山椒姫、お仕置きタイム
「決勝戦は2時間後。それまでは自由行動にしましょう。というか、お2人は殿下の側でお待ちになっていてください」
「ケイトはどうするの」
「イメージトレーニングをしておきます」
いかなる相手でも侮るなかれ、いかなる時でも万全の態勢で臨むべし。我が家の家訓であります。
「そう。それならまた後で」
お2人をティハルト殿下のもとへ送り出しますと、代わって私の前に招かれざる客が現れます。
「何か御用でしょうか」
「なに、決勝進出のお祝いを述べようとね」
「あらそれはご丁寧にどうも。誰かさんのおかげで私が出る羽目になってしましましたが」
わざと嫌味たらしく言ってみたら舌打ちしやがったぞコイツ。貴族の息子ならもう少し感情をコントロールしたらいかがですかねぇ。
「ま、ともかく決勝ではよい戦いが出来ることを期待しております」
「ふふふ、戦えると思っておられるのか」
「仰る意味が理解しかねます」
「いいのかな。全ては私の胸先三寸で決まるのだぞ」
とうとう直接的に私に出場辞退するよう迫ってきました。直近に迫った問題を解決するのに、回りくどいことをする時間も無いこの状況ではそうするしかないんでしょうけど、裏を返せば、これまでのことは全部私がやりましたって白状しているようなものです。それでも来たということは追い詰められてなりふり構っていられないのでしょう。
明言はしないものの、それは女の子の身の安全は保障できないという脅し文句です。ひょっとすると、ヤコブさんやヒラリー様まで巻き添えにする気かもしれません。
「だったら決めればよろしいのでは。その決定どおりに事が運ぶとは限らないでしょうけど」
「事態を分かっていて言っておるのか?」
「何が仰りたいのか分かりかねますが、私は出られなくなったヤコブさんやヒラリー様の分まで、貴男達を滅多打ちにしてあげようと思っているだけですから」
「あ゛? 何調子乗ってんだコラ!」
私が勝つ前提で話をしていたのが気に入らなかったのか、相手のメンバーが数人凄んできましたが、普段からどういうのには慣れているので全然怖くありません。凄み睨みのレベルで言えば、街のゴロツキの方が余程パンチが効いています。
「まったく……がなり立てるしか能が無いのですか? 文句があるなら闘技場で決着を付けるべきでしょう。それとも……人数を集めて袋叩きにでもしないと勝てる自信が無いわけですか」
「言わせておけば!」
「やるならお相手しますよ。ただ……こんな場所で男共が寄ってたかって女性1人を袋叩きになされたこと、姫様やアデル様、ひいてはティハルト殿下の耳に入れば……どうなりますかねぇ。そもそも官憲に通報していないのは、大会を最後まで全うさせたいという姫様のご慈悲によるもの。それを台無しにするおつもりですか」
「…………!! 貴様、姫に喋ったのか!」
負けるつもりはありませんが、騒ぎになって皆様に迷惑をかけるのは申し訳ないですからと、少々脅しをかけましたが、このおバカさんはその言葉にすら噛みついてきます。
「馬鹿なの? ここにアデル様と姫様が参加している時点で、何がどうなっているか知らぬわけが無いでしょう」
「約束が違う!」
「お二人には話したけど、官憲には通報していないもの。約束を違えたとは言わないでしょう」
こちらは最初の指示を聞いておりますのに、何故約束が違うなどと言われなければならないのでしょう。どちらかと言えば約束を守っていないのはそちら様でしょうに。本当に馬鹿なの?
「クソッ! 俺は警告したからな。お前が棄権しなければ、どうなっても知らんぞ!」
本当に馬鹿でした。何が警告よ、何がどうなっても知らんぞ! よ。むしろ「どうなっても知らんぞ!」はこちらのセリフですわ。アデル様や姫様のおられないところで助かったくらいです。
はぁ~、これは本格的にお仕置きしないとですね……
<2時間後・決勝戦>
最後の警告と言っていただけあって、その後彼らからの接触も無く決勝の舞台に上がりました。
こちらは準決勝に続き、私、アデル様、グリゼルダ様の3名ですが、あちらのメンツが変わっています。
準決勝までチーム隼の大将を務められていた……名前は確かダミアンさん、だったでしょうか。彼らの中で唯一私とそれなりに戦えそうな方だったのですが、その方がメンバーから外れています。いない理由が何なのかは分かりかねますが、そういえば先ほど接触してきた際も姿はありませんでしたね。
泥船から逃げられたのであればいい判断です。仲間を見捨てたというのはマイナスポイントですが、それでもお釣りが出るくらいです。
「ダミアンさん抜きで戦うとは、私もなめられたものですね」
「あのような腰抜け、われらの仲間とは思っておらぬ。あ奴がおらずとも我々で十分」
「あっそ」
ダミアンさん不在の理由に答えたのはこの試合で先鋒を務める方。ダミアンさんがいない分、元々の先鋒・中堅が1つずつ序列を上げた形です。
実力で言えばダミアンさんはもとより、ほかの2人より間違いなく弱いし、ほかにももっと適任者がいそうなものですが、にもかかわらず彼が抜擢されたのは、この口ぶりからエカルトさんの腰巾着であることが大きな理由のようです。
「それよりもそちらは随分と自信に満ちているようだが、よいのか? こちらは警告したはずだが」
「相変わらず馬鹿の一つ覚えみたいに同じことを繰り返すのですね。何と警告されようとも無駄です」
「余裕だな……」
「それはそうでしょう。ほら、あそこをご覧になられたらいかがですか」
「何を…………!! あれは!」
私が指し示す観客席の方角から、こちらに向け手を振るヤコブさんとヒラリー様の姿を確認した彼らは一堂に驚愕の表情を浮かべています。
「ば、馬鹿な、何故アイツらがここにいる!」
「だから警告など無駄だと申したはずです。貴男達の計画は既に崩壊しているんですよ」
2人が戻ってきたのはつい先ほどのこと。女の子が無事に保護されたことも確認済み。
なので、2人を決勝の舞台に上げてもよかったのですが、お仕置きタイムということで私に一任してもらい、観客席から観戦してもらっているのです。
良かったですね。もし女の子やヤコブさんたちに万が一のことがあれば、私は大会のルールなど無視して武闘場が血の海と化したでしょうが、皆の無事が確認できましたので、半殺しで済ませてあげますよ……
「両者先鋒、前へ! ……始め!」
「はーあっ! とりゃーっ! えーい!」
先ほどの口だけ野郎と対峙します。
ヤコブさんがここにいるということは、既に女の子は解放され、私たちはくびきを逃れたことを意味する。その程度のことは彼でも理解しているようで、打ちかかって逆撃を食らうことを恐れ、私の周りをぐるぐる回りながら、意味のない掛け声と共に切りかかるフリをしてはすぐに引っ込めるの繰り返しです。
「無駄なことしてないで早くかかってきたらいかがですか。それとも……女の子相手に打ち負けるとビビッておられるのですか?」
「おのれ、言わせておけばー!」
この程度の挑発に乗ってくるとはまだまだ青いですが、こちらとしては願ったりです。
「食らえーっ!」
「……遅い(ボコオッ!)」
勢いよく向かってきて、大上段から振り下ろされる剣撃。ですが隙だらけで攻撃とすら呼べぬただの自爆行為。私は邪魔だからと剣を手放しながら攻撃を軽く避け、向かってきた腹めがけて膝蹴りを当てるだけで綺麗なカウンターとなり、彼は”く”の字になって後方へ舞うと、そのまま床に崩れ落ちます。
「へえ……意識が飛ばなかっただけ褒めてあげるわ。何してんの、早く立ちなさい」
「あ、ああ……うう……ま、待ってくれ……こ、こうさ……」
(バキッ!!)
意識が朦朧としているところを半ば無理やり立たせ、さらに正拳突きをお見舞いします。相手は何かを言いたそうでしたが、誇りあるチーム隼のメンバーですもの、まさか降参なんて言うわけないですよね。
「口ほどにもないわね。つまらないからこれで終わりにするわ」
そして先ほど手放した剣を拾い上げ、身動きも取れず大の字で横たわる相手を眼下において、剣先を下に向けたまま両手で突き下ろす姿勢を見せると、審判が慌ててこれを制しようとします。
「待て! 模造剣とはいえ死んでしまうぞ」
「殺しはしませんよ!」
(ズカァンッ!!!)
審判が制するより早く一息に剣を突き下ろしますと、剣は勢いよく床に突き刺さり、そこを中心として四方へと亀裂が入ると同時に、衝撃に耐えきれなかった模造剣は根元からポキリと折れ、刃先だけが床に突き刺さったままです。
「やりすぎだ」
審判を務める先生に勝ち名乗りよりも前に窘められました。いや、さすがに人に向けて突き刺しはしませんよ。こんなところで人殺しにはなりたくありませんもの。最初から相手のいるすぐそばの床に突き刺すつもりでしたけど。え? 殺しそうに見えました? すごい顔をしているって? オホホ、これは醜態をお見せしました。美人が台無しですわね。
「オホン、まあいい。勝ちは勝ちだ。勝者、キャサリン・リングリッド!」
(シーン……………………)
気を取り直した審判が改めて勝ち名乗りを上げますが、一瞬で起こった惨状に観客も歓声を上げることすら忘れ見入っております。
やっぱりやりすぎました? いや、死んでないからね。ほら、泡吹いておもらししてピクピクしているから生きてはいますよ。
「よっしゃーーーあっ!」
(わあああっ!!)
静寂の続く観客席にこだましたこの声はヤコブさん。その声につられるように周囲の観客も我に返り、次々と歓声を上げだしました。
「チーム隼、中堅、何をしている。早く前へ!」
若干のインターバルを置いて次戦へと挑みますが、相手が出てきません。何度か前へと促されますが一向に進む気配がないため、焦れた審判に早く出て来いと怒鳴られていますが、どうしようといった表情で大将とヒソヒソ話しています。
さっきのアレで怖気づいて降参したいのでしょうが、後ろでやいのやいのと煩い人がいる手前、退くに退けないのだと推察します。
「さっさとしなさいよ。中堅でも大将でも、どっちでも構わないから、死にたい奴からかかってきなさい」
「そうだそうだ、早く出てこい!」
「腰抜けー! 無理なら早く降参してしまえー!」
「お前ら。あんなことを言われて悔しくないのか! 男を見せんか!」
私の言葉に続くように、進まぬ進行に次第に色めき立つ観客席からヤジが飛び出しますと、それに激高したエカルトさんが彼らに早く壇上へ立つよう檄を飛ばし、やむを得ぬと覚悟したようにようやく中堅の方が上がってきました。
「覚悟はできましたか?」
「い、いえ……そにょ、すぉんなてゅもりぢゃにゃくって……」
緊張のせいか完全に呂律が回っていません。かわいそうではありますが、エカルトさんの凶行を知りながら共にいた時点で同罪です。覚悟しなさい!
「では、始め!」
「待ってくれ!」
審判の掛け声とともに虐殺劇第二弾を始めようとしたところで、相手陣営から待ったの声がかかります。
「あれは……」
その声の主は、チーム隼の元大将ダミアンさん。たしかチームから追放されたはずでは?
「チーム隼は棄権をする!」
「ダミアン、貴様は既にメンバーではない! 勝手なことを言うな!」
「黙れエカルト! もう貴様の指示に従う必要は無いのだ!」
「なんだと!」
あれ……? 様子がおかしいですね。仲間割れ、ですか?
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次回は9/18(土)投稿です。
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