少女、煽る
「キャサリン様、ちょっとよろしいかしら」
「構いませんが、手短にお願いできますか」
私を呼び止めたのは、貴族派グループの女子。
大将は不在なのに私に直接話しかけたということは、用件はただ1つ。
相手は私と同格の伯爵令嬢が最上位ですので、失礼と咎められない程度に、多少迷惑そうな顔で答えます。
すると私の態度が気に入らなかったのか、「生意気な小娘が」という呟きが聞こえてきましたが、それをスルーして、用件を伺います。
「お忙しいところ申し訳ありません。まずはご婚約おめでとうございます」
「それはご丁寧にありがとうございます」
実際にはまだ婚約の打診が来た程度ではあるが、わざわざそんなことを言って謙遜しても逆に嫌味になるので、素直にお祝いの言葉を受け取ります。
「羨ましいですわ。どうやったら貴女が公爵令息様と婚約できるか、私ども不思議で仕方ないと話しておりましたの」
「不思議に思ったから何ですか? 考えても分からないから直接私に聞こうとでも?」
いや、言いたいことは分かるけどね、言うならハッキリ言え。貴女達と無駄な時間を過ごすつもりはありませんから。
「あら、言われないと分からないなんて意外と鈍いのね」
「申し訳ありません。本人のいないところでコソコソと噂話に精を出す方の気持ちは分かりませんし、知りたくもありませんわ」
「何ですって!」
「だからハッキリと言って頂かないと伝わりませんよ、と申しておりますの」
イライラしてますね。
以前ヒラリー様が、アデレイド様のグループにもオリヴァー様推しの方がいらっしゃると言ってましたが、こちらの伯爵令嬢様がそうなのかしら。
そういや今日はヒラリー様がいないわね。
「話はそれだけですか? それ以上無いのでしたら失礼させて頂きますわ」
「どんな手を使ったのよ……」
「何がですか?」
「どんな汚い手を使って婚約者の地位を手に入れたのかって聞いてるのよ!」
とうとう本性が出ました。
私みたいな女性としての魅力の欠片もない小娘が、どうしたら公爵令息と婚約できるのか。
何か弱みを握ったのか、そしてどんな汚い手を使ってそれを入手したのか。といったところかしら。
「汚い手……あら、そんなに私の手、汚れてました?」
「とぼけないで!」
怒るな怒るな、比喩だって事くらい分かってるわよ。
「皆様が何を聞いたのか知りませんが、このお話はオリュ様から申し出があったもの。私からは婚約の『こ』の字も出しておりませんので、理由を聞きたいなら彼にお伺いした方が早いですよ」
「オリュ様?」
「ああ、ご存知ないですよね。私、オリュ様と呼ぶよう許可を頂いてますの」
「なっ……」
許可を取ったのはウソ。お願いすれば大喜びするだろうけど、私が恥ずかしくて言えないだけ。
ただここでは煽るため、親密さアピールに使わせてもらいますわ。
バレたら「僕には言ってくれないのに」って、オリヴァー様の頭からワンコの耳が生えてきそうですけど……
「理由を聞きたいなら、直接彼に尋ねればよろしいですわ。『どんな弱みを握られたんですか?』ってね」
「聞けるわけないでしょ!」
「そうでしょうか? 『私が救って差し上げますわ!』とでも言って、私が握っているという弱みの証拠を揉み潰せば、彼と仲良くなれるかもしれませんよ。まあそのような事実はございませんから、聞くだけ恥をかくというもの。賢明なご判断ですわ」
「調子に乗るんじゃないわよ!」
「ええ、調子に乗ってますわよ。女性としての魅力の欠片もないと蔑んでいた私を押しのけて、婚約者の座を得られなかった貴女方に何を言われようと、痛くも痒くもありませんわ」
自分で言うのもアレだが、調子に乗ってるな私。
「自分の立場を分かってますか!」
「立場? オリヴァー・ラザフォード公爵令息様の婚約者ですが何か?」
「そのせいで、オリヴァー様がなんと言われてるか理解してますの?」
「あれですよね。『ラザフォード公爵令息様は幼い容姿の女性が好みのようだ』ってやつですね」
知ってる。だからこそ今まで彼の想いに応えなかったんだから。
「分かってるくせに随分と平然としているのね。」
「勘違いしているようですので、不躾ながらお教えしますが、彼は幼女が好きなのではなく、わたしが好きなのです。身長なんかそのうち伸びるし、スタイルだってそれに伴って成長するとね」
事実伸び始めていますしね。
「それに、胸なんかオマケみたいなものだから、有っても無くても私が好きだと言って頂いておりますし」
これもウソ。サロメ夫人のお店での会話を、あながち間違っていないというレベルで歪曲したもの。本人に確認できないんだから、ウソとバレる心配も無い。
貧乳好きと誤解される可能性はあるが……
「皆様が色々仰るのは構いませんが、要らぬ詮索をする事自体が、オリヴァー様を貶めているという事実に気付きませんか?」
秘技、責任転嫁。
私への誹謗中傷によって、オリヴァー様をも貶めている。それは貴女達が引き起こしたことなのよ。と彼女達に責任があるのだと仕向ける。
もっとも、私は悪いことはしていないので、責任なんか何一つ無いんですけどね。
「私達が悪いとでも?」
「それ以外に何が? 貴女達のやり口のせいで、皆様がお慕いしているオリヴァー様も貶められているのは事実でしょう。私を貶めたければ、直接私本人だけを標的になさいませ」
「言わせておけば!」
憤る彼女達をさらに煽ると、一人のご令嬢が平手打ちをしてきましたので、それをかわし、空を切ったその手首を掴みながら側面へ回り込み、腕をガッチリホールドします。
刹那、腕をホールドされたご令嬢が痛みに声を上げましたので、すぐに拘束を解きました。そんなにキツく拘束したつもりはなかったけど、ご令嬢相手にはやり過ぎたかな?
「小娘相手に負けるわけ無いとでも思いましたか? これでも一応剣聖の娘ですから、ご令嬢相手に後れを取る訳ないでしょ」
「何するのよ! 痛いじゃない!」
「その程度の痛みで済んで良かったじゃない。本気だったら貴女の腕の二本か三本は使い物にならなくなってるわ」
「腕は三本も無いわよ!」
そういやそうだ、カッカしてるわりにツッコミは的確ね。などと考えてましたら、先ほどのご令嬢の叫び声を聞きつけたのか、野次馬が少しずつ集まってきました。
耳目を集めるのは得策では無いので、どうやって収拾付けようかと思っておりましたら、野次馬の中かとあるご令嬢の集団が現れ、声をかけてきます。
「何をしていらっしゃるのですか」
あ、面倒臭いのが出てきたわ……
お読みいただきありがとうございました。
明日もよろしくお願いします。




