山椒姫、姫の真意を問う
「ブロワーズのジョゼフィーヌ王女か……」
アリス様と打ち合わせ後、本日はギャレット邸でお泊まりすることにしました。もちろんイチャイチャ目的ではなく、今後の対応についてオリヴァーの意見を参考にするためです。
「そんなに険悪だったのかい?」
「少なくとも他国の皆様から仲良くしようとする雰囲気は感じませんでした」
オリヴァーもやはりそこは懸念していたようで、ブロワーズアレルギーとでも言うべき皆様の反応を聞き、難しい顔をしています。
「このような話を持ち込んでしまい申し訳ありません。本来なら学園内で解決すべきなのでしょうが」
「気にするな。事は学生本人同士だけの話ではないから。それにケイトに頼られて僕が嫌な顔をするわけがないだろう」
そう言ってニコッと笑うオリヴァー。アリス様に言われたとおりの反応なので、こちらもクスッとなってしまいます。
「ジョゼ様に一年間肩身の狭い思いをさせるのもしのびないのですが、無理にくっつけようとしてハレーションを起こすわけにもいきませんし、かといって空気の悪いまま放置するわけにもいかず思案のしどころです」
「その通りだね。仲良くなってほしいとは思うが、無理に積極性を出すのは悪手だろうね。少しずつわだかまりが解けるようになるのが理想的だね」
オリヴァーは近々開かれるであろう各国の留学生主催のお茶会を、その機会の手始めにしてみたらどうかと言います。
「お茶会?」
「おそらくレセプションの返礼で開かれるだろう。少しずつジョゼフィーヌ様の考えが広まれば、次第に仲良くしてもいいと言う者も現れるはずだ」
ただその前に、ジョゼ様の考えは把握しておかないといけないという注釈付きですが。
「当然ですね。本人がその気も無いのに勝手に動くわけにいかないですからね」
「近いうちにジョゼフィーヌ様と内々にお会いして話を聞いてみるといい」
オリヴァーの考えは私のそれとほぼ同じでした。ならば聞くまでもないとは言わないでください。信頼する方に自身の考えのお墨付きをもらうというのは心強いものですから。
◆
「本日はお招きにあずかり、ありがとうございます」
「今日は内輪の集まりです。ジョゼ様もそう堅苦しくなさらず」
それから数日後、リングリッド邸にて私、グリゼルダ様、ジョゼ様の三人で個人的なお茶会を開きました。
「いえ、お誘いいただけただけで有り難いです。実はこれがこの国に来て初めて個人的なお誘いを受けた話なんですよ」
私も数多く誘われておりましたので、他の国の方が入学式の前から既に色々な繫がりでもって集まりを開いていたことは知っています。半分くらいは例の使用人選びとか、オリヴァーとのデートとかで都合が付かず不参加でしたが。
にもかかわらず、ジョゼ様には一つもお声がかりが無かったらしい。彼女個人の人格とかは関係なしに、ただブロワーズの王女だからという一点のみで。どうせ誘わなかったことを責めても「私どもは卑しい身分ゆえ、栄えあるブロワーズの王女様をお招きするなど畏れ多い」とか適当な言い訳をする気なのでしょう。
そんなわけでお誘いをしましたら、すぐにでも伺いますと乗り気のジョゼ様。人に知られないよう内密に話をしたいので、即決とはいかず慎重に日取りを決めたのですが、そもそもジョゼ様に声掛けをしない=彼女のスケジュールなど誰も気に留めていないということなので、今日は人知れずお招きできたわけです。
「よって邪魔立てする者はおりません。ジョゼ様と腹蔵なくお話しが出来ればと思っております」
「ということは、お茶を飲みながら流行だの殿方の噂に興じるという雰囲気ではないようですね」
ジョゼ様はここまでのやりとりで、今日のお誘いの目的を理解いたしました。ぞんざいな扱いを受けていたとはいえ、やはり一国の王女たる教養はお持ちのようで安堵しました。「難しいことはよく分かんなーい」と脳天気な発言をするようであれば、やろうとしていることの前提が全部覆ってしまいますからね。
「ならば単刀直入に伺います。今回の留学で姫様が得たいものは、ブロワーズが再び覇権を握らんとする算段か、それとも真に各国と友好を結びたいためなのか」
「覇権を取り戻すために画策すると答えれば……何といたします?」
「我が国の害となるならば、徹底的に排除いたします」
私の問いかけに真意を悟られぬよう、一切の感情を排した顔で答えるジョゼ様。そこらへんのお嬢様なら、私が言葉を発した時点で間違いなく怯むくらいには威圧感を出したつもりですが、全く動じていません。もしくは、それすらも悟らせぬよう感情をコントロールする術を知っているのか。どちらにしても肝の座った方かもしれません。
およそ令嬢のお茶会とは思えぬ重苦しい雰囲気が漂う中、その空気を破ったのはジョゼ様。
「ええ、私がキャサリン様の立場だったとしても当然そう答えますわ。ふふ、心配なさらず。残念ですが私一人ごときの力で覇権を取り戻すなど出来るわけもないでしょう」
そもそも守旧派からは余計なことをするなと言われており、彼らのために動くなど毛頭考えていないとのこと。
「では目的は」
「強いて言うなら各国、とりわけトランスフィールドの皆様と親善を深められれば」
「でも、あまり乗り気ではなさそうですね」
「考えてみてください。何の力も後ろ盾も持たない穀潰しと蔑んでいた私に、今になってお国のために尽くせと。虫のいい話ではありませんか」
各国と交流することはジョゼ様も望むところ。その考え方は革新派に近いようですが、結局のところ彼女が身を粉にして我が国の貴族と婚約を果たしても、美味しいところは国内で安穏としている彼らの手に収まり、姫様は彼らの良いように使われるだけで、もし用済みとなっても既に他国に嫁いだ身と気にかけられることは無いでしょうと読んでいるのです。
「その状態で結婚生活が安泰だと思われますか?」
「政略結婚ってのは双方にメリットがないと難しいですよねえ……」
「ですので私は、私個人との友好を結んでいただける友人と呼べる方を作りたいのです」
政略結婚であればジョゼ様の与り知らぬところで婚家に話が持ち込まれることになるでしょうが、個人的な友人関係であれば、必ずジョゼ様の手を介さなければ話が進みません。自ずとそこに彼女の存在意義が生まれてくるわけです。
「とはいえ、スタートがマイナスに振り切れた状態ですからね……皆様のブロワーズを見る目が厳しいのは承知していましたが、国内にいるとどうしてもバイアスがかかるというか、そこまで辛辣な物言いはされないだろうと心のどこかで楽観視していた自分がいたのは事実なので、この国に来て現実を見せつけられた感じです」
「レセプションの場でいきなりやられましたからね」
「ええ、ですが彼女たちの言い分はもっともです。我が国のこれまでの姿勢や対応を見れば腹が立つのも仕方ありません」
「こう言っては失礼ですが、ジョゼ様は本当にブロワーズ王のご息女なのでしょうか?」
「あら、ブロワーズの王女にしては随分と現実を直視出来ていると言いたいのかしら」
言葉にトゲはあるものの、ジョゼ様の表情は「貴女中々言うわね」と、私のことを面白がっている様子です。
「中には選民思想に取り込まれた者もおりますが、貴族たちの横柄な振る舞いに、『いつまで過去の栄光にしがみついているんだよ』と感じている平民は多くおります。私の母もその1人」
姫様の母君は王宮の使用人でしたが、平民の出ゆえ貴族出身の使用人との間ですら見えない壁があったとか。使用人同士ですらそうなのですから、王族や高位の貴族からはぞんざいな扱いを受け、王の子を身ごもり形ばかりの側室待遇になってからもそれは変わらなかった。ゆえにジョゼ様には選民思想に染まらぬよう、広く外に目を向ける力を養うようにと常々仰っていたそうです。
「革新派と言っても根底にはブロワーズが一番という思いがあるのは同じ。国を変えたいと願っているのは本当なのでしょうが、実際は自分たちが上に立つために一時的に他国の支援を得たいだけ。あの国は私にとって息苦しくて仕方ありません」
なのでジョゼ様は、たとえ状況が厳しいものであっても、自分の目で外の世界を見ることが出来るとあって、今回の留学に関して非常に嬉しかったそうです。ただ、それを前面に押し出すと派閥間の争いに巻き込まれるので、表面上は何の力もない王女が渋々命を受けてやって来たという体で留学してきたらしい。
「おかげで他国の方が私の国をどう評しているのか、早速生の声が聞けたし、キャサリン様やグリゼルダ様に顔も覚えていただけましたし、悪いことばかりではありませんもの」
「前向きですね」
「王宮にいたときはどちらが前かすら分からなかったので」
なるほど……祖国の考えに染まらず自らの考えで進んでいこうとするその姿勢と、割と強かな性格からすれば、国家間のわだかまりが解消できれば個人的に仲良くしてくれそうな方は学園内にも少なくないでしょう。
これは協力のしがいがありそうですね。
お読みいただきありがとうございました。
次回は11/10(水)投稿です。
よろしくお願いします。




