山椒姫、学園祭デートに誘われる
「勝者、ヒラリー・ウラン! 只今の勝負、3対0でチーム山椒の勝利!」
2戦目はヒラリー様の3人抜きで完勝です。
さすがにヤコブさんのときとは違い、ヒラリー様の実力は知られていますので、相手も慎重になっていましたが、そんなものをものともせずバッタバッタと相手を薙ぎ倒します。
その鬼気迫る姿は、ヤコブさんに出番を回したくないという彼女なりの気遣いか、はたまた彼が3人抜きをした以上負けてられないというプライドか。どちらにせよお見事です。
「すげ〜、バケモンだなぁ。見た目は良い女だが、ありゃキツイわ」
「おい、聞こえるぞ」
観戦していた男子生徒がヒソヒソ声で話していますが、聞こえてますわよ。
何にも分かっちゃいない。ヒラリー様の良さはあの凛々しい姿にこそあるのです。
「ヒラリー様、素敵。その辺の軟弱な男より余程男らしいですわ」
「ホントに。あの方の良さが分からぬなど、つまらない男達ですね」
見なさい、女子生徒の憧れの視線。
「あの逞しい腕に抱きしめられたら……」
「おのキラキラしたお顔で愛を囁かれたら……」
「ああもう! これは筆が進みますわ!」
……聞かなかったことにしましょう。何故筆が進むのかは……止めましょう、きっとヒラリー様の凛々しい姿を油絵にでもされるのだと思いたい。思わずにはいられません。
「いやー、彼女は強いですね」
「正に正に。男など何するものぞと己の力で切り開く、新しい時代に相応しい女性であります」
こっちは比較的まともな評価ですね。学生なのに話し方が年配の方じみているのがやや気になりますが。
「彼女となら色々と楽しめますな」
「貴殿ならどうする?」
「やはり蔑むような視線で踏んでもらいますね」
「マニアックですな。私なら罵詈雑言を浴びせられながら、頬を左右交互にペチペチしてもらいたいですね」
「いやいや、貴殿もマニアックですな」
前言撤回。一番危ない性癖の持ち主だったわ。
今まで寄ってきたという、守って欲しい願望の男と言うのもあの方達みたいだったのでしょうか。だとしたら、ヒラリー様が辟易するのも分かる気がします。
「ヒラリーお疲れ様。余力十分だったね」
「当然よ。ここは通過点に過ぎないんだから」
ヤコブさんが戻ってきたヒラリー様を労いますが、彼女の言うとおり、まだまだ通過点。3戦目の相手はブロック内で一番強いはずの前年度準優勝チーム。
昨年はチーム隼ともいい勝負をしたらしい。その時のメンバーが残っているようなので、ここでの戦いが決勝トーナメントへの試金石となります。
もちろん負けるつもりはありませんが、この先の戦いを見据えたときに、自分達の立ち位置を再確認するためにも手は抜けません。
「では、次はヤコブさんが先鋒、ヒラリー様を中堅に戻すでよろしいですか?」
これまでの2戦よりは厳しい戦いになるでしょうから、当初の予定どおり、ヤコブさんが行けるところまで戦って、ヒラリー様が残りを片付けるというオーダーに戻します。
「予選通過は確定しているので、気負わずにいきましょう。大丈夫、私達は……」
「強いんだ!!!」
円陣を組み試合前に気合を入れて、予選の最終戦に挑みます。
◆
「チーム山椒。中堅、ヒラリー・ウラン。前へ!」
今、壇上に立つのは中堅のヒラリー様、そして相手は敵の大将。ヤコブさんがここでも2人抜きを達成しました。
作戦は第1戦同様、初手から仕掛けて怒涛の連続攻撃。とはいえ相手もこちらが2戦続けて完勝しており、油断ならないと認識したのでしょうか、ヤコブさんの狙いを的確に見抜き、手堅い戦いを見せてきます。
繰り出される攻撃をひたすら弾き返し、隙を見てカウンターという狙いは悪くありませんでしたが、私達もそれを見越してヤコブさんを鍛えました。
無闇矢鱈と繰り出される攻撃に見せかけ、その実は相手に隙を見せない鮮やかな連続技です。
繰り出す技の長所より短所が大きければ、それすなわち弱点をさらけ出すことになり、相手はその隙を突いてくるわけですが、ならばその隙を見せず、一手目からニ手目三手目と、流れるような動きが出来れば相手は手出ししにくい。下手にタイミングを逸して動けばたちまち餌食になります。
ヤコブさんは頭の回転がよろしいので、相手の動きと己の動きによって、次をどうするかという状況判断に優れており、後はイメージを具現化する体の動きを体得するだけでした。
だからと言って私達には勝てるわけではないので、あまり強くなった実感は湧いていないようでしたが、優勝候補を圧倒するだけの実力は身に付けたのです。
ただ、相手もさる者。ヤコブさんのこれでもかという攻撃を必死に防ぎまくり長期戦となったので、2人抜きの時点で体力温存のため大事を取ってヒラリー様に交代。
(心配せずとも大丈夫のようですね……)
で、今のところはヒラリー様も敵を圧倒……と言うよりかは、相手が必死に繰り出す技を涼しい顔で弾き返し続けています。
「クソっ、デカイ図体してちょこまかと動きやがって」
「デカイ図体とはレディに対して失礼ね」
「誰がレディだ! この男女が!」
(ガキィン!!)
ヒラリー様は力を込めて振り下ろされた一撃を、真っ向から受け止めるフリをしつつ、気付かれることのない僅かな力加減により、相手の体勢を横方向へずらしますと、隙だらけの横っ腹へ回し蹴り。
「グハァッ!」
もんどり打って転る相手。すぐさま態勢を立て直すべく起き上がったのですが、そのときには既にヒラリー様の剣が喉元に突き付けられておりゲームオーバーです。
「ヒラリー様、お疲れ様。最後のアレ、私のマネですね」
「気付きましたか」
まともに打ち合っては体力の消耗が激しいので、基本的には避け続けて隙を狙うのですが、それだけだと時間がかかるので、あえてつばぜり合いに持ち込むよう装い、そこで相手の体勢を崩して一撃必殺を狙う、パワーで劣る私のよく使う手です。
相手がパワー自慢なら、自分と私を比較して力負けするなんて思いませんから、押し切れると読むはずで、より効果的です。
もっともこの大会のレベルなら、そんなことせずとも私なら一撃必殺ですが、ヒラリー様には実力の拮抗した相手。負けはせずとも手を抜ける相手ではありませんので、上手く手数をかけずに仕留めるには良い戦術です。
「今まで散々ケイト様にやられましたからね。力の流し具合をよく学ばせていただきました」
ヤコブさんだけではなく、ヒラリー様も確実に強くなっております。これならアデル様の護衛騎士も十分に務まるでしょう。
「今日の試合はここまでですね。とりあえず目標の1位通過は果たしたし、残りの時間は学園祭を楽しみますか」
「いいんですか? 明日に向けて準備とかしなくて」
「何事もメリハリです。もちろん、無茶なことをしてもらっては困りますが、一旦切り替えて、心と体を休めるのも大事です」
戦場で乱戦のさなかであればあり得る話ですが、それでも3日間も気を張り詰めるのは後のダメージが大きいですから。
「そういうわけで、ヤコブさんとヒラリー様の2人で楽しんでらっしゃいな」
「キャサリン様とテオは?」
「俺は友達が開いている展示会に顔を出す約束があるから」
「私は私で、グリゼルダ様にお誘いを受けてますので」
テオさんと2人でアイコンタクトです。
2人きりにさせるのは試合前から決めていたこと。邪魔者はここで退散とばかりに2人を送り出します。
ヤコブさんは「えぇ……」なんて戸惑ってますが、まんざらでもなさそうですし、何よりヒラリー様がこちらの意図を感じたのか、お言葉に甘えて行きましょうと彼をグイグイ引っ張っていきますので、後はお任せしますわ。
「さて、私達はどうしますかね?」
2人が出かけた後テオさんに話しかけると、彼は本当に約束を入れていたようで、そちらに向かうと言います。
「となると、私、本当に一人ぼっちですわね」
私のグリゼルダ様にお誘いをというのは出任せなので、本当にどうしましょう。
「そうでもないみたいですよ。あちらにお迎えが」
「お迎え?」
テオさんが示す方に目を向けると、1人の男性がやって来ます。
「お嬢様、お暇ならば学園の中を案内してはいただけないだろうか」
「来てたのですね。オリヴァー」
聞けばティハルト殿下に招かれたとのこと。オリヴァーもつい半年ちょっと前までは学生だったので、自国の学園祭も経験しており、見て回って感想や知見などを聞かせて欲しいとのオーダーだそうです。
普段学園で姿を見ない色男の登場に、女子生徒達はどちらの方かしらとキャーキャー言っているが、私の婚約者だからね。
年の頃は学生とあまり変わらぬ上、普段着のため誰かの兄弟なのかなどと気付いていないようですが、いつも帰りの時間に公使の正装で私を迎えに来ていたのは彼ですよ。
「来るなら言ってくだされば良かったのに」
「ケイトは大事な大会だからね。余計な気遣いはさせたくなかったから」
「私に出番が無いのを知っていて仰ってますね」
だからこそ試合終わりに速攻で声掛けに来たのでしょう?
「大丈夫だとは思ったけど、役目柄何事も慎重を期さないとね」
「物は言いようですね」
それでも婚約者様が来てくれたのですから、嬉しくないわけがありません。
「それでは邪魔者はここで。キャサリン様もお2人でごゆっくり」
「テオさん、お気遣いありがとうございます」
学園内を案内というのですから、それならばとテオさんとも別れ、オリヴァーと共に会場を見て回ることにします。
大会に集中していたことや、ヤコブさんとヒラリー様を送り出すのに夢中で、実は私も学園祭で何が開かれているのかあまり把握していないんですよね。
オリヴァーと一緒になんて想像もしていなかったし……
折角ですから楽しみますか!
お読みいただきありがとうございました。
次回は8/28(土)投稿です。
よろしくお願いします。




