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少女、成長する

 ヘレンやパトリシア、その友人の方などを集めてマナー教室を開いています。


「歩くときはまず姿勢が大事。背筋をピンと伸ばしてなければ、どれほどスタイルの良い方であってもみすぼらしく見えてしまいます」


 基本的な座り方、立ち方、歩き方などから、目上の方への敬意の表し方、手紙、会話のマナーなど、覚えることは多岐に渡ります。

 皆様学園でも講義を受けておりますので、ここではその講義内容を実践して、何が足りないのか、どこを改善すれば良いのかなどを教え合う場にしようと思っております。


 本格的なサロンに出向く前に修練する場、プレサロンとでも言えばいいのでしょうかね。


「みんな頑張っているね」



 

 ジェームズ殿下とオリヴァー様がやってきました。王子の突然の訪問に皆様動きを止め、一同に恐縮しています。


「すまない、遠慮せず続けてくれ」


 最近殿下がオリヴァー様を連れて、よく私やアリス様の元へお越しになるようになりました。

 3年生になると講義を受けるより、自分で調査・研究をしたり、実務経験をすることが多いから、意外と時間の都合がつけやすいから、と殿下は仰います。

 殿下がアリス様と交流するのは婚約者候補なのですから願ったりですが、必ずオリヴァー様が付いてくるのは何故でしょうか?


 妹に変な手出しをしたら承知しませんよ! というお目付役なのでしょうか?


「勘違いしないでねキャサリン嬢、オリヴァーは自分の意思で来ているだけだから。無理矢理連れ回しているわけではないからね」


 こちらの疑問が顔に出ていたのでしょうか。何を聞いたわけでもないのに殿下が先にお答えになりました。


「それは失礼いたしました。折角お越し頂いたのですから、殿下の目からご覧になって皆様の動き、どのように見えるか、講評を頂きたいですわ」

「まだまだと言いたいところだが、マナー教育の素地が無いところからのスタートであると考えれば、十分すぎるのではないだろうか。どう思うオリヴァー?」

「そうですね。良く出来ていると思います」

「講師が優秀だからな。なんたって君のご贔屓の令嬢が講師を務めているんだから」


 ご贔屓の令嬢?


「オリヴァーご贔屓のキャサリン嬢だ」


 オリヴァー様のご贔屓……まあ確かにお世話になったり可愛がったりしてもらっているので、間違いではありませんが……


「それではオリヴァー様御用達令嬢キャサリンと看板をいただかなくてはいけませんね」

「必要ならば用意しよう」


 いりませんよ殿下……そんな看板掲げたらホントに道場みたいになってしまいます。

 オリヴァー様御用達の座をかけて、道場破りとか来られても困るし、恥ずかしくてそんなもの堂々と掲げられませんわ。


「看板より婚姻誓約書の方が良かったかな?」

「殿下……冗談もほどほどにしてください」


 なにをおっしゃる殿下さん。あげると言われればそりゃ欲しいが、オリヴァー様が困ってますわよ。

 殿下は人をからかうのがお好きなようですわ。嗜虐趣味、アリス様が不憫ですわ。


「キャサリン嬢、何か失礼なこと考えてない?」

「殿下、あまり人をからかうのはよくないですわよ」

「からかってなどいないさ。オリヴァーの想いを支援しているのさ」

「殿下!」

「ここに来たのだって、僕じゃなくてオリヴァーが言い出したんだよ。キャサリン嬢がちゃんと講師を出来ているか気になるって言うから」


 オリヴァー様が……やっぱり私じゃ不安なのですよね。


「ああ、違うよキャサリン嬢。オリヴァーが君の姿を眺めていたいと言うから……」

「殿下、勝手に話を脚色しないでください」

「似たようなものだろう」

「殿下の言い方ではいかがわしく聞こえます」

「まあまあ、お二人とも。淑女達の前で恥ずかしいですわよ。邪魔をするくらいなら帰ってくださいな」


 アリス様が仲裁しますと、二人は居住まいを正します。


「すまないアリス、邪魔はしないから君のお兄様に暫く見学の許可を頂けないだろうか」

「今日の講師はケイトですから、彼女が許可するならば。どうする、ケイト?」


 アリス様にどうするか問われましたので、ただの見学ではなく、皆様に殿方目線でのアドバイスを頂ければ助かると言って、講師のお手伝いをお願いします。


「部外者が余計な口出ししても大丈夫か?」

「むしろお願いします。私も人に教えるのは初めてですから、足りないところがあればフォローして頂けますか」


 こうすればオリヴァー様の視線が私に集中しないので、はわわ~となる回数も抑えられます。

 ちょっと残念ではありますが、自己防衛のためです。


「それは良い考えだね。キャサリン嬢のたっての頼みだ。オリヴァーも否やはないだろう?」

「ケイトがそう言うなら、協力しましょう」

「ありがとうございます。オリヴァー様に教えて頂けるとなれば、皆さんも喜びます」


 そして、キャサリン&オリヴァーによるマナー教室が再開しました。


 さすがはオリヴァー様。男性目線からこうした方がより良く見えるよと的確なアドバイス。

 参加者の皆さんも、憧れの公爵令息様に直々にアドバイスを受けられるとあって、積極的に教えを吸収していきます。




「それでは本日はここまで。何事も反復練習が大事ですから、今日教わったことを何度も繰り返して体で覚え込ませるようにしてください」

「ありがとうございました」


 そんなこんなで予定の時間が終わりました。

 最初にしては上々、というか殿下やオリヴァー様もいてくれたお陰で、出来すぎな気もします。


「オリヴァー様、ご協力頂きありがとうございます」

「みんなが素敵な淑女になれるお手伝いが出来るとあれば、なんてことないよ。それこそケイトの方が大変じゃないか?」

「ええ、自分でやるのと教えるのでは雲泥の違いですね。簡単なことでも間違ったことを教えるわけにいきませんし、何より知らない人にどうやってイメージさせるかが難しいですね」

「ケイトは何回も実演して見せてたもんね」

「お陰で膝が痛いですわ」

 

 そう言うと、オリヴァー様が心配そうにしています。

 最近、夕方になると膝の裏やふくらはぎあたりが痛くなることがたまにあって、マッサージすると痛みも和らいで、翌朝になると完全に痛みが消えるので、あまり気にしていませんでしたが、今日は色々と体を動かしたせいか、いつもより早く痛みがきています。


 野山を駆けずり回っても平気だった野猿が、この程度の動きで疲れるとは……私もBBAになったものですわ……


「ケイト、多分それ年のせいじゃない……」

「そうなんですか?」

「ちょっと靴脱いで立ってみて」

「こうですか?」


 言われたとおり、履いていたヒールを脱いで立ちますと、オリヴァー様がスッと私の前に立ち、手のひらを私の頭の上に乗せます。


 そんな! 衆人環視の中で頭ナデナデは恥ずかしいです!


「ああやっぱり」

「何がですか?」

「ケイト、最近靴がキツくなったと感じたことはない?」

「え? あーそういえば、大きいなーと思ってた靴がサイズぴったりになりました」

「ええとね、ケイト背伸びてるよ。だから、足も少し大きくなってると思う」

「ほへ?」

「医師じゃないから正確なことは言えないけど、ケイトのその痛みの原因、成長痛だと思う」


 成長痛? 成長すると痛いの?


「そう、大きくなって靴のサイズが合ってないんだと思う」


 なんと! 私の身長が伸びていると言うことですか!

お読みいただきありがとうございました。


キャサリンの成長痛は、オスグッド・シュラッター病(筋肉の使いすぎで軟骨を阻害するスポーツ疾患)ではなく、もっと小さい頃に起こるもの(骨が夜間に成長する間、筋肉の成長が追いつかずに痛みが生じるやつ)だと思ってください。

医学的な知識はネットで調べる程度なので、色々ツッコミどころがあると思いますが、スポーツ疾患で膝をやってしまっては、この後の話に影響するので(笑)


個体差はあるとは言え、まさか15才になってそれが来るとは本人もビックリでしょう。


次回もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] キャサリン流マナー道場が生まれ損なった、残念 成長痛と言うことは年10cm程度は伸びるのかな
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