少女、熊に食べられる
「そうですね。頑張ってはいると思いますが、剣先がふらついてますし、打ち合うときの足の踏ん張りも利いてません。まだまだ基礎鍛錬不足かと思います」
「はぁ?」
模擬戦の見学で感想を求められたので、忌憚のない意見をのべたところ、チャラ男君の表情が険しくなりました。
「ふーん、剣も握ったことのないようなご令嬢が、随分と知ったような口聞くんだね」
あー、自分では良くできたと思っていたのに、戦ったこともない女にボロカスに言われて怒ってるんですね。
「どうだったと聞かれたので率直な意見を述べただけですわ。皆様ご自身が華麗に剣を振るっていると思われているのであれば、間違いですわ。足腰や腕の力が足りないせいでフラフラしている方が多うございます」
「(ボソッ)年齢詐称のくせに」
「何か仰いました?」
話を聞いていた他の男子からボソッと呟く声が聞こえます。
一部の男子の間で呼ばれている『歩く年齢詐称』という私の蔑称。
いつもは裏でコソコソ言っているのでしょう。面と向かって言われたのは初めてですが、あまりいい気はしませんわね。
見た目が実年齢に見合わないことが、事実を的確に伝えることと何の関係があるのか、3日間くらい拳で問いつめたいところですわ。
「アレですか? 『わーすごーい、かっこいいー』とか言って欲しかったんですか? 女の子にワーキャー言われたくて騎士になりたいのなら、考えを改めた方がよろしいわよ」
「コイツ、偉そうに!」
「やめろ!」
怒って掴みかかろうとする男子をロニーが止めようとしますが、一瞬早く男子の手が出てきましたので、その勢いを利用して投げ飛ばしてしまいました。
思わずやっちゃった……(テヘペロ)
「キャサリン嬢、今のは……」
ロニーが目を見開いて驚いています。
「私とて護身術くらいは嗜んでおります。あれだけ舐めくさって隙だらけの相手を投げ飛ばすくらいは出来ますわよ」
「ああ、さすがはリングリッド伯爵のご息女だな。」
ロニーの発言に周りの生徒が驚いています。
「ご挨拶がまだでしたわね。リングリッド伯マルーフが長女でキャサリンと申します。私は護身術程度しか手解きは受けておりませんが、父も兄も基礎が大事だと常々言っておりましたので、皆様にもご参考になればと過ぎたことを申しました。決して悪意から申したわけではございません」
当代一の剣聖と謳われるお父様は若い騎士たちにとって憧れというか、目標みたいなもの。
その剣聖を父に持ち、兄も聖騎士を務める家の娘であれば、確かに評価基準のハードルが高いのも納得といった雰囲気だ。
「いや、キャサリン嬢の申す通りだ。仲間の無礼、お許しあれ」
そうして男子と和解すると、今度は皆からの挨拶責めにあった。
リングリッド家の娘、第二騎士団長の子。ロニーもそうですが、騎士を目指す者として、私と仲良くしておいて損はないでしょうからね。
中には「ケッ」って感じで見向きもしない者、これは普段から私を年齢詐称女と言ってる人達なんでしょうが、それならそれで構いません。私も必要以上に仲良くする気はありませんから。
「先ほどの護身術見事でしたね」
先ほどのチャラ男君が感心しています。
「お恥ずかしい……自慢するほどものではありませんわ……」
「出来ればもう少し皆に見せてはくれませんか?」
適当に誤魔化そうとしましたが、ロニーがチャラ男君の話に乗っかってきます。
「嗜み程度の手習い、お見せするような代物ではありませんよ」
「いやいや、剣聖マルーフ卿や兄君、第二騎士団の強者達に教わる嗜みとやらを見てみたいですな」
(余計なこと言うなよ……)
渋い顔をする私をよそに、ロニーが周りを巻き込み、それにつられた他の生徒達も見てみたいと口にします。
「俺達も将来、ご令嬢に護身術を教える機会もあるだろうから、参考のために見せてくれませんかね?」
とうとう先生まで乗っかってきました。「リングリッド家直伝の護身術が見れるなど中々無い機会だから」とか、許可すんな! 止めろよ!
(ここまで言われては仕方ない。お茶を濁す程度で適当に相手すれば問題ないかな)
「で、どなたがお相手になるのかしら?」
「俺が相手しよう」
え? 熊と戦うの?
「さすがに貴男相手では手に余るわね」
「心配ご無用、キチンと手加減はします」
(コイツ………丁度いい機会だからって、私の実力試そうとしてるわね……)
「分かりました。ではお手柔らかに頼みますわ」
仕方なく闘技場に立たされる私。
エマとサリーがニヤニヤしてる。アトデコロス……
「キャサリン嬢、準備はいいか?」
「戦う状況はどうしますの?」
「状況?」
ロニーは何を言ってるんだと不思議がっている。
「さしずめこの感じだと、森を散歩していたご令嬢がオークにエンカウントしたってところかしらね」
「誰がオークだ! そしてご令嬢が一人で森を散歩するって、どういう状況だよ!」
「オークじゃなくて、オーガの方がよろしかったかしら?」
「問題なのはそこじゃねえ! もういい、行くぞ!」
ロニーが向かってきます。護身術なので、私は向かってくる彼の攻撃を、いかに上手くかわして反撃するかという訓練。
彼にとっては人に教えるため、どこが足りなくて、どこを鍛えればいいのかを見つけるための訓練となります。
武器は不携帯でその分のリーチも考えなくていいので、かわすことに専念します。
でも、ただかわすだけではダメ。実力がバレないように何とか必死で避けているように見せかけつつ、反撃を試みては上手くいかない風に装います。
「ロニー、もうちょっと手加減しなさいよ!」
まあ別に手加減しなくても問題ないけど、このくらいにしないと実力がバレちゃうので、態と息を切らして手加減するように言います。
「何言ってんだよ、チョロチョロ避けまくって全然捕まりもしないじゃないか。もう少しスピード上げても問題ないだろ」
馬鹿なの? ねえ馬鹿なの! 同じ言語を話しているはずなのに、熊には通じませんわ!
(ああもう、負けるのは悔しいけど、そろそろ捕まって参りましたするか……)
スピードを上げてくるロニーに対し、一度二度と何とか攻撃をかわすように見せかけ、三度目でわざと彼に捕まります。
「いや~熊に食べられちゃう~」
「お前なんか食わんわ! そもそも俺は熊でもオーガでもない!」
「それまで! ロニーもキャサリン嬢も見事であった」
先生には護身術はあくまで最後の手段。ご令嬢が相手をする時点で劣勢というかヤバい状況で相手を倒そうとするのは無謀。私のように逃げながら時間を稼いで救援を待つのが最善であると褒められました。
私の場合は倒せますけどね。
◆
「キャサリン嬢、ちょっとよろしいか」
「何ですか?」
「手抜いただろ」
「何のことかしら」
授業が終わり、ロニーが話しかけてきました。
「何で実力を見せないんだ」
「あれが私の限界ですわよ」
「ふうん、まあそれなら尚更知っておいた方がいい。クイントン侯爵家に不穏な動きがある。アリス嬢を含めて気をつけておきな」
そう言うとロニーはじゃあなと言って去って行きました。
エマ達は怪しいところはないといってましたが、彼の目的が益々分からなくなりましたわ。
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