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少女、弟子ができる

「あ、あの……ご迷惑をおかけしました」


 揉めていた女子生徒の方がおずおずと謝ってきました。


「私はヘレン、この子はパトリシアと申します。見ず知らずの私達を庇ってくださいまして、ありがとうございます」

「ケイトでいいわよ、ヘレンさん、パトリシアさん。アデレイド様も仰っていましたけど、貴族がみんな意地悪だと思わないでね」


 そう言って笑って返し、折角だからとアリス様も紹介しようとしたら、私達のことはよく存じ上げておりますと言われました。


「お二人の事は知らない者はここにはおりません」

「あら、意外と有名人じゃないケイト」

「うーん、さっきの男爵令嬢様は知らなかったみたいですけどね」

「何となくラザフォード公爵令嬢様とワンセットなイメージなので、気づかなかったのかも」


 先ほど揉めていた女子生徒、ヘレンさんがそう答えます。


「ワンセット?」

「はい! お二人は実の姉妹のようだと私達の間では噂しております」


 どういうことかと不思議がれば、今度は男爵令嬢に罵倒された張本人、パトリシアさんが嬉々として語ります。


「姉妹?」

「いつもご一緒に仲良くされていますので、本当の姉妹なのではと思う者もいましたのよ」


 姉妹? あー姉妹ね、姉と妹ね。どっちが姉でどっちが妹かは聞きません。

 聞けばアリス様は、平民の皆様の間でも令嬢の中の令嬢という評判。

 とはいえ公爵令嬢様に馴れ馴れしく近づくこともできないので、遠目からそのお姿を拝見するといった程度のものであったが、その横には決まって私の姿もあるので、私も平民の女子生徒の間では有名なんだそうだ。


 お世話するアリスお姉様と手のかかる妹キャサリンってことよね。

 昔は私の方が姉みたいだったと言っても誰も信じないわよねー。


「ラザフォード公爵令嬢様が令嬢の中の令嬢なら、ケイト様は妹の中の妹なのです!」


 パトリシアさんがニコニコしながら話しますが、それは喜んでいいのか?

 

「ああそうなのね……」

「はい。みんなケイト様みたいな妹がいたら楽しいだろうなあと。私も妹がおりますが、お二人のように仲良くないので、羨ましいと思ってました」


 どうやら女子生徒の中では、知らぬうちに愛され妹キャラが確立されていたらしい。


「淑女教育はバッチリなのに、どことなく手のかかりそうで放っておけない感じ、その小柄で天真爛漫な感じ。まさに愛され妹キャラです!」


 キャサリンの愛され妹キャラ度合いを滔々と語られます。


 むず痒い……


「かと思えば、先程の男爵令嬢様に向けた啖呵。ただ可愛いだけではなく、芯の通ったご令嬢なのだと、改めて感心していたんです」


 まだ続くのかい?


「パティ、貴女さっきマナーがなっていないって怒られたばかりでしょ! 少しは気にしなさい! ケイト様、申し訳ありません。この子ったら伯爵令嬢様に向かって妹みたいとか……失礼しました」


 私が難しい顔をしたのを、パトリシアの言に気分を害したかと思ったヘレンが謝ってきました。


「いいのいいの、アリス様とは姉妹みたいな関係だから、あながち嘘でもないし」

「すみませんケイト様、お話する機会も無いと思ってたので、私ったら勝手にはしゃいじゃって……」


 パトリシアさん、マナーはまだまだですが、悪いところを指摘されて素直に受け入れられるだけ見込みがあるというものです。


「ケイト、折角だから私も皆様とお話ししてみたいわ」

「ラザフォード公爵令嬢様とお話しできるなんて、こちらこそ喜んで!」

「ふふっ、私もアリスでいいわよ」


 そうして皆様と色々な話をします。




 ヘレンの実家は王国一の港町で貿易商を営んでおり、父の商売のついでに他国を何度も訪れているとのこと。

 中々お目にかかれない珍しい特産物の話や、平民目線での生きた他国情報、最先端の文化流行など、貴族同士の会話では知ることの出来ない話を色々と知っていて、非常にためになります。


「それでは色々と次に流行りそうな物もよくご存知なのね」

「ええ、社交界は流行に敏感ですから、先にトレンドをこちらで作ることもいたします」

「それじゃあ、次に流行りそうな物があったら、教えてくれるかしら」

「喜んで! アリス様にご贔屓にしていただけるなら、私共としてもありがたいです」


 平民の皆様と交流する利点。それは情報を多角的に集められること。


 貴族なら家臣に命じて調べさせることも出来るけど、直接仲良くなれば、より詳しい情報が入手出来ることもある。

 当然、中身は玉石混交だから、情報そのものや発信源の真贋は確かめる必要があるけれど、得られる情報が増えれば、選択肢も多くなる。


 ヘレンのような大きな商家と繋がりを持てるのは悪いことではない。


「パトリシアさんの家もご商売をされているのですか?」


 アリス様が尋ねますと、パトリシアさんは自分の父は薬師なのですと答えました。


「彼女のお父様はアカデミーで研究する薬師で、私の家とは外国の珍しい薬草や植物を取り寄せるのに、お付き合いがありますの」


 ヘレンさんが補足してくれます。

 パトリシアさんのお父様はアカデミーに在籍して、優れた研究をする薬師様。

 その研究の功績で士爵位を頂いているそうです。


「ちなみに何の研究をされてますの?」

「毒です」

「毒!?」


 毒と言えば、トリカブトや毒蛇など色々ありますが、そういったメジャーな毒ではなく、人々の生活環境の中に潜む、気付かれない毒が研究テーマなんだそうです。

 

 例えば植物によっては、成熟する前に食べるとこの成分が毒になるとか、普通に扱えば問題ないけど、保存方法や加工方法によってはとある物質が毒に変わってしまうとか、まだ人々に知られていない毒成分を研究されているそうです。


「人によっては毒薬作りを生業にしていると揶揄する者もいますので……」

「そのような批判は気にすることありません。何が毒になるかを知れれば対処も出来るわけですから、お父様を誇りに思うべきです」

「そう言って頂けると嬉しいです。父も喜びます」


 物事を短絡的に考える人からすれば、単に毒薬を作っているだけに見えるが、アカデミーで研究するくらいなのだから、もっと大事な意味がある。

 そもそも毒になる過程が分からなければ、対処の方法も解毒の方法も研究出来ないのだから、重要な研究テーマなのだ。


「ただ……研究に没頭し過ぎるのが悪い癖なんですよねえ」


 ヘレンさんがボソッと呟きます。

 

「そうなんです。爵位は頂いてますが、父は研究第一であまり出世とか、お金儲けには興味が無いので、暮らしぶりは普通の平民と変わりません」

 

 士爵とはいえ爵位持ちの家なんだから、パトリシアさんもそれなりの教育は受けそうなものだが、あまり裕福ではないらしく、淑女教育的なものはあまり学んでいなかったそうです。


 それでも、こういう場に出るには最低限のマナーは学びたいと、友人であるヘレンさんに色々教わったそうですが、失敗してしまったようです。


「それを男爵令嬢様に見咎められたと」

「お恥ずかしい限りです」

「私も平民の身分で淑女教育などまだまだなので、教え切れませんでした」


 パトリシアさんとヘレンさんがシュンとしています。

 

「なるほどね。だったらマナー教室でもやってみる?」

「マナー教室?」


 アリス様が、貴族のマナーに慣れない平民の皆様を集めてマナー教室を開いてみればと提案します。


「ケイトはね、こう見えても淑女教育はしっかりしているのよ」


 アリス様、なぜ私の名を出しますの?


「私が教えるのですか? アリス様ではなく?」

「教えるのも勉強になるわよ。淑女教育バッチリのケイトなら出来るでしょ」

「教えるなら、皆様憧れのアリスお姉様の方がよろしいのでは?」

「いえ! ケイト様も憧れのお姉様ですわ! 教えて頂けるなら是非」


 アンタら、さっき愛され妹って言ってたよね?


「折角だから教えてあげなさいよ。憧れのお姉様」

「その言い方、ズルいですわ」

「これも何かの縁よ」

「分かりました。どこまで出来るか分かりませんが、アリス様がそう仰るなら」

「ケイト様、よろしくお願いします! 師匠と呼ばせてください!」


 なんだか知らないうちに弟子が出来てしまいましたわ。

 今日からはキャサリン師匠とお呼び! 

お読みいただきありがとうございます。

夜会編は次回で終了となります。

よろしくお願いします。

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