少女、相手が強敵であることを知る
私、山椒姫と金髪ドリル様とで組まれた同盟。
略して山金同盟、いや向こうが格上だから金山同盟としましょうか。
貴族派の皆様は私が治療にあたった甲斐もあって、ヒラリー様が無事だったことを広めてもらいます。
ただし、それはごく自然な形で。
あまり積極的に喧伝すると、貴族派が武官派の令嬢を讃えるという不自然から、疑念を持たれる可能性がありますので、悔しいけどアイツに助けられたという体で話をしてもらいます。
そして、その件をアリス様に伝えるため、今は公爵邸に出向いております。
「さすがはケイトね。まさかアデレイド様と手を組むなんて思いもしなかったわ」
アリス様は山椒姫のあだ名は伊達じゃないわねと笑います。
「え? アリス様もその名前知ってたんですか?」
「貴族派の皆さんが言っているのは知ってたわ。響きがいいからいつの間にか平民の皆さんもそう呼んでるらしいけど」
おう……本人の知らぬ間に妹キャラが辛口キャラにモデルチェンジしておったのか。
「お兄様もケイトにピッタリだねと仰ってるわ。ね、お兄様」
「ケイトに似合わない愛称などないよ」
アリス様がボソッとポンコツと呟いてますが、オリヴァー様の言い方では「歩く年齢詐称」も似合うということですよね?
まあ、言い得て妙ではありましたが……
「それで、しばらくはアリス様から離れて、ヒラリー様のお見舞いに行くなど、単独行動をする機会を増やそうと思います」
一から十まで単独行動では怪しまれるので、基本的にはアリス様と一緒に行動するのは変わらないが、意図的に単独行動する機会を増やす。
狙われやすそうなタイミングでね。
「誘引の計か。リスクもあるね」
「相手を誘き出すにはリスクを取る必要がありますから」
自慢じゃないが、こんな事できるご令嬢なんて他にいません。私だからこそできる作戦です。
「少し自惚れが過ぎるのではないか?」
「オリヴァー様?」
「やろうとしていることは分かる。相手の正体を掴むにはいい方法かもしれない。だが、いくら腕が立つとはいえ、女の子一人では危険すぎる」
オリヴァー様、どうしましたの? 自惚れているつもりはありません。自分の実力はよく知ってますし、いざとなれば血路を開いて離脱することもできます。私の実力はオリヴァー様もよくご存知のはずです。
「今回の犯行には『隠世』が絡んでいる可能性が高い」
「隠世……」
それは国際的な犯罪組織。
その出自は明らかではなく、時によって様々な身分に擬態し、密貿易や敵国の攪乱、あるいは要人暗殺などを請け負う犯罪組織。
特定の国に属することなく、金を積まれればあらゆる犯罪に手を染め、各国でも対応に苦慮している厄介な存在です。
「では今回の事件は何者かが隠世に依頼したと……」
「サザンポートで子爵令息が亡くなった件を覚えているかい?」
たしか、サザンポートの市場で揉めた相手ですよね。
私達が街を去った数日後に亡くなったとは聞きましたが……
「でも、病死だったんですよね」
「最初の診断ではな。だが、それまで健康そのもので病気に罹った事もない者の突然死だったから、その後秘密裏に検証した結果、毒殺であった」
毒殺……
「その手口が隠世のよく使う手法だったのだ。何故彼が狙われたのかは不明なので、模倣犯の可能性もあったが、今回の事件によって隠世がこの近辺に潜伏しているのはほぼ間違いないと思われる」
オリヴァー様、そのような機密を私に話してはダメなのでは……
「構わんよ」
「おじさま?」
「ケイト、おじさまではない、お義父さんだぞ」
エドガーのおじさまが現れ、話に入ってきました。
この状況でもお義父さん呼びさせるんかい。
「本来ならば機密漏洩にあたるが、事情が事情だ。ケイトとアデレイド嬢の話から、君の身辺も注意を払う必要がある。我々も君の作戦に一枚噛ませてもらおう」
おじさまが協力を申し出ますが、騎士団の護衛が付いては襲われようがありませんよ。
「無論協力といっても情報提供という形だ。敵の襲撃はケイト自身で対処してもらうしかない」
「父上、それでは危険なのは変わらないではないですか」
「ケイトも承知の上だろう」
おじさまはそう言うと、私にそうだろ? と笑みを向けます。
「マルーフの子とはいえ、向こうもまさかケイトがそこまで腕が立つとは思っていないだろう。付け入る隙はある」
ただしチャンスは一度きり。
一度撃退してしまえば、私に護衛を付けざるを得ない。
その状況で護衛無しとなれば、誘い込む意図が見え見えで、どちらにしても再襲撃される可能性は薄い。
一度きりの襲撃で相手の尻尾を掴む。しかも相手がどうやって攻めてくるかも分からないという難題。
「いざとなればオリヴァーが助けてくれるさ」
「父上はまた無理を仰る……」
「頼りにしてますわ、白馬の王子様」
「任せておけ」
アリス様の口からまたしてもポンコツと呟かれます。
それからしばらく、私はヒラリー様のお見舞いと称して病院に何度か向かいます。
「ヒラリー様、お加減はいかがですか」
「キャサリン様、この通り自分一人で動くことも出来るようになりました」
パティの治療のお陰でだいぶ回復も進み、もうすぐ退院できるだろうとのこと。
「パティにも色々とお世話になりました」
「いいえ、お役に立てたのなら何よりです」
「それはそうと、アボット様は見舞いに来ましたか?」
ロニーの名前を出すと、ヒラリー様の顔が曇ります。
「ロニーは一度も来ていません」
「一度もって……」
「いいんです。アイツ、最近何だか忙しいみたいで思い詰めることが多かったから、私のことで気を使わせるのも悪いですから……」
(アイツ……いくらなんでも幼なじみが重傷負ったってのに、見舞いの一つも無いなんて、何してんのよ)
部屋を退出してもロニーのことでムカムカします。
病身の女の子を見舞う甲斐性すらアイツには無いのか!
「キャサリン嬢……」
「これは、噂をすればアボット様ではありませんか。早くヒラリー様を見舞ってあげなさいよ」
「あー、いや、その、なんだ……」
まるで病室での会話を聞いていたように、ロニーが見舞いにやってきていました。ですが、その割に重苦しい表情のままです。体調はだいぶ回復したので、そんなに心配することはないのに…
もしかしたら、見舞いに来れなかったことを気にしているのかしら。
「ヒラリー様は貴男のことを気にしていましたよ。さっさとお見舞いして会いに来なかったことを謝りなさい」
「ああ、もちろんそのつもりだが、その前に確認したい。ヒー姉を助けたのはキャサリン嬢で間違いないのか?」
「その質問をするということは、話は耳にしているのでしょう。その通りですわ」
私の回答に、ロニーは「そうか……」となんだか浮かない顔をしています。
私が助けたのがそんなに気に入らないのかと思いましたが、どうにも様子がおかしい。
まるで、罪悪感に苛まれているような表情です。
「いや、キャサリン嬢が助けてくれたのならそれでいい。俺が頭を下げるのも変な話だが、礼を言うよ」
「たまたま私の知識が役に立っただけよ。それより、そんな辛気くさい顔で見舞いなんかするものじゃないわ。ヒラリー様が余計に気を使ってしまうじゃない。あかるく元気に、その顔をみせて差し上げなさい」
「ああ、そうするよ」
そう言ってロニーは病室に入っていきました。
ヒラリー様が最近忙しそうとは言っていましたが、たしかに表情は暗いし、覇気も無い。
ホントに何か人に言えない事があったんでしょうね……
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