少女、彼女的な彼女と思われる
三男初登場
一応おさらいの意味も含めて、長男フィリップ(第二騎士団副長、フィル兄)、次男ケヴィン(聖騎士、ケヴ兄)、三男ネイサン(騎士、ネイ兄)、長女キャサリン(歩く年齢詐称)の4兄妹でございます。
とうとうデ…… 一緒にお買い物に行く日がやってきました。
オリヴァー様と一緒に歩くのですから、恥ずかしい格好はできませんわ。
服装、よし! 髪型、よし! 化粧、ほとんどしてないけどよし!
うむうむ、私史上最高のキャサリンがここにいますわよ。エッヘン!
「随分ご機嫌だな」
「あら、おはようございますお兄様。どうですかこの服……って何かおかしいですか?」
声をかけてきたのは、ウチの三番目の兄、ネイサン。
次兄のケヴィン兄様と同じく第一騎士団に所属し、近いうちに聖騎士に叙任されるであろう騎士団の有望株です。
「おにい……さま?」
挨拶がてら、余所行き仕様の私を見てもらおうと思いましたが…… なんですの? 朝の挨拶をしただけで、そんな顔をされる覚えはございませんわ。
「お兄様?」
「今、お兄様って言った?」
「相手はお兄様ですから何も間違っておりませんわ」
「いつもは、オイとかコラとか呼んでるくせに」
オイとかコラとか呼ぶのは、お兄様がろくでもないことしたときだけでしょ。
「ほうほう、随分と外面が良くなったもんだな」
「当然です。私も成長しておりますのよ」
ウチの兄達は、いつまでも小さい妹というイメージが抜けないようで、あの日の夜「背が伸びている!」と言っても、ケヴ兄様もネイ兄様も信じやしない。
身長を測ったら、なんと! 137cmですよ! 入学の時から2ヶ月ちょっとで3cm以上も伸びているのですよ! と言っても、「小さいことに変わりない」「元が小さいから誤差の範囲だ」と、酷い扱いですわ。
月に1cm以上伸びているんですから、このままいけば1年で12cm、3年で36cm。卒業する頃にはスタイル抜群の淑女の出来上がりですよ。と言っても「3年も同じように伸びるわけがない。今だけだ」「背が伸びたって胸が大きくなる保証はない」と言うのです。
妹の成長を喜ばんのかい! と脛蹴りかましてケンカになりましたわ。
「まあ折角の機会だ。オリヴァー君と楽しくやってこい」
「無論そのつもりです」
「なんだったら、兄秘伝のデートテクニックを教えてやろうか?」
「剣術以外でお兄様のアドバイスなんぞ、屁の役にも立ちませんわ」
「ったく……地の姿をみせて幻滅されないようにしろよ」
「オリヴァー様相手にまさかそんな…… お兄様みたいな、クソ野郎を相手にするわけではございませんのでご心配なく」
「だといいがな」
そんな感じで兄と悪態をつき合っていましたら、メイドからオリヴァー様が到着したことを伝えられました。
「はいはーい、今行きますわ!」
妹の歩いて行く姿を見ながら、我が妹が恋する乙女の顔をするようになる日が来るとはな。と感慨に耽る兄ネイサン(20才独身、彼女いない歴=年齢)であった。
「お待たせケイト」
オリヴァー様、今日もカッコイイですわー!
ラフすぎず、堅すぎず、何てことのないジャケットとパンツスタイルですが、なぜこんなに格好良く見えるのでしょう。
私がひいき目で見ているからではありません。同じ服をケヴ兄様やネイ兄様が着たってこうはいきませんわ。
「さ、馬車に乗って」
迎えにきた馬車は、公爵家の勢威を示すには十分の豪華な馬車……ってどこかで見た記憶が……
「オリヴァー様、この馬車って……」
「覚えてない? 学園の帰りに送ったときもこれだったよ」
はわわ~、覚えてますよ。壁ドン記念日ですよねー。
壁ドンに全部持っていかれて、馬車まで覚えてなかったわ。
まずい……自分から言い出したこととはいえ、あの日の事を克明に思い出して、恥ずかしくなってしまう。
出だしからキャサリン大ピンチよ。
「ケイト、どうしたの?」
「……オリヴァー様と二人きりだと落ち着かなくて」
「ふふっ、この前もそんな事言ってたよね」
護衛する騎士の方はおりますが、車内は二人きり。
恥ずかしく目を合わせることもできない私を、オリヴァー様はニコニコして見つめるだけ。
「あの、オリヴァー様。今日の私の服、おかしくないですか……」
空気が悪いわけではないが、無言に耐えられず何か話題を振らないとと、思わず口に出してしまった。
「おかしくなんかないよ。ケイトは何を着たって可愛い。いや、着ていなくても可愛いよ」
「いやらしいですわ。そんなこと言ったら裸で目の前に現れますわよ」
「いつでもウエルカムだよ。ああ、でも他の男には見られないようにしてね」
クッ……想像の斜め上を行く返しをされてしまった……話題を変えねば。
「それで、今日行くお店って……だいぶ大人の女性向けですよね。私なんかが行って大丈夫ですか?」
「心配ないよ。ケイトは素材は間違い無いんだから何も問題ない」
サロメ夫人のお店のモットーは「どんな女性であろうと輝かせるのが私達の使命」だそうです。
その人の良さを最大限に引き出すデザインやコーディネート、髪型やアクセサリーなどもトータルプロデュースしてくれるのだそうです。
素材は間違い無いと仰いますが、こんなおチビちゃんはさすがに取り扱ったことのない珍素材ですわよね。熟成もされていない早摘みですわよ。
夫人の腕を信頼していないわけではありませんが、大丈夫でしょうか。
「ケイトは謙遜しすぎだ。君は十分に可愛い。夫人のお店で綺麗に着飾った姿を見たら、他の男に見せたくないと、君を攫ってどこかに幽閉してしまうかもしれないよ」
グホッ……話題を変えても、その微笑みの甘さは変わるどころか、より濃縮されてますわ。このままでは店に着くまで精神が保ちませんわ!
「ああ、もう着いちゃったか」
(ああ、やっと着いた……)
ひとまず外の空気を吸ってリフレッシュしたいと馬車を降り、店構えを見てみます。
……人気のお店というわりに意外と質素な造りなのですね。
「こちらがお店ですか?」
「こっちはプレタポルテを取り扱うお店。今日行くのは工房の方だよ」
そうですわね。サロメ夫人のお得意様は王妃殿下をはじめ、社交界でも指折りのご夫人達、お店から邸に出向いて採寸とかデザインの提案をするもの。オーダーメイドが基本なのです。
こちらの店舗は、下位貴族や平民の皆様向けに、良い品を手ごろな価格で提供しようと最近試行的に始めた既製服(とは言っても値は張る)のお店で、工房はこの裏にあるとのこと。
「こっちの方が高級なお店っぽい……」
裏手の工房と呼ばれる建物を目にすると、工房と呼ぶには豪華な造り。お店と工房の造りが逆じゃない?
「さっきも言ったとおり、高位貴族のご婦人やご令嬢は滅多にお店に足を運ぶことはないけど、来るとしたら店舗ではなくこっちだから。お迎えするに相応しい造りにしているのさ」
オリヴァー様に説明を受け、なるほど、そういう理由があるのですね。と感心しながら建物に入りますと、サロメ夫人が待っておりました。
「これはオリヴァー様、むさ苦しいところへ足をお運びいただきありがとうございます」
「よろしくお願いします。まさか夫人直々にご対応いただくとは思いませんでした」
「妃殿下のご依頼とあっては、失礼するわけにはいきませんもの。そちらがキャサリン様ですわね」
ファッション界に多大な功績を残したとのことで、実際には彼女が男爵位を得ていますが、昔からの呼び方で皆さんサロメ夫人と呼んでおります。
「キャサリン・リングリッドです。本日はお忙しいところお時間をいただき、ありがとうございます」
「あらあら、これは可愛らしいお客様ね」
夫人は基本的に大人の女性服のデザインを行っています。
たまに子供用のドレスも扱うそうですが、それは子どもを子どもらしく可愛く見せるデザイン。幼児体型の女が大人の女性に見えるような服、口では簡単ですが、中々難しいのではありませんか?
「どうですか夫人? 彼女に似合いそうな服をお願いできますか?」
「お任せください。オリヴァー様の彼女に相応しい衣装をお作りしましょう」
か、彼女!
「いや、夫人! 彼女とかではありませんから!」
「え、そうなの? 妃殿下からは『オリヴァー君が彼女のために素敵なドレスを用意したいというから』ということでご依頼がありましたわよ」
その彼女は誰かを指す三人称的な彼女であって、彼女的な彼女ではありませんわ!
「妃殿下の口ぶりだと彼女的な彼女という口ぶりでしたわよ」
辛い、辛いわー! 直接お話ししたこともない妃殿下にまで誤解されてるー!
絶対ジェームズ殿下がテキトーなこと言ったに違いない!
「いやですわ、夫人も妃殿下も何か誤解されてるようですわ。ね、オリヴァー様」
「誤解と言えば誤解だね」
ですよね、オリヴァー様!
「でも正解と言えば正解」
はい?
「まだ正式に交際すると言ってないから、公に彼女ではないけど、僕はそう思って、近いうちにそうなりたいと思っているから、ケイトさえ嫌じゃなければ、あながち間違いでは無いんじゃないかな」
人生で初めて、時が止まるという経験をしたキャサリンである。
お読みいただきありがとうございました。
オリヴァーの猛攻はあと何話か続く予定です。
次回もよろしくお願いします。




