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山椒姫、美少女3人で試合に挑む

「ちょっと派手すぎやしませんか?」

「派手に彩れと言ったのはケイトじゃありませんか」

「いや……まさか2人でコーディネイトを合わせてくるとは思いませんでしたので」

「姉妹でお揃いというのも悪くありませんよ」

「そうね。最初は2人揃ってド派手にというのはどうかと思いましたが、案外悪くないわよ。ケイトも今度一緒にどう?」

「……考えておきます」


 アデル様とグリゼルダ様で今日のコーディネイトについてキャッキャしています。


 いや、いいですよ。オマケと言ったのは私ですから。二度と経験することのない舞台、衣装で目立てと申したのは私ですから。


 ですが、今日の真の主役は私ですよ。




「お二方、準備はよろしいですか」

「それにしてもケイトは随分と地味な格好ね。私たちを際立たせるためかしら?」

「そんなわけありません。殺し合いに派手な色使いが必要無いだけですから」


 戦場でも部隊全員が同色の鎧で統一したり、同じ飾りや目印を着けるということはありますが、あくまでも敵味方の区別だったり、相手に威圧感を与えるといった目的のため。


 ですが、今日の私にそんな派手さは必要ありせん。1対1で敵味方の区別は必要ないし、武装で威圧しようとも、初見の相手なら私の容姿だけで与し易しと思って威圧の効果など無いでしょうから。


 攻撃を喰らうつもりもありませんので本当は防具すら必要ない(付け外しが面倒臭い)のですが、大会のレギュレーションで最低限は装備してくれということなので、他の参加者に比べたらおそらく最軽量最軽装だと思います。


「第一試合が終わったようです。行きましょうか」

「いよいよね」

「ちょっと楽しみですわ」

「そうですね。それくらい気楽にしてくだされれば大丈夫です」




 控室を出て闘技場へと続く通路を進んでいくと、向こうからやってきたのは試合を終えたチーム隼のメンバー。そして、その先頭に立ってデカイ顔で闊歩するエカルトさん。アンタハシアイデテイナイダロ……

 

「これは姫様にご令嬢方。こんなところで何をしておられる」

「おかしなことを仰いますね。これから試合に出るのですよ」

「試合? ヤコブとあのデカいご令嬢はいないようだが」


 デカいご令嬢とは随分と失礼な言い方です。しかもいない理由を分かっていて言ってくるのですから、余計に腹が立ちます。


「お二人はよんどころない事情で、残念ながら今日は欠場ですの」

「ほう……それでは君とテオの二人だけ。参加規定を満たしていないはずだが」

「ご心配なく。我が剣術同好会の幽霊会員、グリゼルダ様とアデル様に出ていただきますので」


 私の言葉に、エカルトさんはしばし呆気に取られていましたが、状況を理解した途端に腹を抱えて笑い出します。


「何がそんなに可笑しいのですか?」

「いや、いやいや、剣も持ったことのないようなお嬢様方が何をすると仰せか。姫様相手とて試合では手加減はありませんよ……あ、あれですか。貴女達相手なら打ち込むのを遠慮して忖度するとでも思われているのか?」


 冗談にも程があるといった感じでクスクスと笑うエカルトさんですが、今は言わせるだけ言わせておこうと事前に打ち合わせておりましたので、姫様もアデル様も普段と変わらぬ表情でその嘲笑を浴びつつ、彼を凝視しています。


 お二人のご気性ですから怒鳴りつけたくてウズウズしているでしょうが、そこは一国の王女と王子妃候補の令嬢。そんなことはおくびにも出さぬ振る舞いは、さすが教育の賜物であると改めて感心いたします。


「しかし……お二人が同好会に入っているなど聞いたことがありませんな……」

「そうでしょうね。普段はお忙しいので、たまに姫様が差し入れを持ってきていただく程度ですが、この通り正式に加入しております」


 私は学園承認の印が入った同好会員の名簿を見せ、その言葉に誤りが無いことを確認させます。




 これが私の画策した奥の手。


 テオさんが襲撃されてから、万が一があってはと色々と策を考えました。


 彼に続き、ヤコブさんかヒラリー様のどちらかが出場出来なくなったとしても、残る1人+私+テオさんで出ることは可能ですが、もし参加可能人数を2人以下に落とされたら出場自体が不可能になります。


 なので緊急でメンバー交代ができるよう、()()()()()増やしておこうというわけです。



 ◆



「私をメンバーにねえ……別に名前だけなら構わないけど、剣なんて握ったこともないわよ」

「私も同じくですよ」

「それは百も承知、念のためのさらに念のためです。私が負けるようなことがあれば、お二人さっさと棄権していただいて結構。危なくなることは一切ございません」

「よく言うわ。負ける気なんか毛頭無いくせに」


 お二人は乗馬だったり護身術の嗜みはありますが、実戦経験など当然ございません。立場上あっては困る方たちですから。


 このメンバーで出るということは、実質的に私だけで3人を倒すということ。仮に私が負けるようなことがあれば、逆立ちしてもお二人が勝てるわけありませんもの。


「でも本当にそこまでの事態になるのでしょうか」

「さすがにそこまでのことはないだろうなどど思っていましたが、ヤコブさんのお母様とレーマン侯爵の一件を聞いてしまうと、手は打っておいたほうがいいかなと思いまして」

「そうね。野生の勘じゃないけど、ケイトはこういうときに妙に鼻が利くものね」

「もしこのメンバーで出るときは、相手が何か卑怯なマネをしてきたとき。怒りに震えて猛獣のように襲いかかるかもしれませんね」


 普通のご令嬢ならば無茶はなさいませんようにとか心配しそうなものですが、私のことをよく知っていているからか、アデル様は私の敵軍殲滅宣言に、あら怖いわねとおどけてみせます。


「ですのでお二人は存分に着飾っていただいて、会場に彩りを添えてくださればよろしいかと」

「それはいいですわね。馬乗服も何着か持ってきているから派手に飾ろうかしら」

「アデル様。よろしければ私のアクセサリーで似合いそうな物があればお貸しいたしますわ」

「よろしいのですかグリゼルダ様」

「いずれ姉妹となるのです。遠慮することはございません」


 こうして極秘に同好会の会員に登録しておいたのです。全く想定していませんでしたが、お2人は来るかどうか分からない晴れ舞台のために衣装をどうしようかと、一緒になってあれやこれや相談していたようで、おかげで未来の義姉妹の仲が深まるという副次的な効果もあったようであります。

 

 もっとも、2人で衣装をお揃いにしてくるとは思いませんでしたけど……



 ◆



「そういうわけですので準決勝は私達3名で戦います。エカルトさんのご期待に沿えなくて申し訳ありませんね」

「いえいえ。私達も観客席にて皆様の健闘を祈っております。くれぐれもお怪我などせぬように」


 私が「ご期待に沿えなくて」と言ったところでエカルトさんの口元がニヤッとなり、上辺だけの応援をいただきました。


 おそらく彼は私が言ったご期待というのを『ヤコブさんやヒラリー様がお相手できなくてすいません』とか、『決勝まで行けなくて申し訳ない』といった意味で言ってきたのだと解釈したのでしょうが……大違いです。


 準決勝欠場というご期待に沿えなくてごめーんね。って意味ですから。


 まあ悪いのは貴男ですから。チーム山椒として欠場をと言われれば別の手を打ちましたが、ヤコブさんとヒラリー様だけピンポイントでご指名したのが運の尽きです。


「さあ、ご両名行きましょう」

「ええ」

「はい!」




 ニヤニヤ顔の隠せないエカルトさんを背に、意を新たにして通路を進んでいくと、やがて光が差し込んできて、決戦の舞台となる闘技場が見えてきました。


(ワァーッ!!!! ……え? …………ザワザワ、ザワザワ)


 相手はすでに登場を済ませており、遅れてきた私達が姿を現すと観客席からひと際大きな歓声が立ち上がりましたが、それも一瞬のこと。すぐさま静寂が訪れ、次第に歓声とは程遠い困惑するざわめきが聞こえてきます。


(あれって……王女殿下? だよね?)

(もう一人は留学生のクイントン侯爵令嬢?)

(もう1人は予選から出ていた子だけど、一度も戦ってないよな?)

(どういうこと?)


「おー戸惑ってる戸惑ってる」

「まあそうなるわよね」

「対戦相手の方もポカーンとしてますわ」


 そのうちに対戦相手の1人が審判に何やら確認に行っています。おそらくこちらのメンバーに間違いがないかどうかの確認でしょうが、審判が問題ないと回答すると、今度はこちらへとやってきます。


「失礼ながらお3方が戦うと仰せになるか」

「何か問題でも?」

「いえ、その……試合とはいえ王女殿下に刃を向けるなど……」

「お気遣いありがとう。でもご心配なく、戦うのはこちらのリングリッド辺境伯令嬢だけです。もし彼女が敗れれば、私とクイントン侯爵令嬢は棄権いたしますので」

「しかしそちらのご令嬢も……リングリッド辺境伯?」


 こちらの方はどうやら何かに気づいたようですね。


「ええ。多少は武の嗜みがございますので、遠慮なくお相手願います」

「……分かりました。それでは正々堂々勝負いたしましょう」


 対戦相手の方はそれで納得したのか、自チームの元へと戻られますが、後ろでアデル様が「あれで多少はって、どれだけよ」とかブツブツ言っております。


 多少は多少です。まだまだ父や兄には届かぬ修行の身、目指すところはまだまだ先にありますので。


(それにアイツらの手前、まだ手の内は見せられないしね)


 観客席のチーム隼の面々の方に目をやると、エカルトさんがチームのメンバーに何やら耳打ち、それを聞いた相手はすぐに場を離れていきます。


(動いたか……)


 それと同時に後を追うネイ兄の姿も確認できました。お兄様なら間違いなく任務を遂行していただけるでしょう。


(頼みましたよ、お兄様!)


「さあて、試合前の儀式やりますか」

「ホントにやるの?」

「せっかくこの3人仕様の掛け声を作ったのですから」

「やりましょうよ、アデル様」

「ふー……ここまで来て怖気づくのも癪だしね。やりましょうか」


 試合前に3人で輪を作って気合を入れます。


 ヤコブさん、ヒラリー様との時は1人1人が順番に「私達は強い」「私達は負けない」「私達は勝つ」と続いて、最後に全員で「行くぞ、チーム山椒!」で〆ておりましたが、美少女3人組に変わりましたので、少し艶やかなセリフに変えてみたのです。


 しれっと美少女に自分を含めるなと? 言葉のアヤです。


「行きますよ。気高く!」

「誇らしく!」

「美しく!」

「行くぞ! 我らはチーム山椒!」


(うぉぉぉぉ!!!)


「両者先鋒、前へ!」

「では行ってきます!」


 揚々と壇上に立つ私にグリゼルダ様が何やら言ってきます。 何、彼らには程々にしなさいと? 分かってます分かってます。え? 顔付きが全然違うですって? 


 そりゃあ待ちに待ったこの日この時ですから。


 さあ……ショータイムの始まりですよ。

お読みいただきありがとうございました。

次回は9/11(土)投稿ですが、実は前日に2回目のワクチン接種があるので、副反応次第で少し遅れるかもしれません。(いつもギリギリまで校正するので、予約投稿はちょっと怖いビビリなんです)

リアル事情で申し訳ありませんがよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >私が負けるようなことがあれば その相手はオークを単騎で余裕でぶち殺し聖騎士とも互角かそれ以上に戦える訳だな 学生に限らず国内でも数える程度しか居ないだろ そして少なくとも自身の首を締めま…
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