山椒姫、頭が痛い
「あの……1つよろしいでしょうか」
「何でしょうか、グリゼルダ様」
ここまで黙っていたグリゼルダ様が、ジョゼ様に聞きたいことがあると声を発します。
「個人的に友人を作るというのは理解しましたが、王国の狙いとしては誰か適当な結婚相手を見つけてこいという目的で送られて来たのですよね?」
「そうですわね。でも、そんな相手が見つかると思いますか?」
何の権力も持たず、家の益になるかも怪しい斜陽の大国の第六王女。メリットが見つからない割に、結婚してしまえば一応王族なので無駄に扱いに困るし、何よりブロワーズ側から無理難題が飛んでくる可能性が非常に高い。しかも友好度は最低レベルとあっては好き好んで娶る相手がいるわけないでしょうと自虐的に笑うジョゼ様ですが、国を出るときにその無理難題を課されたわけですよね?
「守旧派の方々は無理だと思っているけど、万が一上手くいったら困るから革新派に連なる高位貴族の子弟を一人も同行させなかったのよ」
王女の留学だというのに連れは先日のレセプションで同行していた男子学生と、今日同行しているメイド1人のみと寂しい陣容。アデル様が留学したときは私やヒラリー様のような腕自慢がいたので少数精鋭でもどうにかなりましたが、ジョゼ様はそれに輪をかけて人が少ない。
本来なら革新派の貴族の子弟を同行させたかったのでしょうが、守旧派の妨害というか、人選に口出しを受けたのでしょう。あの男子生徒は執事的なポジションで、ジョゼ様のことをしっかりお守りするという意気込みは感じましたが、身分はあまり高いようではなく、異国で王女と他国の方の橋渡しをするには1人では荷が重いというものです。だからこそジョゼ様本人がやる気を出して、望まぬ方向に話が進まないように、余計なことをして拗れるくらいなら最初から大人しくしていろと言ったのでしょう。
「革新派の皆様も、その状況でどうやって相手を見つけろと言うのですか? 土台無理な話ではありませんか」
「そこは女にしかない武器、色仕掛けで落とせと……」
「仮にも王女殿下に向かってそのような言い方とは……」
ジョゼ様はアリス様の清廉さや、アデル様のキリッとした美貌とはまた違った雰囲気、何というか、素朴でほんわかとした……あまり褒め言葉になっていませんね。
正直に言うと飛びぬけて華やかというわけではございません。ただそれは、彼女の身なりに費やされる予算が少なく、王女の装いとしてはかなり地味に映るからであって、その落ち着いた雰囲気や仕草は女性らしさを引き立たせているし、素材は悪くありません。磨けば光るというやつですね。
それにスタイルはとても良い物をお持ちです。それこそ革新派の貴族が女の武器を使えと示唆するくらいにはデカいものをお持ちです。女の魅力はそこだけじゃない! と言いたいところですが、私が言っても説得力が皆無なので、何がどう魅力的なのか、具体的な場所の言及は控えさせていただきます……
ですので見た目だけなら彼女を好みそうな男性は実際にいそうなので、本気で色仕掛けをすれば相手の1人や2人くらいは簡単に見つけられそうで怖いですが、それを一国の王女に要求する臣下って何様なのでしょうか。
おそらくは姫様が色仕掛けをしたことは隠匿しつつ、相手の男性に「責任とれやコラ」とやるつもりなのでしょうか。やり方がそのへんの破落戸とほとんど変わりありません。最終的には金銭的な要求というところも変わらないでしょう。違うとすれば、自国の王女を傷物にしたという負い目で外交交渉を有利に進めるとか、その後の利益供与というところで有利に動かせるといった規模の大きさくらいでしょうか。
「彼らも必死なのでしょう。自分たちのやろうとしたことの道筋がようやく開けたと思ったら、その役目に選ばれたのが私ですからね。なりふり構っていられないといったところでしょうか」
本当だったらしっかりした家柄の出である正妃や即妃の子を候補にと望んでいたのに、選ばれたのは元使用人を母に持つ第六王女。ジョゼ様の話を聞くだけで、革新派の面々が落胆した様子が良く分かります。当然心ないことを多く言われたのだろうと心中お察ししますが、彼女はそんなことはおくびにも出さず随分と平然としておられます。
「元より彼らに従う気はありませんから。だからと言って言うことを聞かない私の首を挿げ替えようと危害を加えるものなら、すぐさま守旧派に『ほら見ろ』と、留学の計画自体潰されるでしょうから手出しされる危険も少ないと見ています」
姫様は言いなりで政略結婚の相手を見つけるつもりはなく、かと言って守旧派の要求通り大人しくするつもりもなく、自身の将来にとって有益となる友を見つけるために来たと仰います。
「それが難しいことは重々承知しています。でもあの国を出られただけで、私は背中に羽が生えたような気分なのです。例え成果が得られなくても、それだけでもこの国に来た甲斐があるというもの」
本国の両派閥からは今後も色々と言ってきそうな雰囲気はあるようですが、そこは両派のパワーバランスを上手く突いて切り抜ける所存のようです。もっとも我が国内で乱暴狼藉を働こうものなら私達が許すはずもないということも計算に入れて、自身の望む行動をするつもりなのでしょう。
「ちなみに彼らが望むもの。キャサリン様は何か分かりますか?」
それはこれまで希薄だった他国、とりわけトランスフィールドとの繋がりということでしょうか。
「その通りです。革新派が繋がりを求めたために私が派遣されたわけですが、その一番の候補は……リングリッド家。キャサリン様のご実家よ」
「ウチですか……!? となると、求められているのは武力的な支援……血生臭い話になりそうな予感ですね」
「確実にそうですね。リングリッド家の武力支援を背景に自国の安定を図り、その功績によって発言力を強めようという魂胆ですね」
今後ベルニスタが侵攻してこないという保証はどこにもない。かと言ってひとたび有事が発生すれば周辺の小国を支援する力は持ち合わせないとなれば、頼るのは我が国。これまでは我が国の好意で小国群の支援を行っていたが、これをブロワーズ、とりわけ革新派の面々の主導で導いたということにして、小国に対し宗主国のメンツを保ちながら、発言力を強めようということでしょうが、残念ながら我が家は国内でも最もブロワーズへの心証が悪い。私個人のジョゼ様との繋がりはともかく、周囲は間違いなくそう見ている。あちらだってそれは百も承知でしょうに、何をどうしたら繋がりが持てると算段したのでしょうか。
「だから色仕掛けで強引にねじ込め。というわけよ」
「しかし当家はすでに跡目は決まっておりますが」
「もちろん知っているわ。長兄のフィリップ様には妻子がおり、奥方はたしか第二子をご懐妊中。でも……その下にお二人ほど、未婚の方がいらっしゃいましたよね」
うん、いる。たしかにいる。いるにはいるのですが、私は反応に困ります。だって見てごらんなさい、グリゼルダ様の表情が見る見るうちに戦闘態勢に入っていますもの。
「お名前は……次男がケヴィン様で三男がネイサン様。でしたか」
「ダメですダメですダメです! ケヴィン様は絶対にダメです!」
ジョゼ様は兄2人がどういう身分であるかもすでにリサーチ済みのようで、婚約者がいないことまで調べが済んでいるようですが、その名前が出た途端、肉食姫様が猛然とジョゼ様に食ってかかります。
お兄様、まさか貴男が他国の王女様、それも2人から結婚相手の候補として見られる日が来るとは。モテ期到来ですわね。
妹としては頭の痛い話で全く喜べませんけど……
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次回は11/13(土)投稿です。
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