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山椒姫、新入生を歓迎する

「みなさん入学おめでとうございます。生徒会長のアリス・ラザフォードです」


 学園は昨日から新学年を迎え、今日は入学式。在校生、新入生に加え、各国からやってきた留学生達も一同に顔を揃えていらっしゃいますので、例年に増して警備が厳重。第一騎士団からも多くの騎士が会場警護にやって来ており、ケヴ兄、ネイ兄も担当として目を光らせております。


 そんな中、留学生の列にいるグリゼルダ様。声を上げたり手を振ったりしないだけ、さすがに自重はしているようですが、ケヴ兄の姿を見つけてからはそっちばかりを見つめていて、壇上なんか一度も見やしない。


 留学生の列を見てみると、彼女はともかくとして、あからさまに退屈な表情をしている方が何人かおられ、おそらく本人の意思とは関係なく、祖国の意思による不本意な留学なのだとでも言わんばかりでございます。

(やる気とか熱意は本人次第ですから、こちらとしては問題さえ起こさなければ構いませんけれども、国を代表して来ているというのに困った令息令嬢というのはどの国にもいるものですね……)




「……ご存じの方も多いと思いますが、私はジェームズ殿下と婚約をいたしておりますので、残念ですがあまり学園に顔を出す機会は多くありません。その代わりに、これから1年間はここにいる者が生徒会の職務を主に執り行いますのでご紹介しましょう。まずは副会長のキャサリン・リングリッド辺境伯令嬢……男爵と紹介した方が良かったかしら?」


 アリス様が私を紹介すると、事情を知らない新入生をよそに在校生、特に私が男爵様と呼ばれるのが嫌いなことを知っている同学年の皆さんから笑いが零れます。


「オホン……只今ご紹介にあずかりました副会長のキャサリン・リングリッドです。この学園は貴族平民の別なく志ある者が集う学び舎であります。私も男爵に叙爵されてはございますが、皆様と等しくまだまだ学ぶ身であり、共に切磋琢磨する仲間として、この1年間皆様の学生生活のサポートを務めさせていただきますので、よろしくお願いします」

「よっ! 山椒姫」

「……今、茶々入れた人、後で生徒会室呼び出しね」


 合いの手のごとく茶々を入れてきた男子生徒に向かい冗談半分でそう言うと、会場からどっと笑いが起こり、新入生達もそれにつられてクスクス笑い出す方が現れて緊張がほぐれたようです。


 アリス様の男爵のくだりから全て仕込みです。新入生を歓迎する手はずは貴女に任せると言われましたので、堅苦しいことが苦手な私が採った方法がこれ。素であんな茶々を入れられた日には、あの方は人生の終着点に直行しているかもしれませんでしょ?


「新入生の皆さんも緊張が少しは和らいだかな? 先輩方は楽しい方が多くいらっしゃいます。もちろん人と人とのつながりなので礼節を軽んじてはなりませんが、それも含めての学びの場です。先生方、先輩方は厳しくも温かく皆さんを導いてくれますので、失敗することも多くあるでしょうが、大いに学び、将来祖国の柱石たらんとする人物に育つよう、皆様の成長を期待しております」


(パチパチパチパチ……)






「前代未聞の入学式ね」

「入学式の挨拶で仕込みを入れるって斬新でしょ」

「斬新すぎて貴女以外には出来ないわね」


 入学式が終わり学園内のサロンで休憩中に、アリス様からお褒めの言葉(?)をいただきます。ですが、斬新という意味ならこの後開かれるレセプションも今までにない趣向を凝らしていますよ。


「国内の学生は元より、各国からの留学生をおもてなし致しますので、今年は国際色豊かですよ」

「ケイトのことだから各国の名物料理を集めました! ってところでしょ」

「よく分かりましたね」

「何年友達やっていると思ってるのよ」


 レセプションは前年の役員の皆様がおおよその準備を済ませており、新しい役員は細部の調整と当日の運営が主な仕事。とはいえ実務に関しては学園で執事や侍女となる勉強をしている在校生が主となっており、私に近い人物で言えばエマやサリー、ヘレンなどが中心になって担当しています。


 折角各国から生徒が集まっていますので、国際色豊かな会にしようと思い立ち、私のアイデアを披露しましたところ、すでに大枠は決定しているものの、食事などは当日調理するわけで変更は可能だとのことで、急遽ラインナップを大幅に変えてもらった次第です。


「本当ですよ。人使いの荒い方です」


 アリス様と話しているところにエマとサリー、ヘレンが会の準備が出来上がったので、そろそろ支度をお願いしますと声をかけに来ました。


「エマ、サリー、それにヘレンさんもご苦労様。ケイトの無茶ブリによく応えたわね」

「そうですよ。急に食事のオーダーを変えると仰るから料理長と調整するのが大変でした」

「これからいくらでも課題問題が降って湧いてくることが多々ありましょう。侍女たる者、いかなる変化にも対応できる即応性が大事です」

「……ヘレン、仕える主人を間違えたんじゃない?」

「そう思っていても口に出さないのが侍女の務めかと」


 ヘレン、それは暗に間違えたと言っているようなものですが……そこは否定してよ。


「まあまあ、貴女達が優秀で応えられると判断したからこそケイトもお願いしたんでしょうし、現に準備が滞りなく終わったのであればそれが間違い無かったと証明されたのだもの。胸を張って良いと思うわよ」


 彼女達の労をねぎらいつつ、会場へ参りましょうと言うアリス様に続いて会場へと向かうことにします。学園の新入生・留学生を迎えるレセプションですので、服装は制服のまま。貴族がドレスで着飾っては平民の皆様が萎縮してしまいますからね。






「豪華というには程々、かと言って貧相でもなく、バランスの取れた感じね」

「ほとんどは前任の役員の皆様の仕事ですけどね」


 ほとんどの準備は前年の役員の皆様が行ったものであり、他国から留学生が多くいらっしゃることは既に周知の話でしたので、それに相応しいベースは出来上がっていたのです。私達はそれに多少のアレンジを加えたわけですが、余計なことをし過ぎてバランスが壊れないようにというのが一番気を使ったところですね。アリス様から合格点を与えられて、みな安心した表情をしています。


「ケイト様の無茶ブリでどうなることかと思いましたが」

「でもおかげでお食事は十分各国の皆様にもお召し上がり頂ける内容になったでしょ」


 特に修正を加えたのは料理の種類。我が国の料理のみならず、留学にいらした皆様の祖国の伝統料理などをメニューに加えて、どなたでも気軽にお召し上がりになれるようにしました。


「他の国の料理を通じて、各国の文化交流の一助になるという狙いもあるわけね」

「美味しい物を一緒に食べるのは仲良くなる第一歩です」

「参加者の皆様もお腹を空かせているようだし、そろそろ開式の挨拶をしないとね。行くわよケイト」

「はい!」


 平民出身の皆様は、目の前にある豪華なお料理に目を輝かせております。学園に入学するくらいの教養をお持ちの方々ですから、我慢できずに飛びつくというような不作法はございませんが、あまりにもお預けの時間が長いのはかわいそうですので、アリス様に促されて他の役員と共に壇上に立ち、開式の挨拶を行います。






「山椒姫様にお声がけいただけるなんて光栄です」

「うふふ、同じ学園で学ぶ同士ですもの。困ったことがあったら遠慮無く相談にいらっしゃいな」


 会が始まると私は会場をあちこち回り歩きながら、貴賤を問わず新入生、留学生の皆様と言葉を交わすわけですが、数が数なので効率を考えてアリス様とは別行動です。彼女は王太子妃になる方とあって挨拶に伺いたいという方が列を成しているので、その輪に加われない皆様――アリス様に近づくのは畏れ多いと感じる下位貴族や平民の子弟――を私がフォローして回る感じですね。


「お姉様、ごきげんよう」

「グリゼルダ様もお楽しみですか」

「ええ。各国の名物料理が堪能できてとても有意義ですわ」

「そう言って頂けると嬉しいわ」


 途中で私の姿を見つけたグリゼルダ様が声をかけてきました。彼女は元々祖国の農業や食糧事情などに造詣の深い方なので、他国の料理にもヒントになる物は無いかと、積極的に各国の留学生の皆様と交流を深めているようです。


「これはお姉様の手配なんですよね?」

「どうしてそう思ったの」

「鉱山焼きが出されていましたので。この場でこれを知るのは私とお姉様くらいですもの」


 姫様は状況をよく見ておられますね。今回ノルデンの郷土料理として紹介した1つに鉱山焼きを入れているのを見てお気づきになったようです。


「オーク肉が手に入るか微妙だったんですが、ケヴ兄様に狩ってきていただきましたのよ」

「……今何と仰いました?」

「え? ケヴ兄様が狩ってきたオーク肉ですよ。と」

「お姉様、そのような重大事項を何故言わないのですか!」


 あー、姫様が弾けました。あまり強調しないようサラッと言ったつもりでしたが、やはりケヴ兄という単語には敏感に反応されるようです。私も今回は分かっていて言いましたけどね。


「ほらほら姫様、早く行かないと無くなってしまいますよ」

「もちろんです。自国の料理だから皆様にお召し上がり頂こうと思いましたが、そういう話なら事情は変わります。大皿全部私がいただきますわ!」


 一国の王女が大皿抱えて全部平らげるというのはどうなんでしょうと思いましたが、その時は私達も一緒に頂けば大丈夫かなと思い、ヘレンと共に鉱山焼きの置いてあるテーブルへと向かいます。




「はわわ~、ケヴィン様の味がしますわ~」

「どんな味ですかそれ……」


 ケヴ兄の狩った肉と知って食べるとより一層美味しく感じられるようで、グリゼルダ様の食欲が止まりません。一人で全部食べられてはデブまっしぐらなので、周りにいる新入生の皆様にもノルデンの名物料理ですよと勧めますと、皆様も美味しい美味しいと食べた方がまた別の方に勧め始めます。


「こちらの国でも受け入れられているようで嬉しいですね」

「美味しい物は万国共通ですよ(パリンッ!!)」


 姫様とそんな話をしていると近くで皿が割れる音がしましたので音のする方を見ると、状況はよく分かりませんが、とある留学生の方が持っていた皿を落としてしまったようです。




「あらあら、このようなところでボーッと突っ立っておられては皆様の邪魔になりますわよ」

「お止めなさいな。所詮は歴史と伝統しか取り柄の無い国の娘。己の立場を分かっておられないのです」

「そうね。私なら恥ずかしくてこの場に顔を出すことも出来ませんわ」


 おいおい……空気悪くなるようなことするなよ。主催する立場にもなれってのよ。

お読みいただきありがとうございました。

次回は10/30(土)投稿です。

よろしくお願いします。

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[一言] >ケヴィン様の味 思い込みか舐めるなりなんなりで本当に味わったことがあるのか
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