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山椒姫、友情と酒と恋心

 ロランというブロワーズの公爵令息が現れ、その来訪の真意は何なのかと思案をしておりましたら、ユベールさんが自身の勝手な推論でしかないとは言うものの、心当たりがありそうです。


「ユベール。そう言えばこちらに来てからルフェーヴル家からコンタクトが何度かあったと言っておりましたね」

「そうですね。毎回『お変わりありません』としか伝えておりませんが」


 それに呼応するように、ジョゼ様がユベールさんに確認をしておりますが、ルフェーヴル家からユベールさんに直接……? ああ、そう言えば先ほどあの方を兄とか……仰っておりましたわね。


「……兄などおりません。と言いたいところですが、あれは腹違いの兄です。書類上の繋がりはありませんが」

「ということは……」

「私は母がルフェーヴル公爵に手籠めにされたときに生まれた私生児です……」




 その話は以前にジョゼ様から伺いましたが、国王に公爵にと、ブロワーズの方々は理性というものが無いのでしょうか。あの男も留学に来た学生ということは、ユベールさんと一年も年が離れておりません。そこから導き出される結論は、公爵が夫人の懐妊中に別の女性に手を出したということです。


 決して誇る話ではありませんが、ジョゼ様は曲がりなりにも王女として養育されているし、妾の話はさすがにダメだと言っている分、国王は最低限の義務は果たしていて比較的まともと言えます。しかしユベールさんは私生児。お母様は男爵家の出だと仰っていたので、金か権力で黙らせたとしか考えられません。


 貴族には妾や第二夫人といった話もよくあることですが、節度というものがあります。女性としてはあまり面白くない話です。しかし、彼らにしてみれば厄介者のユベールさんを通じて、わざわざ探りを入れるというのが少々引っかかります。



 あ、もしかして……ユベールさんが何を仰っしゃりたいのか分かったかもしれません。


「ユベールさんは、あの男が『ジョゼ様はこちらで寂しい思いをしているだろう』と、本気で思っているのでは? とお考えなのではありませんか」

「そのとおりです」


 私の推論はユベールさんのそれとほぼ同じだったようで、この程度の情報だけでよく分かりましたねと目を白黒させています。


「キャサリン様、どういうことでしょうか」

「あの男、ロランさんでしたっけ? 『ジョゼフィーヌ様が異国の地で寂しい思いをされているだろうと案じて』と言っておりましたよね」

「ええ、たしかにそう申しておりました」


 ジョゼ様からの便りは『未だ目的は果たせず』というのみ。そしてユベールさんへの探りでは『お変わりありません』というだけ。ここから予測できるのは……


「婚約者を探しに来たけれど、外交的な感情からブロワーズの王女であるジョゼ様と親しくしてくれる者はおらず、『未だ目的は果たせず』の状態……」

「実際は私たちと友人になれたけど、『お変わりなく』という情報から1人ぼっちが続いていると思い込み……」

「きっと寂しい思いをしていることだろう。よしよし、僕が慰めに行ってあげよう。今なら『ロランありがとう。貴男しか頼れる人がいないの』となって、ムフフ……と思っているということか」

「オリヴァー、ムフフの声が気持ち悪いですよ」

「それくらい邪な感情だってことを表現したのさ」

「えっと、つまり私は……」

「そうなることを見越して送り込まれたのではないかと」


 ジョゼ様が留学生に選ばれた際、本来なら革新派が自派の子弟を同行させたかったのだが、守旧派の妨害というか人選に口出しを受け、更には婚約者捜しなど余計なことはするなとも釘を刺されたと仰っておりました。そして、ルフェーヴル家はブロワーズの守旧派の中心人物。話が繋がりましたね。


「なるほど、あり得ます。ジョゼ様を異国で孤立させて心身共に弱ったところに付け込もうと、好色家の公爵とその息子が主導したわけですね」

「そうなると、これからも私は付き纏われるということですね」

「どうしましょう。私達は少し距離を置いたほうがいいのでしょうか」


 マリー様は自分達が仲良くすることで、要らぬ騒動にならないかを気にしておられますが、ジョゼ様は気にすることはありませんと落ち着いた表情です。




「いえ。私にとってマリー様もキャサリン様も、ここにいる皆様全て大切な友人と思っております。折角結ばれた友誼なのです。これからも変わらぬお付き合いをしていただければ」

「よろしいのですか」

「構いません。私が命じられたのは『この国で婚約者を見つけてこい』というもの。それは未だ撤回されておりません」


 その通りです。ロランさんが婚姻の許可を得たのであれば、すぐにでも連れ戻されるはずですが、それが無いということは、本当に様子を見にいけと言われただけなのかもしれません。


「よって、私は引き続き婚約者捜しのために皆様と交流いたします。ロランに構っているヒマなど無いのですよ。とね♪」

「たしかに」


 上手い逃げ口上を見つけたものです。現時点ではそこまでの判断をされてはいないのだと見越して、ジョゼ様は今の姿勢を改める気は無いと断言します。 


「ジョゼ様がそう仰るならこれまで通りで。私たちの大事なお友達が煩い羽虫にまとわりつかれぬよう、常に誰かがお側に付いているようにしますわ」

「マリー様……」

「私がこんなセリフを吐くなんて不思議なものですね。ですが、あの男にいいようにはさせませんよ」


 他のご令嬢たちも同じ気持ちのようで、マリー様の言葉に静かに頷いております。




「もっとも……私たちが付いていられないときでも、ユベールさんが側におればジョゼ様は安心でしょうけどね♪」

「ま、マリー様! 何を言い出すのですか!」

「もう~、ジョゼ様ったら照れちゃって可愛いんだから~。そうですわよねユベールさん」

「………?? 私は姫様のために身命を賭してお仕えする所存ですが?」


 ユベールさんは皆様が何を指摘しているのか分からないといった感じで、自分はジョゼ様をお支えするために仕えるのみですと、臣下の鑑のような発言をしておりますが、真実を知っている私としては苦笑せざるを得ません。


 隣でオリヴァーがボソッと「酒飲ませれば一発で分かるぞ」と申しておりますが、ご令嬢達に痴態を見せるわけにはまいりませんので、それは控えていただきたいところです。


「節操なしに声をかけるロランと違って、ユベールさんはジョゼ様一筋と言いたいのですわ」

「まるで私が姫様に気があるような物言いは、いささか困ります」

「そうですよ、マリー様。そ、そういうのではありませんから!」

「そういうのって、どういうのでしょう?」

「意地悪です~」




 半年前にはおよそ想像もつかなかった光景を見ながら、手を貸した甲斐があったとほくそ笑む私にオリヴァーがそっと耳打ちしてまいりました。


「なあケイト、やっぱり酒の力で押し切ったほうがいいんじゃないか?」

「それは最終手段ですわ」

「だがなあ……なんかこう、もどかしいというか、何というか」

「あら、ご自身が婚約を成した途端に随分と先輩風じゃございませんか」

「そこはケイトが一番よく分かっているだろう」

「もどかしい想いがおありなのはよく分かりますが、それこそ本人たち次第の話です。それに、今はあのロランという男にも注意を払わないといけませんしね」

「そうだね。こちらでも情報を収集してみよう」

「お願いしますわ」




「ジョゼ様がユベールさんと一緒におられるときはとても楽しそうですけどね」

「それはもう姫様の心の安寧が一番ですから」

「マリー様、ホントにそういうのではありませんから! ユベールは……ほんとに、ただの……」

「ただの?」

「ああ、もうこの話はお終いです!」


 ジョゼ様が困っておりますので、そろそろ助けに入りますかね。


「マリー様も皆様もそれくらいで。人の恋路を邪魔する奴は火竜に焼かれて死んでしまいますわよ」

「その前にキャサリン様に叩き切られそうですが」

「そうですわマリー様、焼かれてしまいますよ!」

「おや? ということは、やはり恋路の話なのですね。ジョゼ様」

「キャサリン様まで酷いです~!!」

お読みいただきありがとうございました。

次回は12/22(水)投稿です。

よろしくお願いします。

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