少女、その名は山椒姫
辛口少女、山椒姫爆誕!
「今日は本当にありがとう。さすがは山椒姫、その行動力には感服するわ」
アデレイド様の口から発せられた山椒姫という単語。
山椒って、植物の山椒ですよね? 実がピリッとして、香辛料で使うやつですよね? 山椒の姫……何ですのソレ? という顔をする私に向けて、彼女は言葉を続けます。
「貴女の愛称よ。小柄で可愛らしい容姿という見た目とは裏腹に、言うことは一々突き刺さるし、貴女の周りはいつも騒ぎが起きるし、それでいて動じないわ慌てないわで、甘く見ていると痛い目に遭わされそうなのに、気付いたらなんだか仲良くなっちゃうしで、侮れない貴女のことを山椒の実になぞらえて、『山椒姫』ってみんな呼んでるのよ」
なんだその愛称! あんまり褒められていないような気もするが、めちゃめちゃ私にピッタリじゃない!
「誰ですか、そんな素敵な愛称を付けてくださったのは?」
そう言うとご令嬢達は、えーと答えていいのかな……といった感じでチラチラとアデレイド様に視線を向けます。
「私よ」
「アデレイド様が!」
もしかして……私が金髪ドリル様と命名したお返しですか!
「何で金髪ドリルのお返しに山椒姫なんて付ける必要があるのよ!」
「ギブアンドテイクですわ」
「ギブとテイクの価値が違いすぎますわ!」
違うのか……
「これでも感謝してるのよ。貴女に触発されて、ここにいるみんなも貴族の存在意義について改めて考えさせられた者もいるし、王権派達と揉めないよう自制する者も増えたし、見た目は小さいのに中身は随分と辛口なお方だとね」
辛口ですか……これでも随分自制しているつもりなんですが、滲み出る辛味は抑えられないのですね。
「だいたいこの状況でここに乗り込んでくる事自体が無謀よ。普通のご令嬢なら尻込みするわ」
ヒラリー様を助けたい一心でやってきましたが、言われてみれば虎口に飛び込むようなもの。フルボッコにされてもおかしくはありません。
もっとも私の場合は虎くらいなら倒せる自信がありますけどね。
「それで、これからどうするつもりよ。山椒姫様」
「アデレイド様、どうするつもりとは?」
武官派の陰謀論が囁かれる中、私達がヒラリー様を助けた事実は、見方によっては自作自演を疑われる可能性があるということ。
穿った見方をする方はいるでしょうね。若干一名、すぐ顔が思い付きます。
「クイントン侯爵令嬢様、発言をお許し頂けますでしょうか」
処方を終えたパティが病室から出てくると、何か言いたいことがあるのか、アデレイド様に発言の許可を求めます。
「パトリシアさんでしたかしら? 発言を許します」
「ありがとうございます。武官派の皆様の陰謀論はありえません」
「証拠はあるの?」
「ヒラリー様が冒された毒は、私の父が最近発見した新種の毒でした。私の記憶が確かなら、その内容はまだ世間には未発売の論文に書かれています」
一般に知られていない毒。現在その存在を知っているのはパティ親子と、アカデミーの一部の人間、そして……
「アカデミーを統括する宰相府の担当官……」
「武官派の人間が知る余地は無いと……」
うーん、中々難しいわね。情報を整理しよう。
まず、今回の犯人、つまりアデレイド様を排除して得をするのは誰か?
武官派はそもそも王子妃選定で大きなリードを保っているから、わざわざこんな危険な橋を渡る必要はない。
貴族派もまずあり得ない。反発する内部の犯行の可能性もあるが、クイントン侯爵家はこう見えて上手く派閥の手綱を取っているし、いきなりこんな大それた事をすれば、自派の瓦解を招くのはちょっと考えれば分かりそうなものだ。
毒の情報を知っているのは、アカデミーと宰相府の人間だけとなれば、状況証拠的に王権派は怪しいが、彼らが武官派を貶める必要性があるのか? そして、ベルニスタの面々もいる場で騒ぎを起こすリスクを考えれば、打つ手としては危険極まりない。
「キャサリン様、ベルニスタの仕業という線もあるわよ」
「彼らもあの場にいて、危険に晒されたというのに?」
アデレイド様はあえてあの場で騒ぎを起こすことで、両国の関係に不和をもたらし、争いを引き起こすつもりではと仰います。
仮に争いになっても、我が国の貴族間の関係に楔を打つことで、連携を取りにくくすれば、彼らにとっては非常に有利な状況だし、和解するとなっても非はこちらにあるので、どちらに転んでもベルニスタが有利な状況に変わりはない。
そのための捨て駒になる覚悟で彼らが仕掛けた可能性もあるという推測です。
「可能性よ。ベルニスタの仕業であれば、毒の入手経路の説明がつかないもの」
分からない事が多すぎる。ただ、一つだけ確実なことがあるわ。とアデレイド様が続けます。
「ヒラリーが無事だったことで、犯人達は計画が狂うわよね。本来なら私が死ねばベスト。今回は私ではなくヒラリーだったけど、人が一人亡くなった事実は、対立を煽る重要な要素になったはず」
ヒラリー様の無事が知れれば、大きな混乱もなく騒ぎが終息する可能性がありますからね。
「ちなみにパトリシアさんに聞くけど、アカデミーや宰相府の人間は、貴女が毒のことを知っているのはご存知?」
「いえ、知っているのは父だけです」
「そうなると、貴女も危ないわね」
そもそも使われた毒が新種であることすら分からない状況で、まず頼るとすればパティのお父様になるが、国外にいて対応はできない。
次にアカデミーの人間になるが、王権派の息がかかった集団に貴族派が頭を下げても、なんだかんだ理由を付けて要請を断るというのは十分にあり得る話だ。
「治療の甲斐なく亡くなるというシナリオを覆した者がいるとなれば、放ってはおかないわよね」
もう一回二回と同じ毒を使うのであれば、対処法を知る者は邪魔になるので、排除される危険性がある。
パティは父から何か話を聞いているかもしれないと、狙われる可能性があるということで、アデレイド様が彼女を当分の間庇護しますと提案されます。
「それでしたら、もう一つお願いがあります」
「何かしら?」
「治療をしたのは私ということにしてほしいのです」
「キャサリン様が?」
狙いはこうだ。
私とパティが友達なのは周知の事実。そこで私が毒に興味を持ち、パティのお父様に色々教わったということにする。
そして、定期的にヒラリー様のお見舞いと称して病院に現れる。これも私とヒラリー様が友達であるという理由だが、裏で治療をしているのではないかと敵に勘ぐらせる。
実際はパティが治療するわけだが、表向きには彼女は毒に関する知識はなく、あくまで薬師の家系で治療の手順を知っているから、私のサポートをしているだけだと思わせ、アデレイド様の庇護によって身の安全を図る。
「キャサリン様が毒の知識とはいささか無理があるのでは?」
「無理筋なのは承知してますが、私ならもしかしたらやりかねないと思わせることはできると思います」
ご令嬢達は苦笑いで確かに……何をしでかすか分からない山椒姫ならと納得してます。
「でも、そうなれば貴女が狙われるのよ」
「それも承知してます。それでもパティが狙われるよりはまだマシですし、何より武官派、アリス様を貶めるようなケンカを売られたからには買わないわけにはいきません」
ヒラリー様がアデレイド様をお守りしたように、私にはアリス様をお守りする使命があるのです。
それは、その身だけではなく、その名誉も守らねばいけないのです。
「やっぱり貴女は山椒の実だわ。普通のご令嬢ならそんな考えは持たないわ」
「侮って口にしたら、体中ビリビリにしてやりますわ」
「面白いわ。まさか貴女達と手を組む事になるなんて、ちょっと前までなら思いもしなかったわ」
人生何があるか分からないから楽しいんです。
「それでも危険なのは変わらないわ。貴女に万が一があれば、悲しむ方がいるということだけは忘れないでね」
「ええ」
もちろんです。お父様、お母様、お兄様、アリス様にエマやサリー、ヘレンやパティ達弟子一同。
そして、オリヴァー様……
負けるもんですか!
お読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします!




