少女、生悪役令嬢に興奮する
去り際にロニーが残していった言葉。
「クイントン侯爵家に不穏な動きがある」
何が言いたいのかしら?
アデレイド様が敵対心満々なのを私達が知らないと考えているはずもない。最初に現れたときにその名を口にした時点でそれは確定だ。
にもかかわらず、また同じようなことを口にした。
違うのはアデレイド様個人ではなく、侯爵家と言ったこと。
家ぐるみで何かを企んでいるということ?
でもそれを、何故彼が知っているのか……狙いが見えないわね。
そんなことを4人で話していると、タイミングよく話題の方から声をかけられました。
「あら、これはこれは誰かと思えば、いつも面白いお仲間をお連れのアリス様ではございませんか」
来た、ついに来た。
アデレイド様と学園内でのファーストコンタクト。
「これはアデレイド様、ごきげんよう」
学年が違うのでこれまでは遠目でお目にかかる程度でしたが、今日は意図的に向こうから接触してきました。
「アデレイド様、今日はどうなさいましたの?」
「イヤですわ、お互いに知らぬ者でもありませんのに、ご挨拶くらいは普通でしょ。それとも……私が何か良くないことを考えて近づいたとでも仰りたいのかしら?」
令嬢同士の戦いが始まりました。
挨拶一つで嫌みの応酬をしなくてはならないなんて、淑女って面倒臭い。拳で語り合う方が早いのに。
「いえいえ、何度かお姿を拝見することはございましたが、ご挨拶頂けなかったので、嫌われてるのかな? 避けられてるのかな? と不安に思っておりましたの」
アリス様反撃です。
「こちらからご挨拶申し上げようとも思いましたが、公爵令嬢の私から先にご挨拶して、侯爵令嬢のアデレイド様が礼を失したように見られては、た・い・へ・ん申し訳ございませんので、お待ちしておりましたのよ」
貴族は下位の者から礼をして、上の者がそれに応えるもの。
下位の者から礼もないうちに、上の者が声かけしては、下位の者が礼を失したと見なされる。
私とアリス様のような友人関係であれば、お互いの合意で省略も出来るが、公の場であれば私だってまずは礼を取る。
ましてやこの二人は知り合いだが、友人ではない。むしろ敵対する勢力のボス同士だ。礼を失すればそれだけで攻撃材料になる。
「オホホ、それはお気遣い痛み入りますわ」
(アデレイド様、顔は笑ってるが表情筋が引きつってますわね)
私が彼女を見ていたら、こちらに視線が合いましたので、失礼のないよう目礼で挨拶をします。
「そちらの方はたしか……リングリッド伯爵の……」
「お見知り置き頂き光栄ですわ。リングリッド伯マルーフの娘でキャサリンと申します」
サッとカーテシーを行い挨拶します。
「クイントン侯爵令嬢様には一度お目にかかりたいと思っておりました」
「あら、そうなの?」
「はい、お美しいそのお姿、憧れておりましたの」
嘘はついていない。ご令嬢の中ではアリス様が一番だと思っているが、アデレイド様も負けず劣らずの美貌。
それに私は彼女の容姿がとても気になっているのです。
「そ、そう……オホホ、悪い気はしませんが、何だか少し怖いですわね」
アデレイド様は、初対面の私がキラキラした目で自分を見つめることに、少し戸惑っているようです。
「怖いだなんてとんでもない! 私、アデレイド様のそのお姿、本当に憧れておりますの。その意志の強さを明確に示したその目力、凛とした佇まい、何者にも屈することを許さぬというそのオーラ。まるで物語の登場人物がそのまま具現化したようなお方ですわ」
「何だか誉められているのかよく分かりませんわね」
キャサリンがペラペラとまくし立てる姿に、若干引いているように見えるアデレイド。
たが、そんなことお構いなしにキャサリンは滔々と「私がおすすめするアデレイド様の魅力」とでも言うべきプレゼンを続ける。
「誉めております。間違い無くアデレイド様は物語に出てくるカッコイい悪役令嬢をまさに具現化した至高のご令嬢ですわ!」
「悪役令嬢~!」
そうなの! アデレイド様の容姿は物語の悪役令嬢そのもの。
特に挿し絵が入っていると、描かれているのは「これ、アデレイド様じゃね?」と、思うくらいソックリ。
「誰が悪役令嬢よ! 全然誉め言葉じゃない!」
「えっ……アデレイド様は悪役令嬢を目指してるのではないのですか?」
「何で悪役令嬢目指すことになってるのよ!」
「悪役令嬢と言えば、金髪ツインドリルが定番。アデレイド様のその見事なツインドリルは、まさに悪役令嬢を目指すという強い意志の現れでございましょう!」
全部が全部ではありませんが、悪役令嬢と言えば金髪ツインドリル。
たまに違う髪色の悪役令嬢が出て来ることもありますが、それでもツインドリル=悪役令嬢という、分かりやすいテンプレは外せないようで、世間にはツインドリルの悪役令嬢がごまんと流布しております。
「アデレイド様には是非、腕組み仁王立ちの姿勢で『貴女みたいなドブネズミには、その姿がお似合いよ。オッ~ホッ~ホッ~ホ』と高笑いしてもらいたいです! 絶対似合いますよ」
悪役令嬢とは令嬢の中でも至高の存在、つまり、悪役令嬢の中の悪役令嬢、クイーンオブ悪役令嬢であるアデレイド様は、至高のご令嬢なのだと言うと、取り巻きの方達が「ブフォッ」という、およそ令嬢らしからぬ声で吹き出しました。
皆さんもそう思ってらっしゃるのですね。
違います。キャサリンが悪役令嬢を連呼してるせいです。
「ちょっと、貴女達も何笑ってんのよ! 私は別に悪役令嬢やりたくてツインドリルな訳じゃないわよ!」
「めちゃくちゃ似合ってますよ」
「嬉しくない!」
「何でですか! その揺らぐことのない強固なツインドリルは令嬢の誇りです。皆さんもそう思いますでしょう」
同意を求めるようにアデレイド様の取り巻きの皆様に水を向けますが、目を合わせてくれません。
皆様俯いてプルプル震えてます。もしかして怒ってます?
いえ、それは笑いを堪えているだけです。
「ケイト、アデレイド様が困っているわ。貴女が憧れているのはよく分かったから、それぐらいで止めておきなさい」
もっとアデレイド様の悪役令嬢っぷりを誉め称えたかったのですが、アリス様がその辺でと止められますので、今度時間のあるときにゆっくりと語らせてくださいと微笑みますが、アデレイド様は顔を引きつらせたまま、遠慮するわと仰います。
「さすがはアリス様の側にいらっしゃるだけあって、中々の口撃ですわ。今日のところはこれくらいにしておきますが、これで勝ったと思わないことね!(ビシッ)」
その捨て台詞、やっぱり悪役令嬢が板に付いてますわ。
私はアデレイド様をそう称えましたが、彼女はプリプリして帰ってしまいました。
「ケイト、わざと?」
「何がですか?」
「アデレイド様のこと、わざと怒らせた?」
アリス様が変なことを仰います。
私は純粋に悪役令嬢を演じるアデレイド様がカッコ良くて、誉めちぎったつもりだったのですが、初対面でやりすぎましたかね?
「そうじゃなくて……多分彼女、悪役令嬢は目指してないわよ」
「えーっ、あれだけのガチガチツインドリルなのにー!」
「世のツインドリルが全部悪役令嬢では無いと思うわよ」
そうなんだ……悪役令嬢じゃないんだ。残念……
「まあでも、あのままいがみ合ってても収拾つかなかったし、上手いことあしらえたから、よかったんじゃない」
アリス様はそう言ってくれますが、何か大事なことを忘れてるような……
あーっ! アデレイド様がやってきた理由、全然聞いてなーい!
お読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。
本日、短編「兄が婚約破棄して自爆した。原因は俺ですが、その話は墓場の下まで持って行きます」も投稿しました。
https://ncode.syosetu.com/n3229gv/
短編書いてないでこっちのネタ考えてろよとお叱りの声もあるかと思いますが、よろしければあわせてお読みいただければ幸いです。
よろしくお願いします!




