少女、恋心を踊らされる
ヘレンやパトリシア達との情報交換も終わり、いつもの4人で寛いでおります。
「アリス様、ホントに私が講師でいいんですか?」
「平民の皆さんが必要なレベルなら、ケイトでも十分よ。それにあの方達と繋がりが持てるのは悪い話ではないしね」
平民に媚びる貴族と言われては体面が悪いが、物を教えているとなれば貴族の本分を全うしていると言えるので、単なるお茶会という名目より理由が立つ。
「ヘレン達が参加者を募るだろうから、場所を確保しておきませんとね」
「なんか、面白そうな話をしてるね」
マナー教室をどうやって開催しようかと相談していたところへ現れたのはジェームズ殿下。
「殿下、盗み聞きはお行儀悪いですわよ」
「ダンスが始まるからアリスを誘おうと来たら、たまたま聞こえてきただけさ。盗み聞きなんて人聞きの悪いことを言うなよ。で、平民のみんな相手にマナー教室をやるのかい?」
ジェームズ殿下、間近でお話しするのは初めてですが、アリス様もいるからか、結構フランクな話し方をされるのね。
「なるほど。身分に関係なく高みを目指すのは良いことだ」
殿下はそう言うと、アリス様と何やら話し込みます。
「アリス、こちらのキャサリン嬢は確かリングリッド伯爵の……」
「ええ、マルーフ卿のご息女ですわ」
「ということはオリヴァーの……」
「そういうことですわ殿下」
なんだか殿下がニヤッと笑うと、少し離れた所にいたオリヴァー様を呼びます。
「殿下、お呼びですか?」
「こちらのキャサリン嬢がマナー教室を開くそうだ」
「ケイトが?」
「なんだ? 不思議そうな顔をして」
「いや、彼女は小さい頃から知っているので、平民相手とはいえケイトがマナー講師をやれるほど成長したのかと驚いております」
そうですね……オリヴァー様は「はわわ~」って言ってる姿か、野山を駆けずり回っている姿しか知りませんものね……
「そうか、小さい頃からオリヴァーは……」
「殿下、例え殿下といえども、その先は言わせませんよ」
殿下がより一層ニヤニヤしてます。
オリヴァーは……その先は何を言おうとしていたのかしら?
「何だよオリヴァー、まだ話もしてないのか?」
「時期を見て自分から話します。余計なことは言わないでください」
「奥手だねえ」
「殿下がさっさと決めてくださればいいのです」
「そうは言っても、卒業までは決められないよ」
「分かってます。だから私も待ってるんです」
「その前に少しくらい話をしてもいいだろうに」
「その辺は自分の気持ち次第ですから、お気遣いなく」
男二人で何をコソコソ話しているのかしら?
「キャサリン嬢、ときに聞くが、君はオリヴァーのことをどう思う」
「どう思うと申されますと?」
「男としてどう思うかということだ」
「殿下!」
それは……オリヴァー様はカッコいいし、私みたいな女にも実の兄のように接してくださいますし、素敵な方ですわ。
「そうかそうか、兄みたいなものか」
「左様でございます」
「では、その兄上が誰ともダンスを踊らないと申しておる。どうしたらいいと思う?」
「それはいけませんね。オリヴァー様ならご令嬢からお誘いを受けることは必定。お断りしては失礼にあたりますね」
「だが彼は誰とも踊らないと言う。そこでだ、キャサリン嬢がお相手をしてもらえないだろうか」
私がオリヴァー様のダンスパートナーに!
「殿下! 余計な事を!」
「余計ではない。私の側近とも言うべき男がご令嬢に対し失礼をすること、見逃すわけにはいかん。キャサリン嬢とずっと踊っておれば、他のご令嬢のお誘いを断る口実になるではないか」
「しかし、ケイトの了解もなく勝手に……」
「キャサリン嬢は如何かな? 出来れば人助けと思ってお相手してくれると助かる」
ちょっと待って……
夜会でのダンスは曲ごとに相手を変えるもの。何曲もずっと一緒に踊るってのは、その相手が単なるダンスパートナーではないと言ってるようなもの。
殿下がこんな基本的なことを知らないわけがない。
はわわ~、殿下にまでからかわれてますのー!
「ケイト、無理しなくていいからね」
「いえオリヴァー様、私としては望むところですわ。それに殿下の頼みを断るなど、出来るわけないではないですか」
ホントは断りたい。オリヴァー様と踊りたいけど、私の精神的な安定とか、他のご令嬢の妬みを考えたら断りたい。
しかし、オリヴァー様がご令嬢からのお誘いを断り、非礼の誹りを受けるのであれば、私が妬み嫉みを一身に受けてやりますわ。
「ケイト、いいのかい?」
「オリヴァー様と踊りたくないご令嬢などいませんわ。ただ、体格が大分違いますので、お手柔らかにお願いしますね」
(大丈夫、ケイトと踊れるように練習してるから)
「えっ? 何か言いましたか?」
「なんでもないよ。では行こうか」
「はい!」
ダンスの時間になりました。
今日は学生に経験を積ませるための会なので、ダンスの曲もゆったりとした踊りやすいものが中心です。
テンポの速い曲や難しい曲では、転倒者続出ですからね。
その中で、私はオリヴァー様と踊っております。
先ほどは不覚にも不意を付かれましたが、ダンスをすると分かっていれば、心の準備も出来ます。
平常心、平常心……
「ゴメンねケイト、殿下が変なことを言ったせいで」
オリヴァー様が微笑みます。
その笑みは、私の平常心という城門を打ち破る破城鎚のごとしですわ。
「お気になさらず。私はオリヴァー様と踊れるのが、楽しくて仕方ありませんから」
「ふふ、そうか。ではもう少しテンポを上げてもいいかな」
「望むところですわ」
そう言うとオリヴァー様はステップやターンのキレが格段に早くなります。
ダンスに慣れず覚束ない動きの生徒も多い中、縫うように華麗なステップを刻む私達。
曲が変わっても踊り続ける私を妬む声も聞こえますが、息の合ったダンスで周囲を黙らせます。
「ケイトもダンスが上達したね」
「身体を動かすのは得意ですから」
踊りながら会話を交わすことも問題ありません。
「でもオリヴァー様、なんでダンスを踊らないと仰ったのですか?」
「踊らないと言ったわけじゃない。踊りたいと思った相手以外のお誘いは受けたくないと言っただけだよ」
「踊りたい相手?」
「ケイトだよ」
ほげ! 不意を付かれました~! 城門突破されましたー!
「わ、私ですか?」
「そうだよ。ホントは自分で言うつもりだったのに、殿下が余計な気を回したものだから……」
「で、でも……そんな事をしては、私がそういう相手だと思われてしまいますわ」
「ケイトは嫌かな?」
「嫌なわけないです! でもオリヴァー様がなんと言われるか……」
「僕はそれで良いと言っているんだ。ケイトが嫌じゃないなら、それでいい」
オリヴァー様の手を握る力が強くなりました。
「もう離さないからね、ケイト」
はわ、はわ、はわわ~。ここで失神しては大恥よ、耐えろキャサリン!
「ケイトは僕の想いに気付いてないみたいだから、これからは遠慮しないから覚悟してね」
えー! 気付いてますよー! 兄妹愛だと思ってますよー!
違うんですか~!
お読みいただきありがとうございました。
夜会編は今回で終了です。
また本日、ゲラゲラコンテスト用の作品「漫才 悪役令嬢あるある」をアップしました。
漫才ネタとしては中途半端かもしれませんが、お読み頂けると嬉しいです。
ではまた次回もよろしくお願いします。




