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山椒姫、活躍の舞台は……

「案内とは言っても、実は学園祭で何がやっているのかはあまり把握していないのですけど」


 剣術大会の初日。チームは予選リーグ3戦全勝で突破を決めたので、私は皆と別れてオリヴァーを案内することになりました。


 ですが、まさか人を案内するなどとは想定しておりませんでしたので、案内しようにもパンフレットを見ながら、完全に部外者の来客と同化しております。


 申し訳なさそうにする私に、そこに関しては大した問題ではない。大事なのは2人で一緒にいられるということだとオリヴァーが言ってくれるのが救いです。そんなことで怒るような方ではないと分かってはおりますが、そう言ってもらえるだけで安心できます。


「特に行く場所が決まってないのなら、どこかで食事でもどうだい? 試合が終わるまで昼食を取ってないだろう」

「オリヴァーもまだなのですか?」

「ケイトが食べてないだろうと思ったから、食事抜きでやって来た」


 オリヴァーにそう言われれば断る理由もありませんので、彼と共に学生達が運営する屋台の通りに入りますと、そこに見たことのある名前の料理を出す店がありました。




「鉱山……焼き?」

「ここでいいかな?」

「私は構いませんが、まさか学園祭で鉱山焼きとは……」


 これは……この料理を知っている学生は一握り。となると、この先には……


「いらっしゃいませ……って、ケイト様!」

「パティ!?」

「姫様、ケイト様がいらっしゃいましたよー」

「あら、ケイトお姉様。よくお越しになられましたわ」

「やはりグリゼルダ様でしたね」




 出店していたのは料理研究部。毎年自作の新作レシピを中心に料理を振る舞っているそうですが、今年は姫様の肝入りで鉱山焼きにしたそうです。


「お忙しいようですね」

「ええ。おかげさまで大人気よ」


 焼く工程はそれほど変えようがありませんので、オリジナリティを出すために部で研究したのはタレのレシピ。


「ベルハーフェンの皆様にはどういった味が合うかと何種類も試作したんですよ」


 料理というのは違う地に伝播すると、その地に合った味付けや、時には見た目や付け合わせなども変わるもの。場合によっては主食として食べられていた物が、おかずに変わっていたりすることもありますからね。


 同じ国内ですからそれほど嗜好に違いは無いかもしれませんが、普及のために色々と試行錯誤されたようです。




「一番人気はグリゼルダ・スペシャルよ。隠し味に秘密ありってね」

「……ということは、姫様考案のレシピってことですね」

「自分の名前を付けるくらいだもの。当然です」


 その名前……嫌な思い出と共にあの臭いを思い出してしまいます。


 隠し味……あれか、あれだよね? タレに漬けて焼いたら何が入っているか謎ですが、盛況ぶりを見る限りたしかに一番人気らしい。


 姫様の名を冠しているから、忖度で皆さん選んでいるかとも思いましたが、食べている方の満足そうな表情を見ると、変な物は入ってなさそうです。




「しかし、これだけ人気だと焼き場の方が大変そうですね」


 火を使うお仕事ですから、この出数だと焼き場の方は大変そうです。


「大丈夫。体力に自身のある助っ人を呼んでおりますわ」

「助っ人?」

「ええ。特別に許可を取って、学外の方を応援に呼びましたの」


 なんか嫌な予感がする……学園を案内しろと言った割に、迷うことなくここに辿り着いたオリヴァーと、グリゼルダ様が呼んだ助っ人、体力自慢の方……




「おお、ケイト! いいところに来た!」

「遅いぞ妹! 手伝えー!」


 でしょうね……じゃない、いや兄達。なんでアンタらがいるのですか。


「姫様!」

「国際交流です」


 グリゼルダ様がしれっと仰るので、いささかイラッとしましたが、たしかに焼き場にガタイの良いお兄さんが並んで、エイさホイさと手際よく肉を捌いて焼いている姿は画になります。


 鉱山焼きの欠点である女子ウケがいまいちというのを、焼き場をオープンキッチンにして、作業を見える形にするというアイデア。


 兄達も内面を知らねば女性がキャーキャー言う見た目ですし、ついでに呼び込みもすれば、エンターテイメント性も兼ねて人気も出るでしょう。


 パティは掛け持ちで料理研究部にも属しているし、学園の生徒ですからまあいいとして、学園に関係ない他国の人間を勝手に使わないでください。国際交流という御大層なお題目ですが、ただの学園祭の屋台ですからね。


 単純に姫様がケヴ兄様を呼びたかっただけではありませんか?


「ちなみにネイ兄に声かけたのはパティ?」

「バレました?」


 パティはイタズラっぽく笑いますが、この状況で気付かないわけが無い。どうせ彼女に「お願い〜」とかウルウルした目で頼まれて、「任せとけ!」とか二つ返事だったのでしょう。


 ただ、いくらみんなと仲が良くても、公式には駐在武官なのですから許可なく二人が勝手に来るわけがない。


「オリヴァー、仕組みましたね……」

「みんないた方が楽しいだろう」


 自由過ぎるぞ代理公使。


「いやー、姫様が僕だけケイトとイチャつくするのはズルいと。自分にもチャンスが欲しいと仰るのでね」

「そうですよ。みんなで仲良く食べた方がより美味しくなります。折角おいでになったのですから、ケイト様も食べていってください。私の監修したハーブ入り鉱山焼きですよ」


 部で複数製作したタレのうち、彼女はその知見を活かした滋養強壮に効くハーブ入りのタレを作ったそうです。


 他にも女子達が、様々なアイデアレシピのタレを作ったものの、焼き場はやはり力仕事。


 そこで姫様がケヴ兄にヘルプを依頼。巻き添えにしようと一緒に連れて行かれそうになって渋るネイ兄は、パティのお願い攻撃で陥落したというところでしょうか。


 オリヴァーは頼まれたら断るのも申し訳ないから許可したと笑いながら言いますが、グリゼルダ様という肉食獣にケヴ兄というエサを与えるのは危険だとは思いませんのか?


「これを食べて力を付ければ、明日の試合もバッチリです」

「いや……私は試合に出ないから……」

「その子は危険なんでエサは与えないでください!」

「そうだそうだ。パティちゃん、そいつは試合には出ないから、食べさせなくてもいい。サッサと焼き場に回してくれ!」

「お兄様、勝手に決めないでください!」


 人を獰猛な肉食獣みたいに言うな。お前らは女の子にいいところ見せようと、鼻の下伸ばしてホイホイやって来たのだろうが、何故に私がその尻拭いをしなければならないのですか!




「あらあら、賑やかだと思えばやっぱりケイトね」

「グリー、お邪魔するよ」

「アデル様!」

「お兄様!」


 ガヤガヤしていたところへ殿下とアデル様もやってきました。


「グリーが早速鉱山焼きを広めると意気込んでいたが、中々に盛況だね」

「料理研究部の皆様にも協力いただいたので当然です。ささ、お兄様も召し上がってくださいませ」


 僕に食べさせて広告塔にする気だねと冗談を飛ばす殿下に、使える者は兄でも使いますと意気込む姫様。そこにはお兄様にまとわりつく面倒な妹君という面影は微塵も感じません。


 殿下とアデル様が仲睦まじくされているから、ようやく立場を理解してまとわりつくのを止めたのかなどと陰口を言う方もおられるようですが、実際のところは自分が露払いをする必要はもうないだろうと手を引いたのが真実。貴賤を問わず友人達と笑い合って交流する今こそが本来の彼女の姿なのです。


「すぐに焼きたてをお持ちしますからね」

「はは。そんなに急がずともよい。ちゃんと食べてあげるから。アデルもそれでいいだろ」

「私は構いませんが、折角ですからケイトに焼いてもらいたいわね」

「私ですか!?」

「王子殿下のお召し上がり物よ。貴女を指名するわ」


 権力の濫用反対ですわと抗議したいところですが、殿下の来訪により、益々注文が殺到して焼き場のお兄様達もヒーヒー言ってます。


「何でもいいから早く代わってくれ!」

「お前大会で活躍してないんだから、ここでくらいはいいところ見せろや!」

「それ関係ありませんよね! あとオリヴァーまで巻き込まないでください!」

「いいよケイト。僕も手伝うから一緒にやろう」


 兄達がゴチャゴチャ煩く言うものですから、仕方ありませんねと腕まくりして焼き場に入ろうとすると、それを見ていたオリヴァーが一緒に手伝うと言い出します。


「オリヴァーは別に手伝わなくても大丈夫ですよ」

「言っただろ。一緒にいるのが大事だと。それに僕ら2人が入れば兄君を一緒に休憩に入れられる」


 そんなわけでケヴ兄とネイ兄を休憩に入れる代わりに、私とオリヴァーが戦場(キッチン)に立つことになりました。


「オリヴァー、料理の経験は?」

「さすがに無い」

「出来るのですか?」

「ケイトと一緒なら大丈夫。指示を頼むよ」

「その自信がどこから来るのかよく分かりませんが、それでは息の合ったところをお見せしましょうか」

「望むところだ」


 そう言って互いに目が合ったところで軽く頷きあい戦闘(グリル祭り)スタートです。


 




「はい、5種盛り」

「お願いします」

「はい、白夜と極夜3人前」

「次は(グリゼルダ)スペシャル4人前だよ」


 次々に入るオーダー。まさに目の回るような忙しさですが、これを流れるようなコンビネーションで片付ける私達の姿に、次第にオープンキッチンを取り囲むお客さんの数が増えてきます。


「見られてますね私達」

「仲の良いところをアピールできているかな」

「別にこんなことせずとも十分仲良しですわ」

「あれ、キャサリン様。何やってるんですか!」


 


 衆人の耳目を集める中、2人でテキパキと仕事をしていましたら、焼き場を見物する人数の多さに、何をしているのかと覗いに来たヤコブさんとヒラリー様が、私の姿を見て声をかけてきました。


(ダメ! 貴方達は来てはダメ!)


 そのとき私は彼らにこっちへ来てはいかんと目で制しましたが、彼らは気付きません。決してオリヴァーと仲良く仕事をしているところを見られて恥ずかしいからではありません。


 ここはグリゼルダ様の根城。ヤコブさんが来てしまうと……




「あー、ヤコブ! ちょうど良いところに来たわ! 給仕手伝いなさい!」

「えぇ〜!!」


 ほらね。2人きりで送り出した意味が無くなった。


 強引に駆り出されるヤコブさんと、仕方ないなぁと一緒に手伝い始めるヒラリー様。結局いつものメンバー勢揃いではありませんか……






「ようやくお昼ご飯にありつけます」

「お疲れ様でした」


 そんなこんなでやり過ごすうちに、兄2人も焼き場に戻り、ピークタイムをなんとか乗り切ったので、食べ損ねた昼食をようやくいただくことになりました。


「約束のご褒美は忘れていないよね?」

「オリヴァーは覚えていたのですね……」

「忘れるわけが無いさ」


 オリヴァーが強請るご褒美。それは焼き場に立っていたとき、どさくさ紛れに約束させられたものです。




「僕にも後でアレをやってくれない?」


 焼いている最中に何を言い出しているのかと、彼の指す方を見てみると、客席の殿下とアデル様、裏に下がって休憩中のケヴ兄&グリゼルダ様、ネイ兄&パティと皆それぞれで鉱山焼きのお肉をあーんしてあげているではありませんか!


 皆さん恥ずかしげもなくよくやってますね。と思いましたが、アデル様とグリゼルダ様、ネイ兄は恥ずかしがってるな。


「やって欲しいのですか?」

「ダメ?」

「あーもう、いいですわよ。代わりに私にもあーんしてくださいね」

「嬉しいことを言ってくれる。その一言で頑張れそうだ」


 何を言っているんだと断りたいところですが、この忙しいときに哀れな子犬が顕現されても困るので、仕方ないわねと了承してしまいました。しかし、忙しさのあまり余計な一言を口走ったのが悔やまれます。

 

 あーんですよ、あーん。頼まれてやるような話ではないでしょう…… これはやはり、自発的にやってあげたいと思ったときにやるべきだと思うのですが。


「ほら、あちらは自然にやっているよ」


 オリヴァーがそう言った先には、一緒に駆り出されたヒラリー&ヤコブペア。


 あちらも今から昼食ですが、ヒラリー様が甲斐甲斐しくヤコブさんにお肉を食べさせています。ヤコブさんはメチャクチャ恥ずかしそうですけど。


「ケイト様」


 ヒラリー様がこちらを向いて私の名を呼ぶと、パチリとウインクしてますが、今の私には『これくらいどうってことないでしょ』と、煽られているようにしか見えません。


「ケイト、お願い」

「分かりました。お願いされます」


 覚悟を決め、まるで餌を待つ魚のように、大きく開くオリヴァーの口にお肉を放り込みます。


「なんか餌付けされてるみたいだな」

「ご不満ですか?」

「ほら、食べさせる前に『はい、あーん』みたいな一言が欲しいよね」


 贅沢な注文ですね。


「もう……はいオリヴァー、あーんして」

「あーん」

(パクっ、モグモグ……)

「オリヴァー、美味しい?」

「とっても美味しいよ」


 うわ! メチャクチャ恥ずかしい。結婚したら毎日こんな感じですか? 耐えられるでしょうか? って私は誰に聞いているんでしょうか。結局耐えられるか否かは私自身にかかっているというのに。


「はい、今度は僕から。あーんして」

「あ、あーん」

(パクっ、モグモグ……)

「美味しい?」

「お、美味しい……です」

「良かった」


 まさか学園祭でこのようになるとは。アデル様やヒラリー様の温かい眼差しはまだいいとして、兄2人にこんな所を見られてニヤニヤされるというのは、ちょっと勘弁していただきたかったです……



 ◆



〈一方その頃、チーム隼陣営〉


「不甲斐ない……」

「仕方ありません。経験を積ませるために予選は補欠メンバーと決めてましたので」

「だからと言ってなんだこのザマは!」


 エカルトは苛立っていた。


 予選は1位通過したものの、3戦全て大将戦までもつれ込む大苦戦。


「本戦ではこのような失態は無いだろうな」

「それはもちろん」

「ならばよい。だがそれはそれ、これはこれだ。失態を犯した君達にもう用はない。卒業後にレーマン家で雇う話は無かったことにしてもらおう」


 予選を戦った補欠メンバー達も弱いわけではない。


 だが、相手も勝つために努力してきた者達であり、圧勝など余程のことが無ければ無理な話であるが、エカルトのプライドがそれを許さなかった。

 

 何故ならば、目の敵にしていたチーム山椒―それも自分達の手で戦力ダウンさせたはずなのに―は最終戦こそ3-1であったが、それとて余力残しの完勝。それとの対比で、自チームの苦戦ぶりに何を言われるかと忸怩たる思いであったからだ。


 それで何かを言うほどキャサリン達は小さい人間ではないのであるが、自分の物差しでしか計れないエカルトは、無様な姿を見せたメンバーに対し、今日限りでのチームからの解雇を告げる。


「お待ちくださいエカルト様。彼らのこれまでの努力をお認めにはならぬと言うのか!」

「努力? 結果の出ぬ努力など、何もしないのと同義。私に必要なのは、私の役に立つ人間だけだ」


 そう言うとエカルトは、解雇を告げたメンバーに対し、自分の役に立つ気はあるかと問いかける。


「難しく考えることはない。今から私の申す指示に従えばよい。見事成し得た暁には解雇を撤回し、元の待遇で迎えてやろう」


 これまで高待遇を受けていながら、結果を示せなかったことで突如切り捨てられた彼らは、エカルトの言に従うほか無かった。


「見てろ。私をコケにした報い、その身をもって知るがいい……」

お読みいただきありがとうございました。

次回は9/1(水)投稿です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >見てろ。私をコケにした報い、その身をもって知るがいい…… どうやっても将来の王妃の側近を巻き込むわけだがその辺考えてる? 知らなかった、で許されるといいねぇ
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