少女、はわわする
(なんか色々あったわね~)
正門では止められるし、人の恋心はバラされるし、熊に推参されるしで、てんこ盛りの学生生活初日でしたわ。
今は放課後のかなり遅い時間。
すでにアリス様と他の2人は馬車で公爵邸に戻っています。
馬車は公爵家の護衛騎士が守っているので、行き帰りは別行動。私は徒歩で自分の邸に戻ります。
伯爵令嬢なのに馬車使わないのかって? 私なら歩いても行ける距離なので、ちょうどいい運動ですわ。
それにリングリッドの野猿ですから「馬車苦手なの~」で押し切れます。
(とはいえ、ちょっと遅くなっちゃったわね)
私は先ほどまで職員室で制服のお直し申請をしていました。
学園は平等を是とするため、貴族が華美な装飾などをしないよう、制服の改造は禁止なのですが、私のブカブカ制服を見た先生が「さすがにこれは学生生活に支障あり」と、特別にお直しの申請を受けてもらいまして、その手続きで遅くなってしまいました。
ていうか、今まで前例無かったのか……さすがは私、伊達に既製の枠にはまらない女ですわ。
自慢にもなりませんけどね……
職員室を出ると外は日も暮れ始めており、はしたないと言われない程度に小走りで、残る生徒もまばらな校舎を進み入口へ向かうと、突然招かれざる者に声をかけられました。
「あら、またお会いしましたね。待ち伏せとは相変わらず失礼な方ですわね」
「話がある」
(こちらには何も話すことはありませんけどねえ……)
「先程アリス様から近づかないよう言われたばかりですよね」
「公爵令嬢様は私への接触は控えろと仰っていたのでな。お前なら問題ないだろ」
ああ、確かに私達とは言ってなかったな。屁理屈もいいところですわね。
「私にはお話しすることなどございませんが」
「お前、何者だ?」
「見てのとおり、ただのか弱い女の子ですが?」
「か弱い? あの身のこなしでか弱いとか……面白い事言うなお前」
ああ? 発言も行動も全てが失礼すぎるわ。
「仰る意味が分かりません」
「あの時、俺の動きは見えていなかったはずだ。それなのにごく自然に俺が捕まえたと見えるように振り向いた。違うか」
「偶然ですわ。人を痴女扱いした上に、今度は言いがかりとは、失礼を通り越して無礼ですよ」
「答えろ、お前は何者だ」
(困りましたわ。単純に切り捨てるだけなら、必殺のナニをナニするアタックで始末できますけど、疑われている上に、ここでそれをやってしまっては、完全に実力がバレる危険がありますわね)
キャサリンがどうしようかと考えているうちに、相手がどんどん圧をかけてくるので後ずさりせざるを得ず、廊下の壁に背を付ける形になった。
するとロニーは、壁に手を突き体を前のめりにさせてくる。
これが壁ドン誕生の瞬間である。(嘘)
(あーーーーー! 壁ドン! 私の初壁ドン! こんな熊男に! 私の初壁ドンが~!)
「貴男、何がしたいの?……もしかして……私の体目当て……」
「何でそういう話になるんだよ」
「今の体勢、周りの方が見たらそうとしか見えませんわよ」
キャサリンの指摘に、ロニーは慌てて手を引っ込める。
「勘違いするな。お前みたいなガキに欲情するわけ無いだろ」
「そうですわね、その幼女趣味の性癖は隠しておいた方が貴男のためですわね」
「だから違うって!」
(よし、話が逸れた)
「殿方にモテるような容姿はしておりませんが、それでも熊をお相手するほど落ちぶれてはおりませんわ。これ以上貴男が側にいると貞操の危機を感じますので、これで失礼します」
「違うと言ってるだろー!」
話をはぐらかして強引に立ち去ろうとしますが、彼はまだ食い下がります。ホントしつこい。
「答える義理はありません。これ以上纏わりつくなら悲鳴を上げますよ。入学初日で学生生活終わりにしますか?」
「何もしてねえだろ!」
「それは周りの皆様にご判断頂きますわ」
「汚ねえぞ!」
「ケイト、どうしたんだい?」
「オリヴァー様!」
ロニーに絡まれていい加減ウンザリしていたところへ天の助け。
オリヴァー様マジ天使だから。後光の差したその姿、背中には羽、頭上には輪っかが見えますわ。
「オリヴァー様、こんな時間までいらしたのですか」
「生徒会の仕事があってね。ケイトこそこんな時間までどうしたの」
「帰ろうと思ったのですが、こちらの方に絡まれた挙げ句、壁ドンされておりました」
「へえ、ケイトに壁ドンするとか君、度胸あるね」
「いやラザフォード公爵令息様、これは……違……」
ロニーはオリヴァー様もご存知なのね。入学式で紹介されたし、アリス様の事も調べていたようだから、知っていて不思議はないか。
その割に私のことは調べてないのね。詰めが甘いのか、知る必要も無いと判断したのか……
「ああ君、アボット卿のご子息だね。入学初日から随分とおイタが過ぎるんじゃない」
「これは違うんです。話をしようとしただけで……」
あれ、オリヴァー様もロニーのことご存じなのかな? 大分お怒りモードですけど。
「君がどう思おうが、周りはどう思うかな? 君のせいで彼女が変な噂に巻き込まれたら、責任取れるの?」
「いえ……申し訳ございません」
ロニー謝ってばっかり。今日の運勢は最悪ね。明日からは新聞の運勢欄チェックした方がいいわよ。
「ならば話はこれで終わりだ。君も女性に話しかけるなら、時と場所を選ばないと、犯罪者になっちゃうから気を付けな」
そうね、それもかなり恥ずかしい罪名でね。
「さあケイト帰ろうか」
「ありがとうございます。では私、徒歩なのでこれで失礼しますわ」
「ああそうか、ケイトは歩きだったんだね。なら、僕の馬車で家まで送るよ」
はわわ、オリヴァー様と同じ馬車で帰るなんてムリ。全身から血が噴き出してしまいますわ。
「オリヴァー様、お申し出は嬉しいのですが、私が馬車に一緒に乗っては、噂にする者も現れましょう。ご迷惑がかかります」
「別に僕とケイトの仲だ、気にすることはない。それにもう生徒もほとんどいないから、多少は見られても構わないだろ」
「ですが……」
「もう日も暮れる。女性が1人で歩いて帰るのを放っておいては男として立つ瀬がない。僕の顔を立てると思って、ねっ」
そう言われては断るのも失礼になりますので、お受けすることにして馬車へ向かいます。
「さあ、お姫様。お手をどうぞ」
はわわわ、オリヴァー様が乗車をエスコートするために手を差し出します。
お姫様って私のこと?
はわわわわ!
お読みいただききありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。




