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少女、家族会議する

「まずはケイトが無事に帰ってきたことを祝して」

「乾杯」

「ケイトが王都に行ってもう一年か、月日の経つのは早いものだ。ちょっと見ないうちに大きくなったな」

「まだまだ成長中ですわ」


 帰省した日の夜、改めてということで、両親、フィル兄、私、オリヴァー様で晩餐を摂り、その流れで談話室に集まり、本題に入ります。


 しかし雰囲気が硬い。オリヴァー様がいるからって、お父様が普段とは全然様子が違います。

 昨日は散々愛しの娘よ~って言ってましたのにね。


「話はすでに聞いている。オリヴァー君、ウチのキャサリンと婚約したいと言うのは、何かの間違いだよな?」


 何かの間違い? 間違いないかと聞くのでは?


「間違いなどではありません。私はキャサリン嬢を妻にしたいと願っております。父も母もアリスも、この申し入れは皆了承しております」

「いや、その……ホントにいいの?」


 お父様、どういう確認の仕方ですか……


「何か不都合でもありましたか?」

「不都合は無いんだが、オリヴァー君がギャレット伯を継承するとなれば、この子は伯爵夫人だろ? ホントに貰ってくれるの?」


 お父様、娘を物扱いはよくありませんわ。


「キャサリンよく聞きなさい。可愛い娘が嫁に望まれると聞き、喜ばぬ父はそうそうおらん。だがなあ……お前が伯爵夫人とか、ホントに大丈夫か? 伯爵夫人は野獣討伐はしないぞ」

「僕は野獣討伐するキャサリンも大好きですから、全く問題ありませんよ」


 オリヴァー様は、何でしたら第一騎士団に同行して、野獣討伐しても構いませんよと仰います。

 領地無しの法服貴族とはいえ、貴族の女主人として、それはいいのか……


「お父様、時間が止まりすぎ。いつの話をしてますの? 今では私も学園で平民の皆様にご指導できるほど、淑女教育を学び上げてますのよ」

「ホントか~?」


 ケヴ兄やネイ兄の手紙にはそんなこと一切書いてなかったと、お父様が疑いの目を向けます。


「昔の私を知ってるお兄様達に見せたって、何を今更と気持ち悪いだけですので、家ではあまり変えてませんが、学園ではきちんと淑女してますわ。」

「オリヴァー君本当かね」

「ええ、人前ではしっかり淑女してますよ。お陰様でアリスはいい人材に恵まれていると言われてます」

「へえー」


 お父様のへえー、の音程に抑揚がありません。信じてないな。


「お父様は私に伯爵夫人は務まらないと仰りたいのですか」

「務まらぬとは思わんが、オリヴァー君、後で返品はできぬぞ」

「もちろんです。実家に戻る気も無くなるくらい、存分に可愛がってみせましょう」


 お父様がそれはそれで寂しいなと笑いますが、何がそんなに気に入らないのでしょうか。


「オリヴァー様ほどの御方との結婚を反対されては、私は一生嫁に行けませんわ。」


 公爵家との縁談を断れば、何かあったのかと邪推されるのは必定。次の嫁入り先を見つけるのも苦労しますし、あれだけの愛を囁かれて、オリヴァー様以外に嫁ぐ気などあるはずもありません。


「反対ではないんだ……オリヴァー君が相手なら相手にとって不足どころか喜んでと言いたいのだが……」

「何が不満ですの」

「相手がオリヴァー君だからこそだ。彼に嫁ぐということは、エドガーの義娘になるわけだろう。それが気に入らん」


 は? それが理由? 


「アイツのことだ、結婚式でバージンロードを一人寂しく退場するワシのことを手を叩いて大笑いするに決まっている!」


 さすが親子、フィル兄と同じこと言ってるよ。


「でしたら、アリス様の結婚式のときにやり返せばよろしいではありませんか」

「ケイト、王族の結婚式では新婦の父の出番は無いんだ」

「そうなのですか、オリヴァー様」


 王子の結婚式では、新婦が一人で進み、途中で待ち構える国王陛下と王妃殿下から、婚姻の証となる宝物を拝領した後、殿下の元へ向かう習わしのため、普通の結婚式みたいに新婦の父がエスコートすることは無いそうです。


「エドガーの奴め、それを知っておるから『ケイトの結婚式のときは存分に笑わせてもらうぞ!』と昔から言っておる。そういうところの性格の悪さは年をとっても直りはせん」

「お父様、エドガーおじさまをそのように言っては失礼ですわ」

「いいや、お前が嫁入りすれば、絶対にケイトを自分に懐かせようとするに決まっている。それで『マル―フと同じように自分もパパと呼びなさい』とかふざけたことを抜かすに違いない! ワシの可愛いケイトにそのような破廉恥なことをさせるわけにはいかん!」


 お父様、すでにお義父様呼びをするよう公爵邸で言われてますわ……


「それ見ろ! 婚約もしておらんのにお義父様だと! そのうち『マルーフより自分の方が実の親子のようだ』とか言うに決まってる!」


 ウチの男共は、想像の翼が随分と大きいようですね……


「そんなことで反対されても困りますわ!」

「そんなこととは何だ、お前の父は後にも先にもワシ一人で十分だ!」


 何なのよ、このポンコツ剣聖(オヤジ)! 娘は情けなくって涙が出てきますわ。


旦那様(アナタ)! いい加減になさい!」


 お父様がグジグジ言っていると、お母様がそれを一喝します。

 怖え~、美人が怒ると怖え~。

 こんなお転婆小娘ですら、怒ることなく優しく諭してくれた母が激怒する姿に、ちょっとだけチビリそうです。

 

「旦那様、ケイトを可愛がる気持ちはよく分かります。ですが、あの子がこんないいご縁に恵まれたのですよ。親としてこんなに喜ばしいことはないではありませんか」

「う、うむ……そうなんだが」

「義父が公爵閣下だからなんだって言うのですか。ケイトの父親は貴男以外の誰でもありません。自分がその程度で娘に愛想をつかされるような情けない父親だと、自分は閣下より劣っていると思ってらっしゃるのですか? 私はそのような不甲斐ない男に嫁いだつもりはありません!」

「そんなことはない! エドガーなんぞに劣ることなど一つもない、ケイトの父親はワシ以外にはおらん」

「それなら心配など不要です。私にとって旦那様は唯一無二の存在、ケイトだって同じ気持ちですよ。公爵閣下を義父としてお慕いする気持ちがあっても、それで貴男を蔑ろにすることなど無いですよ」

「ケイト……本当か」


 先ほどの怒気を帯びた声から一変、いつもの優しい声色に変わったお母様に諭され、お父様が不安そうに聞いてきますが、横でお母様が何かの合図を送ってきます。


(アレを言えということですね)


「私にとって、お父様はお父様だけですわ。大好きですよパパ」


 私のパパ呼びに泣きそうになるお父様。

 お母様の顔を窺うと、にこやかにサムズアップしております。つまり、大丈夫ということね。


「お嫁に行っても、パパと私が親子であることは変わりませんよ」

「ケイト~」

「それでお父様、ご承諾いただけますか」

「もちろん、もちろんだ。パパはケイトが幸せになってくれればそれでいい。オリヴァー君、ケイトをよろしく頼むよ」

「マルーフ卿、ご承諾いただきありがとうございます」

「ただし、ケイトを泣かせるようなマネをしたら……君とエドガーの素っ首刎ねにいくから覚悟しておけよ」

「ええ、私もマルーフ卿の剣の錆にはなりたくはありませんので善処します」


 これにて婚約了承、一件落着ね。




「オリヴァー様、父が失礼しました」

「いやいや、剣で決着を付けようとか言われなかっただけ助かったよ。それにお母様にも助けられたしね。剣聖マルーフ卿の活躍には、夫人の内助の功があってのことと改めて感じたよ」


 オリヴァー様に送られ、部屋に戻る途中でそんな話をします。

 お母様にあんな激しい一面があったとは、私もびっくりです。


「私もお母様みたいにオリヴァー様のお力になれるようになりたいです」

「ケイトはいい奥さんになれる。僕が選んだ女性だもの」

「ありがとうございます。では、オリヴァー様が道を間違えそうになったら、尻を叩いて矯正して差し上げますわ」

「ふふ、ケイトに叩かれたら軽いケガじゃ済まなそうだから気を付けないと」

「あら、愛しい旦那様相手ですもの手加減はしますわ」

「え?」


 オリヴァー様の足がピタリと止まります。


「ケイト、今何て言った?」

「手加減しますわ」

「それより前」

「尻を叩いて矯正して差し上げますわ」

「行き過ぎ、その間で何て言った?」


 ……!? あー!


「な、なんて言いましたかね私」

「もう一回言ってよ」

「忘れました」


 調子に乗ってお母様をマネて旦那様とか言っちゃったら、思いのほかオリヴァー様が食いついてきてしまいました。

 恥ずかしくてリピートは出来ませんわ。


「ケイト、もう一回だけ」

「仕方ありませんわね……愛してますわ旦那様」


 そう言うと、耳まで真っ赤になったオリヴァー様が何も言わず私を抱きしめます。


「僕も愛してるよ、ケイト」


 はわわ~、自分で恥ずかしいこと言ってドキドキしているところに、そんな甘い言葉を吐かれては、身が持ちませんわ!


 まずはこの状況に慣れないといけませんわね(切実)

お読みいただきありがとうございました。

明日もよろしくお願いします。

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