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山椒姫、最後の仕上げ

今回は大会会場から離れ、誘拐された少女の救出シーンを中心に、大半がヒラリー&ダミアン視点となります。

「ダミアン! 貴様何の権利があって勝手なことを!」

「私単独の意思ではございません。レーマン侯爵家の意思にございます」

「何を訳の分からないことを……」

「ダミアンの申す通りだ」

「ヴィルフリート兄上……」


 突然現れたダミアンさんが降参を宣言し、それを咎めるエカルトさん。そして新たに増えた見知らぬ人物。


「あれはレーマン家の次男、ヴィルフリートですね。エカルトの兄です」

「お兄様?」


 顔をご存じのグリゼルダ様に教えていただきましたが、学園は既に卒業されている方のようなので、何故ここに姿を見せたのでしょうか? よく分かりませんね。






<ヒラリー視点>


「ヴィルフリート様がいらっしゃったみたいね」

「どうやらさっきの話は本当だったんだね」

「あの方は信頼出来そうだけど、家族の揉め事は内輪で解決してほしかったわね」

「侯爵家も色々苦労したんだろうよ」






――時は少し溯る――


「あの子は無事だろうか」

「さすがに命までは取らないとは思うけど……」


 手紙で指定された場所に時間通り到着し、相手が現れるのを待ちますが、ヤコブはひたすら女の子の身を案じています。


 実の妹のように可愛がっていた子。私も弟が同じ目に遭ったらやはり心配になりますもの。不安は当然です。


「キャサリン様も心配です」

「そっちは問題無いわよ。あの方に勝てる学生がいたら、今すぐ将軍になれるわ」

「そうじゃなくって、相手が……」


 あー、そっちの心配かぁ……お仕置きとは言っていましたが、いくら何でも屍の山は……ないと思いますよ。多分……




「まだ来ない……」

「時間まではまだあるわ。もう少し待ちましょう」


 焦燥に駆られるヤコブがまだかまだかとソワソワ待っていると、馬を飛ばして駆けつける一人の男の影。私達を見つけると馬の歩を止め、「待たせたな」と声がかかったので、何者かと顔を見ると現れたのは……


「お前は……ダミアン。何でここにいるんだ」

 

 エカルトの部下ダミアン。剣術の授業で何度か手合わせしたことのある相手で、侮れぬ実力を持っている男です。


 しかし……彼はチーム隼の大将を務めているはず。ヤコブが何故ここにいるのかと疑問に思うのは当然です。

 

「事情は後で説明する。まずは娘を助けるのが先決」

「彼女の居場所を知っているのか」

「話は後だ。急げ」

「待ちなさいよ」

「何だ」

「ヤコブ、見え見えの罠じゃん」


 その言葉にヤコブがハッとしてダミアンを睨みつけます。


 今まで散々卑怯な手を使われたのです。ここに来てエカルトの懐刀とも言うべき男が現れて私達を連れ出すとなれば、信用しろというのは無理があります。


「何が狙い? 私達まで人質にする気?」

「すまん!」


 私が当然の疑念をぶつけると、ダミアンは至極もっともだと言わんばかりに顔をしかめ、流れるような動きで下馬をしたと思えば、すぐさま跪いて頭を地に付けながら詫びを入れてきます。


「お主達が信用出来ないと言うのは当然。だがこれはバk……いや、エカルトの指示ではなく、レーマン侯爵閣下の命なのだ。お主達にも人質になっている娘にも危害は加えん。侯爵家の名にかけてそれは絶対に守る」


 様子が少しおかしいですね。しかもこの人、エカルトのことを馬鹿って言いかけたよね。


「ヒラリー、これは何かあったのではないだろうか」

「侯爵家の名にかけてと言われても、その侯爵家が信用ならないのですが……たしかに様子がおかしいですね。分かりました、参りましょう」

「感謝する」

「ただし、こちらは完全に信用してはおりません。変な動きを見せた瞬間に敵対行為と見なします。私とヤコブの二人がかりならさすがに貴男でも敵わないのは分かっているわよね」

「無論だ」


 そして、ダミアンの案内で女の子が囚われているという場所へ向かいながら、彼がここに来た理由を聞かされます。


「エカルトを侯爵家の籍から外す!?」

「ああ、閣下は既に決断された」 






<ダミアン視点>


「そうか……お主には辛い仕事を与えてしまったな」

「申し訳ございません。全ては私の責にございます」

「違う。あれを矯正できなかったは、親の責任よ」

「父上、それならば兄である私も同罪。ご自身だけ責任をお感じになりませんように」


 エカルト様がテオを襲撃したということを知ったのは事件の翌日。犯行に及んだ仲間が良心の呵責に耐えかねて教えてられてすぐに、私は侯爵閣下に全てを報告した。




 何故か知らぬが剣術同好会を目の敵にしていたエカルト様。確かにあのヒラリーという留学生、かなりの実力の持ち主。ヤコブとテオも学園の授業ではわざと実力を見せないようにしておったが、力を付けていたのが私には分かる。彼らが強敵になると感じていた。


 だが、我々とて有能な者を集めて出来る限りの努力をしてきた。そのやり方自体に批判があることは承知しているが、若者により高度な訓練を早くから受けさせること自体はメリットであるし、侯爵家の行く末を考えれば有能の士を早くから囲うことも貴族ならば当然である。2人の兄上もそうやって結果を出されたのだから、エカルト様も正々堂々と向き合うべきであり、例え敗れたとしても胸を張れると思っておった。


 しかしあの方はそれを望まなかった。私が正々堂々と臨みましょうと口酸っぱく言っておったら、「ならばお主が最善の準備をせよ」と大会に関する準備や手続きを全部押し付けてきおったので、忌避されたかと思っていたが、私が身動きのとれぬうちに闇討ちという凶行を進めるためであったか……


 当然私は武人としての誇りも持たぬ痴れ者と激怒した。戦争ならばいざ知らず、今回は正攻法で勝たねば意味が無いのに、彼は「これが自分の考える最善の手だ」と意に介しないものだから、かける言葉を失ってしまった。 




 元々私はヴィル様の側近になるはずであり、ヴィル様もそれを望んでおられた。だが末っ子の行く末を案じた閣下からたっての頼みとエカルト様付きに変わったのだ。


 次男のヴィル様は学園時代の成績も優秀だったおかげで、とある伯爵家の婿入りが決まっていたが、エカルト様は素行の悪さから、成人後の行く末―別家を立てるか、どこかへ婿入りか―は決まっておらず、家中で手を尽くして一人前になるようにと、家庭教師や側仕えも、兄君達より優先して選りすぐりを用意したのは、実の子には何とか一人前になってほしいと願う閣下の親心であろう。


 しかし息子の方はそんな親心を知ることも無く、単に煩い奴らを揃えられたくらいにしか感じていないようで、苦言など聞きはせず放蕩三昧の日々。


 私はエカルト様付きとはいえ彼に仕えるわけではなく、あくまでも閣下の命で半ば監視役のようなもの。不始末はできる限りフォローし続けたが、同時にそのことを閣下に報告するのも当然であり、そのことでエカルト様は閣下から叱責を受けるのだが、我らが告げ口したくらいにしか思っておらず、余計に苦言に耳を傾けなくなるという悪循環で、ついには今回の凶行に至ったわけだ。




「エカルトはレーマン家の籍から外す」

「…………」

「父上のお考えに従います。それでは剣術大会も辞退ですな」

「いや、大会には参加させる」

「閣下……? 何故ですか」

「勘違いするな。エカルトのためではない。ダミアンやチームの者達の努力を無駄にしないためだ」


 閣下はレーマンの家で面倒を見た以上、最後までその務めを全うさせてやりたいと仰います。


「結果がどうであれ、エカルトの除籍は決定事項。お前やメンバーは何も気にすること無く存分に力を振るえば良い」

「しかし父上、あの愚弟がまだ何かを画策しているやもしれません」

「もし再び他者に危害を加えたり、命を狙うなどの愚行があれば、ヴィル、お主の責にて被害を最小限に食い止めよ」

「それは……つまりアイツが事を起こしてから動けと」

「事前に防いではあの馬鹿息子は事の重大さを理解できぬであろう。人様に迷惑をかけるのは心苦しいが、罰は私が受ける。よいなダミアン、何か動きがあればすぐにヴィルに伝えよ」

「御意……」






<ヒラリー視点に戻る>


「つまり今回の襲撃事件や誘拐事件はエカルトの独断だと?」

「今すぐ信じろとは言えんがな」


 ダミアンから事情を聞くにつれ呆れ返るばかりです。侯爵家が人様に迷惑かけてもやむなしと判断するまで追い込まれるとか、どんだけ愚物なんだよと。


「ここだ。この倉庫に囚われている」


 郊外にある使用されず放置されていた1軒の倉庫の前に到着すると、ダミアンが扉を開けます。




(ギイイイイイ……)

「誰だ……!!お前はヤコブ! 何故ここが分かった!」

「私が連れてきた」

「ダミアン……お前まで何故ここに?」


 使われていないせいか開いた瞬間に扉の軋む音が大きく立ち、それに気付いた中の者がダミアンの姿を確認すると、私達と同じように何故ここにいるという反応をしていますので、罠の可能性は限りなく低いと推測します。演技の可能性もあるので警戒は解きませんけど。



「ヤコブとヒラリー嬢を連れてきたからこの場で少女を引き渡せ」

「いや、エカルト様の指示では解放場所にと」

馬鹿(エカルト)からの指示か……それをして何の意味がある?」


 ダミアンは落ち着いた口調ながら凄みを利かせ、準決勝でケイト様が圧勝したこと、隼は逆立ちしても勝てないこと、事ここに至ってはどこで解放しても結果は変わらないと、仲間達を説得します。




「お前達、何をしている! エカルト様の命令だ、そのガキを殺せ!」


 ダミアンの説得で一同がそれもそうかと女の子の拘束を解こうとしたとき、エカルトから別の指示を受けたと思われる者が現れ、殺害命令が下ったと伝えてきます。


「お前達、その命令を聞く必要は無い!」

「煩い! ダミアンは裏切り者だ! こいつの言うことを聞いてはならん!」


 少し状況がおかしいようです。罠にしては壮大すぎますので、エカルトが殺せと指示を出し、それを止めたダミアンがチームから追放されたというのは本当なのでしょう。女の子を助けないと!


「動くな! 動いたらこのガキを殺す!」


 どっちの指示を聞いたらいいか判断が付かず、オロオロするメンバー達に業を煮やした伝令役の男が、女の子を捕まえるとその身体に剣を突きつけます。


「貴様正気か! 俺達は騎士になるためにレーマン家に仕えたはず。これが騎士のやることか? それが正しいことと思っているのか!」

「煩い! 俺達だって……こんなことしたくない! だけど……やらなければ……」


 どうやら誘拐に関わった人達は裕福ではない家の者が多いようで、仕官の話や家族の面倒のこと、借金のことなどを盾にエカルトに強要されているようです。


「侯爵閣下には私から話をする。お前達の悪いようにはしない」

「だけど……」

「ダミアンの言うとおりだ」


 騒然とする中に現われた1人の青年。ヤコブがその姿を見て、あれがさっきダミアンの言っていたヴィルフリート殿だと教えてくれます。




「者ども、剣を収めよ」

「しかし……ヴィルフリート様」

「お主達は誰に仕えているのだ? エカルト本人か? それともレーマン侯爵家か? 私は父レーマン侯爵の代理として参っておる。我が言葉は父の言葉と同義と思え」


 ヴィルフリート様は全員を鎮め、エカルトに受けた所行は分かっているから、この場で退くならば完全に無罪とは言わずとも悪いようにはしないと説得しますと、全員観念したと言うより何か憑き物が落ちたようにホッとした表情を浮かべて剣を収めました。


「ヤコブ君、ヒラリー嬢、愚弟が迷惑をかけた。この責任は侯爵家として必ず償う」

「償いに関しては改めてお話し頂くとして、ひとまずヴィルフリート様の謝罪はお受けいたします」


 ここでああだこうだと言っても話が進まないので、ひとまず謝罪を受け入れますと、解放された女の子がヤコブさんに抱きついてきました。


「お兄ちゃーん!」

「怖くなかったか。怪我はしていないか」

「うん。大丈夫だったよ」


 彼らもやはり良心の呵責に苛まれていたようで、女の子を誘拐したとはいえ、粗雑には扱っていなかったのは不幸中の幸いです。


「もう大丈夫だからね」

「お姉ちゃん、誰?」

「ヒラリーよ。よろしくね」

「あー! お兄ちゃんが大好きって言ってた人!」


 そう言って叫ぶと、女の子は続けて彼がいつも私の自慢話をしているとバラします。


「お兄ちゃんが言っていたとおり、お姉ちゃんすっごい美人」

「ホントに? そんなこと言ってたの?」

「うん! ヤコブお兄ちゃんには勿体ないくらい!」

「おい!」

「あら、正直ないい子じゃない」

「ヒラリーお姉ちゃん。お兄ちゃんのことよろしくね」


 ヤコブが隣でワーワー言う中、女の子と2人ひそひそ話で盛り上がりますが、オホンというダミアンさんの咳払いで話を戻されます。


「お楽しみのところ申し訳ないが、君たちの身の安全が確保されたことをキャサリン嬢達に確認してもらうためにもすぐに学園に戻りたい。同行願えるか」

「分かりました。急ぎ戻りましょう」



 ◆



<キャサリン視点に戻る>


「という次第だよ。愚弟殿」

「な、な、な……俺が除籍だと! そんな馬鹿な!」

「馬鹿はどっちだ! 我が家の名を地に落とすほどの愚行を貴様は行ったのだ! 命があるだけありがたいと思え!」

「そん、な……」




 相手が降参すると言うのでどういうことかと相手陣営の元に向かい事情を聞きますと、全ての元凶はエカルトさんだったようで、侯爵家自体はその尻ぬぐいといった感じのようです。


「認めん! 俺は認めんぞ! まだ勝負は終わっていない。勝って……勝って我が名を上げるんだ!」

「彼女に勝てるとでも? ダミアンがいても無理だと思うよ」


 喚くエカルトさんをヴィルフリート様が冷静に論破しますが、抑えの利かないダミアンさんは止まりません。


「そいつが! そんな化け物がいるなんて卑怯だ! お前さえ……お前さえいなければ!」

「グダグダ煩いんじゃー!! 卑怯? どの口が言う? これか? この口か? 勝ちたい勝ちたいって、戦ってんのはダミアンさんやメンバー達じゃないの。仲間へのリスペクトも無い貴男にそんなことを言う資格なんか無いわ!!!」


 レディに対して化け物と言われたことより何より、この身勝手さ、醜悪さに反吐が出ます。


「そんなに勝ちたいなら、貴男自身が出てきなさいよ」


 どうしても勝ちに拘るのであれば、自身が舞台に立てと言い、ヴィルフリート様にある提案をします。


「私達のメンバーとエカルトさんでエキシビションマッチはいかがでしょう」

「ほう……エカルトが勝ったらどうする?」

「私達からは彼の所行を不問とします」

「随分と自信があるみたいだね」

「ふざけるな! どうせお前が出てくるんだろう!」

「馬鹿なの? 貴男が私に敵うとでも思ってるの?」


 ヴィルフリート様との会話に割って入るエカルトさんに、悪いけどアンタなんか開始の合図と共に胴体真っ二つよと威圧したら、容易に想像できたのか顔を青くしております。


「わざわざ私が出るまでもありません。こちらからはリザーブメンバーのテオさんを出します」

「片腕が使えない奴を出すとかナメているのか!」

「怖いんですか? 手負いの相手にすら敵わないと? それでよく大きな口が叩けますね」

「ふざけるな! やってやろうじゃないか!」


 テオさんも頑張っていたので見せ場の1つでも用意しようと挑発したら、簡単に乗ってきました。手負いという点を除いても貴男が勝てる要素は無いですよ。


 さあ、彼の心を折る最後の仕上げです。

お読みいただきありがとうございました。

次回は9/22(水)投稿です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] とかげの尻尾切り、とはちょっと違うけど家の被害を最小限にするために切り捨てらてたか さて、今まで好き勝手やってきた奴が侯爵家という後ろ盾を無くしていつまで無事で居られるか
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