少女、怒る
祝50話!
ヒラリー様の治療からしばらく、私はアリス様達とは別行動が多くなりました。
何をしているかといえば、表向きにはオリヴァー様と二人でイチャイチャ……しているように見せかけて、その実は情報交換会です。
本来ならアリス様の護衛役ですから離れるのはよろしくありませんが、表向きには護衛ではなく只の友人、しかも婚約したばかりですから、二人だけの時間を過ごすと言えば別行動をしていても不思議がられることもありません。
オリヴァー様からは騎士団で調査した情報、私からはエマやサリーにも手伝ってもらって得た情報を二人で照合し、真相を追っています。
傍目にはにこやかな表情で会話を交わす二人ですが、中身はドロドロの権力争いや陰謀の話。ギャップが凄まじい。
「ヒラリー嬢に使われた毒の調査をすると言ったら、宰相府は消極的だったそうだ。共同調査ではなく、宰相府とアカデミーで調査するゆえ、騎士団は調査結果を待っていてくれとな」
「アカデミーの方も関与していると?」
「それは分からない。だが、彼らは良くも悪くも研究一筋、政治的なナントカには無縁だ。だからこそ調査すれば自分達が発表前の研究であることを公にするだろう。そうなれば騎士団が調査に介入することは必然」
それを阻止したい何者かが居るのだろうとオリヴァー様は推測します。
「それともう一つ。ケイトに頼まれたアボット子爵令息の動向だがね、何度かあの雑伎団に出入りしているらしい」
「やっぱりあそこに何かあるのかしら……」
「さらに調査の過程で判明したことだが、他にもベルニスタの人間も出入りしているようだ」
雑伎団は業者の出入りなども多いし、観客の入出場などに合わせれば、人混みに紛れて入り込むことは難しくないし、逆に夜であれば街外れという立地で人の目に付きにくいという利点もある。
「あの中で何らかの謀議がされていると?」
「もしくは両者の伝言役を彼らが務めているのかもしれない」
「伝言役?」
「ベルニスタと王権派の共謀だよ」
まさか……王権派がベルニスタと共謀して国内の政情不安を煽ろうというのですか!
「ケイト、アカデミーを統括する最高責任者は誰か分かるかい?」
「宰相のバーネット侯爵閣下ですわ」
そして統括の実務を担当するのは政務官のアボット子爵……
「貴族派を排除し、その責任が武官派にあるように見せかけ、その事件に宰相府しか知らぬはずの毒が使われたこと、組み合わせれば可能性としては十分にあり得る」
「ですが、あの事件だけで政情不安を煽るのは難しくありませんか?」
「連中の予定通りにアデレイド嬢が亡くなっていれば、そうも言っていられなかっただろうし、仮にヒラリー嬢が犠牲になっていたとしても、少なくない蟠りや敵愾心は残る。貴族間の関係に楔を打つという目的であれば十分に役目は果たしたと言える」
おそらく次にまた、大きな事件が発生する危険性が高いということですね。
「いまのところ確たる証拠は無いから、そのためにも敵の尻尾を掴む必要がある。ケイトには難しい役目を頼むことになる」
相変わらずオリヴァー様は心配そうですが、貴男のお眼鏡に適った女ですからドーンと大船に乗った気でいてくださいと、無い胸を張ります。
「オリヴァー様、色々お聞かせいただきありがとうございました。この後ヒラリー様の退院にお付き合いしますので、これで失礼しますね」
「ああ、気をつけていってな」
キャサリンの後ろ姿を惜しむように眺めながら、オリヴァーが呟く。
「ここまで情報が判明したということは、相手も何か仕掛けてくるかな。付いていくわけにはいかないが、先に手を打っておくか……」
病院に着くと、ヒラリー様が退院の準備をしており、パティもそのお手伝いをしています。
「キャサリン様、パトリシアさん、色々とありがとう」
「元気になって良かったです」
結局ロニーがお見舞いに来たのはあの日の一回限り。退院するというのに手伝いにも来ません。
「だいぶ仲良くなったように思ったのですが……」
私のお節介もあって、最近はヒラリー様と二人でいることも多く、ようやく仲が進展したとばかり思っていたのですが……
「最近はお父様のお仕事の手伝いをする事が多いみたいで……」
騎士志望のアイツがなんで文官のお父様の手伝い? でも先ほどのオリヴァー様の情報を照合すればそれは事実なんでしょうね。
「詳しいことは分かりませんが、お父様の使いとして方々に動き回っているようなんです」
「他に何か言ってませんでしたか?」
「そう言えば、交歓会の警備体制について気にしていましたわ。貴族派の回ではどのようになっているか参考にしたいと言っておりましたので」
警備体制? 確かに騎士課程の男子生徒は駆り出されていたけど、警備体制自体は騎士団とか各貴族家の方とかとの打ち合わせで決めたもの。回によって体制が大きく変わるわけないし、何より生徒が口を出す話ではない。
ますます怪しい……
とはいえヒラリー様の前でロニーが怪しいなどと言えるわけがない。病み上がりなんだから尚更だ。
ひとまずは話を置いておいて、退院のお手伝いをします。
「もうすぐ家族が迎えに来るから、後は大丈夫よ。本当に助かったわ、ありがとう」
ヒラリー様はご家族と共にお帰りになると同時に、パティも貴族派のご令嬢と共に家へ戻りました。
そして私はただ一人、帰路につきます。
「何のご用ですか?」
その帰り道、行く手を阻むように学園の制服を着た男子が数人。
その中央には疑惑の渦中の男。
「アボット様、ヒラリー様の退院にも付き合わず、随分と良いご身分ですね」
身分は関係ないけど、コイツが姿を見せなかったせいでヒラリー様の元気が無かったのがムカついたので、嫌味を一つぶち込みます。
「家族だって来ていたんだろ。わざわざ俺が出向く必要もない」
「薄情な男は嫌われますよ」
「いつもだったら無駄口に付き合ってやるんだがな、今日は時間が無い。俺の質問に答えてもらおう」
相変わらずコッチの都合も聞かず勝手な男です。
「ヒー姉を治療したのは、本当はキャサリン嬢ではない別の人物ではないのか」
「あら、何でそう思うのかしら」
「毒の知識を君が知っているとは思えない」
毒の前に『一部の人間しか知らない』という言葉追加した方がいいですわよ。
「貴男が思う思わないはご自由に。どちらにしたってヒラリー様が快癒したのは事実。これが全てではなくて?」
「誰かをかばっているのではないか」
「ロニー、もういいだろう。俺たちは治療したのは誰かを調べに来たわけじゃない。この女を連れてこいと言われて来たんだろうが!」
ロニーは何とかして私以外の誰かが治療したことにしたいようですが、何故そんなことをするのかが分かりませんでしたが、彼のお連れ様の発言で全てを察しました。
連れて行かれて何をされるんでしょうね……命を絶たれるとなれば、さすがに捜査の手が入りそうですから、現実的なところでは私を傷物にして二度と人前に出られない身体にするってところですかね。
相手はロニーを含めて5人、制服のバッジの色から4人は上級生ね。ご丁寧に帯剣しているのは、脅しにでも使う気なのでしょうか。
「俺たちも女の子を傷つける趣味は無いんでな。おとなしく付いてきてもらおうか。なあに、命まで取るつもりはないから心配するな」
上級生の中の1人が抜剣した剣先をこちらに向けながら、ニヤニヤ顔で脅してきます。
「命まではということは、それ以外は奪われるということですわよね」
「それはお嬢ちゃん次第だな。何だったら他の奴に奪われる前に、俺がもらってやろうか?」
どうしてゲスな男ってのはこうも思考回路が一緒なんでしょうか。
「おやあ? プルプル震えちゃって可愛いねー。大丈夫、お兄さんが優しくしてあげるから心配すんなよ」
「クソふざけんなよ……」
「あ?」
怖くて震えてるわけじゃねえ、怒りで全身ピクピクしてんだ。こちとら小さい頃から本気の殺意を何度も向けられてきたんだ。オマエらみたいな三下がいくら脅してきたところで怖くもなんとも無いわ!
「やれるもんならやってみな! このクサレ○○○が!」
お読みいただきありがとうございました。
気がつけば50話達成、お読みいただいている皆様に感謝です!




