少女、巻き込まれる
「何をしていらっしゃるのですか」
現れたのは、宰相を務めるバーネット侯爵の令嬢ダイアナ様。王権派のご令嬢の首領。
「一人を取り囲んでイジメるとは……貴女達は恥を知らないのですか」
儚げな見た目に似合わず、凛として貴族派のご令嬢を問い詰めるダイアナ様。
「ダイアナ様には関係の無いお話ですわ」
「そうはいきません。このような無体をなさるなど、貴族派の皆様は良い教育をお受けになっているのですね」
ダイアナ様の皮肉を受けて、取り巻き共もクスクス笑っている。
(状況証拠だけで、貴族派の皆様を悪者にしたいようね)
そう思わずにはいられない。
貴族派のご令嬢が、アリス様の友人である私一人を取り囲む状況だけで、彼女達が何か悪さをしたのではないかという方向に話を持って行きたいようです。
正義感を全面に押し出して善人ぶってるけど、要は「貴族派の皆様はこんな悪い人達なんですよー!」ってことを公にしたいだけでしょう。
(だからこの人苦手なのよね……)
ダイアナ様も王子妃候補の一人であるが、序列はずっと三番手。
現状の立ち位置で言うと、一番手から大きく離されたアデレイド様からも、さらにやや劣るくらいと見られている。
本人は、年齢と家柄で周りから候補と見られているだけで、このような気弱な女が王子妃など務まらないと言っており、アリス様が王子妃に相応しいと公言しているから、積極的に支持を集めていないのが理由だ。
アリス様を推しているのは、王権派と貴族派は犬猿の仲のため、貴族派のアデレイド様が王子妃になっては困るというただ一点につきる。
そのため彼女達王権派は、自身に近い武官派のアリス様の地位を確固たるものにするため、アデレイド様の足を引っ張ることが多い。
先日の夜会でアデレイド様の考え方を知ってから、観察してみるとよく分かった。彼女の評判が良くないのは、王権派の邪魔が入っていることが大きな要因なのだ。
確かに気性は激しいが、アデレイド様は良識的な方なので挑発には乗ってこない。そこで貴族派に属するご令嬢達が標的になり、王権派が挑発して諍いを起こすよう仕向け、彼女の指導力に疑問符を付けさせる。
また、彼女が直接仲裁に入ってきたときには、ダイアナ様は儚げな見た目をフルに生かして、あたかも自分の方が責められているように見せ、さらに評判を悪くさせる。
アデレイド様や近しいご令嬢は、王権派の挑発に乗らないようにと周知しているが、相手はそこかしこで小さい諍いを起こしてくるので、対処しきれないのが現状だ。
だったらダイアナ様自身が王子妃になればいいのに。無駄に諍いを起こしては彼女も評判悪くなるのでは? と思いますが、彼女はアリス様が王子妃になればそれでいいんです。
自身が王子妃に名乗りを上げれば、武官派との三つ巴になって、折角の武官派との友好も崩れる恐れがある。
武官派はその名の通り武人なので、中央の政に関わることは少なく、どうしても宰相とその側近が差配する必要がある。
アリス様が王子妃、王妃となれば、貴族派の影響力を排除しつつ、王権派の発言権は相対的に増し、アリス様を王子妃にするサポートをしたということで、武官派との友好も保てるという算段。
そのために王権派の貴族は彼女達の行動を黙認しているので、ダイアナ様は相打ち覚悟でアデレイド様の足を引っ張っても、さほどのダメージは受けない一方、アデレイド様はダメージ受けまくりなので、面と向かって反撃も難しいのだ。
だが、アリス様の地位を確固たるものにするアシストと見られている事実は、当の本人達にしてみれば、ありがた迷惑な話。
私達はダイアナ様の邪魔が無くても、しっかり自己を高めていけば勝てると思っているので、王権派のサポートなど不要なのですが、彼女達は自分たちのアシストのお陰で、ここまでの大差が付いていると思ってるし、周囲にそういう印象操作もしている。
我々としては不毛な足の引っ張り合いなど止めてもらいたいので、日頃からそれとなく釘を差していますが、当のダイアナ様がアシストであると公言してないし、我々に友好的な態度を崩さないし、日頃から王権派と貴族派は仲が悪いため、その延長上に諍いが起こっているだけと言われれば、それ以上は突っ込むことも出来ない。
(自分で気弱とか言っている割に、やり方はえげつないよね)
必要なら汚い手も辞さぬ、貴族の政略として間違った考え方ではありませんが、この場に限っては原因は私の婚約にありますので、アリス様やアデレイド様を引き合いに出されてはかないません。
個人的にではありますが、アデレイド様とは正々堂々と戦いたい気持ちもあるので、うまく収める方向で話を持って行きたいと思います。
「バーネット侯爵令嬢様、イジメではございませんわ。皆様と仲良くお話ししていただけですわ」
イジメなどではない、これ以上揉め事を大きくするなという意思を込めて、私はそう主張し、貴族派のご令嬢達に同意を促すと、彼女達も私の意図を察したのか、コクコクと頷きます。
「先ほど悲鳴のような声が聞こえましたが?」
「ちょっとじゃれついていただけです。弾みで変なところに手が当たってしまったので、ビックリされただけですわ」
「貴女はたしか、アリス様のご友人でしたよね。私は貴女の味方です。心配はいりませんから本当のことを教えて」
(どうしても貴族派が悪いって事にしたいんですね……)
「ご心配ありがとうございます。ですが私、アデレイド様とも仲良くさせて頂いておりますし、王子妃候補のライバルとか、親の派閥の違いとかはあれど、同じ学舎で席を並べる仲間として、分け隔て無く接するのがモットーですの」
「そうですか……それならばよろしいのですが、武官派の貴女が貴族派と仲良くされていては、よろしくない噂が流れてしまうのではないかと、心配ですわ」
(あー、その噂、流すのは誰ですかねー?)
「心配ですか?」
「彼女達が貴女を唆して、アリス様に何か危害を加えないとも限りません」
「それもご心配なく。あの方は卑怯な手で貶めたり、相手の小さなミスをネチネチと責め立てるようなマネはしませんから」
ダイアナ様の顔色は変わらないが、こちらを見る目が鋭くなった。
おそらく、私の言葉が自分に対する皮肉だということを理解したのだろう。
「それにアリス様は、私がアデレイド様と仲良くされていることはご存じです。お許しにならないのなら、私などとっくにお側に仕えることも叶いませんでしょうから」
「そう……それならいいんです。お騒がせしてしまいましたね。それからキャサリン様、遅くなりましたが、ご婚約おめでとうございます」
「丁重なお言葉ありがとうございます」
貴族派を貶めることが出来なくて残念という雰囲気は感じたが、武官派の私と揉めるのは得策では無いと感じたのか、ダイアナ様はあっさりと引き下がった。
「キャサリン様、ありがとうございます」
貴族派の令嬢達が頭を下げてきた。
オリヴァー様の事で私憎しではあったのでしょうが、王権派との諍いを回避できたことは恩に感じているのでしょう。
「皮肉に聞こえるかも知れませんが、皆様がお越しになったことで、人に嫉妬されるほど良い縁に恵まれたと改めて感じてますの。でも、そのせいでアデレイド様の評判を落とされるのは本意ではありません。あの方が正しくあろうとする姿勢は皆様もよくご存じのはず」
私の言に苦い顔をするご令嬢達。
「私のことを陰で言うのは一向に構いません。ですが、王権派の皆様の耳に届かないようにしてください。また面倒臭いことになってはかないませんから、直接突撃してくるのも今回限りにしてくださいませ」
微笑みながらそう言うと、ご令嬢達も苦笑いで返してくる。
これで済めば良いんだけど……
王権派面倒くさ……私達を巻き込まないで欲しいわ……
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