少女、愛の言葉に殺される
(2021.06.05)話タイトル変更
初夏を迎えてしばらくした頃、入学してから初の大イベント「王室主催の夜会」に参加しました。
学園の生徒でも高位貴族であれば経験もありますが、デビュタントも済ませていない下位貴族や、元々こんな世界とは縁の無かった平民の皆様には夜会どころかただのパーティーですら未知の世界。
とはいえ、学園を卒業すれば、皆様国の役人だったり貴族の家人となったり、家業の関係で王侯貴族と関わり合いになることもありますので、ぶっつけ本番で恥をかかないようにという王室のご配慮、並びに国の重鎮達が若者と意見交換をしたいという意図もあって、毎年このような会を開いて頂いております。
「みんな気合い入りすぎじゃね?」
会場に入ると、思ったよりみんなの服装が気合い入っていて驚きました。
確かに王室主催の夜会だから、服装は正礼装が基本。譲って準礼装……なんですが、今回は学生のための会ということで、失礼の無い範囲で略礼装でも問題なしと決められております。
何故かと言えば、平民の皆様にとっては略礼装ですら高い買い物だからというご配慮で、ドレスコードが緩められているのが理由。なので、アリス様も含めて、会の趣旨に沿って私達はシンプルなワンピースで参加しています。
平民の皆様に引け目を感じてもらいたくないし、そう言う方と交流を深めるには出来る限り同じような服装がいいだろうとのアリス様の意見に同意です。
決して私が今でも5年前に着ていたお子様用ドレスが一番似合うからではございませんわよ。
ところが多くの貴族のご令嬢はバッチリお化粧、ガッチガチのイブニングドレスやらカクテルドレスで豪華絢爛。ココハドコカノファッションショーデスカ……
「まあ、婚約者のいない方も多いからね」
アリス様が仰った理由。それは王子殿下がまだ婚約者を決めていないことによるご令嬢の婚約活動、略して「婚活」に要因があります。
王子の婚約者は18才で学園を卒業したタイミングで決定するのですが、婚約者候補は、王家から候補だよと選ばれているわけではなく、自発的に「私が次の王子妃よ」と自らを高めるよう励んでいます。
殿下や国王夫妻は彼女達の中から、その眼鏡に適った者、優れた者を選ぶのが通例。
そのため、殿下に近い年代で生まれた高位貴族のご令息も、自身の婚約者を定めない方が多いのですが、これには理由があって、晴れて殿下の婚約者が決まり、それ以外のご令嬢が野に放たれるのを待っているからです。
彼女達も王子妃に選ばれなかったとはいえ、そうなるよう勉学に励んだご令嬢。言い方は悪いですが、ハズレを引く可能性が少ないし、将来の主君である殿下が婚約もまだなのに畏れ多いというもっともらしい理由も付けられる。
殿下が来春卒業となる今年は動きが特に激しく、殿下の婚約者候補からドロップアウトしたご令嬢、及び彼女達の動向が決まるまで身動きの取れなかった下位貴族のご令嬢の皆様が、嫁ぎ先を見つけるために婚活に励んでいます。
殿下の婚約者選びに関係なく、早々に婚約を決めた家も少なくないので、時間が経てば経つほど選択肢が狭まる。
そんなわけで、このような場も婚活には大事な場。気合いの入った服装で登場するのも理由があるのです。
婚活? 何それおいしいの? な私には縁の無い話ですが……
「やあ、今来たばかりかな?」
私達の姿を見つけたオリヴァー様がやって来ました。
今日の服装は騎士団員の平服。カッコイイでしゅ~。
「アリス、今日は平服なのか」
「ええ、学園では平民層の皆様となかなかお話しする機会もありませんので、良い機会ですから」
「そうだね。彼らには我々貴族には考えも付かない知恵やアイデアを持つ者もいるから、交流を深めるのはいいことだ」
「で、どうですか私達の今日の衣装は?」
アリス様はそう言ってオリヴァー様の前でヒラリと一回転します。
「ああ、アリスは普段ドレス姿しか見ないから新鮮だよ。それにエマ嬢とサリー嬢も中々よく似合っている。可愛いから、悪いご令息に変なお誘いを受けないように気をつけた方がいいよ」
「お兄様、ケイトには何も言ってあげないのかしら?」
いや、いいんですよアリス様。三人は誰が見たって素敵なご令嬢、オリヴァー様が悪い男に気をつけろと言いたくなるのも分かる。
でも私なんか……褒めてくれなくても構いませんわ……オリヴァー様、ムリにお世辞を言わなくてもいいんですよ。
「うん……何て言ったらいいのかな……」
そうですよね。何て言ったらいいか分かりませんよね……
「うまく言葉が出てこないんだけど……」
ですよね。褒め言葉が思いつきませんよね。
「よく似合ってるよ」
ですよねですよね……へっ!?
「シンプルだけど、そのパステルカラーのワンピース、よく似合ってるよ」
にゃにゃにゃにを仰いますの!
「あまりにもよく似合って可愛いから、何て言ったらいいか逆に分からなくなってさ。ありきたりな言い方しか出来ないけど、可愛いよケイト」
わーわーわー! 私だけ褒めないのは申し訳ないかっらて、そんな優しい言葉かけなくても良いんですよー! 勘違いしますよー!
「そんなことないよ。僕はいつでも本気だよ」
「オリヴァー様、ダメです。そんなに迫られたらのぼせてしまいます……」
これは……そう、あの壁ドンの時と同じ甘い空気よー! そうですよねー、いつも本気でからかっているんですよねー! ダメですよー、こんな小娘を誘惑しちゃダメですよー。
幼女誘惑罪で逮捕されちゃいますよ-! (※そんな罪はない)
そんな二人の様子を温かく見守るアリス達……
「ことオリヴァー様の事に関してだけは鈍いですね……」
「ガッと行ってバッとやったって何も問題なさそうですのに……」
「あの子の鈍感は筋金入りなのよ……」
「でもオリヴァー様も中々攻めますね」
「それこそガッと行ってバッとやれと発破をかけましたから」
「あ、ケイト様、落ちた」
見ればオリヴァーの色気に当てられたキャサリンがピクピクしている。
「(ボソッ)お兄様、殺す気ですか」
「(ボソッ)そんなつもりは……愛を囁くのも難しいな……」
「(ボソッ)少しは加減なさいませ」
「(ボソッ)ガッとやれと言ったのはアリスじゃないか」
「(ボソッ)やり過ぎです。ケイトは小さいんだから、用法用量を守らねば薬も毒になりますわ」
(うーん、オリヴァー様とアリス様がなんかコソコソ内緒話してましゅ。耳打ちするオリヴァー様も素敵でしゅわ)
「お兄様、折角ですから、彼女を休憩場所まで連れて行ってあげてくださいな」
「いいのかい?」
「優しく丁重にお願いしますわ。お姫様のように丁重にね」
「了解」
(ああ、オリヴァー様……ケイトは幸せでしゅ……あれ、体がフワフワしましゅ。)
「ケイト、気づいたかい」
ボーッとしていたキャサリンが正気に戻ると、オリヴァーの顔が目の前に!
「はわ、はわ、オリヴァー様! 何してるんですか!」
何って、そりゃあ「お姫様だっこ」ですよ。
「ひー! ひー! オリヴァー様降ろしてください!」
「暴れたら危ないよ。しっかり捕まってなきゃだめだよ」
(落ち着け、落ち着け、何があったのか思い出すのよケイト)
さっきオリヴァー様に甘い言葉を散々囁かれて、ボーッとして、そこからの記憶が曖昧ですわ。
なんかアリス様とオリヴァー様がゴニョゴニョしてて、気づいたらフワフワしてて、目が覚めたらなぜかお姫様だっこ!
ちょっと! アリス様! エマ! サリー! 説明プリーズ!
お読みいただきありがとうございました。
この後何話か夜会編が続きます。
次回もよろしくお願いします。




