少女、弟子の啖呵に頭を痛める
翌日、街の市場を訪れました。
通りの両側に商家の軒並みや行商人が構える露店が並び、売る人買う人で通りはひと際賑わいを見せています。
「しかしさすがは王国一の港町ですね。見知らぬ産物が多く売られているし、外国の方も沢山いますね」
通りに入ってからそんなに時間は経っていませんが、王都とはひと味もふた味も違う賑やかさに、普段クールなサリーもワクワクしているようです。
「この活気がサザンポートの魅力です」
ヘレンによると、サザンポートは周囲の地形的にも風浪の影響を受けにくいため、大型船の寄港地としては最適で、必然的に船が集まることで、人や物も集まるとのこと。
貿易が活発となれば、自然と陸路の整備も進み、今では周辺諸国にも類を見ない貿易の一大拠点に発展した街だそうです。
「それで見たことの無い品物が多いんですね」
「中には加工されてから王都に運ばれる物もありますから、加工前の現物を知らない人も多いですね」
サザンポートには加工場なども多く、この地で加工した商品が各地へ運ばれることもあって、原材料がそのまま王都などに持ち込まれることは少ないのだそうです。
「他にも足の速い食材だったり、輸入量が少なかったりとかで、出回る機会の少ない物もたくさんあります」
そう言うとヘレンは、すぐそばの果物店に並ぶ、ゴツゴツした外見の実を手に取ります。
「この実はとてもクリーミーで人気も高いのですが、実を取り出す過程で処理を誤ると、ものすごい悪臭が発生してしまうのです」
知ってる。それを処理するのに資格が必要なのよね。
そのせいで、王都では資格者のいるお店でしか取り扱えない貴重品なんです。
「リリア、疲れてない?」
「大丈夫です。年の近い方と一緒に市場を見て回ることなど無かったんで、すごく楽しいです」
雑技団の女の子、リリアちゃんと手をつなぎ市場を回ります。
「どう見ても双子」
「入れ替わってもバレなさそう」
「さすがに貴族と平民の違いはバレるのでは?」
「普段のケイトの姿を知っていれば、黙っていたら分からないわよ」
外野が煩い。久しぶりにお姉ちゃんしているんだから、楽しませなさいよ。
「リリアちゃんは貴女だけの妹じゃないのよ」
「アリス様には私という可愛い妹がいるじゃありませんか」
「残念。ケイトを妹と呼ぶことはもうできないの。だって未来のお義姉様ですから」
こんなところで姻族関係を持ち出すなんてズルいですわ!
「そういうことでリリアちゃん、次は私と一緒に行きましょう」
ああ……アリス様に優しい姉役を取られてしまいましたわ。
「次は私の番ですよー」
私の手を離れたリリアちゃんは、アリス様からエマ、エマからサリーと次々にパートナーが交代します。全員妹がいないので、リリアちゃんを可愛がる気持ちは分かりますが、普段彼女にソックリな私は何故可愛がってもらえないのでしょうか?
ケイト様はケイト様という生き物ですからって、どんな理屈なのよ。
市場巡りを続け、途中で昼食を挟んた後、午後はアクセサリーを扱う露店が多いエリアを見物しています。
ここも外国からの物が多いのか、この国ではあまり見られない珍しいデザインの品が数多く並んでいます。
「そういえば、リリアとパティは?」
「向こうの露店を見ているようですよ」
お、アリス様達の目が離れている今がチャンス。
リリアちゃ~ん、ケイトお姉様が好きな物買ってあげますわよー、と彼女のいる露店へ向かうと、「何するんですか!」というパティの大声が聞こえました。
急いで行ってみると、パティととある男性が睨み合いになっており、リリアはパティの後で震えています。
「それはこの子が先に見ていたんですよ!」
「オマエらみたいな平民が買えるような代物じゃねえ、見るだけ無駄だ」
「だからと言って何も言わずに奪い取るようなマネをして、貴男は礼儀すら知らないのですか!」
「平民の分際で!」
話を聞くに、リリアが手にとって見ていたイヤリングを、男が脇から割り込んで、ムリヤリ奪い取って買おうとしたらしく、パティがそれを見とがめて揉めているらしい。
「俺は子爵の息子だ! 俺が買ってやると言うのだ。オマエらみたいな平民に買われるより、この店にとってよっぽどありがたいだろう! 文句あるか!」
男はこの街の隣にある領主の息子のようですが、格好や言動など、どう見てもどら息子のようです。
「文句大ありですよ! 貴族の息子だからなんですか」
「なんだと!」
「私にマナーを教えてくれたご令嬢様は『貴族が偉いのは民を守り、慈しみ、教え導くために汗水流して働いていればこそ、みんなが認めてくれるから』と申されておりました。権威を笠に着て威張り散らすだけの者など貴族失格だとね」
パティ……確かにあの夜会で言ったけど、貴族失格とまでは言ってないわよ。
あと、見境なく貴族にケンカ売っちゃダメよ。ほら、相手の男、相当怒ってるわ、下手したら斬り捨てられる勢いね。
「平民の分際で無礼な! どこぞの田舎令嬢に教わったか知らんが、貴族と平民には厳然たる身分差があって当然だ。貴族に逆らうなど許されぬぞ!」
「そうやって権力に物を言わせて偉そうにして、周りの皆さんが貴男をどう見ているか気付きませんか? それが貴男の家名を汚し、家の方に迷惑をかけるとは考えられないのですか? 反論できないからって身分差を出してくる時点で、過ちを認めているようなものですよ」
「言わせておけば!」
(これはマズいわよ)
男が剣の柄に手をかけたのを見た瞬間、私は道端の小石を拾うと、男の手を目掛けて投げつけます。
小石が寸分違わず柄を握る手に命中すると、男は痛みに声を上げますが、何故痛みが走ったのか状況がよく分かっておらず、周りをキョロキョロしていますので、その間にパティ達を庇うよう、男の前に立ちはだかります。
「いい加減、みっともない真似はおやめなさい」
「なんだテメェ」
「その子達は私の友人。剣を向けるということは、私に喧嘩を売ることと同義になりますが、それでもよろしくて?」
「どこの田舎令嬢だか知らんが偉そうに」
「田舎者はどちらかしら。人としての礼儀も知らず、貴族としての嗜みも弁えず、貴男のような方が王都にいたら、社交界の鼻つまみ者ですわ」
私の言葉にさらに怒りを増した男は、斬りかかろうと剣を抜きますが、それよりも早く、私達の護衛騎士がその動きを制し、抑えつけます。
私が直接やらないのかって? 人前では一応か弱いご令嬢を演じてますので、その役目は護衛騎士にお任せしますわ。
「もうすぐ憲兵隊が来ますでしょうから、貴男は少し反省なさった方がよろしいですわね」
しばらくすると、騒ぎを聞きつけた憲兵隊が来ましたので、身分を明かし、事情を説明の上、男を引き渡しました。
ようやく騒ぎは収まりましたが、パティはちょっとお説教が必要ね。
お読みいただきありがとうございました。
明日もよろしくお願いします。




