少女、見直す
「今日のところは習練の場ゆえ大目に見ますが、貴族が貴女のような者ばかりだと思われては不愉快です。早々に私の視界に入らぬところへ去りなさい」
アデレイド様に一喝された男爵令嬢様は顔を赤くして、そそくさとこの場から立ち去ります。
「お知り合いでしたか?」
「知り合いの知り合いくらいよ。縋ってくるから話だけでもと思ったけど……聞くだけ無駄な時間だったわ」
アデレイド様はため息混じりですが、言い方は平常運行です。
(言い方はキツいし、当たりも激しいけど、きちんと双方の言い分を聞いて公平にジャッジしてくれた……)
「キャサリン様、私の顔に何か付いているのかしら?」
考え事をしていたら、私が凝視していたように見えたらしく、アデレイド様が声をかけてきます。
「失礼しました。アデレイド様が公平なジャッジをしてくれたことに感銘を受けていましたの」
「私が一方の意見だけ鵜呑みにする愚物だとでも思った?」
「悪役令嬢っぽくない……至極当然の対応で驚きました」
「だから悪役令嬢じゃないわよ、ホントに……」
「でも男爵令嬢様を問い詰めた悪役令嬢も真っ青の迫力、憧れますわ」
「こういう性格だから仕方ないでしょ。どんだけ私を悪役令嬢にしたいのよ」
私がしたいわけではなく、どう見ても麗しの悪役令嬢様に見えるんだけど……どうやら違うらしい。
「アデレイド様って、ホントは良い人なんですね。ありがとうございます!」
「別に貴女の為じゃないし、元々私は良い人よ」
私がお礼を言うと、ややツンデレっぽい返しをされたアデレイド様。
「ま、良い人はちょっと違うかな……でも、貴族が国民の上に立つ理由を考えれば、自ずとなすべき事くらいは分かってるつもりよ」
まともだ。言ってることがまともだ。
「貴女が私をどう思ってるか……まあ大体予想は付くけど、私は正しい行いをしない者が嫌いなだけ。平民だろうと貴族だろうと気に入らない者は受け付けない。言い方がこんな感じだから、誤解する人も多いだろうけど、そこだけは勘違いしないで欲しいわ」
「もしかして、ホントに悪役令嬢を目指してはいないのですか!」
「違うって言ってるじゃない。アリス様の側にいる貴女にとってはそれの方が都合がいいんでしょうけどね」
さすがにハイそうですと言うわけにもいかないので、とんでもないと否定しますが、アデレイド様はクスクス笑います。
「別にどう思おうと構わないけど、一つだけ言っておくなら、私も栄えあるクイントン侯爵家の娘。汚い手を使ってまで殿下の婚約者に収まろうと思うほど、落ちぶれたつもりはございませんわよ」
そして、女子生徒達に向かって、貴女達も将来貴族と関わり合いになるつもりなら、馬鹿にされないよう精進なさいと微笑みます。
(思ってたのと違う……)
この国の貴族はいくつかの派閥があって、主なもので武官派、王権派、貴族派の3つ。
それぞれ王家を頂にかかげるのは共通ですが、権力を王家に集中させ、貴族の力を抑えたい王権派と、政は貴族が取り仕切るべきと主張する貴族派は、あまり仲がよくない。
ちなみに武官派はどっちかというと王権派寄り。戦闘力に貴賤はなく、貴族だけで戦争は出来ませんので、平民も重用するという王権派の考え方に近い。
貴族派は悪く言えば選民思想の集団。それを率いるクイントン侯爵家は、いわば選民思想の権化と目されているし、実際に私もそうだと思ってた。
だが、今のアデレイド様の言葉は違う。
言葉の端々からは、確かに貴族と平民の線引きを明確にしている節は見受けられるが、貴族だから重用する、平民だから軽視するといった雰囲気はない。
認めてもらいたいなら、力を見せなさい。そうなるよう努力なさい。と……
「キャサリン様、悪いけどもう行くわね」
「もう少しアデレイド様のお話を聞きたかったですわ」
「私に憧れてくれるのは嬉しいけど、貴女と私が長々話してたら、余計な勘ぐりをする者もいないとは言い切れないから。またね」
去っていくアデレイド様の背中を見送る私。
「そうだ、もう一つ言っておくわ。婚約者選定で私が不利なのは重々承知していますが、諦めるつもりはありません」
(性格はキツいけど、侯爵令嬢として自分の役割に向き合ってらっしゃるのね。それが例え敗戦濃厚な戦だとしても……)
「貴女もアリス様を推すのであれば、全力で支援しなさい。油断して手を抜くようなら、徹底的に叩き潰して差し上げますから、お気を付けあそばせ」
(おおー、やっぱり発言は悪役令嬢っぽい!)
今の彼女の発言を聞く限り、婚約者選定は正々堂々と戦うつもりのようだ……となると、アリス様を物理的に狙うのは誰なのよ?
いや待て、そう見せかけて油断を誘う作戦なのかも……だとしたらかなりの役者ね。まあ、貴族の令嬢なんていくつもの顔を持ってるから、演じる事なんてお手のものか……
「ケイト、何してるの」
私が戻ってくるのが遅かったのかアリス様から探しに来てくれました。
「申し訳ございません。ちょっとアデレイド様と……」
「何か揉めたの?」
「いえ、アデレイド様とではなく……」
そう言ってこれまでのいきさつを説明すると、アリス様はふふっと笑います。
「クイントン侯爵家は貴族派の重鎮。貴族と平民の線引きを明確にしているのは間違い無いけど、無用に平民を虐げるような考えはないわ。むしろ、増長する貴族派を抑えていると言ってもいいわね」
増長する貴族ってのは、さっきの男爵令嬢みたいな人の事ね……
「だから彼女も家の考えに従っているのよ。肩肘張って、周りに怖い人だと思われようと……不器用かも知れないけど、それが彼女のプライド」
だからこそ殿下の婚約者の座を争うに相応しい相手なのよ、とアリス様は仰います。
ちょっとアデレイドのことを見直したキャサリン。より一層、アリスのために役に立とうと思うのであった。
(でも、だったら私がアリス様に仕える理由って何?)
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