山椒姫、惰眠から目覚める再会
(うーん……今日もいいてん……き、ですわ。ふあぁ~)
昨日はアリス様のところで色々と生徒会運営のこれからについてお話しいたしました。私が副会長、学園を不在にすることの多いアリス様に代わって実質トップの地位。しかも今年は他国の王侯貴族が多数留学してくるとあっては身が引き締まる思いです。
「でも眠い……」
ここのところ毎日、帰国の挨拶だったり何だかんだで予定が目白押しでした。今日もオリヴァーとお出かけの予定でしたが、グリゼルダ様の件で急遽キャンセルになったので、のんびりしようと久しぶりにお寝坊さんです。
すでにお日様も高く上がり、朝ご飯の時間はとうに過ぎている頃でしょう。そろそろ起きないとさすがに怒られますからそろそろ身支度しないといけませんね。
「……!! だから! ……お姉様!」
「ですから……! 違うと……」
おや、何やら外が騒がしいようですね。
「何かありましたの?」
メイドに確認をしますと、私に用のある方がいらっしゃっているとのこと。ですが、本日はアポイントをいただいた覚えは無いんですがね。
そうなると答えは1つ、『推参』です。
腕に自信はあるものの主君のいない方が仕官のために押しかけてくる行為。私宛ということはリングリッドではなくギャレット家にということでしょう。本来なら当主のオリヴァーにというのが筋ですが、頭の回る方なら、武に関しては私に認められた方が早いと考える方もいらっしゃるのは想像できました。
貴族の家の数は限られており、使用人として働こうにも基本的には今いる方が老齢、結婚等で退職した分しか空きは生じず、需要に対して常に供給過多な世界なので、新しく興った我が家は格好の就職先として、既に見知った方からお前誰だよといった方まで多くの売り込みが来ています。
何故かというと、今のところ子飼いの家臣が2人しかいないから。
1人目はノルデンから連れてきたダミアン。最初は私の側に仕えると駄々をこねておりましたが、「ならばそれに相応しき能力を示してみよ」と、我が家の鬼神2世にコテンパンにやられた結果、まだまだだなと第一騎士団に送られ、当面はそちらでお兄様達に面倒を見ていただくことになりました。
そして2人目は、学園の同級生にして淑女たる私の弟子であるヘレンさん。港町サザンポートの貿易商の娘である彼女ですが、家はお兄様が跡を継ぐので卒業後はどこかへ奉公しようと考え、狙いを付けたのがギャレット伯爵家。よく一緒に行動していたパティが私と共に留学していた1年間、学園で侍女、それも私に仕えるための勉強をしていたそうです。
商人にとって貴族との繋がりは商売を広げるうえで重要な要素であり、王太子妃と良好な関係を築くのは大きなメリット。本当は王太子妃となるアリス様付きの侍女がベストだったようですが、そちらは貴族の令嬢でも狭き門(すでにエマとサリーが内定しているので尚更)なので、次善の選択肢として私の侍女を志望したわけです。
ここまで詳しく知っているのは、隠したまま私に仕えてもいずれバレるだろうから先に伝えておきますと、ヘレン本人の口からそう聞かされたから。
要はアリス様の側仕えになる私を経由して実家をご贔屓にという算段でありますが、人は誰しも何か行動するときは目的や狙いがあるのは当たり前で、彼女の場合は家業のためであるだけのこと。己の築いた人脈や収集した情報を組み合わせたうえでの結論であり、反社会的な手を使ったわけではありませんので、私としては何も問題とは思いません。
それに少なからず彼女がどういう人物か知っていますし、何よりマナー教育の師匠である私が採用を断れば、「あれ? もしかして彼女は何か問題のある子なの?」と思われる可能性もあります。特に瑕疵がなく、本人が希望しているのならば雇い入れない理由はありませんので、こちらに戻ってから色々とお話した結果、卒業後に私の侍女を務めてもらうことになりました。
という2人なわけですが、1人は貴族の子とはいえ他国生まれでつい先日まで学生だった者、もう1人は豪商とはいえ平民の子、しかもまだ学園に在籍中とあって、私やオリヴァーと2人の関係をよく知らない方々には、「ギャレット家は若手を積極的に採用するらしい」とか、「卒業前の平民の子に採用手形を出すとは選考のハードルが低いのでは」といった噂が立ち、雇用、仕官を希望する多くの売り込みがあるのです。
◆
<過日、採用の面談をしたときのこと……>
「今日はこれくらいですね」
「ケイトから見て、候補に挙げられそうな人はいたかい?」
「メイドに関してはこの方なら大丈夫かなという人は何人か。最終的にはメイド長の意見も参考にいたしますが」
基本的に邸のことはラザフォードの家から借り受けたベテランのメイドや執事にお任せしています。オリヴァーが小さいころから見てきた人物なので、能力や忠誠心は折り紙付き。新しく雇い入れる人物の選定に彼らの意見を参考とするところは大きいのです。特にメイドや侍女のことに関しては私は素人同然ですから。むしろ気になったのは……
「男手のほう……ですかね。ギャレット家も武門の系譜なれば、家臣にもある程度の武の嗜みは欲しいところです」
別に全員が全員とは申しません。肉切り用のナイフで切りつけるコックとか、剪定バサミで突撃する庭師を求めているわけではなく、純粋にオリヴァーの側で仕える方にはそれなりの実力をお持ちになっていただきたいと考えています。
とりあえずダミアンがおりますが、今のところ彼の忠誠はギャレット家ではなく私個人に向いているのが困りもの。護衛騎士の護衛なんて必要ないので、いずれ騎士団での修業が終われば当家の武に関わる職務をやってもらう予定とはいえ人材は多いほうがいい。
……のですが中々これといった方が現れませんね。
「婚約者様は武芸には煩いからねえ」
「それだけではありませんよ。オリヴァーはいずれジェームス殿下の側近となられるお方。文武両道の家臣でなくては雇う意味がございません」
政争の余波でオリヴァーが宰相付きの内政官となって既に1年を過ぎましたが、第一騎士団に戻る予定もなく、当面は内政で力を発揮してもらおうというのが殿下のお考えのようです。そのせいもあってか、オリヴァーは未来の重臣と目されるようになり、この家に仕えれば将来は安泰であろうという思惑も仕官者がゾロゾロ現れた要因の1つのようです。殿下は最初からそうなるように計画していたのでは? と思わずにはいられません。
今のところは目の前に美味しそうな仕官先がぶら下がっているのを見て、半ば脊髄反射で売り込みに来た方ばかりで、能力的にイマイチな人が多い。おそらく彼らを不採用にしていけば、いずれは明確な目的や理由を持って当家に仕官を希望する方が増えると見ております。
◆
そんな感じで希望する方達をふるいにかけているところなので、推参者が来ることも想定できましたが、だからと言ってリングリッドの邸の方に来るというのはいささか行儀がよろしくありません。
「お兄様達は?」
「生憎と外出中です」
「そう。なら私がお相手しないといけませんね」
本来なら男手に任せたいところですが、お父様は再びベルニスタが怪しい動きを見せているとのことで、国境を挟んでにらみ合いを続けているフィル兄様と共に領地に滞在中。万一があってはいけないと、お父様に代わってお母様とフィル兄の奥様はこちらに来ていますが、ギャレット家の話であれば私が出ていくべき。
ここで普通なら「お嬢様危のうございます」と止められるところですが、ウチの使用人はよく分かっていますので「お願いします」と当たり前のように言います。ギャレットの家やラザフォードの家に通うようになって、この対応が普通ではないことに気付かされたのは内緒です。
「ケイトお姉様! 私をお忘れになりましたの!」
「申し訳ございませんが私はケイトお姉様ではありません!」
「はるばる参りました私にそのようなご冗談とは……酷いではありませんか!」
「ああもう……違うって言ってるのにー! あ、お姉様! こちらの方お知り合いですかー?」
「え、お姉様……!?」
どんな方が推参してきたのかと玄関までやって来ましたら、言い合う2人の少女。1人は私の義妹リリア、そしてもう1人は……
「なんでここにいるんですか!」
「来ちゃった、エヘ♪」
「来ちゃった、エヘ♪ じゃないですよ!」
何をどうしたら今ここに貴女がいるんですか! 来るのは早くて3,4日後ですよね、お転婆姫様!!!
お読みいただきありがとうございました。
次回は10/23(土)投稿です。
よろしくお願いします。




