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山椒姫、畏怖される

引き続きマリエッタ視点が大半となります。説明文多めですがご容赦を。

「ジョゼフィーヌ様、お招きいただきありがとうございます。お返事が遅くなりましてご迷惑をおかけしました」

「いえいえ、皆様お忙しいですからお気になさらず。ささ、皆様もお待ちかねですわ」


 パーティー当日がやってきました。ジョゼ様が主催者として入り口で皆様をお迎えしていたところ、最後のほうでピノワール公女マリエッタ様もお見えです。




「マリエッタ様、ようこそ。遅かったので呼びに行こうかと思ってましたのよ」

「お待たせいたしました。あまり早くに顔を出して、あれだけ毛嫌いしていた相手の誘いに意気揚々と乗り込んだなどと要らぬ噂が立つのも癪なので」

「まあそうなりますよね」

「とはいえ折角の機会です。自分の目で確かめろ……ですよね」

「それもそうですが、まずはあまり肩肘張らずに楽しみましょう」






「それではみなさまごゆるりとご歓談くださいませ」


 ジョゼ様の挨拶で会が始まりました。どうしても都合が付かず、やむを得ずご欠席となった数名を除き、お呼びした方がほぼ揃って参加していますので、会場内は賑やかなものです。あちらこちらで学生同士、話に花を咲かせており、まず掴みの部分では上々の滑り出しと言えますね。


「順にお料理も運ばれてまいります。レセプションのときと同様に、各国の名物料理をご用意いたしました。あの時は初顔合わせの方ばかりで、緊張されて食が喉を通らなかった方も多かったと記憶しております。ですがあれから時は経ち、ここにいるのは少なからず見知った仲間ばかりでございます。食を通じて気兼ねなく交流を深められんことを願っておりますわ」


 その言葉に、そういえばあのとき食べ損なったなあという顔をした方があちこちに見受けられ、運ばれて来るや遠慮がちではありますが、皆様次々と料理を手元に取り分け、舌鼓を打ち始めました。


 マリエッタ様は……あー、因縁の鉱山焼きの前でじっと固まってますね。






<マリエッタ視点>


 想像よりもはるかに大きい規模の会場。留学生に加え学園に通うこの国の子弟も多く参加しています。ブロワーズ、いえ、ジョゼフィーヌ様個人にこれだけの会を開く財力があるとはとても思えませんでした。彼女は供も一人しか連れておらず、学園外であってもほとんどの時間を制服で過ごすように、服もそれほど持ってきていないはず。ですが、会場で働く者の姿を見てなるほどそういうことかと得心しました。


 そこで給仕などを務めるのは、みな学園の生徒。名前までは存じ上げませんが、校内で見かけた方が多くおります。


「つまりはそういうことか……」


 なんてことはありません。最初からこの会の開催には学園の、さらに言及すればアリス様、キャサリン様達生徒会の息がかかっているということです。


「ハメられたわけね」

「お気づきになりましたか」

「誰?」


 私の呟きを拾うように声をかけてきた侍女姿の生徒。たしかこの方は……




「こちらからお声がけする無礼をお許しください、ピノワール公女殿下。私、学園の3年でアリス様の側仕えを務めるエマ・パットンと申します」

「なるほど、アリス様の側仕えだから見たことのある顔だったのね。それで、私に何の御用でしょう」

「話はこちらをお召し上がりになられてからにしましょう」


 エマと名乗るその侍女は、おもむろに目の前にある料理を取り分けて私に差し出してきた。


「ノルデンの新名物料理、鉱山焼きです。公女殿下は既にご存じとは思いますが」


 忘れるわけがありません。あの日、弾き飛ばした皿に乗っていたのがこの鉱山焼き。王女らしからぬ呆けた顔でこれを頬張っていたジョゼフィーヌ様が私にこれを勧めてきて、カッとなってしまったのを昨日のことのように覚えています。


「元は鉱山職人の賄い飯だったそうなので見てくれは上品とは言えませんが、グリゼルダ姫が改良を加えてノルデンの新しい名物にしようとしているそうですよ」


 だからグリゼルダ姫はあれほど怒った顔をしていらっしゃたのか。自国の名物を貶された以上に、自身の努力を踏みにじられたように映ったのね……


「折角だし、いただこうかしら(モグモグ……) へぇ、悪くないわね……」


 ただ肉を焼いただけのように見えるが、漬け込んだタレの味が染み込んで、肉本来の味をさらに引き立てています。見た目がもう少し良ければといったところでしょうか。




「でしょ! マリエッタ様も悪くないと思うほどには」

「グリゼルダ様?」

「いや、ありがたい評価をいただきました。マリエッタ様には毛嫌いされているのかと思いましたので」

「それは……あの時は申し訳ありませんでした」

「あれはもう気にしておりません。ケイトお姉さまから事情も伺いましたし、仕方ありません」


 本当ならばもっと怒っても文句は言えないはずなのに、あっけらかんと言い放つグリゼルダ様。


「ノルデンも鉱山以外には大きな産業もない小国です。北国ゆえ食糧事情もあまり豊かではないので、何とかして国の役に立とうと私も努力してますの。お国のためにという点では、マリエッタ様も同様でしょ。褒められた行為ではありませんでしたが、ピノワールの立ち位置を考えたら。ね」

「そう言っていただけると救われますわ」

「それに、この鉱山焼きはピノワールがいなければ作れませんから」 

「私の国が? ですか」

「貴女の国が街道整備に尽力しておらねば、香料の値がもっと高くなっているはずですから」

「ああ……そういうことですのね……」




 グリゼルダ様がノルデンは産業が乏しいと仰っていますが、それは我がピノワールも同じで、かつてはブロワーズの辺境地域として開発すらされなかった、産業育成とは無縁の地域。とはいえ我々はそこで生きていかなくてはならないので、活路を見出したのが貿易です。


 西方諸国と東方諸国を結ぶ交易路は、元々は途中で南方へ進路を取り、ブロワーズの王都を経て繋がっておりましたが、距離が長くなる上、道中何箇所もの関所でボッタクリ価格の通行料を取られる割に、あの国は街道の整備も治安維持もおざなりなので、商人たちからは評判が悪かったとか。


 そこで我が国が東西に隣接する各国に声をかけ、交易路を繋ごうと提唱しました。平坦な地形に加え、全くと言っていいほど開発がされていなかったのが逆に功を奏し、直線に街道を引き、途中の宿場町の整備を行ったところ、あちらの通行料がボッタクリな上に道中のリスクが高いとあって、ブロワーズに寄る必要のないほとんどの商隊がこちらをメインルートに使うようになりました。


 当然これまでの通行料収入が無くなるので、宗主国様は文句を言ってきましたが、こちらも生活がかかっていますし、資金が無ければベルニスタから守る軍も維持できません。その面倒をそちらで見てくれるのかと問えば及び腰になったそうで、こちらからいくばくかの上納金を納めることで決着したそうです。そのために若干通行料を値上げしたそうですが、それでも費用はブロワーズ経由だった時代とトントン。それでも距離が短くなる上に、街道警備もキッチリやっている分、こちらの方が有益だと商人達が口々に言っていたそうなので、どれだけ吹っ掛けていたのかが良くお分かりになるでしょう。


 さらに我が国は東西の道に加え、(ブロワーズ)(ベルニスタ)を結ぶ街道もあることから、交通の要衝として小国ながらも重要地点として現在の地位を確立したのです。ただ、各地から来やすいということは有事にあっても同様で、ベルニスタの大軍が動くときはこの街道を通り、真っ先に我が国が矢面に立たされるのはいささか難点です。だからこそ援護してくれる協力国を求めにここへ来たのです。






「上に立つ者は民を守る義務があります。ですが、王族とはいえども個人で出来ることは限られております。それでもグリゼルダ様は、民の暮らしが良くなるようにと、農業の研究や料理の研究を行なっているそうです。マリエッタ様もその想いがあればこそ、他国との繋がりを求めてここに来たのではありませんか」

「そうです。自国だけではどうにもならぬこと、それはどの国でも同じことです。だからこそ他の国と手を携え、共に歩もうとしているからこそ、皆がここに集まったわけです。ジョゼ様も同じですよ、マリエッタ様」

「あの方が……」


 エマさんとグリゼルダ様は考えを見透かしたように私にそう諭してきました。


「しかし……あの方がそうであっても、本国はどう思っているのか。私は信じられません」

「そうでしょうね。ですが、もし私たちに不利益となる動きがあれば……そのときは潰すだけです」

「エマさん!? 誰に聞かれるかも分からない場所でそのようなことは」

「大丈夫ですよマリエッタ様。そう仰っていたのはケイトお姉様であり、ジョゼ様ご本人もそれを承知しております。ね、エマ様」

「もちろんアリス様も承知しております」

「その上で、ジョゼ様は皆様とお付き合いしていると……」

 

 仲良くしたいのなら受け入れるが、自身の益に反するならば斬り捨てると明言している相手に、それを承知で付き合っているとは、ジョゼフィーヌ様は一体何を狙っているというのでしょうか。


「折角一緒の場におられるのです。良い機会ですからお話にされてはいかがですか」

「迷惑ではありませんでしょうか」

「ケイトお姉様もそのつもりでお誘いしたのだと思いますよ」


 やはりそうだったのですね。これまで両者の仲を取り持つような言動をされていなかったのは、()()()()会にお誘いいただいた縁で、()()()()会話をし、ごく自然に交流があったと装うため。無理に私達を引き合わせるように動いて、周囲に余計な詮索をさせないようにという配慮だったのでしょうね。




「ハメられたというのはよくない言い方だったわね」

「そうでもありません。ケイト様は楽しそうに悪だくみする方なので、その感想はあながち間違っておりませんよ」

「ほら、お姉様がこっちを見てニヤニヤしてますわ」


 グリゼルダ様が目線を向けた先にはコチラの様子を覗うキャサリン様。穏やかな笑みを湛えていますが、2人によるとあれはコチラの様子をワクワクしながら見ているのだと仰います。


「それにしても、グリゼルダ様はキャサリン様をお姉様呼びするほど親しいのですね。ああ、そういえば留学に同行されていらっしゃったのですよね」

「それもありますが、本当に義理の姉妹になる予定ですので」




 どういうことかと尋ねれば、聖騎士を務めるキャサリン様のお兄様とグリゼルダ様が婚約の予定だと言うではありませんか。それに彼女本人はアリス様のお兄様と婚約の身、未来の王妃様とも義姉妹になるわけです。


「周囲にやんごとなき御方が次々に集まるのは何かの魔力でもお持ちなのかしら」

「そういう意味では不思議な力をお持ちかもしれませんね」

「あらエマ様、私には見えない力より、目に見える力の方がすごいと思いますけど」


 食事をいただきながら色々とお話を聞かせていただくと、見えない力とか目に見える力という抽象的な表現でキャサリン様を評する2人。その話に私がはて? と首を傾げていますと、エマさんがおもむろに鉱山焼きを指差し、これが何の肉か分かりますかと問うてきました。




「このお肉が今の疑問と関係あるのですか?」

「ええ、とても。マリエッタ様はこのお肉をお召し上がりになった経験はございますか?」

「そうですね……牛とも馬とも違って、でも美味しいお肉だということは分かります」

「これ、オークの肉です」

「オーク? オークって……」

「ええ、あの討伐対象中級レベルのモンスターのオークです」


 その言葉を聞きビックリを飛び越しました。まさか各国の王侯貴族が集う集まりに、モンスターのお肉が饗されるとは思いませんでした。食べる前であれば「何て野蛮な!」と思ったところでしょうが、私はすでに美味しいことを知ってしまったので、こんな料理があったのかと驚いているのです。先ほどは「へぇ、悪くないわね」と言いましたがウソです。強がって言っただけで本当は高級な牛肉などに遜色ないレベルで美味しかったです。


「オーク肉を食べたのは初めてですが、美味しい物なのですね」

「生肉は保存が難しいそうであまり流通しないようですが、こうやってタレに漬け込むことで保存食に出来るんだそうですよ」


 なるほど。グリゼルダ様はこれをノルデンの名物として各国に知らしめようとされているのですね。しかし、これとキャサリン様の力の関係がよく分かりません。




「このお肉、キャサリン様が調達されたのです」

「調達? 騎士の皆様に命じて狩ってこられたと?」

「違います。お姉様が自分で狩ってきたのです」


 自分で狩って……きた?


「どうやって」

「それは剣でシュバっと」

「1人で?」

「この会のためにお兄様達と一緒に狩りに行かれたそうです。『誰が一番獲物を狩れるか競争だ!』って競ったとケヴィンが、あ、私の婚約者が申しておりました」


 うそーん。どう見てもその辺のご令嬢と変わらない見た目なのに、シュバっとオークを切り伏せちゃうんですか!?


「余談ですが、オーガも一撃です。私がこの目で見たので間違いありません」

「山椒姫の噂は誇張ではなかったのね……もしかして私、斬られますの? 相当失礼なことばかり言ってしまった気が……」

「マリエッタ様、怯えすぎです」

「いやいやいや、私、罠にはめられたんですよね? このまま拉致されて折檻?」

「しませんから」



 ◆



 エマやグリゼルダ様にマリエッタ様のことを任せて正解だったようです。最初こそ警戒していた彼女ですが、話をするうちに驚いたり思案したり、そうかと思えば笑みが零れたりと随分打ち解けてきたようで安心しました。


 ん? マリエッタ様が恐る恐るこっちを振り返りました。目が合った彼女の表情に映るのは恐怖に怯える色。






 マリエッタ様、貴女はどうして化け物に遭遇したような表情で私を見ているんですか!?

お読みいただきありがとうございました。

次回は12/8(水)投稿です。

よろしくお願いします。

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[一言] ¥貴女はどうして化け物に遭遇したような表情で私を見ているんですか!? 単騎でオークやオーガ狩るJKはこの世界では化け物だからでしょ
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