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少女、口車に乗せられる

「ケイト! 久しぶりね、元気だった?」

「アリス様も変わらずお元気そうでなによりですわ」


 夏、公爵夫人とアリスが避暑のためリングリッド領へとやってきた。公爵一家は毎年避暑に来るのだが、今年は公爵とアリスの上2人の兄は仕事や学業で忙しく、女2人での来訪だ。


 アリスはキャサリンと同じ年齢とは思えないほど大人びた容姿のご令嬢。ややウエーブのかかった美しいブロンドヘア、肌は雪のように白く、華奢でありながら出るところはきっちり主張するメリハリボディ。背もすでに165cmを超え、まだ伸びる気配がある高身長。


 キャサリンの方が半年ほど早く生まれたので、小さい頃は彼女が姉、アリスが妹のような関係だったが、いつの頃からか姉妹が逆転していた。理由は言わずもがな。キャサリンはそのメリハリボディのハリの方を少し分けてもらいたいと常々思っている。


 ◆


「今回は無茶なお願いを受けてくれてありがとう」

「本当に…この私が淑女課程とか天地がひっくり返ってもあり得ないことですわ」

「そっちじゃないわよ、ボディーガードの方よ」


 ああ、そっちの心配でしたのね。


「そちらはご心配なく。人間相手に命のやりとりをした事はございませんが、そんじょそこらの暗殺者に後れを取るつもりはございませんわ」

「おほほ、頼もしいことこの上ないわね」


 アリス様はそう言うと、これからの予定をお話になりました。が…、アリス様が王都へ帰るのと一緒に私も王都へ行くというのはどういうことですの?


「ケイトの他に私をサポートする子が2名いて、すでに私の邸で入学に向けて準備を進めていますの。これから長い付き合いになりますので、顔合わせは早いほうがよいでしょう」


 確かに目的を同じくするメンバーだ。入学時に初顔合わせでは人となりも分からず意思疎通が図れませんからね。


「それと、ケイトには入学までの間、公爵邸で淑女教育を学んでもらいます」

「ふぁ?」


 ポカンとする私にアリス様の一言がとどめを刺します。


「だって、ケイトは淑女教育受けてないでしょ」


 いやいやいや、私だって伯爵令嬢だ、淑女教育は家で受けてますよと申し上げますが、「それで、どの程度身についたのかしら?」と半分疑いの目でアリス様が聞いてきます。


「それは…一応伯爵令嬢ですから、大過ない程度には身についてますよ」

「本当に?野山を駆けまわったり剣を振るっているうちに忘れてたりしてない?」


 仮に忘れていても学園に入ってから十分勉強するのでは? と尋ねたが、王族の護衛騎士となるには武芸の腕もそうだが、礼儀作法もかなりハイレベルなものを要求されるということなのだ。


 夜会や舞踏会、諸々の公務、主の行くところ常に付き従うのが護衛の役目。当然周囲は高位貴族や外国の関係者なども多く、失礼があっては主の沽券にかかわる。しかも女性王族が主の場合、時と場合によっては侍女の役割を担うこともあるので、単なる騎士より求められるものは多いらしい。


 よって、事前に基礎全般をきちんと身につけておくことで、入学後に他の者に侮られないようにというのがアリス様の提案の理由。ちなみに目標は公爵令嬢であるアリス様と同レベルだそうだ。




 …アリス様、それは無理よ。


「残りの2人は半年前から教育して今ではそれなりに身についているわ。もちろんケイトが今の時点で水準に達していれば問題ないけど、そうじゃなかったらあと半年しか無いんだから必要以上にハイペースで勉強しないとね」


 ……何度でも言います。アリス様、それは無理よ。いや、決して水準に達してないと言ってるわけではありませんわよ。


「困ったわね。いくらケイトが強いからって不作法者は連れて行けないわよ。どうしましょう、今からケイトの代わりになる人間なんて見つからないわ」


 ………アリス様、その言い方はズルいですわ。


「それに、礼儀作法をしっかり身に付けた女性騎士は殿方にモテますわよ」


 アリス様、今なんと言いました!


「騎士団なんてむさ苦しい男所帯に女性がいたら、どうなると思う?」

「モテモテですか」

「半分正解。騎士団だって貴族だから不調法者ではさすがにモテません。ですが、元々女性の少ない職場で出会いに飢え気味な方達ですから、ご令嬢も顔負けの礼儀作法とか淑女の嗜みを身につけた美人が同じ職場にいたら…分かるわよね」

「アリス様!私やります!血反吐を吐くくらいの訓練でも耐えてみせます」

「さすがケイト!そう言ってくれると思ったわ。早速王都行きの手配をマルーフ卿にお願いしなくてはいけませんわね」


 淑女への道がモテる秘訣だったのね。上手いこと口車に乗せられてしまった気もするけど、まあいいでしょう、行くのが半年早くなっただけ。モテモテ美人女性騎士目指して、ケイトは王都へ行って参りますわ!


 こうして、2週間後の王都行きが決定した。



 ◆



 リングリッド領から馬車で3日、やって来ました王都チャールトン。取り急ぎ住まいとなるリングリッド家のタウンハウスに荷物を置き、これから公爵邸で他の2名と初対面ですわ。


「紹介するわ。こちらがエマ、隣がサリー、2人は私の侍女として側に仕えてもらいます」

「初めましてキャサリン様、エマ・パットンと申します」

「サリー・ドイルです。よろしく」


 アリス様からエマ様とサリー様を紹介されました。


 エマ様は準男爵家の四女、身長は150cm少々と小柄(お前が言うな)なピンクブロンド髪のキャピキャピした雰囲気の少女。対するサリー様は騎士爵家の三女、その悠然とした雰囲気にポニーテールの黒髪がよく似合う少女、身長はアリス様よりも高く170cmはあるように見受けます。


「こちらがリングリッド伯爵令嬢のケイト様。ケイトには友人として私の側で一緒に行動してもらいます」

「キャサリン・リングリッドです。よろしくお願いしますわ」


 二人の挨拶を受け、私もカーテシーで応えます。ちゃんと令嬢も演じられますのよ。


「エマは会話上手なのを生かした情報収集、サリーは影働きとしての諜報活動が得意ですの。二人も武術の嗜みはありますが、護衛のメインは武芸全般に通じるケイトに頼みます。三人ともよろしくお願いしますわね」


 一通りの紹介が終わると、アリス様は3人で親睦を深めるようにと言い残し、侍女と共に部屋を出て行かれて、今ここには私たち3人だけが残っている。


「あの、リングリッド伯爵令嬢様」

「エマ様、堅苦しい呼び方はせず、どうぞケイトとお呼びください」

「ありがとうございます。では私もエマとお呼びください」

「分かったわエマ。それで何かしら」


 そう言うとエマは私の剣の腕について聞いてきた。彼女の家も騎士の家系なので興味があるようだ。

 

「まだまだ半人前。父にも兄にも到底及びませんわ」

「ご謙遜を。リングリッド家は剣豪揃いと聞きます。その中でのまだまだがどの程度か気になりますわ」

「ふん、父や兄に及ばない?そうだろうな。そのナリでどうやって戦うというのだ」

「サリー?」


 話に割って入るサリー様。何だかご機嫌斜めですわね。


「こんなチビに護衛役を命じるとは。私の方がよっぽど役に立ちそうに見えるがな」



 おやおやキャサリンさん、ケンカを売られているようですね……

お読みいただきありがとうございました。

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[一言] 肥溜めに鶴ではあるけど鶴が自分より強い場合野郎共の反応はどうなるのか
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