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山椒姫、義姉妹が増えたも同然

「で、どういうことか説明してもらいましょうか姫様……」


 我が家の前に現われたのはグリゼルダ姫。留学のためにこちらに向かっているとは聞いておりましたが、到着の日程がどう考えても合わないのですが?


「馬に乗ってやって参りました」


 馬車ではなく馬ですと!? たしかに馬を走らせればこのタイミングで来ることは出来ますけど、いつそのような技量を習得されたのでしょうかと思いましたら、どうやらティハルト殿下に悪い虫が付かないよう煩い小姑を演じていた際に身に付けたらしいです。


 武に長けた殿下は馬術もお得意で、お近づきになりたいというご令嬢の中には「私も馬術の嗜みがありますのよ」と言って同じ趣味アピールする方も少なくなかったそうですが、そこはご令嬢の趣味レベルなので常歩かよくて速歩くらい。そこへ「乗れるってんならこれくらいは出来ますよね」と姫様が駈歩や襲歩を披露するといったやりとりがあったそうです。さすがに剣術の訓練は殿下から止められたようですが。




「ちょっと待ってください姫様。お付きの方はどうしたのですか?」

「ノルデンから騎士を何名か連れて参りました。あちらにおりますのがそうです」


 それは嫌でも視界に入ってますので分かります。国を跨ぐ距離を馬で駆けてくる姫様のお付き。本人の希望とは言え途中で落馬でもしたら一大事の局面を、なんとか無事に送り届けて憔悴しきった顔の面々が……


「彼らはこちらの騎士団で鍛えていただこうと思いまして」


 なるほど、そういう狙いもあるのですね。って、そうではありません。姫様の身の回りのお世話をする人達がいないではありませんか。まさか一緒に馬に乗ってきたと言うことはありますまい。


「お付きの者は馬車に乗ってそのうちに到着しますわ」

「それまでどうするつもりですか? まさか1人で身の回りのことをするわけにはいかないでしょう」

「それはほら、未来の旦那様のご実家があるわけだし」

「既に決定事項!?」


 突拍子もないことを考えつくお姫様だとは思いましたが、まさかしばらく我が家に逗留するつもりだったとは……


「そういうのは先触れを出すとか、事前に打診してもらわねば困ります!」

「そ、そうでしたわね。私としたことが浮かれすぎて大事なことを忘れておりましたわ。オホホホ……」


 絶対忘れていたわけではありませんよね。強引にやってくれば仕方が無いなと私が受け入れることを想定していたはず。予想に反して私が至極まともな反応を見せたものだから、取って付けたように誤魔化しているのでしょう。


「はぁ……来てしまったものは仕方ありません。誰か、姫様のお出迎えの準備を。それと、お母様にもご来訪をお伝えして」


 本来なら先触れがあったとしても問題は大ありなんですが、ゴチャゴチャ言っても始まりませんから、メイドに出迎えの支度などあれこれ指示を出して、姫様を邸に案内します。


「リリア、姫様をご案内してくれる?」

「はい、お姉様」

「ケイトお姉様、こちらのお嬢様はどなたですの? ソックリでしたので、てっきりお姉様かと思って話しかけてしまったのですが」

「グリゼルダ姫殿下にはお初にお目にかかります。リングリッド家の養女でリリアと申します。ケイトお姉様の義妹です」


 そこまで聞いて姫様ははたと思い出したようです。我が家には血の繋がりは無いのに、私に瓜二つの義妹がいるということを。


「こちらが……ええ、ええ、お姉様からお伺いはしていましたが、本当にソックリです。申し遅れました、ノルデン王の四女グリゼルダですわ。ケイトお姉様には大変お世話になりましたの」


 姫様が驚かれたとおり、リリアと私は瓜二つ。それは一年前の話ではないかと? 今もそうなんです。


 あれから私は10cmほど背が伸びたのですが、リリアもほぼ同じくらい背が伸びているんです。おかしい……彼女とは4つも年が離れているというのに、何故同じタイミングで同じように成長しているのでしょうか?


 なので見た目から体型、身長と今も見分けがつかないレベルでソックリというわけです。


「でも胸はリリアさんのほうが……」

「姫様、ちょっとその緩いお口を閉じましょうか」


 姫様が見てはいけないものを見てしまいました。まだ13歳だというのに、リリアが所有するお山は私をとうに飛び越えてグングン成長中。そのうちエマとサリーのエロティックシスターズに加入出来るのではないかというほどです。私? 聞かないでよ!

 

「やはりそうでしたのね。話しかけても貴女誰みたいな反応で、冗談でも言われているのかと思いましたが、胸のあたりがお姉様らしくないなぁと……」

「それ以上は言わないでください。地味にダメージです」


 私らしいって何よ……それ以上は抉らないで……



 ◆



「これは姫殿下、ようこそお越しになられました。マルーフの妻でオリビアと申します」

「突然の訪問で大変申し訳ございません」

「いいんですよ、ケイトから話は聞いてます。こんな可憐なお姫様がウチのケヴィンをねぇ……」


 お父様が不在中、邸の主は女主人のお母様ですので、姫様を引き合わせます。既にお母様にはケヴ兄様との話はしてありますので、突然の訪問ではありましたが、笑顔で応対しています。




 お母様も最初に話を聞いたときは、まさか自分の息子が他国の王女様に惚れられるとはと驚いておりました。ただ、そこは強い母でございます。お兄様の本気度を感じると、そこまで言うなら応援しないわけにはいかないでしょうと言ってくれました。


「旦那様に反対はさせないわ」


 お父様を説得する切り札ゲットです。お母様が味方であれば、お父様も否とは言えないでしょう。頭を掻き毟る姿が目に浮かびますけどね。


「さあさあ、あまり大したおもてなしも出来ませんが、留学の準備が整うまでは我が家でゆっくりご滞在くださいませ」

「お気遣い痛み入ります。お義母様」


 グリゼルダ様、ちゃっかりお義母様呼びです。お母様もあらあら気が早いわねなんて言うものの、まんざら悪い気はしていないようです。


「私もこんなお嬢様然とした娘が欲しかったのよね〜」

「娘なら既に二人もいるではありませんか」

「貴女達はお父様似のバリバリ武闘派だもの。姫様とはわけが違うわ」


 これですよ、この言いよう……これがリングリッドの流儀ですよ……






「それにしても……このように早い段階でよく出国のご許可が下りましたね」


 別れの際に言った「乗り越える壁は多くございます」という言葉。それは取りも直さずご両親である国王陛下、王妃殿下に兄のティハルト殿下をはじめ、皆様にご納得いただかねばならないということ。王女が嫁ぐとなれば、本当に相応しい相手であるかを見極めねばなりませんし、ましてや爵位の低い相手ともなれば、そう簡単に結論だったり許可が出るはずありません。


「それは……あれです。愛のチカラ、ってやつですね♪」

「本当ですか……?」


 そうですか、愛のチカラですか。……ってそんなわけないでしょ! どうせティハルト殿下あたりを味方に付けてご両親に泣き落としで了解させたのでしょう。 


「お兄様とアデル様にお口添えいただいたのは間違いありませんが、お父様もお母様もご了承くださりましたのは本当ですのよ」


 グリゼルダ様はお兄様に悪い虫が付かないようにしていたとはいえ、それのせいで高位のご令嬢達には避けられていたようなので、国内で相手を探すのは中々難しい。というわけで相手は国外の王侯貴族ということになるのですが、国力もそれほど高くない国の四女となればそうそう有益な相手を見つけることもこれまた難しいというところで、国王陛下ご夫妻は姫様を政略の道具にするという意思は薄く、本人の意思である程度自由に相手を見つけても構わないと言ったスタンスのようです。


 そこに湧いてきた姫様の運命の相手。準男爵と身分は低いものの、その親族を含めたコネクションとしては十分に合格点といったところでしょうか。


 しかも姫様は(高位のご令嬢に避けられていたという事情もありますが)下位貴族や平民の皆様には親しく接する気さくな御方という評判から、相手との身分差で苦労することもないだろうというご判断らしいです。一番は本人が望んでいるからというのが大きいようですが。


「その辺の話はマルーフが戻ってからゆっくりといたしましょう」

「お父様はお戻りになるのですか、ベルニスタが怪しい動きをしているというのに?」

「念のためよ」


 お母様が言うには、最近領地の管理は主にフィル兄様に任せているところが大きく、今回お父様が領地に向かったのは、いわばその存在が抑止力みたいなものだから。


「何かあってもフィルが指揮していればそうそう打ち負けることもないわよ」

「お父様はフィル兄様に爵位を継がせる準備中ということですか?」

「今すぐってわけじゃないけど、いずれ貴女達の時代に代わるのよ。少しずつ準備していかないとね」


 言っていることはもっともなんですが、王都にいるとなんだかんだ面倒だと言っておられたお父様が、大人しく領地をお兄様に任せてこちらに戻ってくると言うのがいまいちピンときません。


 あれか、リリアがいるからか……


「さあさあ、今日は折角姫様にお越しいただいたんですもの、あまり大したことはして差し上げられませんが、精一杯歓迎させたいただきますわ。もうすぐあの子も帰ってくるでしょうし」

「(コンコン)失礼いたします。奥様、坊ちゃまがお戻りでございます」

「あらそう、なら着替えたらこちらに来るように伝えてくれる?」

「かしこまりました」


 タイミング良くお兄様がお戻りになったようですが、グリゼルダ様は「坊ちゃま?」とキョトンとしております。ウチの使用人が坊ちゃまと言ったら、一番上は領地に居る以上、アレ(ケヴィン)アレ(ネイサン)のことですよ。


「ひょっ……ケヴィン様がお越しになるのですか!」

「お越しにって……そりゃあ自宅ですからね」

「どうしましょ、どうしましょ~」

「どうもしなくて結構ですので、お茶でもお飲みになって大人しく待っていてください」


 どうもこうもここはリングリッドの邸ですからケヴ兄様が帰ってくるのは当然でしょうに、何を慌てふためいておられるのか。






「母上、お呼びとうかがいましたが」

「お帰りなさいケヴィン、お客様よ」

「お客様? ……姫様」

「ケヴィン様~!!!!」

「はいちょっとストップですよ姫様。少し落ち着きましょうか」


 お兄様の姿を見た途端に今にも飛びかからん勢いのグリゼルダ様。まさに獲物を見つけた肉食獣たらんとする彼女を制して、お兄様に席に着くよう促します。


「姫様、いやあ……いくらなんでもこんなに早く再会するとは夢にも思いませなんだ」

「そうですか? 私はケヴィン様に会いたくて会いたくて枕を濡らす毎日でございましたのに」

「それはそれは、そこまで想っていただけるのは男冥利に尽きるというものですが、よくお許しが出ましたね」

「お兄様、そこは万事つつがなく話を付けて来られたようですよ」

「ケイト、ホントに? 早くない?」

「愛のチカラらしいですわよ……」


 私の言う「愛のチカラ」でお兄様もあっ……と何かをお察しになったようです。


「……それはそうと、こちらに留学されるのであればお住まいは学園の寮ということですかな」

「ええ、新学期が始まれば」

「始まれ……ば?」

「準備が整うまでは我が家にご滞在なさいます」

「はぁ~!! ケイト、お前今、さらっととんでもないこと言ったよな」

「お母様も了承済みです」

「ちょっと母上!」

「あらいいじゃない。頼る者も少ない異国の地で寂しい思いをさせるわけにいかないでしょう。貴男に会いに来たと言うんだから、しばらく我が家でお世話するくらいどうってことないでしょ」


 お兄様はお父様にまた何か言われるのではと気にしておりますが、私もお母様も味方ですからご心配には及びません。


「母上がよいと申すならまあ構いませんが」

「お義母様、お手数おかけします。少しの間だけですので、本当にお気遣い無く。なんでしたらお部屋を用意していただく必要もありません。私はケヴィン様の部屋の隅っこでも間借りできればそれでいいですから」

「姫様、お客人をそのように扱うわけにいきません。ちゃんと来客用のお部屋を用意いたしますわ」

「いや……ケヴィン様の部屋の隅っこでいいんですけど」


 姫様はどうしてもお兄様と同じ部屋がいいと仰いますが、さすがにそれは認められません。


「いえいえ、姫様にはちゃんとお部屋を用意いたしますわ。お客人に部屋を宛がうこともないと言われては当家の恥でございます(ニコッ)」

「そういうわけでグリゼルダ様、諦めてください(ニコッ)」

「結婚するまでは我慢ですよ(ニコッ)」


 お母様、私、リリアの3人に続けざまにダメ出しを喰らって、姫様があうあう言っております。


 その行動力は買いますが、手順はちゃんと踏みましょうね(ニコッ)

お読みいただきありがとうございました。

次回は10/27(水)投稿です。

よろしくお願いします。

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