少女、修羅場でシンパシー
悪役令嬢、もとい金髪ドリルことアデレイド様とのファーストコンタクトから数日後の放課後。
熊野郎改めオーガ男とまたしてもエンカウントしてしまいました。
歩きなら一緒に帰らないかと言いますが、生憎とオーガを使い魔にする趣味はございませんので、傷付かないように断ります。
「一緒に帰って、友達に噂とかされると恥ずかしいし……」
「すまんキャサリン嬢、君はそういうキャラだったか?」
「失礼ね。どういう意味よ」
「おおかたどこかの恋愛小説の台詞だろ、それ」
おお、知能指数の低いオーガの割に良く分かったなと感心しますと、ロニーが俺だってそこまで不出来じゃないよと笑います。
あら、なんだかいい雰囲気…… ってちょっと待て!
この男と仲良くなってどうすんのよ。それこそ噂されたら恥ずかしいわ!
「ホントさ、私に近づかない方がいいよ。アンタのためだよ」
「そんなもん気にすんな」
気にするわ! 私の私による私のための風評被害防止のためじゃ!
はあ話が通じない。こんなグダグダやってたら余計に怪しまれるじゃないの……
そんなやりとりをしていると、人を殺しそうな……いや、すでに何人か殺してきたのではないかという目つきの女子生徒がこちらへ近づいて来ました。
「ロニー、何してんのよ」
「何だよヒラリー」
あら、こちらの方、金髪ドリル様の取り巻きの方でしたわね。
取り巻きの方が多すぎて、全員の顔は覚えてませんが、この方は覚えてます。
何故なら背が高いんです。
この方は沢山いた取り巻き集団の後ろの方にいたのですが、頭一つ抜け出ていたのです。比喩ではなくリアル身長的に。
そんなもので顔はよく見えたんですよね。あと、何故だか私のことをずっと睨んでいたのでよく覚えてます。
「お名前は存じ上げませんが、確かアデレイド様とご一緒におられましたよね」
「ええ、ウラン子爵家の娘でヒラリーと申します」
「ロニーとはお知り合い?」
「ああ、もうロニーと呼ぶ仲なのですね……」
「??」
何だかヒラリー様がしょんぼりしています。
「ロニーは私の婚約者なのです」
「ちがーう! 勝手に婚約者にするなよヒー姉ちゃん」
婚約者? 違うの? どっちなの?
「ロニー、どういう事よ」
「違うんだよキャサリン嬢」
ロニーが言うには、彼女は自分の一歳上の幼なじみ。
昔からヒー姉ちゃんと呼んで仲良くしていたんだが、最近婚約者面して困っているんだと言う。
「ヒー姉と婚約した事実なんか無いだろ!」
「酷い……ロニーのお嫁さんにしてくれるって言ってたのに……」
「いつの話だよ。いくらモテないからって子供の頃の話を今になって持ってくんなよ……」
「モテないわけじゃない、寄ってくる男が趣味じゃないだけよ!」
ヒラリー様はスタイルも良いし、美人寄りの顔立ちですが、何故かモテないそうです。その理由は……身長が高すぎること。
ロニーだって180cmちょっとあるのに、それよりデカい。
しかも着痩せするらしく、服を着ていると分からないのですが、騎士課程でガンガン鍛えているので、私脱いだらすごいんです! という体つきなんだそうです。
さらには下が弟ばかりの長女で、いわゆるお母さんタイプのせいで、好意を寄せる男が総じてママン大好き、守ってちょーだいな奴ばかりらしくて、辟易してるそうです。
あれ……特殊性癖にモテる彼女にシンパシーを感じるのは気のせい?
「私にはもうロニーしかいないってのにー!」
「待て、ヒー姉、こめかみを握り潰すな!」
ヒラリー様がこめかみを鷲掴みにしておりますが、ロニーは振りほどけません。パワーすごくない?
「私と言う者がおりながら、こんな小娘にー!」
「おい、伯爵令嬢相手に小娘はダメだろ!」
ああ、浮気現場見つけたり! ってことね。だからあの時も私のこと睨んでたのか!
誤解を解かないとマズいわね……
「アンタだけは信じてたのに! やっぱりアンタも小さい子の方がいいって言うのね!」
「誤解だ! いくら何でもコイツじゃ小さすぎるだろ!」
おうお前ら、小さい小さい連呼すんな。さっきから刺さりまくってるわ。あと、無関係の私を巻き込むな。
「ヒラリー様、ロニーとは知り合いなだけで、貴女の考えてるようなことはなーんにもございませんわよ」
「ホントですか……」
ヒラリー様がジト目でこちらを睨みます。
「ヒー姉の言うような事は何にもない! だいたい婚約者でもないのに何でそんな事言われなきゃならんのだ」
「やっぱり……ロニーは私のこと嫌いなのね……」
「ヒー姉が嘘泣きしても庇護欲はそそられん!」
あー、なんだかんだ仲良いじゃないの。腐れ縁ってやつ?
「アボット子爵令息様、貴男のことをこんなに想ってくれる素敵な婚約者様、大事にしなければバチが当たりますよ」
ヒラリー様のヘイトがこちらに向かないよう、ロニー呼びは控えます。
「だから婚約者ではありません!」
「ヒー姉のことお嫁さんにする! って言ったんでしょ?」
「10年も前の話です」
「でも約束は約束でしょ」
「子供の時にはそういう話の経験あるでしょ! それは絶対なの? 契約不履行とか言われちゃうの!」
まあ確かにそういう経験は私にもあるっちゃある。
私に当てはめれば、オリヴァー様に「お姫様にしてくれるって言ったじゃない!」と、迫るようなものか……
うん、恥ずかしい。
だけど今はヒラリー様を刺激してはならん。間違いなく喰われる。
「ヒラリー様、私、彼には恋愛感情は一切ございません。まして、こんな素敵な婚約者がいらっしゃると知っていれば、不用意に他の女性に近付くなと申し上げましたものを、知らなかったとは言え、大変失礼しました」
「キャサリン嬢、俺を売る気か!」
「オホホ、売るなんてとんでもない。あるべき所へ戻すだけですわ」
ロニーが縋ってきますが、自分の身の安全が第一。人柱になれ!
「やっぱり二人仲良いわね」
ヒラリー様、目のハイライトが消えてるー!
「とんでもない! ほら、アボット子爵令息様もお帰りのようですし、お二人で仲良くお帰りまさいませ。私は無関係なので、煮るなり焼くなりヒラリー様のご自由になさいませ」
「ほらロニー、キャサリン様もこう仰ってるし、早く帰るわよ」
「ひー、裏切り者ー!」
裏切ってはいない。あるべき姿、表に戻しただけよ。
「ありがとうロニー、貴男の犠牲は無駄にはしないわ」
ヒラリーに引きずられながら去っていくロニーを見ながら、感謝を呟くキャサリンであった。
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