【閑話】ロラン、企みを始める
今回はロラン視点でのお話です。
<ロラン視点>
「一体どうなっているんだ……」
部下に命じた調査の報告書に目を通し、出てきた言葉はその一言のみ。
数度国元へ送られた便りに「未だ親しくなった殿方はおりません」とあったのを見たときには、さもありなんと思った。だからこそ困っている彼女の留学生活をサポートする目論見で私がやって来たというのに、姫様は毎日楽しそうに過ごして、こちらが誘いをかけても心配無用とばかりに平気な顔をしている。
「ジョゼフィーヌ様の留学は、こちらの見込み通り何の進展もない。はずだったのでは……」
「姫様の便りには『未だ親しくなった殿方はおりません』とありました。たしかに付き合いのある者はご令嬢ばかり。男の影は見当たりませんから間違いではございません」
「どこの令嬢がわざわざ仲良くしようというのだ」
「特定の誰か、ということはございません。この国の者もおれば留学中の各国の令嬢も多くおり、かなり交友関係が広いようです。中でも特に一番親しいのはマリエッタ公女です」
「マリエッタ……どこかで聞いた名だな」
「ピノワールの公女でございます」
「思い出せん……」
ピノワールの公女ならば会ったことがあるはずだが、記憶にないということは、私の興味をそそるような女ではなかったということだな。しかし……まさかその者がジョゼフィーヌ様と親しくするとは思いもよらなかった。
属国でありながら街道の整備などという大それたことを行い、我が国の権益を奪い取らんとする不届き者。激しく抗議をしたところ、外敵から国を守るには資金が必要であり自分たちも稼ぎが必要なのだ、止めろというのならブロワーズが国防の面倒を見てくれるのかと開き直ったそうだ。
当時の執政官は上納金を納めさせることで手を打ったそうだが、私から見れば宗主国としての威厳もなにもない、甘い対応であると言わざるを得ない。だからこそ、ベルニスタが侵攻してきたときは、自分たちでどうにかしろと突き放したわけだ。
自前で軍備を整えるために稼ぎを求めたということは、自分のことは自分ですると言ったも同然。それなのに助けてくれるのが当然などと思い、我らが援軍を出さなかったことを今になっても恨んでいるという。勘違いも甚だしい。
奴らの逆恨みではあるものの、あの者たちのブロワーズ憎しの想いは相当である聞く。決してジョゼフィーヌ様と交わることなどないと思っていたが……何をどうしたらその2人が交友関係を結ぶというのか。
「マリエッタ公女のほかには」
「ピノワールと隣接する小国の者たちのほか、ラザフォード公爵家の令嬢アリス様を筆頭に、トランスフィールドの貴族令嬢たちとも多く親交しているようで」
「トランスフィールドの次期王太子妃まで……」
「そしてこれらを繋ぐのが、リングリッド辺境伯家のキャサリン嬢と聞きました」
リングリッド……だと!?
「それは間違いないのか」
「間違いありません。留学当初、ジョゼフィーヌ様は遠巻きにされていたようですが、皆との橋渡しをしたのがキャサリン嬢のようです」
「馬鹿な……リングリッドの者がどうして手を差し伸べるというのだ……」
ベルニスタと小国群の戦いにしゃしゃり出てきたのがトランスフィールド王国。義によって援軍に駆け付けたなどとうそぶき、かつては我々の臣下であった国の分際で、我が国にも援軍を出すよう指示してきおったのだ。我々は傍観を決め込んだように見せ、どうせいずれは苦戦を強いられて泣きついてくるだろうと算段し、ゆるゆると参戦の準備をしていたというのに、何としたことか我が国が出撃する前に打ち勝ってしまったのだ。
それを属国の者どもは、我が国が参戦しなかったのはベルニスタには敵わないと逃げ腰だったからだなどど事後になって各国に吹聴するものだから、革新派が我々の失策であると、ここぞとばかりに攻撃される羽目になったのだ。
そしてトランスフィールドはその援軍によって各国の信頼を厚く得ることとなったが、かなりの損害を出したとも聞く。特に主力を担っていたリングリッド家を筆頭に、間違いなく我々の姿勢を弱腰と非難し、属国の者たち以上に良い感情など持ってはいないはず。だからこそ、何の力も持たぬ第六王女が友好親善と称して留学に来たとしても、歯牙にもかけられぬと思ったからこそ送り込んだのだ。
「たしか先日も、キャサリン嬢の招きでお茶会とは言っておったが、何をどうしたらリングリッドの者が関わり合いになろうとするのだ」
「ロラン様は覚えておいでになりませんか。我々がこの国で初めて姫様にお目にかかったとき、キャサリン嬢も側におりましたぞ」
「なんだと……」
あのときはあまりにも大勢おったから覚えておらん……
「ギャレット伯の隣に。2人は婚約者だそうです」
「ラザフォードとリングリッドが姻戚となるのか」
「ほかにもキャサリン嬢の次兄がノルデンのグリゼルダ王女と婚約したとか」
なんと……奴らの狙いはなんだ。まさか……先の戦の恨みを晴らすべく、我が国に何かを仕掛けてくるつもりなのか!?
「それは分かりません。ただ言えることは、交友関係を広げてゆく中で皆の姫様を見る目が好意的なものに変わってきているのは確かです」
「それほどまでに繋がりが出来ているというのか」
「ただ、指示通り婚約者捜しはしておらぬようなので、懇意にする男性はおらぬようです。関わりのある者は、どなたかと婚約を結んでいる者ばかりですので」
「(ドンッ!!)そういう問題ではない! それではダメなのだ!」
姫様に力を持たせるわけにはいかないのだ。ブロワーズでも他国でも、誰にも相手にされることなく寂しい思いをしてもらわねばならんのだ。彼女の魅力に気付く者が現われぬうちに……
「ロラン様はどうしてそこまでジョゼフィーヌ姫に執着するのですか。王族と縁戚になるならば、ほかにも姫君がおりますのに」
「我が家にはすでに王家の血が入っておる。今さら王家と縁続きになることは私にとって絶対に必要というわけではない」
「では何故に?」
「格式張った豪華な料理ばかり食べていては、胃もたれするからな。普段はあっさりした料理のほうが好みなのだよ」
「気位ばかり高く、着飾ることと金を使うことしかしない女ばかりを相手にしていると疲れるということですな」
その通りだ。上の王女たちも高位貴族の令嬢もプライドばかり高く鼻持ちならぬ。その点、彼女は王女としては決して恵まれぬ育ち方であったが、却ってそれが良いほうに向いている。あの清純で汚れを知らぬであろうお顔立ち、そそられるではないか。
「それでご自身の手に収めたいと」
「何か文句でもあるのか」
「いえいえ、それならば一層早く動かれないとマズいかと思いまして」
「どう言う意味だ?」
「ジョゼフィーヌ様の評判は悪いどころか、むしろ親しみやすいとのことで、それが一層交友関係を広くしている要因です。しかし、このまま各国の者と交友を深めることになると、革新派が……」
「他国との繋ぎ役として担ぎ出す可能性があると」
「仰るとおりです」
この者が言うことはもっともだ。これまで何の力も持たず、せめてどこかの貴族と縁組みして国の役に立てば御の字くらいに思われていた姫が、各国の主要な貴族と繋がりを持ったと知られれば奴らが取り込みにかかることは十分にあり得る。
「国元の連中はまだこの事実を知らず、ロラン様が一番有利な立場におります」
「私が妻に娶れば、他国の力を借りて改革をしようと企む奴らの目論見を潰した上で、いざとなれば姫の交友関係を私のために使うこともできる。というわけか」
「はい。正妻としてお迎えしても十分に理由は立つかと」
うむうむ、悪くはないな。
「そうなれば残り半年の留学期間中にどうにかしないといけないか」
「そこが問題でございますね。あちこちの令嬢と引っ切りなしにお付き合いしているようですので」
「どうにか1人きりになる時間を狙えないものか」
「それも難しいかと。あのユベールという男が四六時中ついて回っておりますので」
「チッ……鬱陶しいな」
小さい頃から日陰者同士、姫様と肩寄せ合って生きてきた彼奴のことは常に鬱陶しく思っていた。下賤の身でありながら烏滸がましくも姫に仕えて、留学にも従者として付いてくることになったのだから尚更だ。本当ならば留学の同行者にもしたくはなかった。
姫に付いていくことを望む者など誰一人いないと思わせるよう、革新派の推薦した人材に我々が何度も口出しして散々揉めた結果、王妃殿下の「1人くらい気心の知れた者を連れて行かせてもよいのではないか」というお言葉が出てしまい、さすがに異議を申し立てるわけにもいかないと渋々認めたが、これならば適当なところで妥協して、ボンクラ令嬢を1,2名あてがっておいたほうがよかったと悔やまれる。
「どうにか出来るか」
「お側に仕えることの出来ない理由を作ればよろしいのではないでしょうか」
「何か策でもあるのか」
「ロラン様のお心次第です………………いかがでしょう」
「悪くないな。手はずはお主に任せる」
「では早速取りかかりましょう」
見てろよ、お前の好きにはさせんからな……
お読みいただきありがとうございました。
次回は12/29(水)、年内最後の投稿となります。
よろしくお願いします。




