少女、貴族がなんたるかを説く
「ケイト様、お目覚めですか?」
「……エマ」
私は今、会場の端にあるソファーで休んでいる。
これまでの記憶が曖昧だわ。なんかフワフワして、すごく良い香りがしたのは覚えてるけど……
「エマ、なんで私ここにいるの?」
「覚えてないんですか?」
エマがこれまでの経緯を教えてくれた。
な、な、な……お姫様だっこですと!
「オリヴァー様がここまで運んでくれたのですよ」
(そうか、あの香りはオリヴァー様だったのか……)
すでにオリヴァー様はこの場を離れ、エマが付き添いでいてくれたとのこと。
「ごめんなさいエマ、迷惑かけたわね。もう大丈夫だから、アリス様の所へ戻りましょう」
「無理をなさらずに」
「大丈夫よ、色気に当てられただけで、外傷があるわけでもないし」
食べ物で当たったら食あたりだから、色気に当てられたら色あたりとでも言うのかしら?
エマは大丈夫かと聞きますが、大丈夫と答え、アリス様のもとへ戻りますが、途中、オロオロしている女子生徒を見かけます。
服装や雰囲気から平民の方のようです。
「どうなさいましたの?」
「あっ、エマ様。実は……」
エマのお知り合いのようで、彼女が声をかけますと、ちょっとマズいことになってますといった表情で目線を送ります。
その向く方へ目をやると、言い合いをしている女子が見えます。
一方は貴族のご令嬢、もう一方は平民の女子生徒のようです。
伯爵位以上のご令嬢は一応全員顔は知っているので、恐らく子爵か男爵のご令嬢かと思います。
漏れ聞こえる話を聞けば、どうやらマナー違反があったらしく、ご令嬢の方がそれを責めたのが発端のよう。
マナー違反は主催者、今回で言えば王室に対しての非礼になります。
実際の社交界ではマナー違反を指摘してくれるような奇特な方などおらず、生温い侮蔑の目が向けられるだけですが、今回は勉強のためですから、将来恥をかかないように指摘してあげるのはいいことです。
ところが今回に限っては服装がダサいとか、鈍臭いとか、マナー以外の嘲笑も混じっていたようで、非難された女子の友人が食ってかかっているようです。
「エマ、止めるわよ」
「ですね」
騒ぎをこれ以上大きくしてはマズいと、エマと二人で仲裁に入ります。
「何を騒いでおりますの!」
二人の間に割って入り、私はご令嬢側、エマは平民側の女子をなだめます。
「止めないでください! いくら貴族だからって言って良いことと悪いことがあります!」
女子生徒の怒りが収まりません。
「何があったか知りませんが、この場で騒ぎをおこしては、主催である王室に泥を塗ることになるのが分かりませんか? 貴女はその責任が取れますか?」
エマが優しく宥めると、少し落ち着きを取り戻したようです。
「まったくよ、これだからマナーのなっていない平民はイヤですわ」
「貴族だからって偉そうに!」
「静かに!」
折角落ち着きを取り戻したというのに、ご令嬢がエマの発言に乗っかって煽るものだから、また怒り出してしまいました。
「貴女も貴族に列する者ならば、言い方にお気をつけなさいませ。人を小馬鹿にするような物言いをして、貴女にも責任の一端はありますよ」
「なんですって!」
今度はご令嬢の方が怒り出しました。
私がこんな格好だから平民と勘違いしているのかも知れませんが、考えがそれだけ顔と態度に出ては淑女失格ですわよ。
「今日は貴族のマナーに慣れない皆様の習練の場であります。貴女とて知らぬはずはございませんでしょう」
「だから教えてやったんじゃない!」
「それ以外にも彼女の服装を貶したり、鈍臭いと嘲笑ったりするのも指導のうちですか? 貴族がみな、そのような物言いをされると勘違いされては、他の貴族の方が迷惑しますよ」
「私達貴族がありがたくも平民に教えて差し上げてますの。黙って聞き入れていればいいのよ!」
はあ、偶にいるんだよねこういう勘違い貴族が……まさかここで遭遇するとは思わなかったけど……
「貴族の何が偉いのよ」
「はあ?」
「貴族が偉いのはね、民を守り、慈しみ、教え導くために汗水流して働いていればこそ、みんなが認めてくれるからよ。貴女みたいな貴族という権威を笠に着て威張り散らすだけの女のど・こ・が偉いのよ。言ってみなさいよ」
「なんなのよ偉そうに!」
激昂したご令嬢が私を叩こうと、持っていた扇子を振り上げますが、それよりも数段早く、私の扇子が彼女の喉元に突き付けられ、身動きが止まります。
あ、一応、今日のは普通の扇子ですわよ。
「私にケンカをお売りになるなら、リングリッド伯爵家の名において正々堂々とお受けいたしますわ。お名前をお聞かせくださる?」
私が名を名乗ると、相手が一瞬たじろぎます。予想通り男爵のご令嬢でした。
あ、やっぱり平民と勘違いしてました? 歩く年齢詐称もまだまだ知名度不足ね。
「彼女の服装は今日のドレスコードに何ら反しておらず、むしろ清楚で素敵ですわ。それに鈍臭いと仰いますが、慣れないのですからぎこちないのも無理ありません。私達貴族の今日の役目はそれを上手く出来るようアドバイスしてあげること。にもかかわらず嘲笑めいた物言いで諍いをおこすなど、恥を知りなさい」
男爵令嬢様は反論する事も出来ないようです。
見境なく威張り散らすからこういうことになるのよ。
「何の騒ぎですか」
「アデレイド様!」
ふと、野次馬の中から現れた方が声をかけてきますと、男爵令嬢様の顔がぱあっと明るくなります。
「何をしていましたの?」
「アデレイド様、リングリッド伯爵令嬢様に言いがかりをつけられていましたの!」
男爵令嬢様がアデレイド様に泣きつきます。
より強い人に媚びへつらうその姿、やだねー。
「キャサリン様、どういう事かしら?」
「違います! こちらの方は……」
「貴女に発言を許した覚えはありません」
女子生徒が私を庇おうと口を挟みますが、アデレイド様にピシャリと断ち切られますので、私が事情を説明します。
「なるほど……その話事実ですか?」
「いえ、私はそのような言い方……」
「してないと? キャサリン様が嘘をついていると? 伯爵令嬢様が嘘をついていると仰るのね?」
「いえ、それは……」
「どっちなのですか」
私の証言を否定しようとした男爵令嬢様にアデレイド様が詰め寄ると、渋々といった表情で事実と認めます。
「まったく……貴族たる者、教え導くのがその役目。地位に胡座をかいているようでは、貴女の家の将来が不安だわ」
うん? 言い方はマジ悪役令嬢、嫌みも欠かしてないけど、言ってることは至極もっともじゃない?
「今日のところは習練の場ゆえ大目に見ますが、貴族が貴女のような者ばかりだと思われては不愉快です。早々に私の視界に入らぬところへ去りなさい」
おや……悪役令嬢っぽくないぞ……
お読みいただきありがとうございました。
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