山椒姫、男の話は男に任せる
後半オリヴァー視点が入ります。
「ケイト、お招きにあずかり光栄だよ」
「オリヴァー、ようこそいらっしゃいました。それで……」
「ああ、ユベール殿もお連れした」
「ユベールさんもようこそ」
「お招きにあずかり……それで、姫はどちらに?」
「ご心配なく。みなと楽しく宴に参加しておりますわ」
お父様がケヴ兄とグリゼルダ様の婚約を認めたことで、屋敷の中は宴の真っ最中。家族はもとより家臣団、使用人も交えて大賑わいの中、オリヴァーにお願いして、ジョゼ様の付き人であるユベールさんを連れてきたいただきました。
とはいえ若干身構えているようで、ジョゼ様が我が家にいらしたときの緊張感と同じ理由からくるものだと思います。事情を知らぬブロワーズの方にしてみれば、ここは半ば敵地のようなもの。自国の行いが原因ゆえ、後ろめたさからそう感じるのでしょうが、あまり辛気臭い顔をされても興が削がれるので、ジョゼ様のもとへ彼を案内します。
「ジョゼ様。ユベールさんがいらっしゃいましたよ」
「ユベール、早かったわね」
「私にとって姫のお召しは、何物にも優先いたします。しかし、よろしいのですか。そのようにはしゃいでおられては……」
「以前にも申し上げた通り、ジョゼ様個人に対する蟠りはございません。私の家族はもとより、家中の者が受け入れておりますのがそのよい証拠。姫殿下にあらせられては、折角の宴ゆえユベールさんも招きたいと仰せでしたので」
「それは……お気遣い痛み入ります」
うーん、まだ硬いなあと思っておりましたら、ジョゼ様が彼の手を取り宴の輪の中に連れ込みます。その時の姫様の笑顔ったら、ユベールさんのことが好きなのがよく分かります。
「ケイト、彼を連れてきたのはそういうことなのか?」
「そういうことらしいですわよ」
ジョゼ様の嬉しそうな顔を見てオリヴァーも何かを感じたようで、私に確認をしてきました。話の主題を抜きにして意思疎通が出来るとは、私も意外とやれますわね。
「そうか……そんなところだろうとは思ったが、ジョゼフィーヌ様の留学にはそんな事情があったのか」
「なので、私がこの国でジョゼ様の友人第一号です」
「いいことだと思う。はっきり言ってしまえば、我が国はブロワーズと友好関係が結べなくても現状維持なのだから何も困ることはない。だが、彼らにしてみれば我が国や他国とのパイプを持つ人物は貴重だ。それが姻戚関係ではなく、個人的なつながりならば尚更」
「まだお会いして日も浅いですが、彼女の資質に問題はございませんし、友人関係を続けるのに問題はないかと」
宴の輪からやや離れたところで、オリヴァーにこれまでの経緯をかいつまんで話します。元々他国の方が留学に来られる理由は結婚相手探しがメインなのでそれほど驚くことではありませんでしたが、わざわざリングリッドを狙いにくるとは露骨だねえと苦笑いしています。
「ま、ケヴ兄様はこれで売約済みだし、ネイ兄もパティとよろしくやっているみたいだし、そもそも割って入る隙はありませんけどね」
「それはどうかな」
「お父様?」
オリヴァーと2人でいるので皆さん近づくのを遠慮していたようですが、赤ら顔のお父様にはそんなもの関係なかったようです。むしろその顔は『オリヴァー君、ちょっと距離が近すぎんじゃねえか、ああ゛ん?』と言っているようです。
「これはマルーフ卿、本日はお喜び申し上げます」
「うむ。オリヴァー君にもよろしく頼むよ。それはそうと、先ほどの話だが」
「お父様、立ち聞きとは行儀がよくありませんわ」
「そう言うなケイト、これは大事な話じゃ」
若干酔ってはいるものの、その判断が鈍っているとまではいかないようで、先ほどの私達の話、ブロワーズがコンタクトを取ろうとしている話に言及します。
「ケイトがジョゼフィーヌ殿下と昵懇になるのは個人の関わりゆえ悪い話ではないが、彼女の人脈を増やすためにそなたが手を貸すとなると事情は変わってくるぞ」
「何らかの影響があると仰りたいのですね」
お父様の見立てでは、私が手を貸すことが明らかになれば、その話、つまりジョゼ様がリングリッドと繋がりを持ったということは当然ブロワーズ本国にも伝わるはず。そのとき、彼女に対して本国から何らかのアクションが起こる可能性があると言います。
「力ずくで言うことを聞かせようと?」
「どのような手を使ってくるかは分からんが、そういう可能性もあるだろうな」
それによって我が家に害が及ぶ可能性があれば、当主として排除に動かねばならんとお父様は仰います。
「無論そうなるかどうかはケイト次第であるが」
「承知いたしました。お父様のご懸念とならぬよう注意してまいりますわ」
「オリヴァー君も娘のことを頼むぞ」
「お任せください」
その返事が満足いくものであったのか、ちょっと酔い覚ましに風に当たってくると言ってお父様は去って行かれました。
「お父上はケイトのことが気が気でないんだね」
「まあそうですわね。本来なら無理にジョゼ様と友人になるメリットはありませんからね」
「それでも困った人を放っておけない娘の質だからと見守ってくれる」
「理解のある両親でありがたいことです」
「それならば僕も一肌脱ぐ事にしようかな」
「何をなさるので?」
「ケイトは今宵もジョゼフィーヌ様たちと女子同士の内緒話だろ。ならばこちらは男同士で腹を割って話し合いだ」
それはまあ、何というか、拳で語り合う的な?
「違う違う。ユベール君の気持ちを聞き出そうかと思ってね」
「そんなに簡単に心を開きますかね」
「見てごらん、ケヴィン殿やネイサン殿、それに騎士団のみんなにジャンジャン飲まされてるね」
酒の力をもって、酔いが覚めぬうちに本心を話させようということですか。オリヴァーにしては随分雑な手段を用いますね。
「そうは言っても酒を交わしながらが一番話しやすい。まあ期待して待っていてよ」
「ならば頼みますね」
そうしてへべれけになったユベールさんを連れて、ケヴ兄とネイ兄、オリヴァーが寝室へと向かったのを見届け、私はジョゼ様とグリゼルダ様をお誘いします。
「お二人もそろそろお休みになりませんか」
「それは構いませんが……ユベールが」
「少々お酒が入りすぎたようですが、お兄様やオリヴァーが付いてますから大丈夫だと思いますよ」
「ならよいのですが、ご迷惑ではありませんか」
「お誘いしたのはこちらなのです。それに皆もお話しできて楽しかったようですし、何も気になさることはありません」
「リングリッドの皆様は大らかなのですね。母国ではちょっとしたミスでも『これだから育ちの悪さが』などと嘲笑われたものですから」
「この国にいる限り、そんな思いはさせませんよ」
ということでジョゼ様はコチラにお任せされますので、ユベールさんのことはお願いしますよ、オリヴァー。
◆
<オリヴァー視点>
「ですからぁ~、ジョゼ様はみなしゃんが思うような御方ではありましぇーん!」
ケイトに任せるといった手前、任されるのは当然なのだが、コイツ絡み酒だったか……
「オリビャー殿、聞いてましゅか!」
「聞いているよ。うん、ジョゼフィーヌ殿下はしっかりした女性だ」
「そうそう、見ると聞くとじゃ大違いだ」
私をフォローしようとケヴィン殿が合いの手を打ったのだが、ユベール君にとってはそれも気に入らなかったようだ。
「見ると聞くとぉ~? 聞いたことあるんでしゅか、姫しゃまは離宮のいちばん奥でぇ〜、誰とも触れ合うことも無く、国内の貴族ですら『あ、いたの?』ってくらい存在が認知されてないんでしゅ! 他国のあにゃた達が知るわきゃないでしょー。ヒグッ、ヒグッ……」
ネイサン殿がコソッと私に「コイツ酒癖悪すぎだろ」と耳打ちしてきて、全くもって同感だと思っていたら、それにも絡んできた。地獄耳も持ち合わせてんのかい。
「でゃ〜りぇが飲ませたんでしゅか。あにゃた達が飲め飲めと注いでくるからでしょーが」
「その割には調子よく飲んでたけどな」
「あれだろ、姫様の手前カッコ悪いところを見せたくなかったんだろ」
「…………今姫しゃまの悪口言いまちたね」
なんだ……今度は怒り上戸か? 悪口なんか言ってないのに。
「姫しゃまを悪く言う奴は許しゃにゃい! 俺が斬り捨ててくれる!」
「勝てるの? 見る限り君もまあまあ出来そうだけど、ここ、リングリッドの邸なの分かってるよね?」
ケヴィン殿が冷静にツッコむと、ユベール君が今度は泣き出した。精神不安定すぎるだろ……
「分かってましゅ、分かってるんでしゅ。レセプションのとき、姫しゃまをお守りしようと前に出たはいいが、キャシャリン様に睨まれただけで動くことも出来なきゃった……」
人の婚約者を大蛇みたいに言うんじゃないよ……
「もっと強くなって姫しゃまのお役に立ちだいんでしゅ……あの方が幸せになるお手伝いがしたいんでしゅ」
「分かった分かった。ユベール君がジョゼフィーヌ殿下のことをお慕いしているのはよーく分かった」
「ホントでしゅか?」
「ああ。君が姫様を大好きなのはよく分かったぜ」
「にゃにゃにゃ、にゃにを言うのでしゅか! 好きなどと畏れ多い!」
酔っ払いが図星を突かれてアタフタしだしたぞ。面白いなコイツ。
「姫しゃまを好きだなんて言ってはなりましぇん」
「そうか? 俺はグリーに好きだよっていつも言ってるぞ」
ケヴィン殿、それは言っているというか、言わされているのでは?
「あにゃたは婚約したんだからいいんでしゅ! 私では身分が違いすぎましゅ!」
「じゃあ君が婚約しちゃえば?」
ユベール君が酔っ払っているのをいいことに、ネイサン殿がとんでもないことをブッコんできた。
「いやいやいやいや、にゃにを言い出すんですか! 私が? 姫しゃまと? ありえましぇんよ、私がどうしたら姫と婚約などという話になるんでしゅか!」
「いや、『身分がー』って言ってたから、それなら俺も一介の騎士だけど、王女殿下と婚約するんだぞ」
「ケヴィン殿とは条件が違いすぎましゅよ……」
「じゃあ、誰かが余計なお節介を焼いて姫様の婚約相手を見つけてきたらどうする? 可能性がないわけではないぞ」
「姫しゃまが望んだ上で幸せになれる相手を見つけてほしいと思ってましゅので……もしそれを望まれるならば……」
「本気でそう思ってる?」
「しょれは……」
こちらの問いかけに言葉を濁すユベール君。本来親や国が相応の相手を見繕うところ、自身の手で婚約者を見つけてこいという無理難題。当然そんな簡単に見つかるはずもないし、何より姫本人がそれを望んでいないことを知っているものの、王女という身分である以上、いつまでも独り身でおられるわけにもいかない。もし縁があればとは言うものの、心の底ではそれを嫌がっているようだ。
「姫が……結婚……そうでしゅよね、そのために来たんでしゅよね……」
色々な思いが心の中で交錯し、まだ見ぬ未来のことをブツブツと呟くユベール君であったが、次第に目がトロンとして、うつらうつらとし始めた。
「姫しゃま、姫しゃまがどこへ行かれようとも、私は終生お仕えするつもりでしゅよ……姫しゃま……ムニャムニャ……」
「寝ちまったな」
「飲ませすぎたか」
「あちらでの生活を聞くに、あまり宴の類には参加していなかったようですしね。今日はこれくらいでよろしいのではありませんか」
ユベール君の気持ちはよく分かった。基本的には親愛の情というか主として慕っており、姫様が幸せになることを誰よりも願っているのは間違いないが、それだけではなく、単純に好きという感情も大いに持っている。ただ、身分の違いを意識して壁を作ってはいるようだが。
「強くなりたいってんなら鍛えてやるか?」
「ダミアンのいい稽古相手になりそうだしな」
ケヴィン殿とネイサン殿がなにやら企んでいるようだが、彼がそれを望んでいるならばきっと良い経験になるかもしれない。
「しかし、まあ、なんだ。酒はあまり飲ませない方がよさそうだな」
「同感です」
「オリヴァー君、これ、今回限りにしようぜ。また絡まれたら面倒くさい」
「了解です」
恋なんてものは他人が余計なことをしないほうがいい。僕だってジェームズ殿下やアリス、両親に散々な目に遭わされたからな。
でも、他人の恋になると途端に応援したくなるのはなんでだろう。
ケイトも同じ気持ちだから手を貸そうとしたんだよね。
お読みいただきありがとうございました。
次回は11/27(土)投稿です。
コロナの影響も少なくなってきて、社会全体の経済活動が活発になってきました。各企業も次々にイベント、プロモーションなどが動き出し、かく言う私も止まっていた企画が再始動したわけですが、みんなが同時に動き出したためか、実は平時より忙しかったりします。
こんなご時世だからこそ、皆様もお体に気を付けていただき頑張っていきましょう!
(決して執筆遅延を予告するフラグではありませんw)




