山椒姫、腹黒くなる
「お茶会を……開く?」
「パーティーとまでは言いませんが、お茶会よりももっと規模の大きい集まりをジョゼ様のお名前で開くのです」
我が家でのお泊り会から1か月ほど。私とグリゼルダ様、そしてジョゼ様は相変わらず集っては他愛もない話に興じております。もちろんジョゼ様を孤立させないためではありますが、他の方から自分たちを蔑ろにされていると受け取られないよう、程よい距離感を保ちつつ仲良しをアピールしています。
「私の名前ということは、私が手配しないといけませんね。ですが、そのような準備をしてくれる者は……」
「ご心配なく。侍女職を志望する学生に声はかけております」
私の周りには侍女を目指す友人が多くおりますので、彼女たちに協力してもらいます。実技研修とでも言えば名目は立ちますし、何より王太子妃付きとなるエマやサリー、そして私の侍女となるヘレンがおりますので、実務経験は浅いですが戦力としては十分でしょう。
「私は料理の手配ですね」
「そちらはグリゼルダ様にお任せします」
料理のチョイスはグリゼルダに任せます。実際に料理を作るのはコックの仕事ですが、何を出すかはジョゼ様の意向を聞きつつですが、彼女に仕切ってもらいます。ご自身の作る物はアレですが、王女殿下なので舌は肥えておりますし、何より食に対する造詣が深いので適任でしょう。他国の方を駆り出すのはと最初は遠慮しましたが、「私もリングリッドの一員ですよ」と言われればイヤとは言えません。
「お菓子部隊も準備は出来ております」
あとはお茶菓子。私たちも協力しますよと言ってくれたパティをはじめとする学生有志一同で、手作りを提供しようかと考えております。既製品でもよいのですが、学生間の交流を深めるという意味でも、学友のお手製を出すのは良いアイデアだと思います。
「ここまで手配してもらえるとなると、私は何をすれば?」
「招待者への案内はジョゼ様の手でお願いします。誰を呼ぶかも含めて」
「ならば留学に来られている方には全員招待状をお送りしましょう」
「よろしいのですね?」
「交友を深めるのが目的ならば、選り好みはよくありませんよね」
ジョゼ様のことを未だに良く思わない方もいらっしゃるから、選り好みをしても不思議ではないのに、彼女がそう仰ったのは、コチラの思惑を踏まえてでしょう。主催と銘打っていますが、実際は準備に手を貸している時点で私たちに借りがあるので、自身の好悪で選別してはしこりが残ると考えたようです。試すような物言いになったことは申し訳ないと思いましたが、彼女ならそれも見越してご判断なさるだろうと考えた上で決定権を預けたのは正解だったようです。
「それでは招待状の手配は姫様にてお願いいたします」
「ご協力感謝いたします。皆様の親睦を深められるような会にして見せますわ」
◆
<アリス視点>
「ラザフォード公爵令嬢様、お声がけするご無礼をお許しください」
「学園内ですからそれほどお気になさらず。それで何か御用でしょうか、マリエッタ様」
久しぶりに学園へ顔を出しますと、留学生の1人であるマリエッタ様に声をかけられました。
「実は学園の皆様と私どもの親睦を深めたいと思いまして、懇親会を開きたいと考えております。アリス様にも是非ご参加いただきたいと思い、お誘いいたしましたの」
「よいお考えですわね。それで、いつ開かれるのですか?」
「2週間後の祝日を予定しています」
「あら、その日は既に予定が入っておりますわ」
「え……あの、その予定とは……」
「ジョゼフィーヌ様が何やら集まりを開くとかで、それに招かれておりますの。もしかしてお聞きになられてないのかしら?」
わざとらしくそう聞くと、彼女たちは目を白黒させて狼狽えながら聞いていないと答えます。なんと分かりやすい反応ですかね。
「そうでしたの……多くの方をお招きすると聞いておりますので、私はてっきり皆様も招かれているものと思っておりましたが」
「いえ、あの、私どもはブロワーズとその……関係が良くありませんので、ジョゼフィーヌ様も呼ぶのを躊躇ったのではないかと」
「そうでしたか。他国のことゆえあまり口を出すわけにはいきませんが、事情が事情なので致し方ありません。ですが、先約でございますので皆様のお誘いは残念ながらお断りするしかありませんね」
私がキッパリと誘いを断ると、彼女たちは「残念ですがまたの機会に」と、スゴスゴ引き下がるのでした。ジョゼ様のことを悪し様に言って、誘いを断れなどと食い下がってきたらどうしようかと思いましたが、相手を考えてあっさり引き下がったあたりは頭の回転はそれほど悪くないようですね。
「……ということがあったわよ」
「それはそれは……ご面倒をおかけしました」
その日の放課後、ジョゼ様の会の進捗を聞くためにケイトを邸に招いたので、ついでにそういうことがあったわよと伝えておきます。
「皆様お誘いしたのよね? 彼女たちは聞いてないと言っていたけど」
「ジョゼ様から皆様に招待状は届いたはずです。たしかにマリエッタ様たちからは参加とも不参加とも聞いていません。もしかしたらジョゼ様からの書状ということで見ることもせず放置しているのかも」
「あり得そうな話ね。私の話を聞いて、書状の用件はそれだったのかと察したような感じだったわ」
マリエッタ様は小国群の中でも特にブロワーズを毛嫌いする筆頭とも言える国の出身ですから分からなくはありませんが、断るにしてもきちんと対応しなさいよと言いたい。書状を読んでもいないとは、先ほど頭の回転はそれほど悪くないと申しましたが前言撤回ですね。
「分かっていて日程をぶつけてきたのかもしれませんよ」
「ああ、それで私を誘ったと」
「レセプションのときも、私がブロワーズ憎しでいると思っていたようですし、アリス様もジョゼ様より自分たちを選ぶのではと期待していたのでは?」
「だからと言って先約を破棄するわけ無いのに」
自分で言うのもおこがましいが、私と繋がりを持つということは彼女たちにとって大きな武器になるのは確実、立場が逆ならば私も近づこうと考えるでしょう。もっとも、やり方がアレなので全く響きませんが。
「彼女たち、どうするの?」
「来ないなら来ないでも構いませんが、ジョゼ様が仰るには、直接話をすることでお互いに知り得ることもあるだろうから、叶うなら参加して欲しいと」
「ということは改めて声をかけるのね」
「今更自分から行きたいとは言いにくいでしょう」
彼女たちは私が行くと聞いて誘いを無視したことを後悔しているはず。とはいえ一度誘いを突っぱねてしまったものに今更行きたいとは言いにくいだろうから、改めての声かけはケイトからそれとなくやってみると言います。それとなくというのがポイントね。
「恩着せがましくなく、でもちゃんと恩は売ると」
「我々にとって悪い話ではないでしょう」
ジョゼ様の意向を十分に汲みつつ、ちゃっかりこちらの思惑も汲み取らせる。そしてそれによって起こる事態に柔軟に対応してマリエッタ様たちに恩を売って利益を得ようと。なるほど、上手く考えたこと。
「そこまで見据えて皆さんをお誘いしたのね」
「何のことでしょう? お決めになったのはジョゼ様ですよ」
「ケイトもとぼけるのが上手くなったわ」
「私もラザフォードの姻族になるのですからそのくらい出来て当然です」
ケイト、それは腹黒の義娘になるからという意味よね? 大丈夫よ、貴女の旦那様は言うほど黒くないから。
え? むしろ私に仕えるから黒くならざるを得ないですと?
あら、これは随分なとばっちりですこと。オホホホホホホ……
お読みいただきありがとうございました。
次回は12/1(水)投稿です。
よろしくお願いします。




