少女、渦中の人となる
お待たせしました。
本日より再開します。
その日、学園は衝撃に見舞われた。
『オリヴァー・ラザフォード公爵令息、婚約相手を決める! お相手はキャサリン・リングリッド伯爵令嬢』
号外の新聞でも発行されたのかというほど、朝から生徒達の話題はその一点でもちきり。
学園の女子生徒は祝福する者、悲嘆に暮れる者、怨嗟の声を上げる者など、悲喜こもごも。
当然と言えば当然。オリヴァーはジェームズ王子と女子人気を二分する大物。特に中~下位の貴族令嬢に人気が高い。(ちなみに平民女子からは、観賞用として両者とも人気)
彼女達はさすがに王子は殿上人すぎて敷居が高すぎると考えている。
まあ実際には公爵令息だって高嶺の花なのは百も承知しているが、絶対に届くことのない頂にいる王子よりは、オリヴァーは自分でもワンチャン届くのではないかという、希望を持たせてくれる王子様なのだ。
これは彼女達の希望的観測ではあったが、王子の第一の側近と見られていた彼は、王子の婚約が決まるまで、自身の婚約者を決めないのではないかと思われていたのに、そんな憧れの人があっさりと婚約者を決めた。
正確には現時点では成約していないので確定事項ではないが、そんなものは建前、婚約なんぞ事前に話が付いているのが普通なので、話が出てきた時点でほぼ確定のようなもの。
しかも相手は幼女と名高きリングリッド伯爵令嬢。
公爵家の次男と伯爵家の長女、家柄で言えば特に問題は無いわけだが、何よりその容姿を見知っている学園の生徒からすれば、何をどうしたらあの女が婚約者の座に座れるのだと訝しむ者、政略結婚なのではないかと勘ぐる者、単純に悔しい! キーッ! と歯がみする者などのお陰で、キャサリンはヘイトを一身に集め、一躍時の人となっているのだ。
「しんどい……」
あの晩、家に戻ってお兄様達に報告しました。
ケヴ兄様は「良かった良かった」と普段私には見せないような喜びよう、ネイ兄様は「俺より先に相手見つけるなよー」と言いながらも、やっぱり祝福してくれて、夜も遅い時間ながら、使用人の皆様を交えて祝宴みたいになりました。
あ、領地にいるお父様とお母様には手紙で知らせてあります。
で、次の日には急で申し訳ないと言われながら、公爵邸にお呼ばれされまして、公爵閣下ご夫妻と改めて顔合わせとなりました。
「キャサリン嬢、ウチの愚息をよろしく頼む」
「ホントにねえ、ケイトちゃんが義理の娘になる日が来るなんて、月日の経つのは早いわねえ」
おじさま、おばさま、早いです。父に了承取ってませんよ。
「マルーフに否やとは言わさぬよ。断るなら全面戦争だ」
おじさま止めてください、国が傾きますわ。
「大丈夫よ、貴女のお父様もお母様も、そして私達も、二人が一緒になってくれる日を今か今かと待ちわびていたんだもの」
ああやっぱり、親にはバレていたんですね。何となく分かってはいたけど、面と向かって言われると、やっぱり恥ずかしい。
「ありがとうございます。行き届かない点も多々あるかと思いますが、オリヴァー様の妻の名に恥じないよう努力いたします」
「ケイトちゃん。もう私の娘も同然なんだから、そんなに固くならないでいいのよ」
「そうだぞ。可愛い娘がもう一人増えると楽しみで仕方ないのだ」
「おじさま、おばさま……」
「お義父さんと呼びなさい」
「私もお義母さんだからね」
「まだ早いですよ」
こんな感じです。おじさまもおばさまも、完全にウチの嫁モードの扱いです。
それはアリス様も一緒のようでした。
「ケイト! おめでとう!」
ご夫妻が退出するのと入れ替わりで現れたアリス様は、飛びついてきて開口一番喜びを表します。
「アリス様、色々裏で手を回していただいてありがとうございます」
「あら失礼ね。収まるところに収まるよう手を尽くしただけよ。ケイトお義姉様」
「お義姉様?」
「そうでしょ、オリヴァー兄様の奥様になるんだから、間違ってないでしょ」
「アリス様、自分で言って気持ち悪くないですか?」
「気持ち悪い」
慣れないお義姉様呼びを気持ち悪がりますと、二人で「ですよねー」「だよねー」と笑ってしまいました。
「それでね、朝からお祝いを述べに来る人が引っ切りなしなのよ」
なんでだろう、昨日の今日なのに、みなさん情報が早いのね。
「違うわよ、レストランで一部始終見ていた人が大勢いるでしょ」
「あ」
そうでした、大勢の目の前で「婚約してくれ」「嬉しいでしゅー」とやってしまったのだ。
「公爵令息の婚約話よ。情報なんかあっという間に伝わるわよ」
「ということは学園のみんなにも……」
「当然伝わるわよね」
なんてことだ…… お腹が痛い、誰かのお葬式がある、家にお化けが出たから除霊しなくては、明日の欠席理由は何にしましょうか?
「ダメよ、覚悟の上でしょ」
「それはそうですけど……」
「間違いなく、無いこと無いこと吹聴する人はいる。でも陰でコソコソ言っている人なんか、鼻で笑ってやればいいわ」
「直接文句を言ってくる人がいたら?」
「叩き潰しなさい」
「いいんですか?」
「物理的にはダメよ。へー、ほー、ふーんと聞き流して、負け犬の遠吠えねと言ってやればいいわよ」
と言われて登校したものの、話しかけてくるのは「おめでとう」と祝福してくれる友人や、マナー教室でお世話した平民の生徒の皆様ばかり。なんかキラキラした目で、馴れ初めとか、相手のどこに惹かれたとか色々聞かれました。
確かに直接文句を言ってくる者はいないが、怨念めいた視線だったり、こちらの姿を見かけては何やらヒソヒソやっているのを見ると、気にするなとは言われても微妙にストレスを感じます。
「ケイト様、朝からお疲れですね」
「幸せ疲れですね」
エマとサリーが労ってくれます。
二人にも昨日、公爵邸でアリス様と一緒にたくさんお祝いしてもらいました。
やっぱり年頃の乙女です。色々聞きたいことがあるようでウズウズしていたので、今日皆さんが私に集まってくる気持ちも分かるわー、と言っていたのですが、さすがに質問攻めにあう私を不憫に思ったのか、キリのいいところで切り上げて教室まで回収してくれました。
「祝福されるのは嬉しいが、惚気話を延々と語るのも苦痛だわ」
「嫌味ですね」「ですね」
「二人とも目が怖いですわよ。私達友達だよね、ねっ?」
「ケイト様知ってますか? 女の友情って、男が原因で壊れることが多いんですよ」
「それは一人の男を巡って争うというシチュエーションだよね」
「違います。彼氏のいる人といない人の格差社会の闇、ご存じないですか?」
ひーっ! エマの目が怖い。今までは私が長いことダークサイドにいましたのよ。貴女達だってちょっとくらい闇落ちしたっていいじゃない!
「なんて、冗談ですよ。オリヴァー様とラブラブなのは分かってましたから、嫉妬もなにも起こりもしません」
「そうですよ、純粋にお幸せにって感じです」
ペロッと舌を出して笑う二人。ありがとう、持つべきものは良い友人だ。
「でも、嫉妬深い人もいますから気をつけてくださいね」
「アリス様には鼻で笑ってろと言われましたが、人のこと見てヒソヒソ話されるのは、あんまり気分良くないわね」
「直接危害を加える方はいないでしょうけど……仮にあったとしても、ケイト様なら大丈夫でしょ」
そして、違う講義を受ける二人と別れ、アリス様と合流しようと一人廊下を歩いていると、前方にご令嬢の集団が待ち構えております。
「キャサリン様、ちょっとよろしいかしら」
おー、直接対決を望む者がついにきた。
お読みいただきありがとうございました。
この先も毎日投稿としたいところですが、年度末・年度初めは仕事が忙しいため、また書きための時間を頂くかもしれません。
その時は改めてお知らせします。
次話は明日投稿予定です。よろしくお願いします。




