも無事を確認するのではなく、死なない程度にそこそこ無事じゃないことを確認するためだ。
訪問まで何日か間を置いたのは、あからさまに警戒しているのを悟らせないためでしょうね。
「リリアちゃんは上手くやってくれましたか?」
「上手くも何も、ベッドに籠もって黙っていれば偽物とは気付かれないわね」
私が成りすまして潜入調査する頃、リリアちゃんはオリヴァー様からこれまでの経緯を説明され、それこそ最初は自身に起こったことに驚き、人を殺めてしまったかもしれない事実に悲しみ、兄のように優しくしてくれた男に操られていたことに怒り、それは言葉のかけようもないほど憔悴していたそうです。
「でもね、ケイトが潜入調査したのは貴女の為でもあるのよとお兄様が教えたら、ワンワン泣き出しちゃってね」
私が潜入調査する理由。
隠世の目的を探ることが一番ではあるが、これ以上リリアちゃんに罪を背負ってほしくないからということもあった。
操られていたとはいえ、暗殺に荷担したのは事実。何らかの形で罪を償う必要はあるが、出来ることなら私は彼女を救いたい。
それが個人的な繋がりによる我儘であることは承知しているが、隠世の悪事を暴けば彼女だって被害者であることは明白。そのためにも証拠を集めたいという思いがあったのも嘘偽り無い本心だ。
「切り替えの早い子だったわ。自分はキャサリン様を殺そうとしたのに……って、酷く動揺していたけど、何かお役に立ちたいってすぐに表情を変えたのよ。傷が治るまでは影武者をキチンと務められると思うわ」
「ならもうリリアちゃんには、もうしばらく伯爵令嬢を務めてもらいますね」
ちょうどいいやと私が言うと、三人が慌てます。
「淑女教育で何か嫌なことがあった?」
「雑技団の生活が性に合ったとか?」
「伯爵令嬢の地位をお捨てになるの?」
待て待て、確かに雑技団楽しいけど、一生芸人生活するわけじゃないぞ。
「違います。まだ調べたいことがあるんです」
雑技団の人達が関与している可能性は薄いが、消えた猛獣の行方とか、リリアちゃんに接触する謎のお兄さんとか、調べたいことはまだまだある。
それにリリアちゃんは負傷中だ。このタイミングで戻っても公演には出られないだろう。
となれば、もうしばらく私が身代わりを務めるのが無難だと思っての発言なんだが、そんなに私はお嬢様という立場に窮屈していると思われていたのだろうか。
「まあそれならいいわ。あまりにも楽しそうに演技していたから、ホントに芸人になるつもりかと思った」
「そんなに楽しそうでしたか?」
芸人たるもの魅せるのが仕事だから、そりゃ楽しそうに演技しますよ。
「マナーの講義を受けているときの、死んだ魚の目と比較すればそれはもう、ねえ」
アリス様の発言にうんうんと同意する二人。
そんなに死んだ目をしたつもりはないぞ。
「とにかく、もうしばらくは潜入調査を続けますので、皆様の方でも調査をお願いします」
「分かったわ。それなら近いうちに動きがあるかもしれないから、気を付けて調べるのよ」
「近いうちに何かあるのですか?」
「王室主催のパーティーよ」
先日の交歓会での一件。
ベルニスタの王族を巻き込んでしまったため、国際問題に発展するかと思いきや、先方は不慮の事故が重なっただけだと不問にする意向のようです。
とはいえ、こちらもそれで終わりとするわけにいかないので、お詫び方々ミシェル王子を主賓として、ベルニスタの留学生集団をもてなすパーティーを開くそうです。
「留学に来たときは派手な歓迎パーティーはお断りしていましたよね」
「あの時は無理を言って留学を受け入れてくれたのに、そこまで気遣いされると却って申し訳ないとお断りになられたけど、今回はこちらが非を詫びる意味が大きいからね」
パーティーを断れば、事件を不問にすると言いつつ「やっぱり根に持っているのでは?」という憶測を呼ぶわけで、受けざるを得ない。
自然な形でこちらの要人と接触する機会が得られたとも言いますね。
「それともう一つ、リリアちゃんから得た証言だけど、例のお兄さん、名前はアルベールと言うらしいわよ」
おうマジか……どんどん点が線に繋がっていくじゃないのよ……
お読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。




