山椒姫、コンプレックスを直視する
〈大会2日目・決勝トーナメント〉
2回戦第1試合 3-1 勝者 チーム山椒
○ ヤコブ・ドルクセン - 先鋒
○ ヤコブ・ドルクセン - 中堅
棄権 - 大将 ◯
◯ ヒラリー・ウラン - 大将
今日もキッチリ勝ちました。
予選を1位通過しシードとなったおかげで、今日は2回戦の1試合のみ。
ヤコブさんの勢いは止まらず、今日も3人抜き出来そうな雰囲気でしたが、2戦続けて体力もかなり消耗していましたし、ヒラリー様の実戦調整も兼ねまして、最終戦だけ交代。もちろん勝つこと前提なので心配ありません。
「いよいよベスト4まで来ましたね」
「まだまだ。あと2つもあるのよ」
「でも、この調子なら大丈夫です。明日も勝てますよ」
とは言いつつ、油断して足元を掬われないよう、対戦相手となるチームの戦いぶりも視察します。
第2試合は1回戦を勝ち上がったAブロック3位チームとDブロック1位の対戦。
下馬評ではシードチーム優位でしたが、3-2でAブロック3位チームが番狂わせを起こします。
「彼らが明日の準決勝の相手ですか。実力的にはシードチームの方が上だと思いましたけど」
「そうは言っても、勝った方も予選でチーム隼と大将戦まで持ち込む接戦でしたので」
実力が拮抗した試合であると、そのときの勢いとか気の持ちようで、多少の劣勢は跳ね除けられたりすることはありますが、彼らには予選での健闘がいい方に作用したのですね。
ただ今の戦いを見る限り、私達なら勝てるかと思います。彼らに大将戦まで持ち込まれるとは、チーム隼も案外看板倒れですね。
「ケイト様。おそらく予選は補欠メンバーです」
「そうなんですか?」
「ええ。今上がっている隼のメンバーは誰一人予選には出ていません」
第3試合のコールと共にチーム隼が現れます。
ヒラリー様やヤコブさんは剣術の授業でよく見かける方達らしく、3人とも学生達の中では飛び抜けた存在だそうですが、予選で見たときは出てこなかったとのこと。
「随分と余裕なのですね」
補欠メンバーにも実戦経験をという考えなのでしょうが、思いのほか苦戦したせいで陣営にピリピリムードが漂っています。
「君達、分かっているだろうな。我々に必要なのは勝利ではない。圧倒的な勝利だ!」
「おう!」
エカルトさんはメンバーに激を飛ばした後、ぐるりと場内を見渡し、私達の姿と確認すると思いっきり睨みつけられました。
多分に私達の戦いに触発されているのだと思いますが、目の敵にし過ぎではないでしょうか。そもそも貴男達が苦戦したのは私達のせいではありませんでしょうに……
2回戦第3試合 3-0 勝者 チーム隼
○ 先鋒 ― 先鋒
○ 先鋒 ― 中堅
○ 先鋒 ― 大将
「完勝でしたね」
相手は1回戦でギリギリの戦いを勝ち抜き、かなり手負いの状態だったとはいえ、それでも敵に寄せ付ける隙すら与えない完勝でした。
「ケイト様はどう見ましたか?」
「中堅と大将は出てこなかったので何とも言えませんが、優勝候補と言われる所以は分かりました」
それでもヒラリー様とヤコブさんの2人で十分に伍すると思いますがね。
「本当にそう思いますか?」
「それはご自身がよく分かってらっしゃるかと。ヤコブさんが1人倒せれば、ヒラリー様が2人抜きで勝てますよ。まさか、自信が無いとは言わせませんよ」
「言ってくれますね。毛頭思ってません」
「観戦したのはあくまでも油断しないよう気を引き締めるため。それがお分かりならば上々です」
そうなれば、今日はこれまで。後は学園祭を楽しむだけ……と言いたいのですが……
「もしかして……今日も焼き場ですか?」
「ええ……逃げ回っても絶対捕まるでしょうから」
ですから、今日はお2人は屋台に近づいてはなりませんよ。
「また給仕させられますから」
「そうですね。あれはあれで悪くないですが、お言葉に甘えて今日は違うところを回らせてもらいます」
今日こそは2人でごゆっくりと気を利かせたつもりでしたが、本人もそれは考えていたようです。
「それならば私は先に行きますね」
「頑張って焼いてきてください」
「頑張らなくても焼くことは出来ますよ」
ヤコブさんとは着替え終わったら落ち合う約束だそうなので、私はお先にと更衣室でヒラリー様と別れ、焼き場の人間となるべく屋台へ向かいます。
「待ってたよ」
「あら。もしかしてオリヴァーは朝からこちらに?」
昨日の盛況ぶりから、今日は昨日以上に量を用意していたようで、私の到着を待つより早くオリヴァーは手伝いをしていました。
「今日は給仕係ですか」
「君がいないと焼き場では何の役にも立ちそうにないからね」
今日の彼の衣装は、それこそレストランの給仕係が着用していそうな黒の上下。何を着ても似合う方ですが、生まれてからずっとお世話される側だった彼が、お世話する側の執事スタイルとでも言うべき姿をしているのは中々に……眼福ですね。
「何か言った?」
「いえいえ、ですがそうなると今日は焼き場の方は……」
「昨日のうちに増員の手配をしたので大丈夫です」
そう言って現れたのは調理着姿のグリゼルダ様。まさか姫様自ら肉を焼いているのかと尋ねましたら、3日間全員をここに張り付けていては、みんなが他の出展を見て回る時間が無くなるから、今日は自分が担当しているのだと仰います。
「私も部員の1人ですから。特別扱いはいたしません」
「その心意気やよし。ではありますが、どうして姫様が焼き場なんですか? 給仕とかお会計係でよかったのでは?」
「えっ……それは、ほら、焼き方をよく知る人間の方が適任ではありませんか」
「ホントですかー?」
姫様は適材適所だと言っておられますが、どうせケヴ兄様と一緒に仕事がしたかっただけでは? とからかいますと、途端に顔を赤らめてプイっと頬を膨らませます。
「もう……お姉さまとオリヴァー様の息の合ったところを見せられては、私も負けられませんもの」
「そんなこと言って火傷でもされたら一大事ですからね」
「そのときはケヴィン様に責任を取っていただければ問題ありませんわ」
トラブルすら己の望む方へと動かす糧にするとは、姫様恐るべし。お兄様、危険です。この方わざと火傷しかねませんよ。
「なので、ケイトお姉様は今日は給仕をお願いします。こちらを着てください」
手に持っているのは……もしかしなくてもメイド服。給仕を担当する女子生徒の皆様が着用されているやつですね。
「これを着ろと? 裾が短すぎませんか?」
「機能性重視です。お姉様ならきっと似合いますわ」
それが似合わないんですよね。
普段来ているドレスや学園の制服は丈が長いので問題は無いのですが、これはメイド服にしても丈が短いため、素足を見せないように黒のタイツを着用していますが、これが曲者。
素足を見せないだけで、足のラインがくっきり分かってしまうので私はこれがイヤ。ここまで言えば分かりますよね。私、足が太いんですよ。
「ケイトは元が細いからそんなに気にすることはないと思うけどなあ」
「人の心を読まないでください。だいたいオリヴァーは私の脚の太さを知らないから……」
「いや、何回も見てるよ」
そういえばそうでした。同衾の際の私の夜着姿とか、訓練中とかに何度も見てましたね。
「そんなことを気にしなくてもメイド服姿のケイトはきっとかわいい。僕も見てみたいな」
「結局自分がご覧になりたいだけではありませんか」
「いいじゃないか。君だって僕のこの衣装を眼福と言っていたじゃないか」
私が眼福と言ったのを、とぼけたふりしてしっかり聞いていたのですね。
「はぁ~仕方ないですね……まあ手伝いが必要なようですから、着替えてきますわ」
「待ってるよ」
「お願いしますね」
裏手の更衣室で衣装に着替えるため制服を脱ぎ、露わになった己の脚をじっと見てみる……
「うん、太い」
身長が伸びる前は、ザ・子供体形でございましたが、そのころから下半身だけは太い。
普通に考えてみてください。脚力、瞬発力があるということは、それはもう脚がそれ仕様にカスタマイズされて筋肉モリモリってことですから。
アリス様やアデル様のほっそりとした脚が羨ましいと思うこともあります。
しかし、脚力は私の戦い方の生命線ですから、それは叶わぬ夢と覚悟はしていましたが、当然ももやふくらはぎが太くなれば、支える骨盤もゴツくなり、最近はそれに呼応してお尻までもが肥大化。
上半身に関しては、腹筋は6つに割れており、ポコッとお腹とは無縁。背が伸びてきてからはウエストのくびれなんかもだいぶ出てきましたし、胸は……まだこれから成長の余地があるとしても、かなりメリハリの効いたボディになってまいりましたが、下半身の肥大化に追いついておりません。女性らしい体つきになってきたと言えば聞こえは良いですが、お尻から下だけ先行しすぎなんですよね。
これでもう少し背が大きければ、ヒラリー様とまでは言いませんが、均整の取れた体つきになるのですが、現時点ではバランスが悪い。
体型を隠せる服であれば問題ないのです。実際にドレスを作ってもらったときも、上半身にボリュームを持たせてといった工夫で下半身を目立たせないようにしましたが、メイド服となるとそういうわけにもいかず、デザイン的に脚のラインが目立ってしまうのですよね。
「そうは言っても頼まれちゃったからね……」
まああれだ。私の動きを目で追っかけてくる人なんてオリヴァーくらいのものでしょうから、大勢いる中の1人としてせっせと動き回っていれば、そこまで目立つこともないでしょう。
(それに、このことでからかってくる方は最悪ぶっ飛ばせばいいしね)
「お待たせしました……」
用意されたメイド服に身をまとい、皆様の前に姿を現します。
のですが……微妙にサイズが小さい。身長的には合っているのですが、やはり下半身が少々、いえかなりキツキツで、タイツもまあまあパツパツでございます。
もしかしたらこれはほぼ同じ身長の姫様仕様で作られた物ではないでしょうか。もしそうであれば納得です。見た目はほとんど同じような体型ですが、見えないところのサイズが大きく違うんですよね……
「オリヴァー、念願のメイド服ですよ」
「…………」
「オリヴァー?」
「……いい」
そう言うと彼はフッと顔を背けます。似合わないならそう言えばよろしいのに。
「そうではない。こっちが恥ずかしくなるくらいに似合いすぎて辛いのだ」
「それは褒めておりますので?」
「褒め言葉も褒め言葉。最上級の賛辞を送るよ」
「それならよろしゅうございますが、目を合わせていただけないと仕事になりません」
「仕事しない。ケイトだけ見ていることにする」
「ダメです。本来の仕事を休んでこちらに来ているのですから、ここでもサボったらお兄様達に怒られますよ」
渋るオリヴァーを引っ張って店先に立ち、席への案内、注文取り、料理提供、お会計とあっちこっちに動き回ります。
ティハルト殿下の来訪があったことに加え、今日は外から見える位置で姫様が焼いておりますので、宣伝効果はバッチリ、昨日に増して忙しいです。
「ご協力ありがとうございます。後は私達で対応出来ますので、お姉様は休憩なさってください」
お昼時の混雑がようやく一段落し、休憩に入っていた部員と入れ替わるように下がります。
「さあご飯ご飯」
「今日も鉱山焼き?」
「この店の賄い飯であれば当然ですよね」
「じゃあ、今日もあーんしてもらおうかな」
「…………今日は裏でお願いします」
連日人前で見られるのも恥ずかしいので、今日は裏の休憩スペースで食事をしましょうと提案しますと、オリヴァーも私がそれでいいならと了承します。
「では食事を持って裏へ参りましょうか」
「ケイト様〜!」
2人で料理を乗せたトレーを持ち裏へ下がろうとしたところで、私を呼ぶパティの声が聞こえました。
「パティ、それにヒラリー様とテオさん……!?」
パティは今日は店番担当ではないはず。本人がそう言っていたので間違いありません。
そしてヒラリー様。来ないと言っていたのに何故お越しになられたのか。そして、その隣にはヤコブさんではなくテオさん。
しかもあの慌てよう。これはロクでもないことが起こったということかもしれません……
お読みいただきありがとうございました。
次回は9/4(土)投稿です。
よろしくお願いします。




