少女、噂の火消しでイラつく
「キャサリン様、噂をお聞きになりましたか!」
アルベール様との打ち合わせした数日後、以前私と〈オリヴァー様との婚約の件で〉揉めた貴族派のご令嬢達がやってきました。
「カフェで貴女とアルベール様が仲良さそうにお茶をしていたという目撃情報がありました」
噂とは何のこと? と聞きますと、何故だか私とアルベール様の二人だけで密会していたという話になっています。
「既に学園の多くの女子生徒の噂になってますよ!」
「はぁ!?」
どういう事よ……あの場には他にもエマ達も居たというのに……
「おかしな話です。その日は交歓会の打ち合わせがあって、終了後にお茶に誘われただけです。一緒にエマもいましたし」
「キャサリン様、そこなのです。その後にお茶に誘われたと仰いますが、アルベール様がお誘いになったのは、キャサリン様だけなのです」
私達より前に貴族派のご令嬢は打ち合わせをしたそうですが、そのときは終了後即解散となり誘いは無かったと、担当したご令嬢が答えます。
そして、それは王権派との打ち合わせでも同様だったと。
「え? これから何度となく顔を会わせることになるから、親睦を深めるためにお付き合い願いたいと、ごくごく自然にお誘いがあったので、てっきり皆さんもお誘いがあったのかと……」
だいたい密会するなら人目を避けるでしょうに……と言えば、ご令嬢達もそうですわよねと頷く。
見る位置によっては二人きりと映ることもあるでしょうが、居たのはカフェのオープンフロア。周りにも人が多く居ましたし、事実かどうかなど確認すればすぐに分かるような噂です。
にもかかわらず二人きりというところが強調されたのは、私がそういう(浮気性な)女だと認識されており、さもありなんと思われているか、悪意を持って噂を蒔かれているかの二択。
私とオリヴァー様の仲は学園でもすでに周知の事実なので、前者の可能性は薄い。となれば後者か……
「アデレイド様は噂を聞いた瞬間に『あり得ないわ』と一蹴されましたし、『事実を知りたければ本人に直接聞けば、疚しいことなど無いでしょうから答えてくれるわよ』とも仰っていました。私達もキャサリン様が裏でコソコソするような性格では無いことをよく存じてますので、おかしな話だとは思ってましたのよ」
さすがはアデレイド様、よく分かっている。
彼女達の言葉も、以前だったら信じてないと口では言いつつ、裏でボロクソ言う皮肉的な意味合いだったのでしょうが、今は私を心配してくれる雰囲気を感じられます。
拳で語り合って(実際は口喧嘩だけど)芽生えた友情ですわね。
「一体誰がそんな噂を?」
「目撃したのは平民の生徒らしいですが、それを聞いた一部のご令嬢が、心配するフリをして大げさに言い回っていましたわ」
それこそ皮肉的な意味合いで、まさかあの方に限って……ねえ? と面白おかしく言っている画が浮かびますわ。一部のご令嬢とは、状況的にあの方の一派でしょうから、貴族派の皆様が信じないのも頷けます。
「しかも、アルベール様もその話を明確に否定されていないので、余計に疑念を持たれています」
他の二派のご令嬢は誘わないのに、私だけアフターのお誘いがあったという事実。
故にアルベール様が私に気があって、私も婚約者がおりながら満更でもない感じだという、根も葉もない噂がまことしやかに囁かれ、心配するフリをしつつ噂を広めるご令嬢が存在するということ。
噂を広めるご令嬢にもムカつきますが、一番の癌はアルベール様ね。彼が即座に否定すれば収束する話なのに、思わせぶりに否定しないとは……
ふざけんなよ、あのクソ野郎。
「キャサリン様、ご心配なく。私達も知り合いに噂は事実誤認だと訂正しておきますわ」
ありがたい。貴族派の皆さんが否定してくれれば、貴族令嬢の過半が噂は事実ではないと言ってくれる事になる。
そうなれば、平民の生徒の間でも噂は収束するでしょう。
とはいえ火元を鎮火しなければ、いつまで経っても連中に火を付けて回られますので、消火作業に入らねばなりませんね。
「何の根拠があってキャサリン様を貶めるような噂を言い回るのですか」
「誤解ですわ……私は彼女がそんなことをするお方では無いと申し上げただけです」
アルベール様に文句を言おうと探していたら、火元を鎮火する前に放火魔と消防自警団の争いに遭遇してしまいました。
「アデレイド様、ダイアナ様、ごきげんよう」
二人と目が合ってしまったので、逃げるわけにもいかず、ぎこちない挨拶をします。
「ちょうど良いところへご本人様がいらっしゃいました。キャサリン様、ダイアナ様がお聞きしたいことがあるそうですよ」
「なんでしょうか?」
私の姿を見たアデレイド様が、噂を言い回るくらいなら直接本人に聞けよとダイアナ様をけしかけますが、そのようなことをご本人が知ったら傷つきますわと口ごもりますので、すでに自分の耳に入っているので、気遣い無用と話を続けます。
「例の噂ですよね? すでに私の耳にも入っておりますので、お聞きになりたければいくらでもお答えしますよ。むしろ本人の知らぬところで無いこと無いこと言われる方が傷つきますわ」
「いえ……私も何かの誤解ではないかと……」
「誤解も誤解、大誤解。ありえない話ですわ。その日は交歓会の打ち合わせをした流れで、お茶に誘われただけです。私の他にも同席した者がおりますので、どこをどう切り取ったら、二人きりで密会していたなどという悪意のある噂が流れるのでしょうか?」
話が終わる前にかぶせるように即答してやります。
ダイアナ様は私がそんなことをするお方では無いと申し上げただけだと主張しますが、そう思っているのなら、何故声高に言い回る方を止めないのでしょうか?
明確には言葉にしませんが、先日ダイアナ様の邪魔の邪魔をしたことの意趣返しなのではないかという疑いの目を向けます。
「キャサリン様、そんなに怖い顔をなさらないで。婚約者が決まって間もないのに、このようなお話が出るなんてと心配していますのよ。でも、火のないところに煙は立たないと申しますし……アルベール様に聞いても否定をされませんものですから……」
(その火を延焼させている張本人がよく言うわ……)
「アルベール様は肯定もされてはおりませんよね。彼にどのような意図があるのか存じませんが、事実と反する噂をこれ以上広められては、私本人、および当家の沽券にかかわります。そのような根も葉もない噂を、さも事実のごとく広めていらっしゃるのはどこのどなたでしょうか。抗議させて頂きますわ」
私が語気を強めて主張すると、ダイアナ様は事実で無いのならば、私達からも噂を訂正しておきますと言いますが、これで幕引きにはさせません。
「訂正して頂くのはありがたく思いますが、それでは噂を言い回った者は何の叱責も受けずに野放しとなります。私から厳重に抗議いたしたく思いますので、どなたから噂をお聞きになったのか教えて頂けませんでしょうか」
出所を教えろと詰め寄りますが、自分たちも又聞きなので、最初の出所は誰か分からないと弁明されます。
分からないのではなく、言えないの間違いですよね。恐らく調べれば、出所は王権派の誰かでしょうから、教えられるわけがないですよね。
「出所の分からないような噂を俎上に載せるとは……噂される身にもなって頂きたいですわ」
「わ、私は……そのようなつもりはないのに……」
少しばかり闘気をまとって、語気を強めにしたせいか、お小水を漏らさんばかりに震えながら、か細い声でまるで自分が被害者のように振る舞われます。泣きたいのはこっちだっちゅーの。
「おや、レディ達、何を揉めておられるのかな?」
計ったかのようなタイミングで火元が現れました。
延焼を拡大させるつもりでしょうか……
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