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少女、変な男しか寄ってこない

 新学期の初日も終わり、家路につこうと校舎の廊下を歩いておりますと、曲がり角の向こうに人の気配を感じます。

 まるで、向かってくるこちらの様子を窺うように……


(誰?)


 警戒はしつつもそれを悟られぬよう、平然と廊下を進み、曲がり角にさしかかったところで、向こう側から男子生徒が飛びだしてきたのが見えました。


(早っ!)


 そのあまりの勢いに驚きましたが、警戒していた私はぶつかる直前にバックステップでそれをかわすと、私とぶつかるはずだった男子生徒は勢いよく躓き、ビターンという音と共に床に這い蹲ります。


「痛てぇ……」

「何なんですか! 廊下は走らない!」

「おっかしいなぁ……曲がり角でぶつかれば、運命的な出会いになるんじゃないのか?」

「バカなの? あの勢いでぶつかったら、運命的な出会いをする前に、怪我させたって訴えられて、アンタの命運が尽きるわよ!」


 突っ込んで来たのは、ミシェル王子の侍従の方です。

 

「私に何の恨みがあるんですか!」

「こういう出会い方も運命的だと思わない?」

「運命的というより衝撃的ですわ。悪い意味で」


 ぶつかること前提で突進してきて、かわされて床にビターンですもの。衝撃的な出会いなのは間違いありませんわ。


「それで、何かご用ですか?」

「名前を教えてくれないかな」


 随分と失礼な方ね。名前を聞くなら、自分から名乗りなさいよ。


「それは失礼した。ベルニスタからの留学生で、アルベールと申します」

「ミシェル殿下のお付きの方ですね」

「ご存知とは光栄です。貴女のお名前をお伺いしてもよろしいですか」

 

 身のこなしから貴族だろうと見受けますが、家名を名乗らないのはどういう意図なのでしょう。

 それならばこちらも同じように対応するしかありませんわ。


「キャサリンと申します」

「家名は名乗っていただけないのですね」

「そちらも家名を名乗っておりませんので、お互い様ですわ」


 そう言うとアルベールと名乗る男は、中々ガードの固いご令嬢だと笑います。


「当然でしょう、わざわざ体当たりをかましてくる相手に気を許すと思いますか?」

「まあそれは、運命的な出会いの演出と思ってくれよ」

「それに食堂でも目が合いましたよね。あのとき、一瞬でしたが私を見て驚かれてましたね。私、貴男に何か失礼でもしましたか?」


 彼はあの一瞬の出来事で気付かれたのかと驚いています。


「ああ、気づいておられたのですね。実は妹によく似ていたもので、驚いてしまったのです」

「妹?」

「ええ、4年前に亡くなったのですが」


 アルベール様には6つ下の異母妹がいて、妾腹の子ながら可愛がっていたとのことですが、お亡くなりになられたそうです。


「生きていれば今年で12歳になる。君は少し小柄だから、妹が今生きていたら、君みたいな感じなのかなあと思ったら、ちょっと気になってね」

「そうですか、ですが気になっても体当たりはよくありませんわ」

「話が話だから、君と二人で話したくてね。気がはやってしまった。申し訳ないことをした」


 反省はしているようですね。


「それでアルベール様」

「アル」

「は?」

「アルと呼んでくれ」


 前言撤回、反省してねーわ。


「お断りします。親しくもない殿方を愛称呼びは出来ません」

「つれないなあケイト」

「なんですかその呼び方」

「え? キャサリンだったら愛称はケイトでしょ。違った?」

「間違ってはいませんが、貴男かそう呼ぶのは間違いです」


 なんだろう……このチャラいとは一味違う軽薄な感じ……


「その呼び方も不承知です。これでも私、婚約者がおりますの。それ以外の殿方に愛称呼びなど許すわけにはいきません」

「ここで会ったのも何かの縁だ。兄妹みたいに仲良くしたいなあ」


私が不快感を露わにしてもなお、馴れ馴れしくしてきます。


「バカにするな!」


 私の外見から想像出来なかったのでしょう。突然の怒声にアルベール様は一瞬ビクッとしました。


「妹だ? 貴男の妹さんがお亡くなりになったのは辛いでしょうが、私は貴男の妹ではありません! 仮に私が妹だとしても、貴男のようなフザケた兄など必要ありません。お亡くなりになった妹さんにも失礼ですわ!」

「確かにその通り、失礼なことを申しました。お許しあれ」


 私の怒気を受け、アルベール様の表情が急に真剣なものに変わります。


「申し訳ない。あまりにも妹にソックリだったので、少しイタズラ心が出てしまいました。改めて自己紹介します。ベルニスタ王国ラヴァール侯爵家の長男でアルベールです」


 侍従だと思っていたこの方は、侯爵家の長男、つまり次期侯爵様。

 なんだってそんな人が第三王子の付き添いで来ているんだ?


「ミシェル殿下とは小さい頃から共に学んだ仲でね。トランスフィールドに留学すると言うから、お付きで行けと命令されたのさ」


 こちらの疑問を察したのか、アルベール様は即座に答えます。 


「侯爵令息様とは……失礼しました。侍従の方だとばっかり……」

「いやあ、殿下には侍従みたいな扱いをされているから、そう見えても仕方ないよ」


 向こうが正式に名を名乗りましたので、こちらも家名を名乗ります。


「リングリッド……なるほど、大した胆力だと思ったら、あの鬼のマルーフ卿のご息女であれば納得だ」


 鬼?


「ベルニスタでは、マルーフ卿は恐怖の代名詞みたいな言われ方をされているので、つい言ってしまったが、失礼な言い方だったな」


 かつてベルニスタとは頻繁に干戈を交えており、今のリングリッド領も戦場となることがしばしばありました。

 そこで活躍したのが若い頃のお父様。その功によって我が国では剣聖と謳われますが、相手にしてみればお父様の活躍により命を落とした方も多くいるでしょうから、憎むべき相手として、鬼と呼ばれているようです。


「仇敵の娘に声をかけて、失敗したと思ってます?」

「戦争は我々が生まれるよりも前のこと。しかもお互いに国のため民を守るため、己の信念に従っただけで、自分が生きるには相手を倒すしかない。今ここで君をどうにかしたところで、詮無き話だ」


 衝撃的な出会いの仕込み方からして、知っていて接近してきたような気もしますが、本当に私がリングリッドの娘とは知らなかったのかしら? 


「過去は過去だ。私は両国の友好のためにもやってきた部分もある。マルーフ卿のご息女ならば、なおのこと仲良くしてもらいたいものだな」

「まあそういうことなら……ただ、先ほども申しましたが、すでに婚約者がいる身ゆえ、節度を持って接していただきますようお願いします」

「承知致しました。お嬢様」


 アルベール様は跪くと、慣れた手つきで私の手を取り、手の甲にキスをします。


「ちょっと! 貴男には節度ってものが無いの!」


 初対面でいきなりこんなことされても困ります。


「おやおや……こういうこと、婚約者様にはしてもらわないんですか?」

「そういうのは婚約者のご令嬢だけにしてあげてください」

「残念。まだ婚約者はいないんですよ」

「さっさと見つけてください。そのためにこの国に来たんでしょう」

「殿下はそのつもりですが、私にはその気は無かったんですがね。ですが、そう申されるならキャサリン嬢に婚約をお願いしようかな」


 コイツ……バカにしてんのか……

 ホントに私には変な男しか寄りついてこないのは何ででしょう?

(オリヴァー様は除きます)


「貴男は記憶力に欠陥があるようですね。婚約者がいると何度言えば分かりますか?」

「ほう、本当に婚約者がおられるのか」

「疑ってますの?」

「いやいや、こんな美しいご令嬢を婚約者にするのはどんな男かなと興味を持ちましてね」


 こんな美しいご令嬢とは皮肉か! 侯爵家の令息でなかったら頭ひっぱたいてやるところですわ。


「で、どなたが婚約者なのかな?」

「そんなに知りたいなら教えてやるよ」


 この声は! 白馬の王子様がやってきましたわ!

お読みいただきありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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