山椒姫、乱舞、のち陰謀
ワクチン接種2回目。幸い副反応は無く(肩は痛いけど)予定通り投稿します!
「アデル様、一言お言葉を頂戴してもよろしいですか」
「どんな言葉が欲しいのかしら?」
「景気付けで甲高い感じに『ケイト、殺っておしまい!』と」
「どこの極悪女王よそれ!」
またからかってとブツブツ言っておられましたが、アデル様は私の名を呼ぶと、鋭い眼光で私を睨みつけながら、親指だけ立てた拳を首元に当ててスーッと横にスライドさせます。
「分かったわね」
「御意にございます!」
なんだかんだ言ってノリノリではありませんか。むしろそっちの方が悪の女王って感じですよ。
「アデル様、『殺せ』のポーズはさすがにマズいのでは? お姉様、本当に殺してしまいますよ」
「大丈夫です。冗談では力加減を知らぬバケモノ扱いしてますが、ケイトはこういうときに手加減をすることに関して、天下一品だと言うことをよく知ってますので」
「では、始め!」
準決勝第一戦が始まりました。
チーム山椒の先鋒は当然私。登録上は中堅がアデル様、大将が姫様です。戦うのは私だけなんですけどね。
対戦相手の先鋒はやや細身の体つき。外見からのイメージはスピードで揺さぶるタイプと見受けますが、とりあえず相手の出方を見ます。
慎重に試合に入ろうとしているわけではありません。ハッキリ言えば一瞬でケリを付ける自信がありますが、あまりにも早く実力を見せては、エカルトさんが心変わり――こちらは約束を守りましたが、向こうにしてみれば私達を潰すのが目的ですから、私が勝ち上がれば約束を違える可能性は十分に、いえ、間違いなく守りはしないでしょう――する可能性があるから。
ですから、なるべく一戦目は時間をかけるのです。仮に一戦目が終わった後に、エカルトさんが先程送った使いの方と正反対の指示を次の方に与えたとしても、タイムラグが生じますので、その間にお兄様やヒラリー様にどうにかしてもらおうという算段です。
「逃げ回っている風に装わないとね……」
(ヒュン! ヒュン! ズサッ!)
「わー、きゃー(棒読み)」
相手の方はやはりというか速さ自慢の方だったようで、素早い身のこなしで敵の動きを先んじて封じるスタイルです。
ええ、戦術としては理に適っています。相手の動きが自分を上回らない限りは……ね。
残念ながらスピードだけならば、剣聖と賞されるお父様と伍すると自負しています。このくらいであれば防戦一方で何とか避け続けているように見せかけるくらいは余裕です。
「お嬢さんなかなかやるじゃないか。もう少し本気を出した方が良さそうだね」
「か弱い乙女を弄ぶとは嗜虐趣味でもお持ちなのですか!」
「この動きに付いてこられるのに、か弱いわけないでしょ!」
対峙し直した際にそんな言葉をかけてくると、相手は動きを早めてきます。まさかこの程度とは思っていませんでしたが、やはり女の子相手と手加減していたようです。
(ヒュン! ヒュルン! シュバッ!)
「クソッ、何故当たらない」
「それはねぇ……私の方が速いからだと思いますよ」
「そんな馬鹿な!」
そう思うのも当然でしょう。傍目には徐々に私が追い詰められているように見えている。実際に彼もそう感じていることでしょう。攻撃を加えるタイミングも普通ならば完璧ですが、実際は彼に先手を取らせるよう私が僅かに動きを遅らせ、仕掛けられたときだけは、ここぞとばかりに彼を上回る速さで切り抜けているのです。
さすがに対戦して肌で感じているから、私がただ逃げ回っているわけではないことを何となく察してきたようですが、観客席の方達はそうはいかないようです。
「おいおいおい、兄ちゃん全然攻撃当たんねえじゃねーか!」
「姉ちゃんも逃げてばっかりいないで攻撃しろや」
「コラてめえら、有り金全部賭けてんだ。負けたら承知しねえぞ!」
素人目には私がただ逃げ回るだけなのに、相手はそれを捉えることが出来ない。しかも剣のぶつかる音もしなければ、攻撃も一切当たらないというただの追いかけっこ。見ている分には退屈な試合のせいか、次第にヤジが増えてきています。
ただ……最後の方はいけませんね。外部の方なのでしょうが、学生の教育を兼ねた試合を賭けの対象とされるのはよろしくありませんし、こんな大衆のいる中で公言してはいけませんよ。
あーあ、先生方の手で外に連れ出されました。願わくば胴元が学園関係者でないことだけを祈ります。
「これならどうだ!」
(ブオンッ!!)
「なんの!」
開始から10分少々が経過し、次第にじれてきた相手の攻撃に乱れが生じ始めてきました。そりゃ10分も動き回ったら疲れもしますよね。
私だってそうです。本来長期戦は不得手なので、さっさと終わらせたいところですが、目的があってわざと長引かせているのです。
「ハァハァ……速い……」
(ただ、そう長くは続けられなさそうね)
時間稼ぎも対戦相手がいればこその話。肝心の相手の息が切れだして、攻撃にも精彩を欠くようになってきました。疲れは明白であるのに、いつまでも同じことをして八百長と言われるのも困ります。
(ま、これだけ粘れば十分か)
「んじゃ、今度はこちらから行きますよ!」
(ガキィーンッ!)
今まで逃げ回っていた私がこのタイミングで初めて迎え撃つ剣撃に相手は泡を食ったようで、どうにか剣で受け止めはしたものの態勢を大きく崩します。
「フンッ!」
倒れそうになるところを片側の脚で懸命に踏ん張り何とか上体を戻したものの、その眼前に私の姿は見えません。
ええ、既に後背へと回り込みました。
「そりゃーっ!」
「うあっ!(ドスン!)」
相手がその気配を感じて振り向くかどうかというところで、彼の踏ん張っていた側の脚をスパーンと蹴り上げると、完全にバランスを崩した相手は受け身も取れず床に沈みます。
「ぐあっ……」
(シャキーン!)
「ゲームオーバーですわ」
「ぐ……参りました……」
追撃を受けないようにとすぐさま起き上がろうとしていましたが、そうはさせじと私が刃を突きつけると、彼は勝負あったかと潔く降参を宣言なさいました。
「それまで! 勝者、キャサリン・リングリッド!」
(わあああっ!!!!)
まずは1人目。楽ではありませんでしたが、目的は達成しました。
「いやあ参った。これじゃあ天地がひっくり返っても捉えることはできなかったね」
「いえいえ、中々の腕前でございました」
「いい経験をさせてもらった」
「こちらこそ」
お互いの健闘を称え合い握手を交わします。相手チームは先ほどお話しした大将の方もそうでしたが、正々堂々と戦おうという姿勢をひしひしと感じられるので、非常に好感の持てる方々。試合中は敵味方でしたが、終われば剣の道を志す同士。握手するその表情に屈託のない笑みが浮かびます。
「お疲れ様ケイト」
次戦に入る前に陣地へ戻りますと、アデル様と姫様がこぶしを握り締め、「やったわね」と言わんばかりにこちらへと突き出してまいりますので、私も同じポーズをお返しします。
「素晴らしいですわ。あちらの方はたしか卒業後に騎士団へ入団が内定していたはず。その方に完勝でしたね」
姫様の言葉に納得です。私に敗れたとはいえ、学生の身では十分すぎる腕前をお持ちです。今後も鍛錬を怠らなければ、彼ならきっと素晴らしい騎士様になることでしょう。
「残りの2人も同様に騎士団に内定されている方。油断なさいませんように」
「ありがとうございますグリゼルダ様。大丈夫です、必ず勝ってきますから」
<エカルト視点>
「勝者、キャサリン・リングリッド!」
一体何があったというのだ……まったく状況が分からぬ。
先ほどまでは完全に相手が圧倒しておったのに、ほんの一瞬、あの小娘が消えたと思ったら決着が付いていた。
「おい、ダミアン。何が起こったのだ」
「……」
「ダミアン! 聞いているのか!」
「…………強い」
「は?」
「坊ちゃま。あの少女、手強いです」
我がチームの大将を務めるダミアンが一言そう呟く。馬鹿な、最初からずっと逃げ回っているだけではないか。
「傍目にはそう見えましょうが、肝心の攻撃は一度たりとも当たっていません」
ダミアンの指摘に他のメンバーが、「そんなもの、相手が無駄打ちしていただけだろ」と言う。私もそう思うが、彼はこれを真っ向から否定する。
「いえ、私は彼のことも良く存じてますが、無駄な手数をかけるほど愚かではありません。彼が攻撃を仕掛けたのは十分に勝算があってのことでしょう。なれば彼女がそれよりも速かったと見るべきです」
「はっ! そんなわけあるか。どうせ中だるみして油断したところをたまたま上手くやられただけじゃ!」
「だとよろしいですがね」
――数分後――
「勝者、キャサリン・リングリッド!」
馬鹿な、ばかなバカな馬鹿な……2人抜きだと……
しかも相手は今大会一の怪力と言われる巨漢。生憎と我が家とは縁の薄い家の出であったため、声をかけるには至らなかったが、可能ならば我が陣営にと思っていた逸材。それを……一瞬で……
今度も何が起こったか全く理解できなかった。開始の合図と共にあの小娘が突っ込んだところへ豪剣一閃。
しかし、次の瞬間に倒れていたのは彼の方だった。
「お、おい! ダミアン!」
「攻撃を最短でかわしてからの鳩尾に突き、顎へ掌底です」
「別に決まり手を教えろとは言っておらん。一体どうなっているのだ!」
「どうなっていると仰られても、あれが彼女の実力なのでしょう」
トランスフィールドのリングリッド辺境伯。当主は周辺各国の貴族ならばその武名を知らぬ者はいない豪傑、剣聖と名高い武人。その娘であれば強いのも納得であると……!?
「まだお疑いのようですが、目の前の結果は紛れもないその証」
「あんなに強いなどとは聞いておらぬぞ!」
「いいえ。リングリッド辺境伯令嬢、いえここではあえてリングリッド男爵とお呼びしますが、彼女が何故男爵位を与えられたかご存じのはず。知らぬとは言わせませんよ」
「……あんなもの、女性の社会進出とかいうお題目でアピールのためにやったのであろう。功績とて話半分のはず」
「そうですよ。話半分でも事実は事実。無いものを有ることにするわけがありません。そんなこと考えれば分かりそうなものです。事実、彼女は相当に強い」
「ダミアン、お前知っていて何故言わなかった!」
「私の話など聞かぬと仰ったのは坊ちゃまです。私は彼我の力量差は常に測り続けろと何度も申したはず。さりながら、その言を容れず、女だという一点のみで相手を侮ったは己が責任でございましょう」
「なに!」
続けてダミアンは、リングリッド卿は元々大会に出るつもりは無かったのではないか。それを私が闇討ちしたがゆえにメンバーとして登録することになり、さらには他のメンバーまで排除したことで剣を振るわざるを得なくなったのでしょう。全ては私が為した事の結果だと叱責してくる。
「実際ここまでの試合はヤコブ、ヒラリーの2名しか戦っていません。我々が何も手を出さなければこれにテオを加えた3名が相手だったはず。下手な小細工をしたばっかりに眠れる竜を呼び起こしたのは貴男です」
「それでも相手は1人。3人で連戦すれば勝てるであろう。いや、勝て! これは命令だ!」
「あれが彼女の100%なれば……それでも難しくはありますが、……まだ手の内を隠しているとすれば、勝ち目はありませんな」
「ダミアン、それが大将の発言か! 恥を知れ!」
戦前の降参発言に周囲のメンバーがいきり立つが、ダミアンはそんな彼らにも辛辣な言葉を隠さない。
「恥を知るのはお前らだ! 曲がりなりにも騎士を目指しているのならば、今眼前で繰り広げられた戦いを見て何も感じぬか! 勝てると思うのか!」
「勝負はやってみなければ分からん!」
「戦場でそれを為すは、即ち負けたら死ぬと言うことぞ」
「貴様、必勝の気概もなく戦いに挑むつもりか!」
「お戯れを。常に勝つつもりで挑んではおりますが、此度は今までとわけが違います。戦えと仰せならば潔く散ってみせましょう。それが気に入らぬのであればメンバー変更でもなんでも好きになされよ」
クソ、くそ、糞、クソクソクソ! この男、父から守役を命じられたからと偉そうな顔をしおって……なまじ大将を務めるだけの実力があるから無碍にはできぬと私も我慢してきたが、なんなのだこの主を主とも思わぬ態度は!
「君、君たらざれば、臣、臣たらず。今の坊ちゃまはお仕えするにふさわしいお方ではないということです」
「もういい! 貴様などに頼ろうとした私がバカだった。おい! そこのお前」
「は、はい……」
「今すぐに……向かって……。そして、……盾に……」
「そ、それは……」
「坊ちゃま、これ以上はなりません! 人の道を踏み外すことはなりません!」
「うるさい!! お前はいいから早く行け! それからダミアン、お前はお役御免だ。どこぞへなりと去れ!」
「そなた、行ってはならん! 坊っちゃま、何とぞお考え直しを!」
「くどい!」
クソッ! どいつもこいつものろまのグズばかり。主の目的のために身命を賭すのが臣下の務めであろうが。我が意に逆らう者など必要ない!
「勝者、キャサリン・リングリッド。これにより結果3-0でチーム山椒の勝利!」
(わあああっ!!!!)
クソが……見てろよ。お前たちが調子に乗るのもここまでだ……
「皆の者、行くぞ」
「どちらへ?」
「決まっておろう。決勝戦の相手にご挨拶だよ……」
父も兄も誰も私のことを分かっておらん。何が「お前にはダミアンが必要だ」だ。あ奴がおらずとも大望を果たすくらいわけないことを証明してやる……
「坊っちゃま……とうとう最後の一線を超えられたか……閣下、これが最後のご奉公。非才の身をお許しあれ……」
キャサリン達に会いに行くという一行の背に向かい一礼した後、会場を後にしたダミアンの呟きは、当然エカルトの耳に届くことは無かった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は9/15(水)投稿です。
よろしくお願いします。




