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少女、お姫様になる〈第一章完〉

キリのいいところまでと思ったら、今日は少し長めになりました。

 サロメ夫人のお店で大人コーデに仕上げてもらい、いよいよオリヴァー様と街巡り。

 

「次はどこへ行こうか」

「新しい服に合うアクセサリーを見たいですわ」


 雑貨や武具、古書などのお店を巡り、次の行き先をどうしようかと問われましたので、サロメ夫人のお店で付けさせてもらったイヤリングを触りながらそう申し出ますと、公爵家行きつけの宝飾店に行くことになりました。


 ん? 公爵家行きつけって…… まさか……




 どどーん(そびえ立つ店構え)




 ガラス玉の指輪の店やないかーい!(第7話参照)


「これはオリヴァー様、ようこそお越しくださいました」


 ……普通に対応されたわ。さすがに公爵令息の連れのお嬢様だから無碍にはしないか。ちゃんとした物を持ってきたわ。

 見立てをしてくれた店員があのときの人だったんですが、私の指のサイズを測ってから「あれ?」みたいな表情で、私の顔を見ています。


 気付いたな。そうです、貴男にガラス玉指輪を勧められた女です!

 あ、ちょっと顔色悪くなった。そうだよね、公爵令息様が二人きりで連れてきたんだから、それなりの家のそれなりの関係のお嬢様だと思うよね。

 ガラス玉の指輪を勧めたなんてこと、オリヴァー様にバレたら大変だよねー。

 もっとも、アリス様と一緒に来たあのときに気付けや! って話ですけどね。

  

 ただ、私は嗜虐趣味はございませんので、大丈夫ですよという意味を込めて微笑みます。一応目だけ笑わず、余計なこと言うなよと牽制はしてますが。


「どうだいケイト、気に入った物はあるかい?」

「みな素敵なデザインで、どれをえらんでいいか選ぶのも難しいです。出来ればオリヴァー様が選んでいただけますか?」

「僕が選ぶのかい?」

「ええ、お願いします」


 少し迷いながら、オリヴァー様が選んだのは、百合の花を象った銀のブローチと、大きなルビーが特徴的なバレッタ。


「ケイトの誕生月に合わせてみた。誕生日のお祝いには少し早いが、プレゼントとして送るにはちょうど良いかなと思って選んでみたよ」


 ああそういえば今月誕生日だったわ。

 7月の花は百合、誕生石はルビー。ベタかも知れませんが、洗練されたデザインだし、なにより私のために選んでくれたというのが重要です。その気持ちが嬉しいですわ。


「僕が付けてみてもいいかな」

「あら、婚約者でもない女性にそのように触れてはいけませんわ」


 と言ったら、オリヴァー様がしょぼくれて悲しそうな顔をしていますので、かわいそうになってOKしましたら、ぱあっと満面の笑みに変わります。ワンコ属性持ちの王子様キャラとは恐るべし。


 選んでくれたアクセサリー以外も、あれもいいこれもいいとご機嫌で試してみるオリヴァー様。完全に着せ替え人形の気分ですわ。

 まあ、それで喜んでくれるならいいかと、なすがままにしていたら、とんでもない量をお買い上げすることになりました。


「請求書は公爵家に。物は全部リングリッド邸に届けてくれ」


 さすがにこれは買いすぎですと言いたいところですが、オリヴァー様がまたしょぼくれるのが目に見えているので、今日はもう止めませんわよ。何度もキラキラ笑顔を見せられたら耐えられませんわ。(いろんな意味で)




「ケイト、レストランを予約しているから、今からディナーに行こうか」


 色々とお店を回ってそろそろ帰る頃かなと思っていましたら、オリヴァー様から夕食を一緒にとお誘いされました。


「でも家の者が心配しますわ」

「大丈夫。君のお兄様には話してあるから」


 なんですと……用意周到ですね。

 お父様は基本的に領内に留まることが多いので、現状王都の邸はケヴ兄が差配しているが、まさか、ネイ兄が朝言っていたのは、ここまで承知の上でのことだったのか!


「そういうことでしたら、ご相伴にあずかりますわ」

「では、ご案内しよう」




 どどーん(そびえ立つ店構え・本日2回目)




 着いてみれば、そこそこ有名で、入店年齢制限もある格式高いお店ではありませんか。

 お子様はお断り! ってポイッとつまみ出されたりしませんわよね?


「大丈夫だよ。少し格式張ったお店だけど、今日の服装だったら問題ないよ」


 ああそうでした。今日は大人コーデのキャサリンでしたわね。それも狙ってこのお店を選んだのでしょうか。

 そのわりには、サロメ夫人のお店で「お持ち帰り!」とか言って、ホントに持ち帰りしたら、お店キャンセルして迷惑かけちゃうわよね。

 それ以前に、私が断るという未来は考えなかったのだろうか……


「さあ、お手をどうぞ」


 うん、無いな。オリヴァー様が目をキラキラさせながら、エスコートのために手を出すその姿は、拒否されることなど微塵も思ってはいないだろうな。

 

 とにかく、さっきの言葉の真意を質すのは、食事をしながらでよさそうね。




「ケイトはあまり外食はしないのかな」

「リングリッド領ではこういった格式高いお店はありませんでしたので……あ、でも外食であれば何回か経験はありますわ」

「へえ、どんなお店?」


 お店ではありません、野獣討伐の野営キャンプです。


「直火で焼くお肉は素材の良さが生かされます。特にオークのお肉はなかなかの美味ですわよ」

「ははっ、いかにもケイトらしいね」


 オリヴァー様、普通はそこでドン引きするものですわよ。


「ご令嬢がはしたない! って思いませんの?」

「ケイトに関しては何でも愛おしく感じるよ」


 愛おしい? 獣を屠殺する少女ですわよ。自分で言うのも変ですが、愛しい要素は無いと思いますの。


「他のご令息ならそうかも知れないね。でも僕はケイトの全てを大切にしたいと思っているから」


(さっきの言葉の真意を聞くのは今しかないわね)


「オリヴァー様、先ほど言っていたこと、本気ですか?」

「さっきのこと?」

「ええと、その……『私を彼女にしたい』といった主旨のことを仰っていましたよね」

「ああ、うん、そのことね」


 オリヴァー様がなんだかモジモジしてますが、私も自分からこんなこと切り出してとても恥ずかしい……


「実は卒業したら、伯爵の名跡を継ぐことになっているんだ」


 公爵家ではいくつか他の貴族の名跡も所有しており、オリヴァー様がその中の1つ、ギャレット伯を継承するとのこと。


「来年の春に学園を卒業すれば、殿下の婚約者が決まる。そうなれば、年の近い令息や貴族達も次々に婚約、成婚となるだろう」

「その中にはオリヴァー様も含まれますよね」

「うん。父上のところには既にいくつもの釣書が届いているそうだが、僕が頼んで全部断っているんだ。お陰で父上には『爵位を継いでから、長らく独り者では示しが付かんから、早く決めろ! 断る身にもなれ!』とせっつかれているけどね」


 断っている?


「ならば何故お決めにならないのですか」

「僕が妻にしたいと思う女性はこの世にたった一人しかいないんだ。彼女に断られたら次はないから、気持ちをしっかり確かめたいと思って時間をかけていた」

「時間をかけているうちに、他の方に獲られちゃいますわよ」

「それは無いな。幸いなことに今のところ、他の男はその子の魅力に気付いていないようだし」


 それは……つまり……


「アリスも『あの子は超の付く鈍感だから』って言っていた。まあ鈍感なのは僕も変わらないけど、だったらハッキリ言わないと伝わらないかなって思ってね」

「オリヴァー様……」

「ケイト、いやキャサリン嬢、僕の婚約者になってほしい。正式には殿下の婚約発表の後になるけど、君さえ良ければ、マルーフ卿にも話をしたいと思う」


 ついに……来た。


「私は……オリヴァー様の婚約者には……」

「嫌だったかな?」

「そんなことは……とてもありがたいことだと思います。でも、オリヴァー様が私と一緒にいることを揶揄する声があるのはご承知ですよね」


 分かってはいた。いくら鈍感でも最近のオリヴァー様の様子から、彼の想いに気付かないわけがない。だからこそ、オリヴァー様の優しさは妹に向けられる兄妹愛だと割り切ろうとした。


 それでも彼は私のことを好きだと言ってくれる。嬉しいに決まっている。

 でも「不釣り合い」「女を見る目がない」「オリヴァー様が幼女趣味と勘違いされる」「誘拐犯と幼女」「おままごとでもしているのか」など、私の見た目の幼さに端を発する誹謗中傷。

 私が言われるのは構わないが、彼を揶揄する声には耐えられない……


「まだ気にしていたんだ……」

「気にしますよ。オリヴァー様の事が好きだからこそ……なおさらです」

「今、僕のこと好きって言った?」

「言いましたよ。小さい頃からずっとずっと好きです。だからこそ、私のせいでオリヴァー様が悪く言われることなんて耐えられません……」


 あれ? なんだろう、目から汗が流れていますわ。


「ありがとうケイト、僕のことを思っていてくれたんだね。だったら余計に気にすることはない。僕は君以外を婚約者に据える気は無い」

「でも、私……こんなに小さくて貧相な女ですよ。それでもいいんですか」

「構わない。むしろ、今ここでこの話をしたのはそれも大きな理由なんだ」


 今日大人コーデに身を包んだ私を見て確信したそうです。


 オリヴァー様視点では、現時点でも私は十分に魅力的に映ったそうで、最近背が伸びてきている私がこのまま成長していけば、いずれ興味を持つ男性が現れるだろう。今までは時間をかけてゆっくりと思っていたが、他の男に言い寄られてからではまずいと思ったそうです。


「ホントは僕の方から言い出すつもりだったんだけどね」

「ごめんなさい、私が先に言い出しちゃったから……」

「昔、君のことを僕のお姫様にしたいって言ってたの覚えてる?」

「覚えてます。覚えてますとも!」

「お姫様になってくれる?」

「私はオリヴァー様が……好きです。婚約者に、お姫様に……なってくれと言われたら、ヒック、嬉しいに決まって……るじゃありませんか」


 なんだろう…… 言葉が上手く出てこない。視界もなんだかぼやけてるよ……


「オリヴァー様の横に立つ者として……これからも頑張りますので……ヒック、末永く……よろしくお願いします」

「ありがとうケイト」


 オリヴァー様は席から立つと、横に来てそっとハンカチを私の頬に当てます。


「泣かないで。可愛い顔が台無しだよ」

「誰のせいだと思ってるんですか」


 ああ、私の今の顔、とってもブサイクだろうな……


「ゴメン、僕のせいだね」

「ズルいですわ、分かってらっしゃるのに……怒ることも出来ませんわ」

「ふて腐れてるケイトも可愛いね」

「どういう顔をしたら良いのか分からないだけですわ」

 

 そう言うと突然、オリヴァー様は私の額にキスをして、間もなく店内のどこからともなく拍手がわき起こります。


「オリヴァー様、女性を泣かせるとは悪いお方ですね」

「すまない。お騒がせした」


 ニコニコしながら近づいてきたギャルソンに小声で声をかけられ、申し訳なさそうに返すオリヴァー様。


「いえいえ、最初は痴話ケンカかな? と思いまして……目出度いお話でしたので安心しました」

 

 もしかして……皆さんに聞かれてました!?


「若いというのは素晴らしい。他のお客様も温かく見ておられましたよ」


 ギャルソンにそう言われて周りを見てみると、店内にいる紳士淑女達の温かい眼差し。

 めちゃくちゃ恥ずかしいー! と顔を真っ赤にしていますと、オリヴァー様が私の手をそっと取り、皆様に一礼します。


「皆様、お騒がせして申し訳ございません。私、オリヴァー・ラザフォードは、キャサリン・リングリッド嬢と婚約することと相成りました。正式な発表はジェームズ殿下のご成約の後となりますが、紳士淑女の皆様におかれましては、末永くご厚情を賜りたくお願い申し上げます」


 聞かれてしまった以上、隠すわけにもいかないと堂々と口上を述べるオリヴァー様。

 その声を受け、万雷の拍手と「良かったね」「お幸せにね」とお祝いしてくれる声。


 まさか聞かれているとは思わず、恥ずかしい反面、これだけの方に祝ってもらえる喜び。

 ふとオリヴァー様の顔を見ると、彼も同じ事を考えていたのか、私の方を向いて目が合います。


「思わぬ祝福を受けちゃったね」

「ここで話していたら、他の人に聞こえちゃいますよね」

「恥ずかしい?」

「それは恥ずかしいです。でも、それ以上に嬉しいです」

「これからは、いっぱい楽しい思い出を作るよ」

「はい!」




 オリヴァー様ありがとう。私のことを好きになってくれて。

 一生付いていきますから、背が伸びなくても許してね。

お読みいただきありがとうございました。

オマエらもう付き合っちゃえよー! と思ったら、怒濤の展開で婚約(手前)まで進んでしまいまして、なんか最終回みたいな終わり方になりましたが、まだまだ続きますよー。


で、お知らせです。


ストック切れました(笑)

正確にはあと何話かあるのですが、本話でキリのいいところまで進んだので、この先の話と出来るだけ整合性を取るため、この週末に書き貯めさせてもらえればと思います。


来週月曜日から続きを再開させていただきますので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オリヴァー様がケイトをきちんと口説いていたこと。 [一言] 積極的になるから宣言のあと、言葉で愛を告げ、次にプレゼントを贈る男性の素晴らしさを噛みしめました。 口説きもせず、いきなりおさ…
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