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少女、望まぬ勘の良さと望まぬ再会

 病院からの帰り道、私を拉致しようと待ち構えていた男子生徒達。

 剣先をこちらに向け、痛い目を見たくなければおとなしく従えと脅してきますが、毛の先ほども怖くありません。


 こちとら戦場で修羅場をかいくぐってきた猛者達に、ホンマモンの殺気を向けられながら訓練してたんだ。


「やれるもんならやってみな!」


 私は叫ぶと同時に剣をこちらに向けている男に突撃します。

 まさか私から向かってくるとは思っていなかったか、はたまた頭がピンク色で染まっていたせいでしょうか、隙だらけで棒立ちだった男の手首を掴み、それを普段なら曲がることのない方向に力を加えますと、悲鳴を上げながら持っていた剣を落とします。


 遠慮せずそのまま手首に力を加え続けると、ややあって「ボキッ」という鈍い音と共に男の手首は明後日の方向へ折れ曲がりました。


「弱いよ。アンタ騎士課程で何を学んでたのかしら?」


 蹲って痛みに苦悶する男を一瞥し、顔面を蹴り飛ばします。

 スカートで蹴っ飛ばしたらパンツ見えちゃうよって? この状況でパンツ見てる余裕なんてないでしょうからどうでもいいです。


 落ちていた剣を拾い、今度はこちらから剣先を相手に向けてやろうかとも思いましたが、あまりのナマクラにそんな気も失せました。


「ふーん、さすがは実力が伴っていないだけあるわ。手入れも疎かにしたこんな剣で脅すなんて素人なら騙されるでしょうけど……ざーんねん、アンタ達、私が誰の娘だか分かってるわよね」


 多少おちょくるような口調で話しかけながら、殺気を彼らにぶつけます。


「私の名前はキャサリン・リングリッド、剣聖マルーフの娘よ。ですが、もちろんフルパワーで貴男達と戦う気はありませんからご心配なく……」


 言葉通りまだまだ私の放つ殺気はほんの序の口ですが、本気で命のやりとりをした経験の無い彼らは、身じろぎも出来ないようです。


「中途半端に自信を付けた者は、かえって早死にするってことを教えてさしあげますわ!」


 彼らは強張る身体をなんとか動かし反撃を試みますが、私に指一本触れることも出来ず、一人また一人と倒されます。


 あー、早死にすることを教えるとは言いましたが、本当に斬ってはいませんよ、こんなナマクラじゃ切れ味悪そうだから、エッジじゃない部分で殴ってます。剣と言うより棍棒的な使い方ですね。

 さすがに骨の2,3本は逝っちゃってますかねえ。殺されないのは慈悲よ。私ったら優しい! マジ天使ですわ。


「どうするロニー、一人になっちゃたねえ。お姉さんと殺し合い(いいコト)するぅ?」

「……」

「あらあ、お話もしてくれないの? お姉さん悲しいな……」

「何、そのお姉さん言葉……怖いんだけど……」


 驚きで言葉を失ったロニーがようやく反応しました。


「ねえロニー、私を拉致しようとしたのって、貴男のお父様の命令? それとも宰相閣下?」

「何の話だ」


 この男、とぼけちゃってまあ……


「私が何も知らないと思った? 貴男自分で言ってたわよね、私が毒の知識を持っているはず無いと。そうだよね、だって一部の人しか知るはずのない情報だもんね」

「……!」

「拉致しろと命じたのがお父様でも宰相閣下でもないとすれば……貴男が最近仲良くしていらっしゃるベルニスタの方々かしらね」

「違う! 断じて違う!」


 違うという言葉を言うごとに真実味が増してきます。


「何が違うの? アンタがベルニスタに毒薬の情報を流したんだよね」

「違う! 仕方なかったんだ!」


 バキッ!!!


 違う違うと言い訳しかしないロニーの腹を力の限り殴ります。


「アンタのせいで……アンタのせいで……大事なヒー姉ちゃんが死んでしまったのかもしれないのよ! 違う? 何も違わないわよ! 自分でやったことが分かってるの!」


 殴られたロニーはそのあまりの衝撃のせいか、蹲って嘔吐を繰り返していますが、私の言葉に呻きながらも言い訳を続けます。


「俺、だって……好きで、やったわけじゃ……ない。俺だって……ヒー姉ちゃんを、あんな目に……遭わせ、たくて、やったわけじゃ……ない」

「だったらどういうことよ!」

「こう、しないと……親父の、ウチの家が……危ないん、だ。まさか……ヒー姉ちゃんを、あんな目に……遭わせる、なんて……思わな、かった」


 は? アボット政務官が誰かに脅されていたということ?


「ロニー、ハッキリ喋りなさい」

「お前……自分で、こんなこと、しておいて……ムリ、いうなよ」


 ああもう、こんなことなら殴るんじゃなかったわ。


「だったら続きは衛所で聞かせてもらうわ。さあ立ちなさい!」


 ロニーの首根っこを掴まえて立ち上がらせようとしたそのとき……


<ヒュン!>


 飛んできたのは1本のナイフ。

 もしかして……アデレイド様を襲った暗殺者!?


「ロニー! 物陰に隠れなさい!」


 蹲ったままのロニーを蹴っ飛ばして木陰に追いやり、暗殺者の射程(ターゲット)に入らないようにすると、再び剣を持ち迎え撃つ準備をします。

 ナマクラでも徒手空拳よりはマシだからね。


 そのままナイフが飛んできた方向に目をやりますが、人影は見当たりません。

 姿を見つけようとした次の瞬間、再びナイフが飛んできます。しかも今度は二本同時に。

 両方ともほぼ同じ位置から飛んできている。しかもかなり正確に狙いを定めている。


(この精度……まさかそんなことないよね……) 


 今回の事件には雑伎団が関与している可能性が高い。その状況から暗殺者の正体が()()()ではないかと、私の勘が叫んでいる。


(あの子が暗殺者なんて、ウソよ!)


 この時ばかりは自分の勘が鈍っていると思いたかった。

 だが残念なことに私は戦いに限っては鼻が利くというか、妙に勘が働いてしまう。

 おそらくこの推測も間違っていないだろうと思うと逡巡してしまうが、相手の攻撃は止まらない。

 

(このまま飛んでくるナイフを打ち返すだけでは埒が明かない!)


 意を決した私は、少しずつナイフの飛んでくる方向、つまり暗殺者が居るであろう場所へ距離を詰めてゆく。


<ヒュンヒュン>


 何度となく飛んでくるナイフをその都度剣で打ち払いますと、黒のローブを羽織り、物陰に潜む人影を見つけます。


「アンタ、何者なのよ!」


 大声で怒鳴りますが、反応はありません。

 まあ、これで自己紹介されても困りますよね。


 しかも、こちらに姿を確認されたにもかかわらず、逃げるわけでも無く、攻撃してくるわけでもありません。


(攻撃してこない? 手持ちのナイフが無くなったのか!)


 好機とばかりに、その人影に向かって突っ込みます。


<ヒュン>


「だよねえー!」


 わざと攻撃の術を失ったと見せかけ、油断した相手が突っ込んでくるのを待って、奥の手を繰り出す。よくある手ですが……


「その程度の小細工が通用すると思うなー!」


 向かってくる私目がけて、寸分の狂い無く放たれたナイフを打ち払い、黒ローブの暗殺者に対峙します。

 身の丈は私とほぼ同じ、ローブのシルエットから女性か子供ではないかと思われます。

 思われるではないわね、信じたくはないが、私の中でほぼそうであると確信しています。


「ねえ、あなたが隠世の方かしら?」

「……」

「答えるわけないか……」

 

 暗殺者は無言のまま、護身用と思われるショートソードを手に襲いかかってきます。


「問答無用という訳ね」


 襲いかかってくる相手と何度が打ち合います。

 体型からやはりパワーは無いようで、長剣を持つ私の斬撃に押され始めますが、動きと身のこなしはやはり暗殺を生業とする者です。油断は出来ません。


 ただ、この相手、様子がおかしい……

 命のやりとりをする場であれば、多かれ少なかれ殺気のようなものを感じるはずなのですが、この相手からはそれが全く感じられない。

 まるで私を倒すために機械仕掛けで動いているかのように……


()()()がこんなにためらいもなく私を殺そうとするなんて……ウソよ!)


 ギアを一段上げて一気に押し込み、相手の武器を弾き飛ばします。

 その瞬間、一瞬ではありましたが顔を覆っている部分がはだけ、相手が顔を一部覗かせたとき、ウソであってほしいと願った私の思いは木っ端微塵に砕かれます。


(そのイヤリング……やっぱり……)


 武器を吹き飛ばされた相手は、私が一瞬ためらいを見せ追撃しなかった隙を逃さず離脱を図りますが、素早さと身のこなしなら負けません。

 相手の退路に回り込み、膝蹴りをボディーに喰らわせます。


(こんなことしたくなかったけど、ゴメンね……)


「ケイト!」


 暗殺者が蹴り飛ばされ気絶したと同時に、騎士団の皆様が駆けつけてくれました。

 ケヴ兄様とネイ兄様もいます。


「お兄様達、どうしてここへ?」

「オリヴァー君に頼まれた」

「オリヴァー様に!」

「ああ、そろそろ相手が仕掛けてくる頃合いだろうから、様子を見てきてほしいとな」


 そうでしたか……オリヴァー様の慧眼恐れ入りますわ。


「で、コイツが例の隠世の暗殺者か?」

「本人は何も語ってませんが、おそらくは」

「どれどれ、どんな面してんのか拝ませてもらおうか」


 暗殺者のローブをケヴ兄様がはぎ取ります。


(やめて! お願い! 違って!)


「お、おい……この子……」


 ケヴ兄様もネイ兄様も暗殺者の顔を見て、声を失っています。


(リリアちゃん……こんな形で会いたくなかったよ……)


 そこには私と同じ顔をした少女が横たわっていました。 

お読みいただきありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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