少女、自分のことは棚に上げる
季節は移り、秋の匂いが近づいてきた頃、学園は新学期に入ります。
「アボット様お久しぶりです」
「どちら様ですか?」
バチコーン!(後頭部をひっぱたく音)
「どちら様とは失礼ね! アンタが散々尻を追っかけ回していた相手の顔も見忘れたか!」
「誤解を招く言い方をするな! 誰がお前の貧相な尻を追っかけ回すものか!」
「とか言いながらアンタの視線はどこに向いている?」
キャサリンの腰回りに視線を向けていたロニーは慌てて頭を振り、見てない、見てないと弁解しますが、その後から一人の女の影が忍び寄る。
「ロニ~~! 何をしているのかなあ?」
「ひ、ヒー姉ちゃん……」
ヒラリー様が夏を越してパワーアップしています。
ホントに何人か人を殺してきたような邪悪な圧を感じます。
「ケイト様は婚約者がいるのよ~ それを分かってなお、お尻を追っかけ回しているのかなぁ~?」
「俺は何もしてない!」
「見たんでしょ?」
「見てない!」
「ホントに見てないの?」
「……見ました」
「ロニー、歯食いしばりなさい!」
ボコボコ(自主規制)
「ケイト様、お元気でしたか」
「ヒラリー様もお変わりなく」
変わり果てたロニーをよそに、にこやかに挨拶をするヒラリー様。
キャラ変わりすぎて怖いわ。
「ケイト様は……お変わりになりましたねえ」
「変わりましたか?」
「ええ、随分と背も伸びられたし、何というか……女の色気を感じるようになりました」
なんと! 色気ですか! アハーンとかウフーン的なアレですか!
確かに背は伸びましたよ、昨日計ったら145cmです。半年で10cmとか驚異的すぎませんか?
おかげで入学後に寸直しした制服が寸足らずになってしまったのはご愛嬌。
胸とかお尻も少しずつですが丸みを帯びてきており、ようやく同年代の中でも小柄な子くらいにカテゴライズされるようになりましたが、色気はまだまだ先の話かなと思ってましたので、お世辞でも嬉しいですわ。
なんたって周りにいるのが、完璧なスレンダー美女のアリス様と、エマとサリーのエロティックシスターズという色気の塊ですから、ちょっとやそっとの色気では目立ちようがありませんから。
「婚約者がいると自然と色気を帯びるのかもしれませんね」
ヒラリー様曰く、婚約者がいると愛されよう美しくなろうと、女性がより女性らしさを増すことが多いので、私もオリヴァー様により愛されようと、無意識に女を身に付けてきたのではないか。と仰います。
サザンポートから戻ってきて以降、オリヴァー様は毎日のように会いに来てくれます。
学生の身分ではありますが、すでに第一騎士団での事務仕事を任されており、お忙しい日もありますが、そんな日でも仕事帰りに一目会いたいと言っては邸に顔を出されます。
お仕事が休みの日には欠かさずデートに誘って頂き、二人だけの時間というものをこれでもかと味わいましたわ。
そんな風に想われて嬉しくないわけがありませんので、オリヴァー様はどういう服装が、どういう髪型が好みかななんてことを年中考えるようになりました。
もっとも、どんな服装でも髪型でもケイトは可愛いよと言われるわ、サイズアウトした服の代わりを大量購入してファッションショーさせられるわで、一生分のはわわ~を叫んだ気がするだけなんですがね……
「羨ましいわ。オリヴァー様ほどとは言わないけど、私もロニーから愛されればもう少し色気も出ると思うんですよ」
まずい、ヒラリー様がダークサイドに堕ちる寸前ですわ。
「アボット様、まだヒラリー様にプロポーズしてませんの?」
床に這いつくばるロニーの頬をペチペチ叩きながら聞きます。
「え? 何をどうしたらそういう質問になるの!」
「なんだかんだで貴男とヒラリー様はお似合いですわ。貴男が勇気を持ってドーンといけば、バーンと弾けて、ハッピーエンドですわ」
「すまん、何がドーンで何がバーンなのかよく分からん」
人のことは言えませんが、にぶちんですわね。
あ! もしかしたら私と一緒で恥ずかしくて現実を直視できないパターン?
「ねえねえアボット様、貴男から客観的に見て女性としてのヒラリー様をどう思う?」
「昔から一緒に居すぎて、客観的に見れない」
「その前提を取っ払って、一人の女性として見てあげなさい」
「それは……その……」
お、これはビンゴですわね。
「ヒラリー様、断言します。アボット様は貴女が好きです」
「え?」
「おい! 勝手に決めんなよ!」
「これはもう遠慮しないでグイグイいきましょう。彼が貴女無しでは生きられないと思うほどに、貴女への想いで埋め尽くしてやるのです」
ロニーはこれ以上グイグイ来ないで、と言っていますがそれはウソよ。ホントはもっと迫ってきて欲しくてウズウズしてますのよ。恥ずかしくて言えないだけ。
自分のことは棚に上げて、他人のことだと楽しそうだね、ですか? 楽しいに決まってるじゃありませんか。
「ケイト様、どうしたら良いんでしょうか」
「迷うことはありません。今からお昼を食べながら、作戦会議しましょう」
「おー!」
「ちょっと~、勝手に決めつけるな~」
どこからか情けない叫び声が聞こえましたが、気にせずヒラリー様と作戦会議のため、食堂へ向かいますと、なんだか凄い人だかりです。
「食堂ってこんなに混んでましたっけ?」
「お昼時ですが、さすがにこれは混みすぎですね。何かあったのでしょうか?」
人混みの方へ目をやると、学園では見たことがないキラキライケメン王子タイプの男子生徒が二人と、それを取り囲むご令嬢達がいます。
「あの方誰ですか?」
「ケイト様聞いていませんか? ベルニスタのミシェル殿下ですわ。卒業までの半年間、この学園に留学に来られたんですよ」
キラキラ王子の正体は隣国の第三王子ミシェル。もう一人はどうやら王子の侍従っぽいね。
「このタイミングで留学?」
「噂だと、お相手探しに来たみたいよ」
ここトランスフィールド王国とベルニスタ王国は今でこそ平穏だが、過去には何回も衝突した仮想敵国。婿入りするのか嫁探しなのか分からないが、第三王子だからお相手の身分にはそう拘らないだろうし、自国の令嬢と婚姻するくらいなら、隣国の貴族令嬢を娶って友好の証にしようかといったところかしら。
どちらにせよ、隣国がこの先敵対する意思は薄いというのはいいことだしね。
「ジェームズ殿下の婚約者選定も近いし、相手を選ぶならちょうどいいタイミングかもしれませんね」
「ヒラリー様も立候補する?」
「さすがに子爵家では格が低すぎますし、私にはロニーがいますから。むしろ国境を接しているリングリッド伯爵令嬢様の方がよろしいのでは?」
「それを言うなら私にもオリヴァー様がいますので、ノーサンキューですわ」
「ですよね」
ヒラリー様と冗談を言い合っていますと、侍従の方と目が合いました。
彼は私の顔を見たほんの一瞬だけ、ビックリしたような表情を見せましたが、すぐに表情は戻り、側にいるご令嬢と会話を続けます。
さっきの表情は何だったんだ?
もしかして、キャサリン様の色気に当てられたか?
お読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。




