少女、三角関係からの戦友になる
ロニーの尊い犠牲(?)のもとにヒラリー様との修羅場はなんとか切り抜けましたが、あれからもロニーがちょくちょく現れます。
あの晩、目からハイライトの消えたヒラリー様と楽しいお話し合いがあったそうです。怖いので詳しいことは聞きませんでしたが、ロニーは貞操の危機を感じたと震えております。
だったら何でまた現れるのよ……
「それで、私とは何も無いということはちゃんと言ったんですよね」
「言ったさ! キャサリン嬢とはただの友人だと!」
「それ、浮気する男の常套句ですわ。絶対信用してませんよ。ヒラリー様、そうですよね!」
私がそう声をかけ、視線を送った先には柱の陰から様子を窺うヒラリー様。
その目は獲物を狙う獣、私もかつて、その目をした獣を多く討伐しましたのでよく覚えてます。
「あ、あらキャサリン様、偶然ですわね。今日もロニーと仲が良さそうですこと」
「ヒラリー様、偶然ではなくて、アボット様が私に会いに来るとき、いつも後を付けて来られてますよね?」
「そ、そ、そ、そんなことはありませんわ!」
そ、が多い。動揺しすぎです。
今日に限らず「ロニーの陰にヒラリーあり」が恒例行事になってます。
彼が私に会いに来たシーンを絵にして集めたら、「ヒラリーを探せ!」というクイズ形式の絵本が出来上がりますわ。
「彼も言っていたように、ホントに何にもありませんから」
「ホントにホントにホントですか」
「ホントにホントにホントです。何だったらこの場でヒラリー様が彼にアーンな事やコーンな事したって平然と見てられますよ」
「いいんですか!」
「リングリッドの剣にかけて誓いましょう」
「そんなことで誓いをたてるな!」
ヒラリー様に愛されてるのが良く分かります。ちょっと重い気もしますけど。(体重的な意味ではなく比喩的な意味で)
「彼の事が心配なんですね」
「はい。ロニーが女の子に興味を持つなんてキャサリン様が初めてだったので……私が三角関係の当事者になるなんて思いもしなくて……」
「三角関係?」
「私は彼が好き、彼は貴女が好き。これは三角関係ではありませんか!」
昔から恋愛小説をよく読んでいるので、三角関係という言葉は知っているが、今ひとつ腑に落ちないのよね。
三角形のもう一辺はどこへ行った?
ヒラリー様の頭の中では彼女からロニー、ロニーから私への矢印はあるが、私とヒラリー様の間には何があるんだ?
彼女から私では、彼女が両刀使いになってしまうし、私から彼女では私が同性愛に目覚めたことになってしまう。
「というわけで三角関係ではないと思いますの」
「そこは恋のライバル関係というバチバチの矢印ですわ」
「根本的に違う! 俺から矢印は出ていない!」
あら、貴男の矢印はどこへ向いているのかしら?
「そんなものは無い」
「ヒラリー様、彼、今まで女性に興味なかったの?」
「全然」
もしかして……男がいいの?
「ヒラリー様みたいな素敵な女性に好かれてるのに、興味ないとしたらそれしかありませんわ!」
「ロニー……そうなの……」
ヒラリー様がまさかそんな理由だったのかと驚愕しています。
「待て待て! 勝手に人の性癖を決めつけるな!」
「それ以外にヒラリー様を避ける理由はありませんわ!」
「だからといって、なんで男が好きという結論になるんだ。俺はいたって性癖はノーマルだ!」
「嫌ですわ、淑女の前で性癖のお話をなさるなんて……」
ヒラリー様と二人でジト目で睨みますと、ロニーは「え? 今の俺が悪いの?」と言ってます。別に性癖を暴露しろとは言ってませんのにね。
「ヒラリー様、これは望みが十分にありますわよ」
「どういうことですか?」
「矢印が無いのなら、作ればいい。そしてヒラリー様に向くよう私達で誘導します」
三角関係をインタラクティブな一直線に変えよう作戦ですわ!
「でも、私のような大女では望みは薄いですわ。キャサリン様みたいに小柄で可愛く生まれたかったですわ」
「何を仰いますか、私などむしろ小さすぎてガキ臭いと恋愛対象として見られたことがありません。ヒラリー様のような身長とスタイルの方がうらやましいですわ」
落ち込むヒラリー様のいいところをこれでもかと誉めますが、彼女は私の方がいいと譲りません。無い物ねだり、隣の芝は青いですわ。
私も人のことは言えませんが……
「いえいえ、キャサリン様が羨ましい」
「いやいや、ヒラリー様に憧れます」
「なあ、傷の舐め合いして楽しいか?」
「お黙り!(×2)」
乙女心を解さない馬鹿ロニー。
これだけ愛してくれる女性の何が気に入らないのか分かりません。
「私は彼がヒラリー様に惚れるよう、全力でサポートしますわ。他に女の影があるようであれば、排除もやぶさかではありません」
「キャサリン様、なぜそこまで言ってくださるの……」
「私とて気持ちはよく分かります。貴女の彼を想う恋心、応援せずにはいられません」
ヒラリー様は、私と貴女は違う派閥の者。そのようなことをなされては貴女に迷惑がかかると遠慮していますが、乙女心に派閥の垣根は不要。
人の恋路を邪魔する奴は火竜に焼かれて死んじまえと言いますしね。
「ヒラリー様の幸せを、剣に誓ってお約束しましょう」
「だから剣に誓うな! そして俺の人生を勝手に決めるな!」
ロニーが喚いていますが、知った事じゃありません。私の平和、パクス・キャサリーナのためよ。
「キャサリン様はそれでよろしいんですか」
「ええ、アボット様に恋愛感情を持つことはありませんわ」
「それってオリヴァー様がいるからですか?」
にゃにゃにゃ! にゃにをお、お、お、おっちゃいますの!
「キャサリン様とお話しする男性ってロニー以外だとオリヴァー様くらいしかいないですよね?」
「なんで知ってるんですか」
「ロニーの監視ついでにキャサリン様のことも調べさせていただきました」
ストーカー、この方ストーカーですわ。ロニーに振り向いてもらえなさすぎて、少し病んでおりますわよこの方!
「オリヴァー様狙いであれば、早く手を打った方がよろしいですわよ」
「どういうことですか」
「私の派閥でも、他のご令嬢の派閥にも、オリヴァー様狙いの方は大勢いますから」
この人、身内の恋愛事情バラしちゃってるけどいいのか!?
「キャサリン様が私のためにご協力してくれるのです。こちらもそれに見合うものはご提示しますわ」
ヒラリー様は、親の繋がりでアデレイド様の、特に武力的な要素で取り巻きとなってるそうです。
アリス様に対する私のポジションね。
なのですが、あまり仲が良いわけでもなく、デカすぎる自身の体型を取り巻きのご令嬢達から若干イジられていることもあって、あまり好きにはなれないと言うのです。
(これは……恋愛的な意味を抜きにしても繋がりを持つのに最適かも……)
「分かりました。これからは恋する乙女心の戦友。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って、ガッチリと握手を交わします。ヒラリー様の握力が凄くてちょっと痛かったけど、私の未来のため、恋心のため、頼もしい味方が出来ましたわ。
「ねえ……当事者の俺無視して話進めないでよ……」
お読みいただきありがとうございました。
三角関係がなんでそう呼ばれるかは諸説あるっぽいですが、一人の男(女)を狙う二人の間には、バチバチのライバル関係が存在するからという説を採用いたしました。
次回もよろしくお願いします。




