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山椒姫、有るか無いかで言うと……

<ある週明けのこと>


「ご機嫌麗しゅう、ジョゼフィーヌ様」

「あらロラン、ごきげんよう」


 ロランさんがやってきてから一度週末を挟み、今日から彼とその取り巻きが学園に通い始めたと思いましたら、早速初日からジョゼ様のもとへやってきたそうです。


「お時間があれば学園内をご案内願いたいのですが」

「申し訳ありませんが、先約がありますの」


 ハナから暇人扱いとは、予想していたとはいえ随分とナメたものですね。


「先約ですと? どなたと」

「貴男に教える必要はありませんでしょう。それに……学園の案内であれば、私よりも生徒会の皆様が適役ですわ。ご用件がそれだけなら、お友達とランチの約束がありますのでこれで失礼します」




<また別の日のこと>


「姫様はお休みの日は何をしていらっしゃるのですか」

「さあ……特にこれと言って変わったことはしておりませんが」

「ならばご一緒に観劇でもいかがでしょう。人気の劇団が舞台をやっているそうですので」

「あら、その舞台ならすでにマリエッタ様たちと見に行ってしまいましたわ」

「え、いや、今、特に変わったことはしておらぬと……劇を見に行かれたと?」

「ええ。ですが、観劇など特におかしなことでもありませんでしょう」


 完全に1人ぼっちだと決めてかかっていれば、友人と遊びに出かけるのも()()()()()()になってしまうのですね。


「ならば、その次の週は?」

「ええと……ノルデンのグリゼルダ姫とお茶会ですね。ああ、翌週はマリー様、さらにその次の週はアリス様とお約束が入ってますわね」


 手帳を確認しながら予定が次々に埋まっていることを伝え、お相手する時間は取れそうにありませんねえと頬に手をつきながらわざとらしくうそぶくジョゼ様。


「そんなに予定が埋まっておられると……どうして……」

「どうしてと言われても、私がこの国にやってきた理由はご存じでしょう? にもかかわらず、何もするなと仰せになったのは貴男の父君。やることがありませんのですから、友人の1人や2人作っても咎められる謂れはないと思いますが?」

「いや……しかし」

「役立たずの私に気を遣っていただき感謝しますが、配慮は無用です。私に時間を割くくらいなら、折角留学にいらしたのですから、ロラン殿も他国のご令息と親交を深められてはいかがですか。ああ、ご婚約者も決まっておられないのなら、そちらも探されたらよろしいですわ」

「な……」

「それではごきげんよう」



 ◆



「で、すげなく突き放してここにやって来たと」

「ええ。あの顔ったら……見せて差し上げたかったですわ」


 自身が応じたやり取りをケラケラと笑いながら明かすジョゼ様。私もマリー様も笑うしかありません。


 彼が接触を図ってきたとき、ジョゼ様がどう対応すべきかを共に考えた結果、対応方は「塩対応」の一言となりました。誘いに応じることなく全て先約があると言って断り、食い下がってくるようであればアリス様や皆様の名前を出しても構わないと。実際にみんなと遊びに出かけたりしているので、事実に反して誤魔化しているわけではありませんからね。


「しかも、皆様とお約束がありますからって去ろうとしたら、本当に約束があるのか確かめに付いて行くと言うものですから」

「どうなさったのですか」

「付いてくるのは構いませんが、本日は()()()()()()()()()令嬢のキャサリン様のお招きですけど、本当に付いてきますか? と返しました」


 名前より家名を強調したのですね。ねえ、相手が分かってて本気で来るつもり? という警告ですね。


「それで反応は?」

「リングリッド辺境伯家と繋がりがあるのかと驚いていましたね。私は仲良くさせていただいておりますが、ブロワーズの軍事を司るルフェーヴル家の御曹司と仲良くしてくれるかは分かりませんよと申しましたら、尻尾を巻いて退散しましたわ」

「キャサリン様、怖がられてますね」

「マリー様、私ではなくて当家がでございます」


 直接的な関りが無いジョゼ様ですら最初は警戒していたのです。先の戦の当事者に限りなく近い立場で、本人がそれをよく認識していればいるほど、おいそれと近づこうとは出来ませんよね。


「皆様と親しくさせていただいているのがどうにも信じられないようでしたが、予定が入っていることを伝えましたら、ようやく理解したみたいです」

「気付くのが遅いっての。私もマリー様も、この前のカフェでも同席していたのに」


 あのときカフェで同席していたのは、彼の思い込みの中ではジョゼ様を目の敵にしているであろうマリー様や、ブロワーズをよく思っていないリングリッドの娘である私など、楽しくお茶を共にする相手とは思えぬような面々ばかり。普通に考えれば、その時点でジョゼ様が交友を持っているのだと気づきそうなものですが。


「もしかして……あのとき、私が誰なのか認識されていない?」

「気付いていないかもしれませんね」


 あの場にいたマリー様たちも『属国の娘たち』とは分かったけど、どれが誰かは分かっていなかった様子。面識のある方ですらその程度なのですから、私などは挨拶もされなかったので、気づいていない可能性は大いにあります。


「さすがに他国に来てまで、節操なく女性に声をかけるのは控えるくらいの分別は持つようになったのかと思いましたが、違いそうですね」

「単にジョゼ様がいらっしゃったからではないでしょうか。話を聞く限り、標高の低い双子山はお気に召さないようですので、私には目もくれなかったのかと」

「あっ……キャサリン様、心中お察ししますわ」

「人の胸を見ながら察しないでください。何でしたらマリー様も同志ですからね」


 それ以上言うと、エロティックシスターズに対抗してフラットシスターズに加盟させるぞ。今のところ向こうはエマにサリー、義妹のリリアとジョゼ様。括りで言うならアリス様もアデル様もヒラリー様も向こう側だし、グリゼルダ様も早晩あちら側になりそう。対するこちらは私とマリー様とパティ、ヘレンくらい。


 うん、弱いな……


「まあでもこれに懲りて、少しは接触を控えるようになればよいのではないでしょうか」

「そうですね。ただ油断はできません。ジョゼ様本人もさることながら、皆様にもより一層お側にいていただく機会が増えるかもしれません」

「構いませんわ。お友達ですもの、ね、ジョゼ様」

「はい、また遊びに行きましょうねマリー様」


 そんな感じでその日の集まりは和やかに終了いたしました。






<その日の夜、ギャレット伯爵邸>


「ねえオリヴァー」

「なんだいケイト?」

「男は胸の大きい女性のほうがよろしいんでしょうか?」

「ブフッ!」


 夕食後にお茶をいただきながらふとした疑問をぶつけてみると、オリヴァーにとっては思わぬ質問だったようで、飲みかけのお茶を吹き出してしまいました。


「ちょっとオリヴァー、服が汚れてしまいますわ」

「ケホケホッ……ケイトが突然変なことを言い出すから……」

「ごめんなさい。でも確認しておきたかったの。こんなことを聞けるのはオリヴァーくらいしかおりませんので」

「僕じゃなくても父上や兄上がおるだろう」

「参考になりません。お父様は『ケイトはケイトなだけで十分かわいい』としか言いませんし、お兄様たちは『大きくなるときはなる。ならないときはならない。今から気にしても仕方ない』としか言いません」


 以前、背が伸びなかった頃に家族に聞いてみた時の回答がこれ。あの頃は身長がメインの話でしたが、それなりに成長してもあそこだけは大きくならないんですよねぇ……


「まあご家族はそう言うしかないよな。それに、その問いは人によるとしか答えようがない」

「では……オリヴァーは胸の大きい子と小さい子ならどちらがお好きですか」

「婚約を申し込んだときにも言っただろ。例えケイトがあのまま小さかったとしても、僕は君のことが大好きだと」


 急にその話を蒸し返して、どうしたんだい? とオリヴァーが聞いてくるので、実は……とロランさんが初めて姿を現したときの話を振り返ります。




「なるほど。リングリッドを警戒している割には誰がケイトなのか分かっていないと」


 あのときオリヴァーは名乗りをしましたので、目端が利く者であれば、その隣にいた私が彼の同伴者かそれに近い立場の令嬢であることに気づいたでしょう。その場では分からずとも、ちょっと調べれば婚約者であり、どこの家(リングリッド)の者であるかも容易に知れるというのに、それに気づかぬのは向こうの落ち度だと切り捨てます。


「それで胸の無い子には興味がないという話になりまして、あれが男性の普通だとは思いませんが、他の方はどう思っているのかなと」

「僕にとってはありがたい話だ。部類の女好きだというが、ケイトに目をつけなかったのは慧眼だ」

「もし目をつけられたら」

「僕が切り捨てる……と言いたいが、その前にケイトに殺られるだろう」

「目の前で胸が小さいなどと言われたら、一発くらい手が出る自信はありますね」


 それならばむしろ良かったじゃないかと笑うオリヴァーですが、本当に貴男は私でよろしいのでしょうか。


「別に胸の大きさで好きになったわけじゃない」

「でも小さいですよ」

「無いわけじゃないだろ。いつも『ある!』って言ってるじゃないか」

「それはそうですが……」

「何度でも言う。僕はケイトという1人の女性を愛したんだよ。そんなものは些末な問題だ」


 暗い表情をしていた私を気にしたのか、オリヴァーはそっと優しく抱きしめてくれると、耳元で好きだよと何度も囁いてくれました。


「……ありがとうございます。それが聞けて安心しました」

「ご入り用ならいつでもどうぞ。聞き飽きるくらい言い続けてあげたって構わないから」

「ありがとうオリヴァー。私も愛してるわ。じゃあ……おやすみなさい(チュッ)」


 あまり言われ続けると、また溺れ死ぬかもしれませんので程々にしていただきたいので、彼の頬に口づけをしておやすみの挨拶をしてから、寝室へと向かいました。有るか無いかで言えば、山は無くとも愛はある。それが聞けただけでなんだか心がホッしました。






「あるかないかで言えば、あったほうがそれは嬉しいさ……」


 キャサリンが去ったあと、部屋で独り言つオリヴァー。


「でもそれ以上に僕はケイトが欲しいんだよ」


 これまでもキャサリンには十分に愛を囁いたと思っていたオリヴァー。だからこそ婚約に至ったわけであるが、ひょんなことから悩みを吐露されたことで、まだまだ足りなかったかと思い返すのであった。


「そんなに心配なら今まで以上に可愛がってあげるさ。それにしても……そんな話をしておいて、おやすみのキスまでされて、一人で放置ですか……」


 婚前交渉は絶対にしないという約束なので、キャサリンがギャレット邸に泊まるときは別室で寝ることは当たり前ではあるが、この状況でお預けはちょっと……と、若干項垂れるオリヴァー。


「はぁ……このままじゃ寝れそうにないな。少し酒でも飲んでから寝るとするか」


 その日、オリヴァーの悶々とした夜はまだまだ続くのであった……

お読みいただきありがとうございました。

次回は12/25(土)投稿です。

よろしくお願いします。

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